レポート
アドウィーク・アジア
Perspectives of Integrated Marketing(アドバタイジングウィーク・アジア2016より)
2016年5月30日~6月2日に東京・六本木で、アジア初となるアドバタイジングウィークが開催されました。業界の最先端を走るキーパーソンが登壇し、ブランド、メディア、マーケティング、テクノロジーや文化について熱い議論が交わされました。本セッションでは、統合マーケティングが抱える課題とこれからの展望を、そして今年4月に誕生したばかりのマーケティング会社、株式会社Handy Marketing(ハンディ・マーケティング)について語りました。(以下敬称略)
■広告主と媒体社の情報格差をどう埋めていくか
柴田:モデレーターの柴田です。今日は統合マーケティングについて我々が今どんな取り組みを行っているのか、また課題や展望について皆さんと話していけたらと思います。
4月1日から、博報堂DYメディアパートナーズ、ヤフー、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)の3社が、マーケティングデータを使ってプランニングツールやサービス開発を行う株式会社Handy Marketing(ハンディ・マーケティング)を共同設立しました。まずはその概要をご紹介します。
大堀:ハンディ・マーケティングの大堀です。ハンディ・マーケティングは各社から参加していただき、総勢20名程度でスタートしました。ヤフーさんのユーザーデータ、博報堂DYグループのランニングノウハウやテレビなどに代表されるメディアデータ、DACさんが持つオンラインデータといった知財を集め、これからのデータドリブンなマーケティングソリューションを研究、開発していきます。
柴田:では本題に入ります。今、統合マーケティングには二つの大きな課題があると思っています。ひとつは広告主さんは自社製品以外のデータもものすごく分析するけれども、媒体社さんは広告においてうまくデータを使いきれていない。このままいくと広告主側と媒体社側の情報格差がますます広がるんじゃないかということ。もうひとつは、同じメディアでも、一人のユーザーが朝起きてから夜寝るまでにさまざまなテンションで接していて、もう「30歳以上の男性サラリーマンをターゲットに広告配信しましょう」などの単純化ができにくくなっている。こうした現状があると考えていますが、まずは各自が今取り組んでいることについて話していただけますか。
天野:ヤフーの天野です。僕が取り組んでいるのは、メディアの役割を明確にすること。数年前のスキンケア会社さんの事例ですが、テレビCMと、Yahoo! JAPANのトップ画面に出てくるブランドパネルというディスプレイ系の広告商品についてアンケート調査をした結果、テレビCMは有名だとかのイメージ醸成に効果的で、ブランドパネルは生活スタイルにより合致しているというイメージ醸成に効果的なことがわかりました。両者の役割が基本的に異なることがはっきりしたんです。
これは個人的な意見ですが、テレビではGRP、ディスプレイだとインプレッションとか……こうした指標の単位に関しては統合の必要はないと思っています。それぞれの役割が異なるので、指標も異なるまま、うまく比較考察できればよいのかなと。
片岡:博報堂DYメディアパートナーズの片岡です。広告主さんとメディア企業さんそれぞれが持つ視点にギャップがあるという話ですが、博報堂DYメディアパートナーズとしては、そこを埋めることが役割なのかなと思います。DATAWiNGS (データウィングス)※では、メディアに来るオーディエンスをいかに広告主が求める戦略上のマーケティングターゲットに変換するかに取り組んでいます。またQuerida Planning(クエリダプラニング)というサービスでは、ユーザーのウェブでの行動ログ、パネル調査をもとにした意識、価値観、普段どういう買い物をしているかなどのデータを統合して利用できるようにしています。博報堂DYグループのフィロソフィーでもある「生活者発想」に基づいて、データをどう充実させて理解を深め、ペルソナを明らかにしていくか。最終的にはどこまでマーケティングをOne to Oneにしていけるかだと思います。
※ DATA WiNGS(データウィングス)
博報堂DYグループ内の”生活者データ・ドリブン”マーケティング対応力強化の中核を担う組織である博報堂「生活者データマーケティング推進局」、博報堂DYメディアパートナーズ「データドリブンメディアマーケティングセンター」の総称。リーダーは、両組織の部門長である安藤元博。
■データを安全な形で統合し、プランニングの可能性を広げる
柴田:では今みなさんが感じている統合プランニングの課題は何でしょうか。
片岡:広告主の顧客データを安全な形でお預かりし、外部のデータやメディアのデータを掛け合わせて優良顧客になりそうな人を割り出し、プランニングを行うというのは理想ですが、実際、ポリシーやセキュリティの問題があってそう簡単には広告主さんからデータを提供していただけない。データを安全な形で統合し、分析できる環境をどうつくるかが課題だと感じています。
天野:ある調査で、若者の交友関係が状況志向的で、関係性により様々な顔を見せているという話がありました。どこかに本当の自分がいるのではなく、どの自分も本当なんです。僕らがフェイスブックやツイッターなどSNSを使い分けるのと同じように、人が朝スマホをいじっているときと、会社でPCに向かっているときに見せる顔は違うはず。実際にYahoo! JAPANで興味関心のカテゴリごとにPCでの行動とスマホでの行動データを分析すると、1割くらいしか合致する部分がなかった。同じプランニングでは明らかにだめだということです。
柴田:グーグルさんが「マイクロモーメント」と呼ぶものですね。ある女性の生活を一定期間追っていくと万単位で感情が動くタイミングがあって、そこをとらえていかないといけない、と。
大堀:去年の秋くらいから一気に加速してきた動きとして、ブランド広告主がテレビではなくデジタルをさかんに活用し始めたことがあります。博報堂DYメディアパートナーズはTVCross Simulator(テレビ クロス シミュレーター)というサービスを通して、テレビスポットとオンライン動画を合わせて考えるということをやっていますが、効果としての指標を合わせるという意味で、動画の世界では統合のプランニングができている。ディスプレイの世界でも本来できるんじゃないかと思います。ユーザーの異なるシチュエーションに合わせて、どんなタイミングでバナーを見せればテレビ同様の認知を上げられるのか、態度変容に結び付くのか、それらの組み合わせで今後様々なプランニングが可能になってくるだろうし、いままでにないような広告のプラットフォームができるかもしれないと考えています。
■ビッグデータをどう使う?
柴田:ビッグデータをうまく使えていなんじゃないかとも思いますがいかがでしょうか?
天野:データベースの使い方として面白いなと思うのは、検索ワードに、集合的な欲望、消費者の潜在意識が反映される点です。広告に接した人がどういう検索をしているかを見ると、意外なワードが出てくることもあるかもしれない。それらを活用すればマーケティングプランニングの幅が広がっていく気がします。
柴田:僕自身、今は行動ログだけからペルソナを得ようとするのは広告会社の怠慢だと思うし、ユーザーにもっと寄り添っていかないといけないと考えています。これからどうデータ活用していけばいいか、それぞれお考えを教えてください。
片岡:個人的には、競合同士だと難しいでしょうが、業種次第で互いが保有しているデータを安全に交換し合い自由に使える仕組みが数年後にできているといいなと思います。性善説にのっとった、データのコンソーシアムのようなものができれば。
天野:データは集めればいいというものではない。どういう風に使っていくか、その発想力が鍵だと思います。
大堀:データだけで生み出せるものはなくて、どれだけいろんな仮説を持てるかが重要です。
柴田:こうした課題解決に、ぜひこれから業界全体として向き合っていければと思います。ありがとうございました。