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博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進一部 メディアプラナー
貞包一平氏
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局 局長代理(兼)AaaSアカウント 推進三部 部長 メディアプラナー
松浦伸二氏
博報堂DYメディアパートナーズ
AaaSビジネス戦略局 戦略二部 TV AaaS Lab 副編集長
佐藤憶人氏
<AaaS>4つのレイヤーで事業成果の最大化に貢献
<AaaS>4つのレイヤーで
事業成果の最大化に貢献
博報堂DYグループは、広告メディアビジネスの次世代型モデルとして、2020年12月に「AaaS」の提供を開始。独自開発のデータウェアハウス(DWH)を構築し広告主の保有するマーケティングデータや媒体社データ、同社が持つ生活者データなどのあらゆるデータを統合、広告のマーケティング効果の可視化と統合メディア運用を可能にした【図1】。
図1 「AaaS」が特化する4レイヤーとその進化
導入企業も着々と増加し、広告主への「AaaS」の認知も向上している。もともと広告効果の可視化に対するニーズは高い。特に物価高や円安などによる経営環境の問題もあり、広告予算は減ったものの効率は下げることができないという課題も加わり、「AaaS」が提供する価値への関心は高まり続けている。
特に広告主にとって期待が大きい領域はテレビCMとデジタル広告の投資効率の最大化だ。そのため、「Tele-Digi AaaS」、「TV AaaS」の活用は広く行われている。
メディアプラナーの貞包一平氏は「当社が広告主に対して提案するプラニングでも、今は『AaaS』を活用したものが主流になってきています。そのことからも、社内外で有用性が認められてきていると感じます」と話す。
高まる第3のメディアコネクテッドTVへの関心
高まる第3のメディア
コネクテッドTVへの関心
近年はテレビとデジタル、あるいはその併用における最適化が大きな関心事となっているが、ここ1年ほどでコネクテッドTV(CTV)への関心も高まっている。
CTVについては、その“位置付け”が広告主にとっての悩みの種になっている。
「ターゲティングができるのでデジタル広告の要素はあるものの、テレビというデバイスに配信されることで、スクリーン自体がその他デジタルメディアのデバイスに比べて大きく視認性が高いことはもちろん、生活者同士の共視聴が起こる可能性も高いことから、PCやスマホ経由でのパーソナルな視聴とは異なる視聴体験になっている。それゆえデジタル広告の一配信面としてとらえるべきか、テレビスクリーンにおける、地上波5局に次いだ第6局としてとらえるべきか、広告主によって見解が分かれてきています」(貞包氏)。
クリエイティブの面でもCTVの扱いには模索が続いている。貞包氏は「CTVなら例えば強制視聴で1分尺のような長尺広告を流すことも容易であるが、テレビともデジタルとも違う視聴態度の中で生活者側にどこまで長尺の強制視聴を許容してもらえるのか、というのがまだわかっていないという課題がある。また、クリエイティブのトンマナとしてもどういったものがCTV上で生活者に受け入れられやすいかがまだ不明瞭であると感じます。まずはCTVの“面”自体の特性の検証を進めながら、そこで流す最適なクリエイティブはどのようなものか検討しています」と続ける。
同じくメディアプラナーの松浦伸二氏は「アメリカではOTTストリーミングの82%がテレビでの視聴。日本では例えばYouTubeだと2022年1月時点ではまだ30%程度ですが、アメリカに近い水準になる可能性はある。そこに広告主もチャンスを感じている。テレビとデジタル、そしてCTVを組み合わせた動画コミュニケーションをいかに最適化するかが、今後のメディアプラニングにおける大きなトピックになると考えます」と話す。
テレビの可能性の拡大目指す 「TV AaaS Lab」とは?
テレビの可能性の拡大目指す
「TV AaaS Lab」とは?
こうした環境は放送局にも影響を及ぼしている。TV AaaS Lab副編集長の佐藤憶人氏は「『TV AaaS Lab』の活動の中で、放送局の課題を聞く機会が多くあります。私たちが『放送と通信の垣根』と呼んできたものがなくなりつつある中で、どう自分たちの強みを発揮していけるかが課題になっています。そんな中で、私たちは『AaaS』のデータやソリューションを活用することで、放送ビジネスの価値向上にいかに貢献することができるか考え抜き、今まさに、新たな協業スキームの構築にチャレンジしている最中です」と話す。
「TV AaaS Lab」は、テレビにかかわる多数のステークホルダーと協業し、テレビ広告ビジネスの可能性を拡大しようとするコミュニティ。TV AaaS Labを通じて行った実証実験や、データや最新テクノロジーを取り入れたテレビ広告活用事例を発信するメディア的機能も持っている【図2】。
図2 TV AaaS LabのWebメディア
テレビ広告の変革には広告会社やテクノロジー関連企業によるソリューション開発だけではなく、放送局との適切な連携・協業が必要不可欠だ。またテレビ広告も、デジタル広告と同じように、データに基づいた分析とレポーティングによる説明責任が求められている。そのような状況において、テレビにかかわる人や組織全てが連携し、議論できる場とするべく、「TV AaaS Lab」は運営されている。
多様化するKPI・メディアに対応 進化する「AaaS」の未来
多様化するKPI・メディアに対応
進化する「AaaS」の未来
これまで「AaaS」は、マーケティング投資のなかでも多くを占めるテレビとデジタルの統合分析の部分で、広告主の期待を集めてきた。しかし先のCTVしかり、メディアの多様化は今後も進んでいく。それゆえ、常に広告主側のニーズや生活者のメディア接触環境の変化などに合わせたサービス内容の「拡張」が欠かせない。
環境に合わせた「拡張」として、同社が進めてきたことのひとつが、広告主側の多様化するKPIへの対応だ。
例えばテレビ広告の効果測定においては、指名検索だけではなく、より事業成果に近づくサイト来訪やコンバージョンなどをKPIに設定することも可能だ。さらに貞包氏は「消費財や飲料品など、指名検索などのWeb上の行動が起きない商材については、ブランドリフトをKPIにする、といった形で、固定KPIではなく広告主ごとの出稿目的に応じてKPIを変えながら対応することが必要です。我々は、多様なKPIへの対応に向けたソリューション開発も進めています。例えば、2022年9月には購買データの活用に向けてEC事業者と連携し、KPIとなりうるデータの拡充にも取り組んでいます」と話す。
また、「AaaS」ではメディアの拡張への対応も進めている。特に広告主の関心が高いのは、CTVも含めた統合プラニングだ。
「最近、放送と通信をまたいだコンテンツの提供が増えており、実際にその視聴率が物語っているように、テレビだけでコンテンツを見る時代から、生活者が必要に応じてデバイスを使い分ける時代に変わっている。それがメディアを横断した最適なマーケティング活動につながるのであれば、私たちも対応していかなければなりません」(貞包氏)。
すでに同社ではテレビとCTV、OTT(モバイル面)を同一指標で評価し、1インプレッションあたりの価値を定量化して比較する取り組みも行っている。「1インプレッションあたりの広告効果を見た際に、CTVはテレビと同様の価値があることも見えてきました。こうした評価を繰り返しながら、広告主企業の方々の多様化するKPIにも対応し、テレビというデバイスの視聴が多様化する時代にも対応していきたい」(貞包氏)。
こうした知見を活かし、「AaaS」ではテレビとCTVのインプレッションを統合指標でモニタリングし、ターゲットごとにどれくらいリーチが獲得できているのかを比較・検証するためのソリューションを開発中だ。近く完成・提供を開始する予定で、TV AaaS Labのプロジェクトとして2023年1月中には広告主の実際のキャンペーンで試験的に導入されることになっている【図3】。
図3 TV AaaS Labで取り組むCTVソリューション開発
佐藤氏は「CTVの広告にどのような効果を期待するのか、それは広告主によって多様だと思います。ただ、一番ベーシックな指標であるインプレッションをしっかりモニタリングできる環境をまずは構築したい」と話す。
テレビCMを革新する「ゼロ日」差し替え
博報堂DYグループでは、前述の通り新たなメディアであるCTVへの取り組みやテレビCM自体の進化を進めるべく、放送局も巻き込んだ「TV AaaS Lab」を通して挑戦を始めている。もともと「AaaS」は総合広告会社だからこその放送局との強い関係性を生かし、プラニング・モニタリングだけでなくバイイングの改善まで一気通貫で担うことができる点に強みがある。
最近ではバイイングのさらにその先、広告素材の入稿の仕組みをアップデートする取り組みも進めている。具体的にはテレビCMの広告素材を差し替えるための期間の短縮を目指している。その短縮の目標は「ゼロ日」。つまり放映当日に広告素材の差し替えを行うことができる技術の推進に向けて動いている。
現状、テレビCMを放映している広告主に何らかの事情が発生した場合、あるいは自然災害などの社会問題によって用意していた素材を使えなくなった場合、その枠はACジャパンなどのCMに差し替えられることが多い。
しかしこの技術が実装されれば、広告主はTPOに合わせた内容のテレビCMを放送することが可能となる。さらには、例えば計画運休情報を伝達し外出計画の変更を呼び掛けたり、電気使用状況を伝達し節電を促したりというように、社会課題の解決につながる使い方が模索できる。すでに一部放送局はこの技術への対応を検討しているところもあるという。
「まだ課題は多いですが、それを理解した上で、技術を導入する社会的なメリットを認めてもらえたときには意義が生まれる取り組みだと考えています」(松浦氏)。
また松浦氏は「メディア環境が変化しても、テレビCMだからこそ実現しうる価値も多い。ブロードリーチや同時性、共視聴性の高さなどです。ゼロ日差し替えの技術によって、テレビの持つ価値をさらに高めまた社会課題の解決にもつながるようなことがあれば、テレビの役割に違った角度でスポットライトが当たるのではないかと考えています」と指摘する。
これまでテレビとデジタルの統合運用にあたって「Tele-Digi AaaS」を活用するときにも、テレビはデジタルと比べてバイイングや素材入稿の柔軟性が低かったため、運用の最適化を目指すうえで、とりうる手段が限られていたことは事実だ。しかし、この技術によってテレビCMもデイリーに差し替えでき、どの素材をどの枠に流した場合にリーチや指名検索が高まるかという検証も行えるため、KPIの最大化が可能となる。テレビCMを本当の意味での運用型へと進化させる可能性を持っているのだ。
社会・生活者の変化を素早くとらえ 「次世代型モデル」であり続ける
社会・生活者の変化を素早くとらえ
「次世代型モデル」であり続ける
「AaaS」は今、KPIやメディアの拡張によって、日進月歩でサービスを拡充している。今後も新たなニーズ、テクノロジーの進化に合わせてアップデートを続けていく。そこでひとつのポイントとなるのは総合広告会社だからこその社内のクリエイティブ部門との連携だ。
貞包氏は、「本質的に広告の効果を最大化するためのメディアプラニングを考えた際、当然ながらクリエイティブは欠かせない要素。精緻化されたメディアプラニングにクリエイターの力を掛け合わせて広告コミュニケーション全体の設計を行うこと、また、ただ設計を行うだけでなく、出稿した結果を検証してアップデートを重ねる視点が必要。メディアプラニングを担うメンバーに、クリエイティブを担うクリエイターを加えたワンチームで『AaaS』を活用したプラニングを行っていくことで、広告主にもより高い広告効果が提供できると考えています」と話す。
佐藤氏は「社会の変化、生活者の変化、そしてメディアの変化をいち早くとらえ、放送ビジネスとのブリッジを加速させていきたい」と話す。
「TV AaaS Lab」は、9月の立ち上げ以降多くの放送局から賛同を得ており、今後は定期的なセミナーの開催を行う等、よりコミュニティとしての活動を強化していくという。日々寄せられる放送局の課題に丁寧に応えていくとともに、未来を見据え、プロアクティブに放送ビジネスの価値向上を目指す。
「AaaS」は今後も様々な方向性の拡張にチャレンジし、広告メディアの次世代型モデルを提示し続ける。
※本記事は宣伝会議 2023年3月号に掲載されたコンテンツを転載したものです。