2024.02.01

20代女性層で高いシェアを誇る「いち髪」 ブランドを長期的に育てるクラシエのテレデジ戦略

デジタルからテレビをはじめとするマスメディア、さらには店頭行動までがデータで一本につながるようになったことで、メディア投資戦略にイノベーションを起こすような新たな取り組みが始まっています。本連載では、企業・メディア・広告会社に多面的な取材を行う中で、マーケティング・コミュニケーションの未来を探っていきます。今回は、ヘアケアブランド「いち髪」を擁するクラシエから西村氏、博報堂クラシエチームのビジネスプロデューサー岡田氏、メディアプラナーの三好氏に「いち髪」のメディア戦略について聞きます。

テレビCM放映後に増加する「指名検索」に着目

テレビCM放映後に増加する
「指名検索」に着目

──クラシエホールディングスは2023年10月にクラシエホームプロダクツ、クラシエ製薬、クラシエフーズの3社を経営統合し、「クラシエ株式会社」となりました。改めてクラシエの事業概要とその中で、西村さんが担っている役割を教えてください。
西村:
クラシエには、漢方薬を中心とした薬品部門、知育菓子®などを展開するフーズ部門、ヘアケアやスキンケア商品などを提供するホームプロダクツ部門があります。この中で、私はホームプロダクツ部門に在籍し、主にはヘアケアブランドの「いち髪」のマーケティング・コミュニケーション戦略を担当しています。
「いち髪」は「日本人の髪を和草の力で美しい絹髪へ導くこと」を目指して、2006年に販売を開始したブランドですが若年層、特に20代女性において高いシェアを獲得するまでに成長しました。
しかしブランド誕生から10年以上が経過し、メディア環境の激変を痛感しています。それはメーカー主語の一方的な広告発信だけでは、生活者の心にメッセージが届きづらくなってきていることです。そこでテレビCMでの発信はもちろんSNSなどをフル活用し、生活者とブランド価値を共創することが大事であると考えています。
──「いち髪」のテレビCMは2023年のACCグランプリを受賞(フィルムクラフト部門)。SNSの活用も重視しているとのことでしたが、引き続きテレビも活用されています。最近では、テレビの広告効果の可視化や明確化が社内でも求められていると思いますが、どのような考えをお持ちですか。
西村:
社内においてもテレビ広告の効果を説明する必要性が高まっています。しかし、テレビ広告が売上に与える影響を可視化するのは非常に難しいこと。そこで今、まさに博報堂チームの皆さんとテレビ広告の効果を可視化する指標づくりに取り組んでいます。
岡田:
これまでヘアケア商品は、店頭で購入の意思決定がなされることが多いと言われてきました。しかし、当社が提供する「 AaaS(※)」を用いて各種データを分析したところ、「いち髪」の場合は、テレビCMの放映後、ブランド名での指名検索が増加していることが分かりました。加えて、この指名検索数と店頭での販売数量の相関関係も見えてきたのです。一足飛びにテレビ広告が売上に与える効果を可視化することは難しいですが「いち髪」の場合には、指名検索数をトラッキングすることで、より効果的なメディアプラニングが実現すると考え、クラシエさんと取り組みを進めています。
※AaaS:博報堂DYグループが提供する、統合的なメディアプラニングから、広告枠のバイイング、広告効果のモニタリングをワンストップで支援することでマーケティング戦略上最適な広告メディア活用を可能にするサービス。(AaaSは博報堂DYメディアパートナーズの登録商標)
西村:
想定はしていましたが、指名検索と販売数の関係性は、面白い気づきでした。昨今、ヘアケア商品の平均単価が上がったことで、生活者の購買行動が日用品ではなく化粧品のように変化してきています。従来のように店頭で意思決定をするのではなく、検索して商品情報や口コミを調べるというアクションが加わっているのではないかという仮説を持ちました。他のブランドのテレビ活用でも、データを分析することで新たな気づきが得られるのではないかと期待しています。
岡田:
近年、ヘアケアブランドの中にはマス広告を使わず、デジタル広告中心のマーケティング・コミュニケーションを展開するブランドも増えてきました。高価格帯のシャンプーがドラッグストアに並ぶことで、消費者側もより商品を詳細に調べるようになったのでは、という仮説のもと「指名検索」をKPIのひとつに組み込んだのです。
今回は、AaaSの導入により、テレビCMのクリエイティブによっても指名検索数が変わってくるなど、示唆に富んだ結果が出始めています。
西村:
やはり、メディアプラニングの効率の追求だけでなく、人の心を動かす広告におけるクリエイティブという変数にはもっと着目していきたいですね。「いち髪」では、短期的な売上に与える効果だけでなく、長期的なブランド構築も目指して広告展開をしています。そこでクリエイティブに対しても強いこだわりを持って、戦略設定から博報堂チームの皆さんとワンチーム体制になって取り組んできました。その成果のひとつが先のACCグランプリの受賞につながったのではと感じています。
永野芽郁さん出演の「いち髪」のテレビCM。総撮影時間、800時間をかけて日本の四季を表現した「日本の四季」篇は、2023年のACCグランプリを受賞した。
──テレビCM放映後に指名検索が増え、店頭での販売につながっているということは、検索して得たオンライン上の口コミをはじめとする情報がポジティブに影響しているということですよね。
岡田:
そうですね。指名検索後にブランドサイトに遷移しているわけではなく、口コミやECサイトのレビューを見るなどして購入を決めているケースが多いと思います。
三好:
テレビCMの放映後、店頭だけでなくECでの購買行動にも効果が出ているはずという仮説のもと、そこまで含めて見ることができる「クラシエオリジナルAaaS」ダッシュボードの開発を現在、進めているところです。
最終的には広告出稿とECに加えて、オフライン店舗での購入データまでつなげたAaaSでの分析が可能になると考えています。
──今後の展望について教えてください。
西村:
AaaSを活用した当社における試みは、まだ始まったばかりです。今後もそれらの結果がどんな評価指標に影響するのかを見極めていきたいと思っています。
岡田:
クラシエさんは「いち髪」だけでなく、複数のブランドでテレビCMを展開しています。今回、得た知見を他のブランドにも応用した提案をさせていただきたいと思っています。
三好:
昨今は地上波のテレビだけでなくコネクテッドTV経由で配信される広告も注目されています。従来の“テレデジ”最適化だけでなく、メディアもデバイスもますます多様化する時代における新たなプラニングを提案していきたいと思います。
※本記事は宣伝会議 2024年3月号に掲載されたコンテンツを転載したものです。
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