2021.10.20
博報堂DYグループが推進する広告メディアビジネスのDX化「AaaS」について分かりやすく紹介する本連載。第3回目のテーマは、独自データ基盤の活用による効果的・効率的なデジタル広告の運用を可能にするDigital AaaS(デジタルアース)についてです。サービスの具体的な内容や特徴、導入した広告主の声などについて、サービスの導入や推進を担当する博報堂DYメディアパートナーズ統合アカウントプロデュース局の藤川祐也と、サービス開発も担当する同プラットフォーマー戦略局の佐々木将人に対談してもらいました。
藤川:
まずはDigital AaaSとは何か、その概要についてご紹介します。そもそもデジタル広告は、テレビCMなどのほかのメディアと比較しても、プラニング、バイイング、モニタリングが容易な領域ではあったわけですが、複数媒体を横断したレポーティングに多くの工数と時間を要したり、CPAやCPMといったデジタル上の指標でしか最適化できないといった制限、課題が存在していました。それに対し、独自のシステム基盤を活用することでより効果的・効率的なデジタル広告の運用を実現可能としたのがDigital AaaSです。具体的には、汎用型オリジナルデジタルダッシュボードの提供と、テレビ視聴ログやプラットフォーマーとのデータ連携などにより、デジタル領域のプラニング、バイイング、モニタリングをさらに進化させていくことを目指しています。
その特徴をもう少し詳しくお話しすると、まずは、プラニング領域ですが、Digital AaaS for プラニングの活用で、広告主の担当者と我々広告会社の運用者が共通して一つの汎用型オリジナルデジタルダッシュボードを見ることにより、しっかりとした意思疎通のもと、ワンチームで議論ができるようになります。広告会社の運用者が媒体ごとにレポートに落とし込み、それをまとめあげたものを広告主に提出し確認してもらうというこれまでのフローでは、疑問点などの確認に時間を要していましたが、そこがシームレスに行えることで、よりスピーディにPDCAを回せるようになる。それが大きな提供価値となります。
佐々木:
そうですね。元来デジタル広告領域は、プラニング、バイイング、モニタリングを運用型で行うために生まれたようなものではありますが、それでも実働の部分で克服できていない課題がありました。そこをクリアし、本当の意味での効率的・効果的なデジタル広告の運用を実現する環境が整えられるというのが非常に大きいと思います。
たとえば僕が主に担当しているプラニング領域においては、 Digital AaaS for プラニングの一つとして「Audience Dive」というソリューションを提供しています。私もサービス開発に携わったのですが、これは、メジャーな各プラットフォーマーが擁する“データクリーンルーム”――個人が特定できない形で1stパーティデータなどをつなぐことができ、マーケティングに活用できる空間――を活用し、広告オーディエンスを多面的に深堀し分析できるというソリューションで、配信時の設定にとらわれることなく、広告効果を自由度高く配信後でも分析することができるというものです。これによって、より広告主がコントロールできるレバーが増えるだけでなく、それを確認できる環境がオンライン上に開かれていることで、それまでに取得した情報をより柔軟にマーケティングに活用できるようになるというわけです。
この、データクリーンルームを活用したデータ分析の特徴について順を追って説明します。もともとデジタル広告の分析は、プラットフォーマーが用意した管理画面を確認し、それをもとにPDCAを回していくという形で行ってきましたが、それだと、事前に用意された切り口でしか分析できないという制限がありました。その点「Audience Dive」ならば、デジタル広告の出稿に紐づいたデータがデータクリーンルームに格納されているため、自分たちが見たい切り口で配信前だけでなく配信後のシミュレーションにおいても自由に分析できます。例えば、需要が高いポテンシャル分析や広告の視聴態度等も分析することができますし、単発分析だけでなく定常的に確認できる分析インフラとしての活用も可能です。また、従来のデジタル広告の分析においては、事前に設定したターゲットに配信してみてから、その結果を受けて次の手を考えるというように、配信ごとに分析を回さなくてはなりませんでした。しかし、データクリーンルームには、もちろん個人が特定できない形で、広告に当たった人たちの情報が入ってくるため、例えばターゲティングをせずに広告を配信し、出稿後に様々なターゲティングセグメントの広告効果を分析することもできます。一度の広告出稿で分析できる範囲がこれまでに比べ圧倒的に柔軟に、幅広くなるわけです。それらの分析によりプラニングを進化させ、更にバイイングや配信へと繋げて行くことが可能となります。
藤川:
確かにそれは「Audience Dive」の最大のポイントですね。また、バイイング領域においては、Digital AaaS for バイイングとして、数百万台規模のネット結線テレビ視聴ログデータを活用した、テレビの実視聴状況に応じた様々なセグメントでの広告配信といった様なことも可能になっています。そのほかにも、プラットフォーマーから与えられたデータクリーンルームの素材をどう料理するかという観点で、モニタリング、プラニング、バイイングの各領域で現在さまざまなソリューション開発を進めていますし、さらに我々博報堂DYグループが持つ独自のデータを利用したソリューション開発も進んでいるところです。
佐々木:
デジタル系のソリューションにおいては、大手プラットフォーマー各社と組むことで、良くも悪くもプラットフォーマーごとの断絶が起きてしまいます。その点「Audience Dive」であれば、各プラットフォーマーのデータクリーンルームに応じた分析が同じソリューション、つまり同じ分析軸で可能なので、複数のプラットフォーマーと連携しながら広告主の課題意識に合わせたソリューション活用が可能になります。
おかげさまで「Audience Dive」は今年の3月にリリースを出してから大きな反響をいただいており、すでに多数の案件が走り出しています。その数の多さから、「皆さまに必要とされていたソリューションだったんだ」と実感しているところです。もちろんデジタル広告のPDCAに使っていただくケースが多いのですが、それ以外のケースもあります。たとえばある広告主は、商材の特性上、広告動画を配信していたものの媒体側の制約によってターゲティングがまったくできていないという状況でした。そこで「Audience Dive」を活用したところ、実際にどういう人たちに広告が当たっているか、どういう人たちが広告動画を最後まで見てくれているか、あるいは広告をスキップしているかが明確に確認できるようになりました。その分析をもとに、「こういう人たちが見ているなら、クリエイティブをこう変えてみよう」というように、クリエイティブ側の改善に活用していただいたというケースがありました。従来の、CVやCTRの数字からターゲティング側で広告出稿を変えるというアプローチではない方法で使われた、非常に面白いケースだったと思います。新しい発見になりましたし、何よりお役に立てて嬉しかったですね。
それから現状だと、プラットフォームにもよりますが、予約型メニューの場合に確認出来る指標が運用型よりかなり少なく、管理画面すらないというケースも多いです。その点でも「Audience Dive」は、運用型ほどではないにせよデモグラやエリアで効果が可視化される点が評価されています。新しい指標が見られることで、挑戦の幅も広がったという声を実際にいただいていますし、データクリーンルームを活用した分析についても、「難解そうでなかなか手が出せなかったが、『Audience Dive』を通じて気軽に着手することができた」という広告主もいらっしゃいました。定常的に新しい効果が確認できる、主要な分析インフラとして活用いただいている広告主もすでに複数存在します。
藤川:
Digital AaaS for モニタリングに関しては、データが即時反映されるのでモニタリングのスピードが上がり、有効活用につながっているという声や、やはり広告会社の運用者と広告主の担当者が視野を共有できる点が大きな導入メリットとして挙げられています。有償ではありますが、KPIに応じてダッシュボードのカスタマイズを行った広告主からも、大いに活用できていると高い評価をいただいています。数値の指標をいつでも好きな時に見られるというのも好評です。これまでは担当者からレポートをもらうことでしか数値確認ができず、担当者が休みの時や対応できない時間帯というのがありましたが、それがなくなったことも大きなメリットと感じられているようです。
今後は、我々博報堂DYグループが有する生活者データなど、統合メディアデータウェアハウスのなかから一部データを拠出して活用するという道筋も考えられます。いずれにしても、ここで視野を共有することでこれまで以上に広告主との意思疎通がスムーズに図れるようになり、そこで浮いた工数の分、よりスピーディ、かつ効果的なプラニングにいかにつなげていくかがDigital AaaS最大のポイント。もちろんAnalytics AaaSやTele-Digi AaaS、TV AaaSなどほかのAaaSソリューション群とも連携した統合的な運用、提案ということになれば、最大の強みになるでしょう。大いに期待していただければと思います。
佐々木:
グループ内での話になりますが、推進においては、まず広告主と向き合っている営業などにDigital AaaSの設計についてきちんと把握してもらうことを意識しています。これまで行っていた管理画面上での分析と比較して、何ができるようになったかというのを明確に理解してもらうことが必要になります。「Audience Dive」はひとつのきっかけにしかすぎません。それを使って、今後のマーケティングをどう進化させられるのか、必ず展望とともに提案してもらうようにしています。
藤川:
僕としては、このDigital AaaS for モニタリングの汎用型オリジナルデジタルダッシュボードで互いにしっかり数字を見ていくのだという現場の強い意志が必要だとも考えます。というのも、広告主にしろ運用者にしろ、やはり慣れ親しんだ管理画面の方が扱いやすい、またレポートの方が見やすいと感じてしまうことはあると思うからです。ダッシュボードを活用することで互いのリソースを短縮し、スピーディにPDCAを回す。そしてより効率的・効果的なマーケティングを着実に実現させるという、明確な目的意識が不可欠だと考えます。
また推進する上では、やはりカスタマイズ性が一番の売りになります。どうしても有償になってしまいますが、各社のKPIに応じた、よりピンポイントなニーズに応じた形でダッシュボードを提供できるのは大きいと考えます。
佐々木:
今後「Audience Dive」においては、対応プラットフォーマーを広げていくと同時に、プラットフォームをまたいだ分析など、分析の柔軟性を上げていくことを目指したいですね。
藤川:
そうですね。今後もいただいた要望に応えられるような改修も続けていきますし、より多くのお客様に幅広い形で汎用型オリジナルデジタルダッシュボードを活用いただくことを目指しています。
いずれにしてもDigital AaaSは一連のAaaSソリューションの要となるサービスであり、ほかのAaaSソリューションの推進における潤滑油のような存在でもあります。今後Digital AaaSを基軸にプラニングに活用できる武器をどんどん開発していき、ほかのAaaSソリューションとも組み合わせていくことで、博報堂DYグループならではの価値を提供できる仕組みを実現できたら嬉しいです。
藤川 祐也
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局 AaaSアカウント推進二部
メディアプラニングディレクター
佐々木 将人
博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーマー戦略局 第二グループ
ソリューション開発プロデューサー