2023.03.29

博報堂DYグループが業界に革新を起こす 広告の“サービス化”を実現する「AaaS」とは?(Forbes JAPAN BrandVoice)

博報堂DYグループが推進する「AaaS(Advertising as a Service)」は、広告ビジネスを「サービス」へと昇華する革新的な取り組みだ。このプロジェクトを立案し、陣頭指揮をとる同社取締役常務執行役員の安藤元博に話を聞いた。
「5年ほど前に社会人大学院でICTと産業変化に関する連続講義をする機会がありました。『XaaS(ザース)』という概念がまだそれほど浸透していなかったころで、あらゆる産業が『as a Service』化していくという話をしました。『広告もas a Serviceと考えると、産業が変わるかもしれません』と言いながらホワイトボードに『Advertising as a Service』と書き、ふと思ったのです。『あれ、実行していないな』と。そこですぐに、プロジェクトを立ち上げねばならないと思いました」
『AaaS(Advertising as a Service)』が誕生するきっかけとなった瞬間だ。とは言え、この発想は単なる思いつきではなく、安藤が長年、構想してきたことが具現化しただけに過ぎないとも言えるだろう。
「DXとは何かと考えると、それは自動車業界について言えば自動車だけをつくっていればいいという時代が終わり、『MaaS(Mobility as a Service)』にシフトしようとしているということです。つまり、生活者はクルマそのものだけではなく、クルマを通じた移動によるさまざまな喜びを求めている。長い目で見てモノはやがて相対的にコモディティ化します。モノから新たにどんな価値を提供していくかということが、企業戦略の中心になっているのです。
では、広告業界はどうか。広告は元々サービス業と思われていますが、主たるビジネスモデルは広告枠をクライアントに提供することで手数料をいただくものであり、モノを売っているのとあまり変わりません。世の中の他の産業と同じように「価値」そのものの売買に取り組むことが、広告産業を変革していくことになるはず。そのベクトルの旗印をつくろうと、AaaSを立案したのです」
安藤元博 博報堂DYメディアパートナーズ取締役常務執行役員

“広告枠”を売るという発想から“広告効果”を売るという発想へ

“広告枠”を売るという発想から
“広告効果”を売るという発想へ

入社以来、30年以上にわたってマーケティングに携わってきた安藤は、常にマーケティングが本来あるべき姿を追求し続けてきた。
「1990年代まで『マーケティング戦略』と『クリエイティブ』の領域は、企業から、ともすると対立する概念のように扱われていました。広告会社の中ですらそのような風潮は残っており、マーケティング戦略の立案とクリエイティブ開発は分断され個別最適が行われてきました。 私はマーケティングとは、生活者と企業の創発による『価値創造』であると考えています。それを実現するためには、マーケティング戦略とクリエイティブをどう高度に統合していくかが、長年のテーマでした」
その問題は、2000年代に入ると徐々に解消され始めた。それは経済環境が変わり、企業の意識が変わってきたからだ。
「企業のなかでマーケティングの重要性が再認識されていく、あるいは確立していく時期に入ったと捉えています。成長社会においては、新しいモノをつくり、広告を打ちさえすれば売り上げが伸びていたので、マーケティングがそれほど重視されませんでした。しかし市場の成長が鈍化すると、そうは言っていられなくなったのです」
加えてテクノロジーの進展が、その解消を後押しした。
「デジタルとデータは裏表の関係ですから、デジタル化された世界は、必ずデータ化される。データ化されるということは、すなわち生活者の反応が見えるということであり、反応をベースにしたプラニングが可能になります。データをのりしろとして戦略と施策をつなげることができることからも、デジタルマーケティングという領域が徐々に力をもつようになったのです」
そうしたなか、安藤もデジタルマーケティングに携わり、主導するようになる。DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の概念が普及しはじめた2014年、その概念と役割を大きく進化させる「生活者DMP」を構築した。
博報堂DYグループが蓄積してきた独自の生活者データに、「生活者の情報行動や購買行動」「メディアやコンテンツなどの接触・嗜好データ」などを先端テクノロジーを用いて掛け合わせ、マーケティング活動を計画・実行・管理する基盤だ。
「マーケティングの戦略全体に使える生活者のデータをDMPにどう融合させていくかが大きなテーマだと考え、取り組んできました。生活者データを分析・読み解きをしながら動的にマーケティング戦略を策定し運用する『データドリブンマーケティング』を推進し、当時は聞き慣れない言葉だと思われていましたが、いまでは当たり前の概念となりました」

プラニングからメディアバイイング、モニタリングまでを
ワンストップで提供

プラニングからメディアバイイング、
モニタリングまでを
ワンストップで提供

生活者DMPはマーケティングに革新をもたらしたが、安藤は、取り残されている領域があることが気がかりだった。その課題は、デジタル化が進むにつれてより鮮明になった。
「企業と生活者の接点でもっとも大きな領域のひとつがメディアですが、当時メディアのデータをマーケティングに直接的に活用できるのはデジタルの世界に限られていました。しかし生活者は、デジタルメディアだけで生きているわけではなく、テレビなどオフラインのマスメディアも大きなボリュームを占めています。これらのデータが十分に活用される基盤をつくれない限り、メディアとマーケティング戦略を本当の意味で統合することはできません」
クライアントのニーズが変化していることも、安藤のその取り組みへの思いを強めた。
「市場成長の鈍化と共に価格コンシャスなクライアントが増え、広告にも費用対効果の説明が一層求められるようになりました。従来のように“広告枠”を売買するという発想から、より本質的な“広告効果”を売買するという発想へ転換する必要が顕在化してきたのです。それはコロナ禍により、いっそう強まっています」
そうしたクライアントのニーズに応えるのがAaaSというわけだ。AaaSでは、テレビやデジタルなど媒体を横断したメディアデータや、グループとして蓄積してきた生活者データなど大量のデータを蓄積し活用できる基盤を構築した。従来では分断されていたプラニング、メディアバイイング、モニタリングをワンストップで支援。それによりクライアントは、マーケティング戦略上で最適な広告メディアの活用が可能になる。これまでにない、画期的なサービスだ。
博報堂DYグループは、「マーケティング×テクノロジー×広告メディアビジネス」を一貫して理解し扱える人材を戦略的に育成してきた。そうした人材が開発・運用を担い、マーケティング領域における一流クライアントに提供してきた長年のプラニングの知見を生かし、高い精度を実現した。
21年に本格的にAaaSの提供を開始し、初年度で導入企業数は100社を超えた。22年度も前年を200%以上上回る形で導入拡大が進んでおり、導入企業の約7割が継続利用の意向を示しているという。その反響は、クライアントのマーケティング戦略の位置付けが変わってきている証左だとも言えるだろう。
「本来、企業が提供する価値は生活者とのやり取りそのもののなかでこそ生まれています。そう考えていくと、マーケティングや広告にかかる費用はコストではない。価値を産むための投資です。従来はそのように認識されることがなかなかありませんでしたが、時代は変わりつつあるのです」

時代やニーズに合わせ進化を続けるAaaS

時代やニーズに合わせ
進化を続けるAaaS

AaaSには、生活者DMPで蓄積してきたデータやノウハウが生きている。生活者DMPを進化させたのがAaaSだとも言える。
「生活者DMPはどちらかというとデータ基盤、ツールでしたが、AaaSはより大きなエコシステムです。広告会社だけでなく、クライアントやさまざまなテックベンダー、さらには放送局やプラットフォーマーの力を結集、統合しなければ、それぞれの領域が分断されたままであり、広告が本来果たさねばならない価値創造という目的は成就できないと考えたのです」
さまざまなプレイヤーを巻き込むため、22年度秋には「TV AaaS Lab」というTVビジネスの未来を放送局と共創していく場を立ち上げた。
「放送局の皆さんに参加していただき、みんなで『更にTVを価値向上させるために何ができるか』を考えていく場として使っていただくのが狙いです。自社の利益だけを考えるような発想の枠を超えていかないと、この業界に本当に必要な革新は起こせません」
AaaSに完成形はない。時代やニーズに合わせ、常にアップデートを繰り返していくのだ。
「いまのAaaSは、まだマーケティング全体をカバーしているわけではありません。マーケティングは本来、企業活動の中心に位置します。広告やメディアだけでなく、研究開発、流通や販売、お客様コンタクトセンターなど、企業と生活者の間で生じうるさまざまな接点を領域としています。それらすべての接点で生まれる情報をどう統合的に活用し、どのようにクライアントと生活者の価値創造を支援していけるのか。AaaSの進化系として、そのようなサービスをつくっていきたいと考えています」

安藤元博(あんどう・もとひろ) ◎博報堂DYメディアパートナーズ取締役常務執行役員。1988年に博報堂に入社し、数々の企業の事業/商品開発、統合コミュニケーション開発、グローバルブランディングに従事。現在、博報堂DYホールディングス取締役常務執行役員をはじめ博報堂DYグループ各社を兼任し、グループのテクノロジー領域を統括している。著書に『広告ビジネスは、変われるか? テクノロジー・マーケティング・メディアのこれから』(宣伝会議)などがある。※肩書は2023年1月26日取材当時のものです
※本記事は2023年3月1日にForbes JAPAN BrandVoiceに掲載されたコンテンツを転載したものです
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