大同特殊鋼経営企画部コーポレートコミュニケーション室長 市川明子氏、博報堂DYメディアパートナーズメディアプラニング 統括岩田衣世氏、博報堂中部支社 ビジネスプロデューサー 小木曽宏之氏
データで媒体の価値を明らかにして
可視化の先の「手ごたえ」を感じた
──大同特殊鋼では近年、広報活動を積極化しています。背景をお聞かせください。
市川:
私たち大同特殊鋼は、「特殊鋼」という鉄と炭素にさまざまな合金元素を添加して、用途に合わせた特性を付加した鋼を製造しているメーカーです。BtoB企業であるがゆえ、これまでは取引先向けの製品広告やPRが中心で、企業認知向上を目的としたBtoCの広報やIR活動には積極的に取り組んではいませんでした。
しかし、1990年代以降、右肩下がりで企業認知度が下降。業績は好調にも関わらず、投資家からの評価や、採用活動時に学生が集まらないなど、課題が浮き彫りになっていました。そこで2022年7月に立ち上がったのが、私が所属するコーポレートコミュニケーション室です。「大同特殊鋼」という社名の認知度を上げることがミッションのひとつ。その解決策として博報堂DYグループさんに提案いただいたのが、テレビCMを中心とした広報活動でした。
──博報堂DYグループはどのような提案をしたのでしょうか。
岩田:
企業に対する好意度や就職意向、投資意向を高めるためには、どのようなタイミングや頻度でCMに出会うと最も気持ちが動くのか。「AaaS※」を用いてリーチや認知などのメディア指標を分析し、様々なデータやアルゴリズム、これまでの知見を基に、プラニングしました。
小木曽:
バイイングに関しては、「大同特殊鋼にとって最も効果的と想定されるメディア」を検討し、今回はテレビとTVer、YouTube、Instagramと複数のメディアを活用し、メッセージをターゲットに無駄なく効率的に伝えることを重視しています。
※博報堂DYグループが2020年12月より提供を開始した「AaaS(Advertising as a Service)」は、統合的なメディアプラニングから、広告枠のバイイング、広告効果のモニタリングをワンストップで支援することでマーケティング戦略上、最適な広告メディアの活用を可能にするサービス。
──企業広告の効果は長期的な視座で見る必要があると思います。当座の費用対効果の説明はどのようにされたのでしょうか。
市川:
約30年ぶりのテレビCM出稿ということもあり、社内に知見もなく、費用対効果に見合うのかといった懸念はありました。そうした中で博報堂DYグループさんのシミュレーションを提示することで、今も十分に幅広い層にリーチできる媒体であることを説明。私自身も「この数字はどんな意味があるのか」と細かく質問して納得した上で、進めることができました。KPIとしたのは企業認知度です。こうした取り組みは1 ~ 2年ですぐに効果が出るものではありませんが今後、採用チームとも連携し、母集団形成への寄与なども分析していく方針です。
──クリエイティブの意志決定はどのように行われましたか。
市川:
2023年8月に放映したCMでは、まずは「特殊鋼」を身近に感じていただくことを目的に、テレビ、YouTube、TVerを中心に「日々になる、特殊な鋼」篇を展開。今年の 8月17日からはKREVAさんを起用の「すごい未来、特殊鋼と行こう! 総論篇」の放映を開始しています。
今年のテーマは、社名と事業内容を知ってもらうこと。2024年6月に発表した中期経営計画で定めた成長戦略をCMに落とし込みたいと博報堂DYグループさんに伝えて、3つの案をいただきました。この時、社内でアンケートを取って、約3000名の社員のうち1000人が回答。最終的に選ばれたのが、若い社員からの得票数が多かったラップ調のクリエイティブでした。
「すごい未来、特殊鋼と行こう! 総論篇」より。HIP HOPアーティストのKREVAさんが、様々な先進分野で使われている特殊鋼についてラップで語る。
──出稿の継続性を保つために取り組んでいることはありますか。
市川:
社内で「広告って大事だよね」と思ってもらうための活動が大切だと考えています。今回のアンケートのように、今後も社員を巻き込んだり、出稿するごとに都度、効果を経営陣に説明したり社内の仲間を増やしたいと思います。
岩田:
いま様々なデータやテクノロジーを活用することで、シミュレーションもより精緻になっています。しかしこうして数値として可視化するだけではなく、実感値として「手ごたえ」があることが大事だと考えています。その時に大切なのが、媒体の本質的な価値が何かを明らかにすること。テレビであれば「視聴率」だけでなく、「このタイミングでCMを見たら視聴者はどういう風に感じるだろう」という「質」も重視する必要があります。
小木曽:
これまで提示してきたのは当社が保有するビッグデータから導き出したシミュレーションですが今後、放映回数や年月を重ねていくことによって、大同特殊鋼さん自身が持っているポテンシャルを掛け合わせた、より精度の高い分析ができるようになると考えています。
──今後の展望をお聞かせください。
市川:
今回、CM出稿の効果を社員皆で実感することができました。今後もテレビCMに限らず、生活者の皆さんに向けた幅広い発信を継続していきたいと考えています。
小木曽:
今回の取り組みは、BtoB事業の広告戦略のひとつのモデルケースとなりました。
岩田:
引き続き緊密に連携を図りながら、広報活動のさらなる進化をサポートしたいと考えています。
※本記事は宣伝会議 2024年11月号に掲載されたコンテンツを転載したものです。