博報堂DYグループの次世代型広告モデル「AaaS(Advertising as a Service)」の中で、テレビとデジタルという2大メディアにかかわる広告施策を統合的に運用・分析するサービスが「Tele-Digi AaaS」である。このたび、Yahoo! JAPANとの協業により同社のデジタル領域における強みを加えて進化した「Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPAN」が誕生、革新的なソリューションとして注目を集めている。その狙いと効果について、AaaS構想策定のキーマンである博報堂DYメディアパートナーズ取締役常務執行役員の安藤元博氏と、Yahoo! JAPANの広告事業の中核を担うヤフー マーケティングソリューションズグループ マーケティングソリューションズ統括本部長の小野雄紀氏が語り合った。
両者データを掛け合わせる新ソリューションのインパクト
両者データを掛け合わせる
新ソリューションのインパクト
──まずは企業マーケティングにおけるデータ活用の現状に対する課題意識、そして博報堂DYグループとYahoo! JAPANの両者が新ソリューションへの提携に至った背景をお聞かせください。
小野:
企業のマーケティング施策においては、プライバシー保護をめぐってデータ活用の在り方が大きく変わりました。最大の要因の1つは、個人情報保護法の改正やプラットフォーマー規制などに代表される「プライバシーデータの利用に関する規制強化」にあります。これまでのようにCookieを使ってユーザーの行動を直接追跡できなくなってきたことで、ユーザーのプライバシー保護と両立できるデータ活用の在り方が問われています。
一方、今日では多くのクライアント企業がキャンペーンを打つ際に、テレビとデジタルの両メディアに広告を出稿することが当たり前になり、広告投資全体の最適化とそのための可視化が強く求められるようになってきたと感じます。
安藤:
私もまったく同感です。これまではテレビとデジタルそれぞれでプラニングやモニタリングが別々に行われていたために、メディア戦略の全体最適化を図ることが十分にはできていませんでした。
この課題を解決するために、博報堂DYグループが保有する「テレビを中心としたメディアデータ」「長年蓄積してきた生活者データ」と、Yahoo! JAPANがお持ちの「デジタルチャネルに関する多様なデータ」を掛け合わせることで、テレビとデジタルの広告効果を統合的に分析・評価できるサービスを開発しました。もちろんご指摘のように、両者のデータはプライバシーに配慮した安全・安心な形で取り扱う必要があります。それを可能にしたYahoo! JAPANのデータ分析環境も協業の大きな価値と言えます。
協業によってテレビとデジタルにわたる広告効果の統合的な分析・評価が可能に
デジタル領域における多様な行動データが鍵となる
──共通の課題認識によって生まれたサービスなのですね。協業によって、プライバシーに配慮しながら、どのようなデジタル領域のデータが掛け合わされるのでしょうか。
小野:
弊社の持つデータはバラエティーに富んでいます。ウェブメディアの行動履歴や検索履歴のデータはもちろんですが、それだけでなくYahoo!ショッピングでの購買履歴データなど多様な行動データをお預かりしています。なおかつ、それらのデータをユーザーの同意を取得したうえでYahoo! JAPAN IDとひも付けられる連続性も特徴的と言えます。
安藤:
広告による認知と購買行動をつなぐ“ミドルファネル”における消費者の行動データとの連携は、「AaaS」にとって一つの課題でした。このたびの協業によって“フルファネル”なデータを可視化し、マーケティング戦略の立案に生かせるようになることは大きなメリットになります。
ミドルファネルの可視化をマーケティング戦略の立案に生かす
ロングスパンで効果を可視化、顧客との関係性構築の基盤に
ロングスパンで効果を可視化、
顧客との関係性構築の基盤に
──では、新ソリューションがもたらす効果について教えていただけますか。
安藤:
テレビとデジタルを横断した広告施策のプラニング、広告枠の購入、さらに広告効果のモニタリングを一貫して行えるようになる、これまでにないサービスです。そのための仕組みとして、先述の通り、分析環境*の上にクライアント企業のデータと、博報堂DYグループが持つメディアデータや生活者データ、分析アルゴリズムなどを載せます。そしてYahoo! JAPANがお持ちのさまざまなデータと突き合わせて分析するのです。
*分析対象データは法的に問題ないもののみ、かつ限られたスタッフのみが分析に携わります
小野:
ファクトベースで広告の効果を検証できるようになることで、広告効果を最大化させるためのPDCAサイクルの精度を着実に向上させることができます。検証結果となる分析後の統計データを、マーケット分析やマーケティング戦略策定といったより上流の施策に生かすことも可能です。Yahoo! JAPANのデータはIDベースで連続性を持たせられると言いましたが、それによって単に個々の広告キャンペーンの効果を検証するだけでなく、キャンペーン後のユーザー層の行動を追うことで長期的な効果も可視化できます。
──テレビとデジタルを横断的に網羅するだけでなく、生活者の行動をロングスパンで見ていくことができるのですね。
安藤:
ロングスパンの行動を可視化できるということは、キャンペーンで獲得した新規顧客がその後リピート客になり、さらには優良顧客になっていく「ライフタイムバリュー(LTV:Life Time Value)」の可視化・評価につながります。
小野:
応用範囲を年間のマーケティング戦略の策定や、CRM(顧客情報管理)システムとの連携といったレベルにまで広げれば、Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPANは「顧客とより密接な関係を築く取り組みのための基盤 」と位置付けることもできるでしょう。
広告接触がもたらす検索・購買行動の変化から新たな示唆も
広告接触がもたらす検索・
購買行動の変化から新たな示唆も
──企業が得られる新たな成果や気づきについて、具体例を挙げてください。
安藤:
Yahoo! JAPANがお持ちの「検索」と「購買」に関するデータが可視化できることで、顧客がテレビやデジタルの広告に接触した結果として、検索や購買の行動がどのように変化したかを把握できます。あるクライアント企業の例では、テレビCMのみに接触した場合と比較して、テレビCMとYahoo! JAPANの広告両方に接触した場合では、サーチリフトが1.2倍になっていることが分かりました。こうした効果が実証できれば、そこから逆算して、どんな施策を打てば検索あるいは購買に結び付きやすいかを推測できるようになります。
小野:
深く分析していくと、例えばテレビとデジタルの両方に出稿した場合は、それまであまり検索をしなかった人が新たに検索する傾向があることが分かりました。また、ある商品の購買層は40代が中心だが、実はその商品について検索しているのは20代のユーザーが多い、といったユニークな傾向が見つかることもあります。この場合は、20代の潜在顧客層をターゲットにした新たなプロモーションを打つことで、より顧客層を広げられるかもしれないという示唆が得られたわけです。
安藤:
非常に興味深いですね。広告の効果をつぶさに追っていくことで生活者の行動が明らかになり、それが新たなマーケティング戦略に生かされていく。下流の現場で新たに得た知見が、逆に上流の戦略策定にフィードバックされるというサイクルが生まれるわけですね。
小野:
こうした取り組みは、博報堂DYグループがこれまでクライアント企業に近い立場でさまざま課題を解決されてきた経験があってこそ可能になるのだと思います。確かにYahoo! JAPANには膨大な量のデータが蓄積されていますが、データはあくまでも手段であって、それをクライアント企業にとっての価値に変換するためにはクライアント企業のビジネスやマーケティング戦略に関する深い理解が不可欠です。Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPANでは、博報堂DYグループのそうした知見が存分に生かされることでデータの価値を最大化できるのだと感じます。
LINEやPayPayのオフライン行動データも活用へ
LINEやPayPayの
オフライン行動データも活用へ
──Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPANは「AaaS」のサービスメニューの1つとして提供されています。
安藤:
AaaSには複数のサービスメニューがあって、今回の新ソリューションはそのうちの1つ、テレビとデジタルの広告施策の統合的な管理を可能にする「Tele-Digi AaaS」の取り組みをYahoo! JAPANとの協業によってさらに進化させたものです。Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPANを活用して得られた気付きや知見を他のAaaSソリューションでも活用することで、その相乗効果によりマーケティングのさらなる最適化が可能になります。そして、それはAaaS全体の提供価値の向上につながります。
──今後Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPANをどのように発展させていこうとお考えですか。
安藤:
まだ多くのクライアント企業が「マーケティングのためのデータ活用・分析には高度なスキルが必要」とお考えかもしれません。Tele-Digi AaaS with Yahoo! JAPANをさらに使いやすく進化させていくことで、より多くのマーケターの方々に手軽に手に取っていただけるようにしていきたいですね。
小野:
Yahoo! JAPANの親会社であるZホールディングスの配下には、メッセージングサービスのLINEや、決済サービスのPayPayなどもあります。将来的にこれらのサービスのデータもあわせて分析できるようになれば、オンラインだけでなくオフラインでのプライバシーに配慮した行動データも含めた「オン・オフ横断」での広告効果の検証が可能になります。
安藤:
まさに「Tele-Digi AaaS with Z Holdings」とでも呼ぶべき取り組みですね。そのようなプラットフォームが実現すれば、日本のマーケティング業界にさらに革新をもたらす存在となることでしょう。ぜひ実現させて、クライアント企業にさらに高い価値を提供できればと思います。
──本日はありがとうございました。
※2023年2月9日~2023年3月22日に日経電子版広告特集にて掲載。掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます。
博報堂DYグループの知見が生かされることで
価値を最大化できるのだと感じます」(小野氏)