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レスリング
「強くなりたい」一心で続けてきたレスリング―― その極みに立つための努力を、これからも続けるだけ<中村倫也/博報堂DYスポーツ>
博報堂DYグループ、博報堂DYスポーツマーケティングの現役社員でもある、レスリング男子フリースタイル61kg級の中村倫也選手。2017年6月の全日本選抜選手権で優勝を飾り、8月の世界選手権に出場。惜しくも5位に終わったものの、この11月に行われたレスリング「U-23世界選手権」において、優勝しました。2020年東京オリンピックでの金メダル獲得という大きな目標に向かい日々練習に励んでいます。レスリングを始めたきっかけや、博報堂DYグループの一員となってどんな心境の変化があったかなどについてうかがいました。
■有名選手たちに遊んでもらった幼少時代
父親が総合格闘技のジムを経営していて、小さい頃からそこを遊び場にしていました。5歳のときに、近所に住んでいた格闘家の山本美憂さんがそのジムでキッズレスリング教室を開くことになり、僕もレッスンを受けるようになったのがレスリングを始めたきっかけです。遊び場でもあったジムには当時、K-1や総合格闘技で活躍していた山本“KID”徳郁さんを始め、父を訪ねてくる現役格闘家の方たちがたくさんいて、そういう人たちに遊んでもらうのが日常でした。
親に連れられて格闘技の試合を見に行くと、ジムでは単なる「兄ちゃん」だった人たちが大観衆の中で戦っている。幼心に衝撃を受けて、なんてかっこいいんだと思いましたね。「レスリングをやるだけやったら、その後格闘家になる」というのが当時描いていた将来像でした。それから中学高校とレスリングを続けますが、高校の間にどうしても日本一が取れなかった。こんな中途半端な形で格闘技に転向してもだめだと思い、専修大学への進学を決意。どうせやるんだったらレスリングというスポーツをとことんまで極めたい、そう思いました。
大学を卒業し、この4月から博報堂DYグループの社員として競技活動に取り組む立場になりましたが、当時の想いはいまも変わりません。レスリングに専念する環境は整えていただけたので、あとは、「極み」にたどり着くために、努力を続けていくしかないと思っています。
■リハビリ中に得た「視点」を、自分のトレーニングに活かす
僕の得意技はアンクルホールドです。中学高校の6年間、花咲徳栄高校で練習していたんですが、そこで先輩選手と一緒に、新技についてあれこれと試していたんです。相手の足首を狙おうとすると、必ず相手は体を後ろにひいて避けようとする。その後どう攻めればいいかを考えた結果、変則的なアンクルホールドの技ができあがりました。中学1年からかれこれ10年くらいやり続けています。お陰様で、僕と言えばその技を思い浮かべてもらえるまでになりました。僕の名前をもじって「リンクルホールド」と呼ばれることもあります。
レスリング選手の中には、切れのある動きで瞬発的に畳みかけるのが得意な一方、後半に体が持たなくなって弱くなる選手もいれば、持久力があっても、前半にばんばん点数をとられてしまい勝てない選手もいます。僕の場合はちょうどその中間くらい。スタミナ面で後半バテることもなければ、トレーニングで瞬発的な筋肉もついてきたので、スピードもあると思う。
もともとあまり大きなけがをしたことはなかったのですが、去年の8月に肩を手術し、しばらく専修大学レスリング部のみんなとは別メニューで練習、リハビリを続けていました。隅っこの方で一人トレーニングしながら、ほかの人たちの動きを何気なく見ていたところ、それぞれの体の動かし方の良し悪しなんかが急によく見えてくるようになったんです。たとえば同じ構えをしていても足をとられやすい人というのは、骨盤が後傾していて、足裏からペタッと床についていたりするんですね。骨盤がきちんと立っている選手は、スピードが全身に伝わりやすく、なかなか足をとられない。海外の強い選手の動きも、なるべく骨格、骨の形を想像しながら見るようになり、体の動かし方や使い方を自分なりに研究し、トレーニングの参考にするようになりました。
U-23 世界選手権
■社会人選手として、これからは「勝つこと」が仕事になる
思い出に残る試合はいくつもありますが、2016年5月の全日本選抜選手権で、いまALSOK所属で、先日の世界選手権で優勝した高橋侑希選手に決勝で勝った試合は印象的でしたね。高橋選手にはずっと負けが続いていたので、自分でもあれ?という感じで(笑)。これからもレスリングでやっていけるな、と思えるようになった1戦でした。
もともと、年上の選手たちに交じってぼこぼこにされながら(笑)、「もっと強くなりたい」という一心でレスリングに取り組んできました。だからあまり負けを引きずることはないですね。負けた試合は、むしろ自分の課題を見つけ、そこを重点的に鍛えて、また勝ちにいくための原動力になると考えています。
博報堂DYグループに入ってからも、大学時代からの練習環境をそのまま引き継がせてもらっているので、なじみのある場所でトレーニングを続けられることに感謝しています。学生の頃は一生懸命やるのが仕事でしたが、これからは勝つことが仕事になる。なので、毎日の生活の中で直面する一つ一つの選択に対し、「『勝ち』につながるのはどっちだ?」と考えながら決断するようになりました。そして今年の全日本選抜選手権では、社員の皆さんが声を合わせて応援してくれる様子を見て、「これは本当に勝たないといけないな」と気持ちを新たにすることができました。
全社会議や研修に参加させていただいた際は、「俺も社会人だな」という実感がわきましたね(笑)。先日の社員の運動会でも、初対面の方々に「レスリングだよね、がんばってね」と声をかけていただき、ここにいる新しい仲間に支えられて、これから自分は頑張っていくんだという実感がわいてきました。博報堂DYグループの皆さんは気取りなく、あたたかでポジティブな空気をつくってくれていて、「一緒に新しいことに挑戦していこう」「ともに頑張ろう」という気持ちが伝わってくるので、こちらも変にプレッシャーを感じることもなく、自然に「よし、やってやろう」という気持ちになれるんです。
■レスリングはシンプルでありながら奥の深い競技
2019年の世界選手権でメダルが獲れれば、東京オリンピック出場が内定します。そこは確実に狙っていきたいですね。時間があまり残されていない中、階級区分や計量方法の変更があったので、急ピッチでの調整が必要ではあります。今年12月の天皇杯全日本選手権へは新しい階級で臨むことになるので、万全にしていきたいところですね。東京オリンピックはやっぱり一番のモチベーションです。それを目標に掲げているので、一つの負けを引きずることはありません。高校生のときに「落ち込んでいるときは成長していないんだよ」と言われたことがあって、それ以来、気持ちの切り替えはかなり早くできるようになりました。
レスリングは世界でもっとも古いスポーツのひとつで、かつては生死をかけるほどのものだった。体一つで、組み合って、どっちが強いかを決めるという、非常にシンプルな競技であることは事実です。でも掘り下げていけば、選手の手足の長さや、筋肉のバランス、技の数、仕掛けのバリエーションなど、さまざまな攻略法がある、非常に奥深いスポーツでもあり、そこが一番の魅力だと僕は感じています。相手の特徴を分析し、準備することも必要ですし、また実際の対戦で相手の出方を見ながら、どういった戦略で攻めていくかを考える。こちらの思惑がバチンとはまったときには、それは最高な気分が味わえます(笑)。そのあたりの駆け引きにも目を向けながら、いままでレスリングに馴染みがなかった人も、ぜひ一度観戦を楽しんでいただければと思いますね。
【選手プロフィール】
中村 倫也(なかむら りんや)選手
レスリング男子フリースタイル 61kg級
博報堂DYスポーツ所属
・主な実績:
2013年 JOC杯ジュニア 55kg級 優勝
2014年 全日本学生選手権 57kg級 優勝
2014年 全日本大学選手権 57kg級 優勝
2015年 全日本選抜選手権 57kg級 3位
2015年 全日本選手権 57kg級 3位
2016年 全日本選抜選手権 57kg級 優勝
2017年 全日本選抜選手権 61kg級 優勝
2017年 世界選手権 61kg級 5位
2017年 U-23世界選手権 61kg級 優勝
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