コラム
Media Innovation Lab
【Media Innovation Labレポート.18】知っておきたいNFTの最新事情とビジネスの可能性(後編)
最近デジタルアート作品のオークションなどで注目度が高まりつつある、ブロックチェーンを活用した新技術「NFT(Non-Fungible Token)」。あらためて、NFTとはどのような技術で、なぜ注目に値するのか、またメディアやコンテンツビジネスの視点からどのような可能性があるのかを、博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室の高橋信行とデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之に、博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの島野真が聞いていきます。
(※前編はこちら)
■近い将来ソーシャルグラフに替わり“トークングラフ”が活用される可能性も
島野
前編では、NFTの最新事情や注目すべき価値について聞いてきましたが、それでは、広告やメディアビジネスという観点からNFTを活用できそうな領域、あるいは想定される使い方などを教えていただけますか。
高橋
前編でNFTは所有を証明してくれるという説明をしましたが、2次元のやり取りだとスクリーンショットをとってしまえばコピーできますから「所有感」を実感しにくい。一方VR空間なら、たとえばそこにある僕の家の壁紙に例のデジタルアートの絵がかけてあって、「これ話題のやつだよね」「そうそう、俺のなんだよ」といったやり取りが発生するなど、所有を目で見て実感しやすくなります。
あるいは、たとえば実在する芸人の持ちギャグなどのモーションを技術的に実装できるような可能性もあって、アバターなどがVR空間でそのギャグをやりたければNFTで買って「持ちギャグ」にするといったことができるようになります。
島野
面白いですね。リアルの世界ではNFTの価値がなかなかイメージできないかもしれませんが、デジタルの中に生活が広がっていくとすれば、所有権がきちんとコントロールされるNFTは非常にわかりやすいし、役立つ技術だと思います。生活者がバーチャルリアリティの中で暮らす時間や頻度が上がるだけ、その世界の基盤としてのNFTの存在感は増しそうですね。
ちなみに高橋さんが担当して博報堂DYグループがリリースしたサービス、VRコンベンションセンター「VRADE」にも、そのあたりの思考が盛り込まれているそうですね。
高橋
「VRADE」は、VR空間で展示会や講演会、セミナーなどのイベントができる複合型VRイベント会場です。アプリやゴーグルは必要なく、ブラウザを通してVR空間に入り、会話ができる環境になっています。ボイスチャットのようなものを通して、遠ければ声が小さく、近ければ声が大きく聞こえるという技術も実装していて、臨場感のあるコミュニケーションが可能です。気になるブースやポスターなどに近づいて、そこで商談することもできます。
そして僕が一番こだわったのが、ブロックチェーン技術の活用です。インフラとしてブロックチェーン技術を組み込んでおり、来場者、招待者チケットがNFT化されておりセキュアな管理、VR空間上でのNFTの販売や交換が可能です。いわば“VRデジタル幕張メッセ”として、展示会や即売会イベントなどに使っていただきたいですね。
島野
なるほど。VR・ARの一般化とともに、ライブやイベント、講演会といったサービスにNFTが活用されるシーンも今後増えていきそうですね。ほかには、どのようなNFT活用の広がり、可能性があると思いますか。
高橋
広告の視点でいうと、今後サイトを訪れた証しとしてクッキーの代わりにNFTが付与されていくのではないかと思います。さまざまなメディアやコンテンツで行動するたびにNFTがステルスでウォレットの中に格納されていき、それをもとに広告配信などができるようになっていきます。現在は、誰と友だちか、どんな検索をしたかで広告を出し分けるソーシャルグラフを活用しているプラットフォームがありますが、今後はトークンの履歴に基づいたトークングラフを活用した、トークンマーケティングが発展していくと思います。
島野
クッキーと同様、個人の行動が把握されるということで問題視されないでしょうか。
高橋
広告を見るかどうか、あるいは自分の持つトークンをどこまでそのコンテンツに提供するかを必ず自分で選択できるようになるでしょうから、問題ないはずです。むしろ広告を見ることでNFTが得られるなら、自発的に広告を見るという設定をユーザー自ら行うようになっていくのではないでしょうか。
永松
先ほどの話の続きでいうと、NFTのプログラマビリティを活かし、トークン履歴も用いることによって、さらにキャンペーンの当選による限定NFTの提供や、特別な招待イベントに参加できるなどの仕組みも、コンテンツのつくり手側が仕込めるようになります。現状のマーケティングのさまざまな課題が解決できることに加え、キャンペーンの参加者にとってもよりメリットが発生するような仕組みも考えられるかもしれない。知恵の絞りようはいくらでもありそうだなという感じがします。
■一般化の鍵はコンテンツとの連携にあり
島野
現状で感じられるNFTの課題は何ですか。
高橋
まずはNFTを格納するウォレットを持つ人が非常に少ないことが課題です。NBA TopShotの場合は、ウェブサイトの中にユーザーのウォレットをつくり、そこでNFTを預かるということになっています。また、デジタルのお財布のカギのことを「秘密鍵」といいますが、これはなくしたら大変です。ビットコインもこの秘密鍵を使ってお金を管理しますが、これをなくしてしまって、資産を一生取り出せなくなったという人は少なくないのです。そのあたりのユーザーのリテラシー不足が課題だと思います。
永松
こうしたお財布のカギは一般的に英数字の文字列になっているので、管理しにくい面があります。僕も過去に一度、一生取り出せなくなって闇に葬ってしまったという失敗体験があります。そのあたりは一般的に難しく感じられるところでしょうね。
高橋
NBATopShotのようにユーザビリティをわかりやすくして、一般の人が使う機会を増やしていくということと、同時進行で技術的なUXの改善も進んでいくことで、いずれ最適な形におさまると思っています。「コンテンツがファンを連れてくる」、「コンテンツ愛はリテラシーを超える」、などと言われますが、NFTに関してはまだイノベーターのおもちゃ”の段階です。ユーザーも20代30代のテクノロジーに詳しい男性が中心です。今後コンテンツとうまく連携していけば、若年層やもっと上の世代の女性も含めた一般層にも利用が広がっていき、リテラシー不足の課題もおのずと解決するかもしれませんね。
島野
NFTは話題性もあり、認知も徐々に高まっているところですが、デジタルアートの売買だけにとどまらない様々な価値があることがよくわかりました。NFTの仕組みを取り入れることで、従来は困難であったビジネスの設計を柔軟に行っていくこともできそうですね。NFTの持つ可能性に注目していく必要がありそうです。
今日はお2人ともありがとうございました。
※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アドトランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。
髙橋 信行
博報堂DYメディアパートナーズ イノベーションセンター ミライの事業室
2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。入社以来メディアプラナーとして企業のキャンペーンやブランディングをプロデュースする業務に従事。2019年よりイノベーションセンターに所属し、XRやブロックチェーンなど、新技術を応用した事業開発を複数手がけている。
永松 範之
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等
島野 真
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長 兼 Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ)リーダー
1991年博報堂入社。主にマーケティング部門に在籍し、飲料、通信、自動車、サービスなど各企業の事業・商品開発、統合コミュニケーション開発、ブランディング業務を担当。2012年よりデータドリブンマーケティング領域で、マーケティングとメディアを統合した戦略立案・推進の高度化、DX推進に従事。2020年より博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局局長。メディア環境研究所所長兼務。共著:『基礎から学べる広告の総合講座』(日経広告研究所)
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