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【Media Innovation Labレポート.19】プラットフォームとしてのゲーム上で拡がるクリエイターエコノミーの可能性 ~Robloxのケース~
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近年急成長を見せつつあるUGGP(User Generated Game Platform)という、ユーザーが創作可能なゲームプラットフォーム。「Minecraft」や「フォートナイト」、「あつまれどうぶつの森」など有名なゲームにも使われている。今回は中でも特徴的なプラットフォームである「Roblox」に焦点を当て、クリエイターコミュニティの現状や可能性について、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局兼Media Innovation Lab(メディアイノベーションラボ※)の永松範之と、デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室の王 凱が解説します。

■YouTubeに匹敵する新たなクリエイタープラットフォーム

永松
User Generated Game Platformという言葉自体はまだ一般化しているわけではありませんが、近年は「Minecraft」や「フォートナイト」、「あつまれどうぶつの森」などのゲームに代表されるような、ユーザーがゲーム内で自由に建築物をつくったり、家や服、島などをデザインしたりできる機能があり、それをユーザー同士で楽しめることが大きな魅力の一つです。そんな中で特に私が注目しているのが「Roblox」というゲームプラットフォームです。ユーザー自身がつくったゲームを全世界に公開でき、それをほかのユーザーも遊ぶことができるというもので、ゲームの中で遊ぶための世界、アイテム、キャラクター、服装など基本的にすべてをユーザー自身がデザインできる仕組みになっています。「Robux」というゲーム内で使う専用通貨を使った取引も活発に行われています。


開発者やクリエイターは、アイテムやゲームを開発することで、Robuxを稼ぐことができるのです。アイテムには“限定物”というカテゴリーもあって、ユーザー間での転売も可能です。ここで稼いだRobuxをドルに換金することができるのも特徴的です。特定の武器や帽子といったアイテムの売買で、日本円で1億円以上の売り上げを達成した例もあります。またコンビニやスーパーでよく見かける商品のパッケージをイメージした服装や、欧米の若者の間ではレインボーカラーの装飾アイテムなどが人気です。

永松
そうした状況を受け、Roblox内で、いわゆるトップクラスのユーチューバー並みに稼ぐクリエイターも出てきています。


トップ開発者の多くは、10代前半からRobloxに親しんでいる20代の大学生です。一人で開発したゲームが人気になると、Robloxのコミュニティで開発者メンバーを募集し、クリエイティブグループを形成するケースが多いですね。ゲームやアイテム販売など複数の収益源を確保し、売り上げをどんどん上げていて、中には大学の授業料や、車を所有するための費用をRobuxで稼いでいる人もいるほどです。

永松
このように、Robloxは高い創作性があるという点に加え、専用通貨を用いた経済活動が非常に活発であるという点が面白いです。ユーザー数は世界で増え続けており、今後巨大プラットフォームに成長するだろうと言われています。さらに、ユーザーの半数以上が13歳未満ということで、新しい世代に強く支持されている点も特徴です。非常に高いエンゲージメントが得られているという点もポイントで、平均利用時間は1日当たり150分程と、大変注目すべき次世代のクリエイタープラットフォームだと感じています。


Robloxのクリエイターやコンテンツは、まだYouTubeほどの規模にはなっていませんが、大きな成長が見込まれることは確かです。Ryan Kajiという、世界でもっとも稼ぐユーチューバーとして知られている10歳の少年がいますが、彼もRoblox内に「Ryan’s World」というゲームをつくっていて、それをプレーする様子をYouTubeに配信しています。このように若い世代にリーチする新しいプラットフォームであることがわかります。

永松
Robloxでは、プレーヤーがRoblox内にあるストアで一部の有料ゲームを購入したり、アバター用の服やアイテムを購入したりして遊びます。ほかのプレーヤーと友達になったりグループになったりして一緒に遊ぶこともあります。Roblox Studioというローコードでゲームを開発できるツールも提供されているので、開発者はそれを使ってゲームをつくってストアに公開し、そこでゲームやアイテムが購買されることでRobuxを稼ぎ、ドルに換金すれば収益化することができるというエコシステムになっています。

■多岐にわたるRobloxの機能と特徴


ここからはRobloxの機能、特徴について詳しく解説します。まずは「遊ぶ・学ぶ」機能について。現在Robloxのプラットフォーム内には2000万以上のゲームが存在しています。あらゆるジャンルが揃っていて、戦闘系やスポーツ系はもちろん、日本の人気アニメの世界をモチーフにしたゲームも存在します。すべてのゲームはマルチプレイに対応しており、1つのゲームで最大50人が同時にプレーすることが可能です。さらに、自分の友だちだけと遊ぶことができるプライベートサーバも提供されています。「着飾る」機能としては、ゲームを横断して利用できるアイテムも販売されていて、ボディーや服装、アニメーションなどの好きなアイテムを選んで購入し、自分のアバターの外観や動きをカスタムした上で、さまざまなゲームで遊ぶことができます。「つながる」機能としては、ゲーム内チャットはもちろんですが、Robloxアプリの中にコミュニティ機能も構築されているので、フレンド機能、フィード機能、プロフィール、グループなど、SNSのような使い方ができます。特にプロフィール欄を見れば、そのプレーヤーがこれまで何のゲームをプレーしてきたか、クリエイターの場合はどんなゲーム、あるいはアイテムを開発したのかといった情報を確認することができます。

また、ユーザーの半数以上が13歳未満の子どもということで、子どもたちのプライバシー保護においてもきちんとした対策がなされています。具体的には、2017年からCOPPA(Children’s Online Privacy Protection Act)という子どもを対象としたオンラインでの個人情報保護法に準拠しており、13歳未満、小学生のチャットのやり取りはAIとモデレーターのダブルチェックで、個人情報が上がっていれば自動的にフィルタリングされ、子どもが何のゲームをプレーし、誰と話したかなど、すべて親がコントロールできるようになっています。アバターの服装が適切かどうかもAIがチェックし、不適切なものが検出されるようにもなっています。

永松
実際、過去に子どもたちを狙った犯罪が発生したこともあり、こうした対策に力を入れることでプラットフォームの健全化を図ったようです。そもそもRobloxは原型が教育用ソフトで、そのアイデアをゲームにリデザインしたものなので、根底にはこの世界のなかで、ものづくりを始めとするさまざまな学びを得てほしいという狙いがあります。それがよりゲームの方向に大きく舵を切り、拡大してきているという背景もあり、ほかのゲームタイトルに比べても、子どものプライバシー保護に関する意識は高いと言えます。


続いて「つくる」機能についてですが、RobloxのゲームはすべてRoblox Studioという無料のゲームエンジンでつくることができます。基本的には素材をドラッグアンドドロップで配置するというやり方です。コードが書ける人は自分で書けばいいし、書けない人はコードを検索してコピペすることもできます。小学生でも少し勉強するとゲームがつくれるようにインフラが整えられているのです。アイテムはもっと作成が簡単で、あらかじめ用意された2Dのテンプレートを使い、クリエイターが一つひとつのブロックに色をつけるだけで自動的に3Dのアイテムがつくれるようになっています。ちなみに私も実際につくってみたのですが、かかった時間は10分ほどでした。時間をかければもっと高度なゲームがつくれるのではないかなと思います。Roblox Studioで使われるプログラミング言語はLuaというシンプルなものですが、ステップ・バイ・ステップでゲームのつくり方を習得できるようなわかりやすいコンテンツも豊富にあり、プログラミング知識がまったくない初心者でも簡単にゲームがつくれるようになっています。Robloxが主催する、次世代のゲーム開発者を育成するためのAccelerator Programも毎年開催されており、開発者はこうしたプログラムに参加することでレベルアップしたり、同じ開発者の仲間を見つけたりすることができます。


実際につくってみたもの

専用通貨Robuxの入手方法は、通常購入かサブスクリプションになります。サブスクの方が価格的にはお得ですし、さまざまな特典もあります。開発者は自分がつくったゲームやアイテムをユーザーに販売してRobuxを稼いだり、Roblox Studioでの開発用の素材やコード、ツール類を別の開発者に販売してRobuxを稼いだりすることが可能です。2020年からは新たに、サブスク会員の無料ゲームの滞在時間に応じて開発者にRobuxを分配するという仕組みも誕生し、多くのゲーム企業でもこの仕組みを採用しています。一方、ユーザー間で限定アイテムを転売することでRobuxを稼ぐこともできます。Robloxは自分のゲーム内にトレーディングシステムを作っているので、アイテムの転売、交換などをすべて自分のプラットフォーム内で完結させることができます。また、転売価格の履歴もRobloxのプラットフォーム内で確認できるため、価格の透明性も担保されています。

Robuxを換金する「Developer Exchanger」というプログラムもあります。EBPやエンゲージメントに応じてRobuxを配るケースと、自分の制作物を販売して獲得したRobuxを、1Robux=0.4ドルのレートで換金するケースがあります。小学生以下は換金ができない、サブスク会員でなくてはならない、少なくとも10万のRobuxを保有していなければならない、などの条件はありますが、利用者も多く、2020年時点で4000人ほどがこのプログラムを使ってドルに換金しています。さらに、RobloxはTipaltiというフィンテック企業と組んでいて、納税や支払いに関する手続きのサポートも提供しています。

永松
トップクラスのユーチューバーレベルに稼ぐ人がいるわけですから、そうした納税面でのサポートも求められるのでしょうね。


次にRobloxのビジネスモデルについてですが、収益の柱となっているのはサブスクやアイテム販売などによるゲームコマースです。最近は広告事業の強化も進んでいますが、発展途上ではありますね。具体的には、ユーザーや開発者がストアでゲームやアイテムの販売を行うと、Robloxに手数料として21~70%入ります。換金する際には、差益72%がRobloxに入る仕組みになっています。広告事業は、通常のバナー広告やネイティブ広告(スポンサードゲーム)といった基本的なフォーマットがあるほか、広告作成・入札もシンプルなCPMベースで、プログラマティック広告などはまだまだこれからという感じです。

■企業の活用も進み、経済圏が広がりつつあるRoblox

永松
実際にRobloxを活用している企業の事例を紹介します。たとえば、あるスポーツメーカーでは、ゲーム内で3体のアバターとゲーム内専用のバーチャルスニーカーを無料配布し、特定の商品のプロモーションにRobloxを活用しました。おもちゃメーカーでは、ミニカーをゲーム内で販売したほか、ゲーム開発会社と組んでレーシングゲームをつくり、そこで使う車の販売も行ったところもあります。これは、メーカーがバーチャルアイテムを販売することで、Roblox内で売り上げを上げたというパターンです。あるラグジュアリーブランドは、公式デザイナーがRoblox専用の限定アイテムをデザインし、Roblox内で50以上のアイテムを期間限定で販売しました。DisneyやWarner Brothersは、作品のストーリーや世界観をRobloxの中で楽しんでもらうようなコンテンツを提供し、映画のプロモーションに活用していました。アイテム販売を行って収益化している例もあります。このように、プロモーション目的にも使えるし、アイテム販売による収益化も図れるといったことで、メーカーやエンタメ業界で活用が広がっています。スポーツジャンルでも、たとえばNFLは100周年を記念しユニフォームやエモートを配布。FCバルセロナはアバターを配布し、チームのブランディングに活用しています。音楽ジャンルでは、「フォートナイト」でも最近盛んに行われているようなバーチャルコンサートの活用事例もあります。コロナ支援のチャリティコンサートや、TikTokで有名になったアーティストのバーチャルコンサートもRoblox内で実施されました。

Robloxのエコシステムの広がりとして、その周辺領域に目を向けてみると、Robloxにおけるコンテンツ開発支援に特化した専門のゲーム開発会社が登場していたり、Roblox専門のAdsネットワークをつくり、そこで広告販売を行う企業や、子ども専門のクリエイティブエージェンシーで、Robloxを使ったマーケティング支援を行っている企業も生まれていたりします。また、メーカーの動きとしては、ゲーム内のバーチャルアイテムの開発・制作の支援や、Roblox内のキャラクターをフィギュア化・販売している企業があります。このように、外のコンテンツがゲームの中に入っていくのと同時に、Robloxで成長したコンテンツがリアルに出ていくといった双方向の現象が起きているのは面白いところだと思います。


中国ではRobloxとテンセントが2019年に戦略的パートナーシップを結び、合弁会社を設立。Robloxを活用した教育プラットフォームを立ち上げました。中国国内では未成年の課金に対する規制が厳しいため、あくまでもSTEAM教育のためのプラットフォームとして販売しています。一方日本では、教育企業がRobloxのコンテンツを使い、小中学生向けにプログラミングのコースを提供しています。入口としては教育に役立つというメリットを掲げていますが、ゲーム性も担保され、コミュニティ機能で友だちと遊べる楽しさもあり、かつ経済的な成長が期待できるエコシステムも形成されているので、非常にいいバランスでそれらが回っている印象です。

永松
“クリエイターが創作性を発揮できるUser Generatedなゲームプラットフォーム”については、大手メーカーもそれぞれ独自の取り組みを行っていますが、もう一つRobloxならではの大きな特徴があります。それは、C2Cを中心とした経済圏を形成し、そこで活発な経済活動やコミュニケーション活動が行われていること。それによって特に低年齢層のころから親しんだ若年層の開発者やクリエイターが続々と登場していたり、転売などの仕組みを整えることでプレーヤー間の取引を促進させることに成功していたり、それをもとにした二次創作も活性化しています。現状では欧米と中国が先行するRoblox活用ですが、今後存在感が高まり続ければ、アジア圏、また日本での成長も間違いなく期待できるのではないでしょうか。またSTEAM教育に活用されることから、開発者やクリエイターの一層の増加、コンテンツのクオリティー向上なども見込まれるところです。そして得意先企業にとっても、ゲーム内ビジネスという観点では、ブランデッドゲームの作成やアイテム販売、広告への活用ができる一方、ゲーム外ビジネスにおいては、リアルと連動したマーケティング、そこで生まれたIPを使ったグッズなどの販売、教育への活用など、Robloxに代表されるUGGPを核としたさまざまなビジネス展開が考えられると思います。

YouTubeの登場でユーザー自身がつくる映像コンテンツがどんどん見られるようになったように、ユーザーがつくるゲームを別のユーザーが楽しむといった環境が整いつつあると感じます。こうしたプラットフォームがあることで誰もが自由にゲームを創造し、発信でき、さらに身を立てることまで可能になっている。ユーザーの安全を守るための対策も施されており、納税のサポートも万全ということで、安心に利用できるサービスとして整備されていることが、人気の拡大に寄与していると思います。また根底にある目的が教育という、非常に明確化された入口があるのも、多くの人が参加しやすい理由だと思います。いずれにしても現在はUGGPの黎明期です。ゲームを軸とした新たなクリエイターエコノミーの誕生など、今後の展開が大いに楽しみな領域だと考えています。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

永松範之
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局長
2004年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社、ネット広告の効果指標調査・開発、オーディエンスターゲティングや動画広告等の広告事業開発を行う。2008年より広告技術研究室の立ち上げとともに、電子マネーを活用した広告事業開発、ソーシャルメディアやスマートデバイス等における最新テクノロジーを活用した研究開発を推進。現在はAIやIoT、AR/VR等のテクノロジーを活用したデジタルビジネスの研究開発に取り組む。専門学校「HAL」の講師、共著に「ネット広告ハンドブック」(日本能率協会マネジメントセンター刊)等

王 凱
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室
2019年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。
海外のビジネス動向やスタートアップ企業の調査に携わる。

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