コラム
Web3.0時代を見据えたNFTビジネスプロジェクト「Hakuhodo DY Play Asset」
【第1回】スポーツの感動をNFTコンテンツ化する「PLAY THE PLAY」とは?
COLUMNS

ブロックチェーン技術を活用したNFT(非代替性トークン)に注目が集まっています。博報堂DYメディアパートナーズは、NFTを活用したコンテンツとファンの新しい関係づくりを目指すプロジェクト「Hakuhodo DY Play Asset」をスタートさせました。このプロジェクトの概要と、具体的なサービス「PLAY THE PLAY」、NFTビジネスの可能性について、プロジェクトメンバーに聞きました。
(聞き手:斎藤 葵/博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局)

市川 貴洋
博報堂DYメディアパートナーズ
ミライの事業室 グループマネージャー

桐明 眞之
博報堂DYメディアパートナーズ
ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター

グループ内のNFT事業を統一したBtoBブランド

──はじめに、「Hakuhodo DY Play Asset」の概要についてご説明ください。

市川
2020年中盤から、NFTを活用したIP(知的財産権)ビジネスがグローバルに拡大しています。ブロックチェーン技術のNFTを活用してデジタルコンテンツの発行元や所有者を明確にし、唯一無二を証明する仕組みです。博報堂DYメディアパートナーズでも、さまざまな組織や部署がNFTへの取り組みを進めてきました。これまでばらばらだったそれらの活動を統合し当社グループ横断で、NFT事業に取り組むためのプロジェクトとして2022年3月に立ち上げたのがHakuhodo DY Play Assetです。

プロジェクトの中心は、博報堂DYメディアパートナーズ、スポーツビジネスを手掛ける博報堂DYスポーツマーケティング、音楽や映像のビジネスを手掛ける博報堂DYミュージック&ピクチャーズ、インターネット広告会社のデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)のグループ内の4社に加え、ベンチャーキャピタルのWiLやNFT領域の専門性を持つ法律家、システム開発会社など外部パートナーともワンチームとなった体制を構築しています。

──プロジェクトにはどのようなミッションがあるのですか。

市川
博報堂DYメディアパートナーズグループが手掛けるNFTビジネスの提供価値を明確にし、外部パートナーやIPホルダーの皆さんとの連携を進める戦略を立案し、共同で事業を生み出すことが大きなミッションです。インターネットはWeb3.0(スリー)と呼ばれる新しい段階に入ろうとしています。中央集権型ではなく、個々のユーザーがつながる分散型ネットワークが実現した世界。それがWeb3.0です。そのような世界では、NFTがビジネスの一つの鍵を握ることになると見られています。その新しい時代を見据えて、ビジネスモデルの探索や事業開発をを進めていくことがこのプロジェクトの役割です。

──外部のパートナーやIPホルダーの皆さんとの連携を目指すということは、一種のBtoBブランドとも言えそうですね。

市川
そのとおりです。NFT事業のBtoBブランドとしてのHakuhodo DY Play Assetがあって、そのブランドのもとでBtoCを含むさまざまなサービスを展開していくことをイメージしています。この2月からすでにスタートしている「PLAY THE PLAY」がサービスの第1弾となります。

コンセプトは「熱狂のテイクアウト」

──PLAY THE PLAYの概要についてもご説明ください。

桐明
PLAY THE PLAYは、プロスポーツに特化した動画NFTコンテンツ発行プラットフォームです。開発は博報堂DYグループ横断で新規事業開発に取り組む組織「ミライの事業室」が手掛けています。この2月に、明治安田生命J1リーグの試合の映像を「動画トレーディングカード」としてファンの皆さんに提供するサービスを始めました。

この企画を考えたきっかけは、2020年9月にWiLのデザイン思考プロジェクトに参加し、約100人のスポーツファンにインタビューしたことでした。インタビューの中でとくに印象的だったのは、あるプロ野球チームファンの話でした。

その人は年間60以上の試合を球場で観戦する熱狂的なファンなのですが、応援していた選手が別のチームに移籍するケースが多く、ファンという立場のむなしさを感じるといったことを語っていました。ファン同士で試合後に昔の試合をめぐってお酒を飲みながら語り合うことも多いのだけれど、自分のところに残っているのは、記憶を除けばチケットの半券とエクセルに入れた観戦記録くらいで、それもちょっと寂しいと。

その話を聞いて、「コンテンツ消費」とよく言われるけれど、実際に消費されているのはファンのマインドなのではないかと僕は感じました。もし、試合を見たときの感動、熱狂、興奮をスタジアムから持ち出して、自分の手元に残すことができれば、そのときの特別な気持ちを大切にし続けられるし、その日その場所で試合を観戦したという事実の記録にもなります。

そこから「熱狂のテイクアウト」をコンセプトにした動画トレカのサービスが生まれました。いわば、ファンが見た試合、目撃した瞬間とコンテンツを紐づけるサービスです。トレカですから、一人でコレクションすることもできるし、ファンの間で交換することも可能です。つまり、スタジアムで目に焼きつけた「プレイ」で「プレイ(遊ぶ)」することができるわけです。それがPLAY THE PLAYというサービス名に込めた意味です。

──ファンのインサイトから生まれたサービスということですね。

桐明
まさにファンのインサイトに基づいたサービスで、これによってファンエンゲージメントが実現すると僕たちは考えています。チームとファンのつながりがこれまで以上に強くなり、さらにファン同士の連鎖が広がるサービスだからです。チーム側から見れば、今日の試合の感動が次の観戦につながるというリテンション効果も期待できます。

──なぜNFTでなければならないのでしょうか。

桐明
動画トレカは必ずしもNFTである必要はありません。NFTでなくてもコレクションは可能ですし、PLAY THE PLAYのプラットフォーム内であれば、ほかのユーザーとの交換も自由にできます。

トレカをNFT化することのメリットは、プラットフォームを超えてあらゆるサービスと連携できるようになることです。また、自分のコレクションの展示スペースをデジタル空間につくって、プラットフォームのメンバー以外の人たちに見てもらうこともできます。

PLAY THE PLAYはそういったNFTの特性をいかしたサービスを目指していますが、いきなりNFTを前面に打ち出しても、(サービス参加への)ファンの皆さんの心理的な障壁を上げることになってしまうので、まずは一般的なデジタルコンテンツとして所有していただいて、NFTのメリットを享受したい人はNFT化できるという二段構えの仕組みにしています。

スタジアムから遠ざかったファンを呼び戻したい

──NFTにすることで、動画トレカの付加価値が高まるわけですね。

桐明
一つのゴールとしてそれを目指しています。例えば、プロスポーツの試合観戦での記録や、プレイに対する独自の評価、あるいは試合のスタッツといった情報をトレカに紐付けることで、そのトレカを所有する人だけの特別なトレカとして自分の手元に保有することが可能になります。

今後ぜひ実現したいと考えているのは、例えば、試合会場のイベントに参加してくださった方に、その試合で活躍した選手の特別なトレカをプレゼントする企画なども考えています。これによって、その日の試合の印象や思い出がさらに強くなり、熱狂や興奮、感動を長期的に保有することにつながって欲しいと思っています。また、ファン投票でトレカにするシーンを決めるなど、ユーザー参加型の仕組みづくりにもチャレンジしたいですね。

──スポーツのコアなファンはたまらないサービスですね。一方のライトファン層や新規ファンにはどのようにアプローチしていくのでしょうか。

桐明
重要な視点ですね。当面僕たちが注力したいと思っているのは、コロナ禍でスタジアムから遠ざかってしまったファンをスタジアムに呼び戻すツールとしてPLAY THE PLAYを活用することです。新規ファンの開拓やライト層へのアプローチは、その次の段階として考えていかなければならないと思っています。

──現在はJリーグで展開しているサービスとのことですが、今後はほかのスポーツにもサービスを拡大していくのですか。

桐明
ぜひそうしたいと思っています。このプラットフォームは、野球、バスケット、ゴルフなど、さまざまなスポーツに応用することが可能です。もちろん、スポーツによってファン層や応援スタイルは異なるので、それぞれのスポーツの特性を踏まえながら、最適なサービス設計をしていく必要があります。また、オープンな交換ができるというNFTの特性をいかして、スポーツのジャンルを超えたトレカの交換を促して、ファン層の拡大を目指すという方向性もあると思います。

──2月のサービス開始以降、ユーザーからはどのような声が届いていますか。

桐明
動画トレカはこれまで馴染みのなかったサービスなので、わかりにくいという声も多少はありますね。でも、丁寧に説明すれば、おおむね理解していただけます。NFTのトレカを集めることで何ができるのかを、いっそうわかりやすくお伝えしていくことが必要だと考えています。PLAY THE PLAYは、これから進化していくプラットフォームです。ファンの方々のご意見をベースに開発チームと話し合い、使い勝手を改良しながら、できるだけ多くのファンの皆さんに使っていただけるサービスに育てていきたいですね。

新しい時代の権利ビジネスをデザインする

──博報堂DYメディアパートナーズがスポーツをテーマにしたNFTビジネスを手掛ける意義について、お考えをお聞かせください。

市川
PLAY THE PLAYの大きなポイントは、権利ビジネスであるということです。選手の肖像権や試合の放映権の所有者は、スポーツによって異なります。動画トレカのようなコンテンツを手掛けるには、権利関係を把握し、交渉先を見極めながら、ビジネスの形を整理するノウハウが求められます。これまでさまざまなスポーツビジネスを手掛けてきた博報堂DYメディアパートナーズグループには、そのようなノウハウがあります。

また、映像編集などのクリエイティブ力、コンテンツ展開のプランニング力、外部のパートナーとのネットワーク力などがあるのも僕たちの強みです。外部のパートナーには、権利ビジネスやNFTに詳しい法律の専門家もいらっしゃいます。法律や規制などルールをしっかり踏まえながら、新しい時代に即した権利ビジネスをデザインできるプレーヤーは、日本国内にはそれほど多くないと思います。僕たちはデジタルコンテンツの販売ビジネスではなく、Wab3.0時代におけるデジタル知的財産(IP)のビジネスモデルの探索と確立にチャレンジしているのです。

桐明
つけ加えるなら、さまざまなスポーツ競技団体やスポンサー企業と多くのリレーションを築かせていただいたのは、僕たちの強みだと考えていますです。この関係は一朝一夕に築けるものではありませんし、当社グループの大きな資産とだと考えています。

──Hakuhodo DY Play Assetの活動は、スポーツ以外の分野も射程に入っているのですか。

市川
もちろんです。PLAY THE PLAYはスポーツに関するIPにフォーカスしたビジネスですが、ほかにエンターテイメントなど他分野のIPビジネスのプランも進行しています。また、博報堂DYグループのビジネスの本丸である広告・マーケティングの領域におけるNFT活用の研究開発も視野に入れて取り組んでいきます。これからのHakuhodo DY Play Assetの活動にぜひご期待いただきたいと思います。

PLAY THE PLAY for J.LEAGUE (play-the-play.com)

市川 貴洋
博報堂DYメディアパートナーズ
ミライの事業室 グループマネージャー

桐明 眞之
博報堂DYメディアパートナーズ
ミライの事業室 ビジネスデザインディレクター

斎藤 葵
博報堂DYメディアパートナーズ
ナレッジイノベーション局 ナレッジマネージメントグループ グループマネージャー
兼 メディア環境研究所 対外発信/リレーション推進担当
2002年博報堂入社。雑誌・出版ビジネスを中心としたメディアプロデューサーを経て2016年より現職。現在はメディア・テクノロジー・デジタルマーケティング業界のプレイヤーとのビジネスマッチングやディスカッションの場の企画・運営・プロデュースを行う傍ら、❝生活者データ・ドリブンマーケティング通信❞サイトの編集部員として取材・発信活動も行っている。

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