コラム
AaaSにより実現するテレビ広告ビジネスの未来──Advertising Week Asia 2022より
リアル・イベントとオンラインを融合したハイブリッド形式で開催されたアドバタイジングウィーク・アジア2022。リアルとバーチャルの融合によりこれまで以上に参加の機会を広げ、「マーケティング、メディア、テクノロジー、クリエイティブなどの業界をひとつにし、変化を推進していくこと」を視座に、さまざまなセッションやネットワーキングが展開されました。
本稿では、博報堂DYグループのメンバーが、次世代型広告メディアビジネスモデル「AaaS(Advertising as a Service)」の取り組みと、そこから見えてきたテレビ広告ビジネスの未来について語ったセッションの模様をお届けします。
【第1部】テレビ広告の未来──ビジネスの視点から
飯塚 隆博
博報堂DYメディアパートナーズ
AaaSビジネス戦略局長
西村 祐一
博報堂DYメディアパートナーズ
スポット&エリアビジネス局長代理
松浦 伸二
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局長代理
「広告枠」から「広告効果」へ
飯塚
現在、あらゆる産業領域でイノベーションが進んでいます。では、広告メディアビジネスにおけるイノベーションとはどのようなものか──。それに対する私たちの一つの答えが「AaaS」です。
従来の自動車の価値とは、移動手段、つまり「モノ」としての価値でした。それを移動そのもの、つまり「サービス」としての価値に転換したのがMaaS(Mobility as a Service)です。同じように、広告ビジネスにおける「広告枠」の価値を「広告効果」という本質的な価値に転換する。それが、AaaSの基本的な考え方です。
これまでも、広告主が求めてきたのは広告枠ではなく、リーチや認知獲得や集客、すなわち広告効果でした。しかし、効果を計測し可視化することがなかなかできなかったために、枠の取引が広告ビジネスの主要なモデルとなっていました。しかし、昨今のデジタル技術の進歩によって、広告効果の可視化が可能になりました。またそれによって、これまでは分断されていたテレビとデジタルメディアの指標を統合し、同じ価値指標のもとで広告効果を総合的に判断することができるようになりました。そのような背景から生まれたのがAaaSです。
AaaSとは名前の通り、広告効果を生み出す「サービス」です。生活者データ、媒体社データ、マーケティングデータを統合し、モニタリング、プラニング、バイイングをデータドリブンに実現することができるのがAaaSの特徴です。統合メディア運用ダッシュボードによってクライアント、メディア、広告会社が常時接続・連携し、ほぼリアルタイムで収集・分析したデータをもとに広告施策のPDCAをスピーディーに回していくことが可能です。また、統合されたデータをもとに、クライアントのKPI達成に向けたコンサルティングサービスを提供いたします。
AaaSには、「Digital AaaS」「TV AaaS」「Tele-Digi AaaS」「Analytics AaaS」の4つのサービス領域があります。ここでは「TV AaaS」をご紹介しながら、テレビ広告ビジネスの未来について考えていきたいと思います。「枠」から「効果」へ──。その価値転換は、テレビ広告ではどう実現するのか、説明させていただきます。
「運用型テレビ広告」のメリットとは
松浦
従来のテレビ広告の指標は主に視聴率でした。しかし最近では、CM放映後のウェブサイトへの来訪数や指名検索数といったオンラインの指標を用いることで、テレビ広告の効果をほぼリアルタイムで評価できるようになっています。また、それらのデータをもとに、AIを使ってKPI達成の確率を上げていく手法も確立されつつあります。
最近の成功事例として、「枠の集約と再分配による広告効果向上」の取り組みが挙げられます。広告出稿によって何を実現したいかは、クライアントによって異なります。例えば、A社のKPIは「ウェブサイトへのアクセス」、B社のKPIが「TRP(Target Rating Point=ターゲット層のコンバージョン率)」だとします。テレビCMには、前者に向いている枠と後者に向いている枠があります。A社が購買している枠の中にB社のKPI達成に向いている枠がある場合もあるし、その逆もありえます。それをデータから明らかにしたうえで、A社とB社の広告枠をいったん集約し、両者のKPI達成に最適な方法で再分配したところ、A社のKPIであるウェブサイトへのアクセス数は4.5倍となり、B社のTRPは121%向上しました。
飯塚
かなりの効果と言っていいと思います。データとそれを活用するシステムによって、デジタル広告のような「運用型テレビ広告」が実現したということですよね。一方、そのような広告モデルは放送局との連携なしでは実現しません。運用型広告に放送局が取り組むメリットとはどのようなものですか。
西村
テレビCMの広告枠は、これまで主に視聴者のデモグラフィックデータを基準に売買されてきました。この方法には、クライアントが求める枠が一極に集中するという問題があります。しかし、クライアントのKPIに基づいて最適な枠を提供するという考え方に転換することで、枠のニーズは多様化し、それぞれの枠の価値も高まります。それによって、放送局の売上も向上すると考えられます。
松浦
重要なのは、それぞれの枠の価値がクライアントに正しく評価されることです。そのためには、クライアントのKPIに対してどの枠が最も効果的かを明確にする仕組みをさらに精緻にしていく必要があると思います。
「アカウンタビリティ」×「クリエイティビティ」+「サステナビリティ」
飯塚
放送局の広告ビジネスには、純広告枠の販売だけでなく、コンテンツや企画力といったアセットをいかしていく方法もあります。その可能性についても意見を聞かせてください。
松浦
一つには、「ブランドインテグレーション」と呼ばれる方法があります。例えば、ドラマの重要な場面で登場人物が乗る車がSNSなど話題となって、ブランドへの注目度が高まるケースがあります。それを一つの手法として用いるのがブランドインテグレーションです。コンテンツとブランド広告を一体化する取り組みと言えます。
西村
SNSなどで行われているライブコマースを全国の放送局と一緒に企画するケースもあります。放送局にはリーチ力と情報発信力があり、とくに地方局には地元の生活者との密接な関係があります。現在実現しているのは地産地消型の商品の販促企画ですが、この手法をナショナルブランドに適用することも可能だと思います。
飯塚
昔からある、テレビCMによる店舗誘因と来店時の流通の棚確保のセットである流通企画に対するニーズも変わらず高い状況と聞いています。
松浦
そのようなクライアントのニーズに対応するために、博報堂DYグループでは「テレデジ・リテールONE」というソリューションを提供しています。これは、「テレビ」「デジタル」「売場」を統合したフルファネル型の販促ソリューションです。インフォマーシャルを中心としたテレビ広告をアプリのダウンロードや来店につなげ、さらに位置情報システムなどを使って来店・購買行動を計測することが可能です。
ブランドインテグレーションや流通企画などは、これまではCM出稿の付帯サービスと考えられていました。しかし最近では、それ自体の価値が認められて、広告商品化できるようになってきています。
飯塚
「テレビで情報発信をすると売れやすい」ことは、これまでも経験的にわかっていました。そのメカニズムや売れる要因がデータによって可視化されたことで、放送局がさまざまな広告商品を企画することができるようになったということです。これは放送局にとって大きなメリットと言えると思います。
飯塚
今後、私たちがAaaSで今後実現したいことは、広告効果を確実にセールスにつなげていくことです。そのために必要なのが「アカウンタビリティ」、つまり効果測定の透明性や説明責任であり、放送局が持っている編集力や企画力などの資産を可視化したりブラッシュアップしたりする「クリエイティビティ」です。そして、その組み合わせによって、運用型テレビ広告ビジネスの「サステナビリティ」が実現する。そう私たちは考えています。今後、放送局の皆さんとも力を合わせて、テレビ広告の価値をさらに向上させ、クライアントのKPI達成を支援する取り組みを続けていきたいと思います。
【第2部】テレビ広告の未来──開発の視点から
藤本 良信
博報堂DYメディアパートナーズ
メディアビジネス基盤開発局長
柴山 大
アイレップ
取締役CTO
齋藤 充
DAC 執行役員
ソリューションビジネス本部長
テレビ広告の運用を支援するソリューション
藤本
ここからは「開発」の視点でTV AaaSについて掘り下げていきます。TV AaaSは、テレビ広告における「高速PDCAサイクル」を実現するソリューションであり、それにより、システム面から「運用型テレビ広告」を支援しています。
このソリューションでは、クライアントの幅広いKPIに対応することが可能になっています。アクチュアル視聴率、リーチ&フリークエンシー、検索&コンバージョン、態度変容──。クライアントがテレビ広告で求めるものはさまざまです。それらの指標を管理し、効果を最大化するために、AI技術を活用した視聴率の予測や、先ほども話に出た枠の組み換え、あるいは広告素材の最適化などを行います。
TV AaaSで使用するのはプラニング、バイイング、モニタリングを一体型にしたツールです。統合メディアデータウェアハウス(DWH)に多様なデータを格納し、データを使いやすい形に整形したり、複数のアルゴリズムで最適なプラニングを実現することなどが可能になっています。
ここではさらに、TV AaaSに関連する2つのソリューションをご紹介していきます。博報堂DYグループのアイレップとnegociaが共同開発した「x2(ダブルスコア)」と、同じくDAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)が開発した「LiftOne」です。
柴山
アイレップでは、スタートアップのデジタル広告戦略を支援するケースがこれまで多かったのですが、そのような企業が成長にともなってテレビCMにもチャレンジするようになっています。そのようなケースで役立てていただくことを目指して開発したのが「x2」です。これは、テレビCMに対する生活者の反応をスコア化して、広告枠を評価するソリューションです。CMオンエアの翌日にはダッシュボードでスコアを確認し、スピーディーに次の施策につなげることができます。
「x2」は、ターゲット層をウェブに誘導することに成功しているのかどうかを分析する機能や、反実仮想シミュレーション、つまり、キャンペーン期間中にもしCMを出稿していなかったらどうなったかをAIで判定するといった機能など、多種多様な機能を備えています。広告効果をさまざまな側面からリアルタイムで分析できるのが、「x2」の大きな特長です。
齋藤
DACもアイレップ同様、これまでデジタルマーケティングに主に取り組んでこられたクライアントとの取り引きが多く、加えて、メディアレップという立場上、広告会社との取り引きも多数あります。そのような取引先からテレビ広告出稿のご相談を受ける機会が増えています。デジタル広告では効果が可視化されるので、その取り組みの実績があるクライアントや広告会社は、テレビ広告でも効果の可視化を求められます。それを実現するために開発したのが、テレビ広告の統合管理ツール「LiftOne」です。
これは、広告会社にご提供することで、その先のクライアントをサポートすることを想定したツールです。テレビ視聴データや、クライアントがウェブやアプリから収集した計測データを統合し、テレビCMオンエア後にどのくらいの効果が上がったかを放送局、エリア、曜日・時間ごとに分析し、次のプランニングへつなげる──。それが「LiftOne」の基本的な機能です。さらに、デジタル広告のデータを統合し、キャンペーン全体でマーケティング施策をブラッシュアップしていくことも可能です。
運用型テレビ広告の3つの課題
藤本
これまでのテレビ広告では、「どれだけの人に広告が見られたか」が評価指標になっていました。それに加えて、「どれだけの効果を得られたか」をスピーディーに確認できるようになったことが、「運用型テレビ広告」という新しい仕組みの実現につながっています。
一方、「運用型テレビ広告」にはまだまだ課題もあります。課題は大きく3つ、すなわち「データ」「システム」「レギュレーション」に分けられます。それぞれについての考えを最後に聞いていきたいと思います。
柴山
デジタル広告の領域から見ると、テレビにおける運用型広告はまだスタートラインに立ったところというのが実情です。今後、キャンペーン期間中の生活者の反応を見て、クリエイティブを差し替えたり、枠を変更したりすることができるようになれば、「運用」の精度はかなり向上すると思います。
そのためには、広告会社のシステムと放送局のシステムを連携させることが必要になります。それが実現すれば、運用型テレビ広告の可能性はさらに大きく広がるはずです。これは課題というより展望と言うべきかもしれません。その展望を実現すべく、今後もチャレンジを続けていきたいと思います。
齋藤
データに関しては、収集と分析のスピードを上げていくことがこれからの課題と言えます。私たちの立場から見ると、その課題を解決することが、ほかのサービスやソリューションに対する差別化になります。それをどう実現していくかが、私たち自身の課題ですね。
システムに関しても、それ自体の機能をブラッシュアップしていくと同時に、システム活用のオペレーションを支援していく取り組みにさらに力を入れていく必要があると考えています。
藤本
レギュレーションの面でも、テレビにおける広告運用のあり方の合意を形成して、より運用しやすい仕組みをつくっていく必要がありそうです。課題は多々ありますが、それは今後の発展の可能性が大いにあるということでもあります。開発サイドにいる私たちとしても、これからの展開にたいへんにワクワクしています。引き続き、「運用型テレビ広告」の進化を開発面からサポートしていきたいと考えています。
飯塚 隆博
博報堂DYメディアパートナーズ
AaaSビジネス戦略局長
西村 祐一
博報堂DYメディアパートナーズ
スポット&エリアビジネス局長代理
松浦 伸二
博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局長代理
藤本 良信
博報堂DYメディアパートナーズ
メディアビジネス基盤開発局長
柴山 大
アイレップ
取締役CTO
齋藤 充
DAC 執行役員
ソリューションビジネス本部長