コラム
NFTでファンやユーザーの“課題”を解決する。
博報堂DYグループのスポーツIPビジネスにおける考え方と「PLAY THE PLAY」の展望
博報堂DYグループでは数年前から、生活者に新たな価値を提案するものとして、スポーツやアニメといった切り口でNFTのビジネス活用を模索しています。2022年には、スポーツ領域でファンとのエンゲージメントを醸成するプラットフォーム「PLAY THE PLAY」の運用を開始しました。自身もスポーツ歴が長い博報堂DYスポーツマーケティング 執行役員の石間淳也によると、初年度は11月の時点で目標の会員数にほぼ達するなど順調に推移しています。
2022年12月13~14日、NFT Summit Tokyoの第三弾として「NFT Summit Tokyo 2022 Winter」が開催。本稿では、その中から「博報堂DYメディアパートナーズグループが考えるweb3時代のスポーツIP事業のあり方」と題したセッションをお届けします。石間と、「PLAY THE PLAY」のマーケティングを担当するミライの事業室の髙野山が、スポーツIPへの向き合い方と最新の取り組みを解説しました。
石間淳也
博報堂DYスポーツマーケティング 執行役員
髙野山拓史
博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室
スポーツビジネスの本質は、IPの事業顕在化
冒頭、石間は「『生活者発想』というグループポリシーを掲げる博報堂DYグループとして、スポーツIP活用に関しては球団やリーグなどとは少し違い、その背景にあるものや生活者からの期待を考えながら進めることが多い」と話します。中でも、コロナ禍の前後で世の中の価値観が変わったことは、スポーツビジネスへも大きな影響を与えています。今、スポーツビジネスやスポーツのIPを使ったビジネスはどのように変化しているのでしょうか。
石間
コロナ禍によって、スポーツビジネスも言わずもがな、危機的な状況を迎えました。かたや、テクノロジー領域は変わらず次々と新しいカテゴリーで発展を続けています。その中で、スポーツビジネスも当然、DXが急務になっています。現在の潮流を踏まえながら、次世代のスポーツビジネスをどう捉えていくかが、関係者全員に共通する大きなテーマになってくると感じています。
スポーツビジネスの発展を考えると、Web2.0環境からweb3へと進むにつれて「スポーツIPの活用」が本質的な議論になっています。我々広告会社も大会を開催したり、球団やリーグのスポンサーを見つけたり、試合映像の放映権を取り扱ったりしてきましたが、今では事業領域が拡張しています。オフラインがメインの時代から、SNSの発信やWebでの配信も担うようになる中、2020年に「NBA Top Shot(※NBAのトレーディングカードのデジタルプラットフォーム)」が登場したときには、ビジネスの大きな潮流の変化を感じました。
石間
もともとスポーツビジネスはスポーツ自体というより、IPとしての価値をビジネスに転換して発展してきたという見方ができます。スポーツをビジネスにするというのは、とても概念的で、その点で非常に特殊な商材なんですね。
たとえば、スポーツが持つIP価値に「スタジアム」を掛け合わせると、大会というマーケティングビジネスが生まれます。その会場内で広告を打ったり、配信の放映権を売買したりできます。つまりスポーツIPを扱うビジネスは昔も今も、スポーツが内在するアセットの顕在化・価値化だと言い換えられると思います。
石間
その中で、次のスポーツビジネスのフォーマットとは何かを模索しているのが現状です。
そこで、世の中と生活者をよく見るのが博報堂DYグループのやり方なので、コロナ禍においてファンがスポーツに何を望むのかをインタビューしました。ここで注目したのは、今日このNFT Summit Tokyoでもたびたび話に上がっていた「ユーティリティ論」です。
NFTは発行するだけでは有用性がなく、価値化しなければ意味がないという指摘がありますが、ことスポーツIPビジネスにおいては、ユーティリティ論はすなわち「ファンの課題やペインをどう解決するか」というソリューション論だと我々は捉えました。
スポーツの多種多様なあり方を踏まえて、野球界やサッカー界、あるいは大手プラットフォーマーと組む場合などケースごとに、ユーザーやファンの課題解決になるようなNFTを使ったソリューション開発に取り組んでいるところです。
スポーツファンの課題を解決する、ユーティリティとしてのNFT
2022年に開設したNFTコンテンツ発行プラットフォーム「PLAY THE PLAY」では、第1弾としてJリーグと組み、動画トレーディングカード(以下、トレカ)を発行・販売しました。この背景にも、実は前出のユーザーインタビューがありました。スポーツファンの課題やペインを探ったところ、「試合を見てもグッズなどを買っても“結局、何も残っていない”と感じる」という声が複数聞かれました。動画トレカのNFT化は、その課題を解消するひとつの策になります。
石間
今は得ようと思えばいろいろな情報が得られるのに、ファンの立場では「応援した熱量が消えていく」と感じている。また、スポーツ運営者や競技者からしても、たとえばIPへの接触ログなどでファンの熱量を数値化することはできるのに、特に捕捉せず流れていっている。これは大きなペインではないか、これを解決できないか、というのが僕らの活動の起点になりました。
このペインに対して、「PLAY THE PLAY」というプラットフォームや、スポーツファンにとってのユーティリティをどう設計するかという観点が非常に重要だと考えました。
マズローの五大欲求になぞらえてみると、スポーツコンテンツ消費は、人間のより高度な欲求に応えるものだとわかります。スポーツを通してスタジアムで皆と一体になったり、選手に感情移入したりするのは、自己実現や承認の欲求と捉えられます。ブロックチェーン技術とNFTを使えば、その欲求に応えることができます。
石間
スポーツコンテンツ消費はかつての“フロー型”から、SNSやデバイスに自分のログを残していける“ストック型”になりつつあります。
一時的にお金や時間を消費するのではなく、体験を残していくことを可能にするのが、次世代のスポーツビジネスです。
「PLAY THE PLAY」のプロモーションで、あるサッカースタジアムに行った際、来場していた親子にサービスの仕組みについて質問されました。ご自宅で動画を見返したりできる、とお伝えすると「何回でも息子と見返せるんですね」と言われ、まさにそうした部分を解決できるのだと実感しました。
ユーティリティ先行でもなく、ブロックチェーンや技術先行もなく、あくまでスポーツファンのペインを解決する手段のひとつとしてNFTを活用しています。スポーツIPの保有や価値化は、これまではIPホルダーしかできませんでしたが、今後はパートナーとしてともに取り組めたらと思っています。
石間
ここからは、具体的に「PLAY THE PLAY」の初年度の成果と、今後の展開を紹介します。プラットフォームの紹介動画も併せてご覧いただければと思いますが、「熱狂のテイクアウト」をコンセプトとして掲げ、会場で感じた熱量を持ち帰ってください、というメッセージを込めています。
https://www.youtube.com/watch?v=G5E_Lu0h5dA&t=3s
石間
初年度はおかげさまで、11月時点で年間目標の会員数をほぼ達成しました。ユーザーから好評の声がある一方で、このカードを保有する意味がほしいとの意見もありました。
PLAY THE PLAYでのポイントをひとつご紹介すると、第一弾のJリーグ動画トレカは、入手した後にNFT化するかどうかを選べるんですね。その理由は、まさに今、Jリーグさんとともに「選手の肖像権」の扱いを模索しているからなんです。スポーツ界全体ではまだ選手個人のIPの扱いが定まっておらず、懐疑的に捉えられる向きもあります。
現状、Jリーグさんは「パブリックチェーンでのNFT化」を可能とし、保有するIPの価値設計や発行をともに考えたいと言われています。そこで、スポーツIPはあくまでオープンな存在だという考えの下に「ETHEREUM」「Polygon」「Astar」の3つのメジャーなパブリックチェーンを選んでいます。我々としては、ファンの方がどう感じるのか、何が興味を抱くトリガーになるか、また課金に対する印象などを把握する意味も含めて試行錯誤しながら、スポーツ界における新たなビジネスフォーマットの確立を目指しています。
「PLAY THE PLAY」進化に向けた3つの注力点
会員数も順調に伸びているPLAY THE PLAY。ただ、どう課金してもらうかという部分は、まだ解決策が見つかっていないのも実状です。石間から、博報堂DYグループのスポーツIPビジネスにおける思想や目指すこと、現在の率直な試行錯誤の状況を解説した後、髙野山からプラットフォームとしての今後の課題と予定している展開などを紹介しました。今後は主に、コミュニティ形成、ユーティリティ設計、またゲーム性を盛り込むことを検討中です。
髙野山
先ほど石間が述べたように、現状では課金に課題があるので、マーケティング担当としてはこの部分への取り組みが急務だと捉えています。来期以降、どのように進化させていくかを解説するにあたり、世界の成功事例を少しご紹介したいと思います。
たとえばNBAのトレカNFT「TOP SHOT」では、ファンコミュニティが形成され、交流を通して高次元の欲求が満たされている部分がうかがえます。また MLBやNASCARののNFTプラットフォーム「Candy Digital」ではリアルな体験がインセンティブとして設定されていたり、サッカーを題材としたファンタジースポーツの「sorare」では実際のチーム成績にNFTの価値が連動したりと、体験やゲーム性に課金ポイントが盛り込まれています。
髙野山
これらから、我々としても次の3点を重視していく考えです。
・コミュニティの開設
・NFTホルダーに向けたユーティリティ設計
・GameFiに向けたサービス設計の検討
髙野山
たとえばコミュニティ開設なら、Discordなどを活用してPLAY THE PLAY独自のコミュニティを形成し、カードを見せる場として楽しんでもらえればと考えています。また、ファンのリアルな声を募り、それらを反映したプロジェクト展開にも関心があります。
ユーティリティ設計は、総合広告会社グループとして選手などのキャスティング力を発揮し、ファンにうれしいイベントなどの設計も可能です。合わせて、リアルグッズと連携したNFT発行も検討していきます。
我々のサービスを通したGameFiに関しては、国内外とも複数のプレーヤーが出てきていますが、まだ「スポーツ×ゲーム」で完全に成功したと言えるモデルは少ないとみています。“日本ナイズ”したゲーム設計が課題だと捉えているので、Jリーグファンにとってのペインをゲームに落とし込むとどんな解決方法になるのかという観点で、分析と検討を進められればと考えています。
髙野山
ただ、この進化の方向性も確定ではなく、模索中なのが正直なところです。今後も変化を続けけるPLAY THE PLAYを楽しみにしていただけたらと思います。
また、我々のグループではイノベーションに向けたweb3関連プロジェクトを「Hakuhodo DY Play Asset」と冠し、スポーツ以外にもエンタメやアート領域でも展開しています。ブロックチェーン技術やNFTの活用に興味がある方々と議論しながら、一緒に進化していければと思いますので、今日のセッションを機会にぜひ皆様とお話しできたらと考えています。
石間淳也
博報堂DYスポーツマーケティング 執行役員
髙野山拓史
博報堂DYメディアパートナーズ ミライの事業室