コラム
【スパイクスアジア2023】博報堂DYグループ審査員に聞く、今年のグランプリ受賞作品の傾向(堀江 雄一郎/張 ズンズン/田中 美奈子/谷脇 太郎)
COLUMNS

アジア地域最大級の広告祭「スパイクスアジア(Spikes Asia)2023」の審査員を務めた博報堂DYグループ4名に、各部門の今年の受賞作品の特徴や審査を終えた感想について聞きました。

■Creative Data, Innovation部門

①ご担当部門のご説明と今年のグランプリ受賞作品の特徴について
クリエイティブデータとイノベーション部門を担当させていただきました。
クリエイティブデータ部門はデータを上手く使うだけでなく、クリエイティブな発想や視点でデータの可能性を広げているかどうかが審査の争点になりました。グランプリを受賞した『Flipvertising』は難しいオリエンをデータと発想の両輪で解決した点が高く評価され受賞に至っています。


Samsung『Flipvertising』(CHEP Network/オーストラリア)

イノベーション部門は単なる最新技術紹介にとどまらないプロジェクト、他業界でのスタンダートの後追いではないクリエイティブアワードに相応しいプロジェクトを選ぶという基準で審査が進みました。結果、技術を組み合わせて新しい価値を創造しているという理由で『The Hydrogen Garbage Truck 』がグランプリを獲得。単発のプロトタイプではなく、政府を巻き込んだスケール化がされている点も評価されました。


Hyundai Motor Group『The Hydrogen Garbage Truck 』(INNOCEAN/韓国)

②審査を終えたご感想について
単一市場の枠を超える思考の重要性を感じました。
通常業務では日本固有、ターゲット特有の習慣や文化をもとに戦略を練ることが多いと思います。別の言い方をするとインサイトの深さ、ミクロな視点が重視されることが多いのではないでしょうか。
一方で、今回の審査ではデータが根源的な課題を捉えていることや、複数のマーケットに応用・展開ができそうなイノベーションであることが重視されました。実際に複数マーケットで展開しているかは別として、応用が効きそうなこと(スケールを感じること)は今後のクリエイティビィの評価軸としてますます重要になっていくと思います。
もちろんインサイトを深く探ることは今後も大事なのですが、それが一部、一時の話に偏らないような発想は大事にしていきたいと思います。

堀江 雄一郎 Yuichiro Horie
Head of Planning
TBWA HAKUHODO イノベーションインテリジェンスユニット プラニング局 局長

■Design, Industry Craft部門

①ご担当部門のご説明と今年のグランプリ受賞作品の特徴について
台湾とNYを経て、東京に住むグローバルなシチズンとして、ユニークな視点をSpikes Asiaで発揮できたことを嬉しく思っています。
今年のデザインとIndustry Craft部門は、AIやデータの活用が顕著で、テクノロジーが、デザインやビジュアルをまったく新しいレベルに引き上げていることに目を奪われました。テクノロジーが、クリエイティビティの境界を広げているのを目の当たりにし、amazingだと思いました。

パンデミックが2022年のアジアにも影響を与える中、メタバースを重要なコミュニケーションプラットフォームと捉えるブランドが増えたとも感じました。風景の再現やインフルエンサー活用など、若い世代に刺さる、より包括的なバーチャルワールドが実現されていました。

また今年の応募作品を見ていると、新しいものばかりではなく、伝統的な美学や技術にインスパイアされたデザインやアートディレクションが復活していることにも気づきました。伝統的なデザインに見られる、職人的な技の強調や、ディテールへのこだわりが、多くの作品に見受けられました。この傾向は、テクノロジーの進歩がデザインの主流となることが多い現代において、伝統的な技法の活用がいかに効果的か、また、デザインにおける文化的な洞察や文脈の理解がいかに重要かを浮き彫りにしていると思います。

『Suntory天然水 Endless Dawn』は、アイデアのシンプルさから最終的な仕上げまで、サイトのデザインにとても感銘を受けました。特に印象的なのは、デザインに”人間味あふれる旅路”を取り入れていることです。厳選された物語と音楽が作品に深みと美しさを付加し、感情的なインパクトをもたらしています。


サントリー『Suntory天然水 Endless Dawn』(Dentsu Craft Tokyo/日本)

『Rejected Ales』は、創造性の力を示すだけでなく、不完全さを受け入れ、それを独自のセールスポイントにすることを上手に実践している作品だと感じました。ユーモラスなパッケージデザインがお客さまを魅了し、そのストーリー性が完璧を目指す醸造所の旅に個人的に参加している気分を創ってくれます。


Matilda Bay Brewery『Rejected Ales』(Howatson+Company/オーストラリア)

②審査を終えたご感想について
他の審査員たちから沢山のことを学びました。
今回のDesign & Industry Craft部門の審査員たちは様々な国から参加し、あらゆる文化ルーツを持ちます。皆さんがカルチャーについて様々な考え方を観察、理解することは大変面白かったです。
外国人から見ると、日本のクリエイティブの一大特徴はレイヤーの豊富な日本文化に密着しているところです。その文化を知ることができれば、なぜ日本のクリエイティブが世界で不動な地位を持つのか理解できます。
その反面、日本文化への理解が足りなければ、その複雑性で理解が進まないこともあります。
グローバルが舞台であれば、外国人でも理解しやすい方法を探り、シンプルで分かりやすいクリエイティブを求めなくてはならない。これは私の今回の審査を通して学んだ一つのことです。

張 ズンズン Justina Zun-Zun Chang
Global Integrated Art Director
博報堂 博報堂 グローバルクリエイティブ&プロデュース部

■Media部門

①ご担当部門のご説明と今年のグランプリ受賞作品の特徴について
Media部門の審査員みんなで照準を絞ったのは2点。インサイトやクラフトにエモーショナルになりすぎず(なりがちだけど)、“メディア”ストラテジーや“メディア”エグゼキューションとしてのWOWは何か。また社会課題に対し、メディアは明確な「行動の変化」を示し「社会の変化」をドライブしなければならない。
そんな中、グランプリは審査員が満場一致で称賛した『Knock Knock』。
DV被害者が警察に助けを求められない理由は、そばに相手がいるから。世界初、バレずに助けを求められるサイレント・エマージェンシーコール。スマホを使ったシンプルかつ美しいコール自体がメディアとなり、メッセージとなり、アクションとなり、自らの意思に反して動けない人の行動のイノベーションを起こす。さらに耳が不自由な人や言葉の壁がある人も、どんな犯罪にも適用できるインクルーシブさ。今すぐ世界中で採用してほしい!と思う施策でした。


Korean National Police Agency『Knock Knock』(Cheil Worldwide/韓国)

②審査を終えたご感想について
アジア限定のアワードだからこそ、なのでしょうか。文化的・社会的背景、インサイト、マーケット、それぞれのカラフルさが際立って感じられると同時に、丁寧に理解していこうとするプロセスが何よりの魅力でした。日本はそのユニークさで評価が高いのも実感。エントリーの際には、より自分たちの文化や社会的背景、ターゲットやマーケット理解に基づくストーリー性を大切に、エッジをたてていくことに可能性を感じました。
またMedia部門の私以外の審査員はみなさん、ストラテジストやメディアプランナー。Media部門は、彼らの仕事を今まで以上に魅力的にしていく部門だと感じました。

田中 美奈子 Minako Tanaka
Creative Director & Integrated Creative Producer
博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局
クリエイティブディレクター/統合クリエイティブプロデューサー

■Print & Publishing, Radio & Audio部門

①ご担当部門のご説明と今年のグランプリ受賞作品の特徴について
Print & PublishingとRadio & Audioの2部門を担当させていただきました。どちらの部門もコピーが光る作品が多く、コピーライターとしては審査を楽しみながらも背筋を正される思いでした。

Print & Publishing部門は、ワンコピーワンビジュアルの絵解き系のプリント広告が多かった印象です。その中でグランプリに輝いたIKEAの『Kitchen』は、目をつけたインサイトの深さと、ノンバーバルで誰もが理解できる速さの両面で優れていました。


Ikano『Kitchen』(Ogilvy/タイ)

Radio & Audio部門は、企画そのものというより、企画の作り方自体がアイデアになっている作品が目立ちました。低価格ブランドであることを表現するために街行く素人をラジオCMのナレーターに起用したSkinnyのグランプリ作品『Phone It In』は、その録音の仕組み上、同時に通話音質の高さも表現できている。そう来たか!と膝を打ってしまうような秀逸なアイデアだったと思います。


Skinny『Phone It In』(Colenso BBDO/ニュージーランド)

②審査を終えたご感想について
Radio & Audio部門のグランプリ審査は、実はなかなかまとまらず、日を改めて再審査をするほど紛糾しました。Skinnyのアイデアの素晴らしさは誰もが認めるところでしたが、そのコピーの「面白さ」が果たしてグランプリに値するのか、審査員間で意見が割れたのです。ニュージーランド流の「キウイジョーク」、個人的には面白いと思い票を入れていましたが、たとえば審査委員長は「絶対にもっと面白く書けたはず!」と票を入れなかったり。アイデアの良し悪しは国境を超えるけれど、ユーモアのセンスは国ごとに大きく異なる。そんなことを感じた審査でした。

谷脇 太郎 Taro Taniwaki
Copywriter
博報堂 グローバルクリエイティブ&プロデュース部 コピーライター

スパイクスアジア公式サイト:Spikes Asia 2023 | Festival of Creativity

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