コラム
Media Innovation Lab
【Media Innovation Labレポート.32】
SNSを自在に使い分けるZ世代
COLUMNS

いま何かと注目を集めるZ世代。彼らにはどんなインサイトがあり、どのようなコミュニケーションをとり、どんなふうにソーシャルメディアを活用しているのでしょうか。DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)でZ世代について調査する高橋二稀と、江口英里がZ世代の実態を紐解きながら、デジタル媒体における広告アプローチの可能性について探っていきます。

■世界的に見ても大きな存在感を放つZ世代

江口
今回のテーマはZ世代のコミュニケーションとソーシャルメディアです。始めにZ世代とはどんな年代を指すのか教えていただけますか。

高橋
年代としては1990年から2010年生まれを指すといわれています。物心ついたときからSNSが身の周りにあり、メタバース系のアプリやDiscordを使ったコミュニケーション、オンラインゲームにもなじみが強い世代です。

江口
世界的な人口形成についても教えていただけますか。

高橋
Z世代は全世界でもっとも人口が多い世代で、トータルで24億人いると推定され、これはグローバルの全人口のうち約32%にあたります。そのうちアフリカが全体のZ世代人口をけん引しており、ナイジェリアで6,600万人(32%)、エチオピアで3,600万人(34%)のZ世代が存在しています。なおアメリカは6,500万人(20%)、日本は1,700万人(14%)となっています。(出典:国連、2020年)

江口
世界的に見てもZ世代のボリュームが大きいわけですね。マーケティングにおいて注目すべき世代ということがわかります。では彼らにはどんな特徴があるのでしょうか。調査からわかったことを教えてください。

高橋
価値観においては、コミュニティごとに自分のペルソナを使い分けるという特徴があります。また、周りの人との関係性を乱さないよう気を使いながらも、自分の個性は自分で大事にしようという意識を持っています。
コミュニケーションにおいては、短文のテキストを好む傾向があります。長文でのやり取りよりも、短い文章を手短にぱっと送るような傾向が強い。またチャットやメールに比べて音声のやり取りを好むという傾向もあります。個人的には、音声や動画、画像など、一回のやり取りにおける情報量が多い形式でコミュニケーションをとることが多いですね。情報収集においては、気になることがあると検索エンジンは使わず、SNSでハッシュタグを使い検索を行うことが多いと思います。InstagramやTikTokなどはもともとなじみのあるUIで見やすいですし、動画や画像などで、コンパクトかつ多くの情報が得られる点が支持されているのではないかと思います。また、ユーザーが比較的自由に口コミを投稿できるSNSが、信頼できる情報源として利用されています。

江口
Z世代は特にInstagramをトレンドの把握や情報収集に使っているようですね。Instagramはインフルエンサーなど著名人の投稿を見るだけではなく、若い世代ほど、身近な友人の近況を知るために利用するケースが多いのも特徴です。(出典:ネオマーケティング、「もっと知りたい、Z世代。 ~情報・人との接し方とは~」、2022年)
実際、ストーリー投稿を起点にInstagramのDM上でコミュニケーションをしている人が多く、InstagramのDMが重要なメッセージングツールになっていると言えそうです。

高橋
そうですね。InstagramのDMを使う理由としては、Instagramのストーリー投稿を通じて友人が何をしているのか、何に興味があるのかといったことを知って、それに対するコメントを起点に会話を広げているからです。ストーリーに投稿されたリアルタイムの出来事へのコメントによって会話が自然にはじまるので、唐突感がなくて好まれているのだと思います。

江口
TikTokはトレンド把握や情報収集に使われるのと同時に、暇つぶしのツールとしての利用が多いです。YouTubeの場合は長尺動画が多いので、夜間などまとまった時間があるときに視聴します。一方TikTokは短い動画が基本なので、通学時などの隙間時間に利用する。時間帯や利用シーンによってSNSを使い分けているのがわかります。またTikTokに動画を投稿せずとも、遊びの一環で友人と一緒にダンス動画を撮ってそのままカメラロールに保存するなど、機能をうまく利用している人もいます。Twitterは、アイドルの推し活や、趣味用の投稿、仲がいい人だけに公開するアカウントなど、目的に応じてアカウントを分けることで、自分が委縮することなく安全に発言できる空間をうまくつくっていると感じます。高橋さんは調査において高校生にヒアリングされたそうですが、どういった印象を受けましたか?

高橋
高校生の生活全体にTikTokが浸透していると感じました。動画を見て暇つぶしをしたり、友達とつながったりするだけではなく、写真加工やダンス動画を撮るなど、日々のエンタメのためのツールとして活用されています。TikTokはショッピング機能も拡大させつつありますが、いずれは動画閲覧や写真加工以外の領域も、少しずつ利用されていくのかもしれないと感じました。私自身のSNSの使い方としては、TikTokはグルメ情報用、ツイッターはオタク活動や政治系の情報収集など、アカウントごとに違うタイムラインのつくりにしていて、それぞれを目的に応じて使い分けています。ヒアリングした中でも、やはり1つのSNSに依存していないというのが印象深かったですね。現在人気のアプリがいずれなくなったとしても、別に困らないという声もありました。自分自身で最適なSNSの使い方、付き合い方を考え、選択しているという印象です。

江口
確かにSNSを使い分けて、自分に最適なSNSを選んでいくことで、誰にも気兼ねなく自由に発言できる場所、居心地のいい空間を自分でつくりあげている。非常に能動的な姿勢を感じます。SNSはアルゴリズムによってレコメンドされた情報を受動的に受け取っているという印象でしたが、Z世代はむしろアルゴリズムを前提として理解しながら、受け取りたい情報を効率的に入手できるような環境を自らつくっていることが、新しいと思いました。

高橋
アルゴリズムによるレコメンドに対しては、一般的にネガティブな反応を見せる人もいますが、いまはプラットフォームごとに自分の見たい広告を選択できるようになってきている。Z世代に関しては、自分に合った広告が流れてくることに対して、そこまで気にはしていないようです。

■失敗したくない心理を表す「タイパ主義」と「ネタバレ消費」

江口
グループインタビューからどんなインサイトが得られたかも教えてください。

高橋
4つ挙げられます。
1つ目は、「周りに影響されず、等身大の自分を見せたい」というもの。
自分のことは自分で大事にしたいという想いがあり、等身大の自分に満足し、自己肯定感を持っていたい、他の人からのいいねやコメントをあまり気にしたくないといったことです。
2つ目は、「自分の居心地のいいコミュニティを持ちたい」です。
SNSはさまざまありますが、それぞれで違う自己像をつくったり、好きなことを発信できる場をつくって、それに共感してもらいたいというインサイトがありました。
3つ目は「手間をかけずにスムーズにつながっていたい」。
先ほども触れましたが、テキストよりも電話をするほうが楽だし、オンラインでつながった状態を、チャットなど遊ぶ空間としてとらえています。
4つ目は、「コンテンツ視聴や購買において失敗したくない」です。
すべての体験を、再現性のあるものではなく一度きりのものととらえ、その一回を確実に楽しむためにも、コンテンツ選びに失敗したくない、時間を無駄にしたくないといったインサイトがありました。

江口
こうしたインサイトと、一般的に指摘されているZ世代の価値観を示すキーワードには共通点があると思います。具体的には、費やした時間に対する満足度を重視する「タイパ主義」と、「ネタバレ消費」というキーワードです。タイパ主義は、「観たい映画やライブの内容を事前に把握することで失敗を避ける」というような行動を指します。ネタバレ消費は、「友人にわたすプレゼントや誕生日パーティーの場所などを事前に本人に教えてしまって、シチュエーションに合った服装を準備できるようにする」といった行動が当てはまります。こういったタイパ主義やネタバレ消費の影響なのか、最近TikTokやInstagramで人気となっているのが、テレビ番組の切り抜き投稿です。番組の公式アカウントが自ら切り抜き動画を投稿していて、こうしたマーケティング手法はまさにZ世代のニーズをうまくくみ取ったものだといえます。

高橋
Twitterでも、番組の一部を切り取って4コマ漫画のように並べ、一目で面白かったシーンがわかるような投稿が増えましたよね。そういう投稿を見て、気になったものを実際に動画配信で見るというケースも多くあるようです。番組制作自体が、そうしたスクリーンショット(切り抜き)を意識したテロップの入れ方をしているといった話もあります。いずれにしても有効な方法のようです。

江口
ほかのキーワードとしては、「チル&ミー」、「マインドギャル」があります。
チル&ミーは、マイペースに居心地よく過ごすチルという言葉と、一見見えにくい過剰な自己意識を持ち合わせていることを示した言葉。マインドギャルは、人に流されずに自分の意見をはっきり言うような、ギャル流のマインドのこと。「自分は自分」「等身大の自分に満足しよう」「自分自身を肯定しよう」という姿勢が男女問わず共感を呼んでいるようです。背景としては、SNSによって自分より優れている人を頻繁に目にするようになったり、人と比較しやすくなった反動として、意識的に気持ちを上げていこう、自己意識を高めようという心理が働いているような気がします。

高橋
マインドギャルについては、内面に対しても見た目に対しても、「ギャルだよね」という言葉が誉め言葉として受け止められています。ネタバレ消費については、おそらく失敗したくないというインサイトが、Z世代は非常に大きいのだと思います。遊びにいくにしてもかなりリサーチしてから場所を選びますし、実際にヒアリングでも、何か焦りのようなものを感じることがありました。おそらく、SNSを通じて活躍している同世代の若者や友達の華やかな面を見ることが増えて、それと比べて遅れていたくないとか、いまの瞬間を無駄にできないといった感覚があるのかもしれません。
また私自身は、いま節約と健康のために水筒を持ち歩いているのもあって、外出先で給水場所を確認できるアプリを活用しています。そうしたニッチなニーズに確実に対応できる専門性の高いサービスは、失敗したくないという気持ちに対応してくれるものでもあり、今後需要が高まっていくかもしれないなと個人的には感じています。

■目的に応じてSNSを選び、上手に使い分けるZ世代

江口
先ほど紹介したようなインサイトに適応する新興ソーシャルメディアが、いま多数存在します。Z世代が目的に応じてどんなソーシャルメディアを活用しているのか、紹介していただけますか。

高橋
インサイトの1つ目、「周りに影響されず、等身大の自分を見せたい」に対応し、身近な人とつながれるアプリにはBeReal、TikTok Nowなどがあります。カメラの加工機能がない、時間制限内に投稿しなくてはならないといった制限が施されているもので、デュアルカメラ(内カメラと外カメラ)で同時に撮影ができ、その場のありのままの瞬間をおさえるという機能が特徴的です。SNSにきれいな子の写真が溢れているなか、自分がよく映っていない写真をアップするには抵抗があるかもしれませんが、こうしたアプリの場合素の写真を投稿するものという共通認識があって、可愛くとれていなくても大丈夫という思いから気軽に使われています。ちなみにBeRealは、自分も含め個人的な記録媒体として使う人も少なくありません。

江口
私もBeRealを使ってみましたが、アプリ側から投稿時間の通知が来たり、アプリを開いてから撮影できるのが2分間と決まっていたり、通知が届いてから何時間後に撮影したかがわかるようになっていたりと、さまざまな制限をアプリ側が設定しているのが新しいと思いました。最初は、ごく日常の映えない写真を投稿することに抵抗がありましたが、いざ利用してみると、アプリ内では飾っていない素の写真でもアップして大丈夫なんだという安心感を感じられて、少しずつ抵抗感なく使えるようになりました。

高橋
最近は、あえて映えない写真を載せようという流れもあります。私自身は、本当に仲のいい友人と、毎年年越しの瞬間に写真を送り合っています。なるべく不格好で盛れていない写真を送り合って楽しんでいるのですが、BeRealはまさにそれに近いなと思いました。

江口
素の自分の姿を共有しあえるということで、それくらい仲が良いという、互いの距離感の近さを確認できるような効果もあるのかもしれませんね。

高橋
確かにそうかもしれません。
続いて「自分の居心地のいいコミュニティを持ちたい」というインサイトに対しては、価値観が共通する人とつながる、Weverseやsmash、litlinkといったアプリがあります。InstagramやTwitterの場合、プロフィール内の文字数やURLのリンク貼付に制限があって、自分を表現するスペースが狭かったのですが、それらを束ねるサービスとして利用できるリンクインバイオです。手軽に自分のサイトをつくるような感覚で、推し活で活用するなどいろんな用途に合わせたページをつくることができます。

江口
litlinkでは、ページ内にどういう人とつながりたいのか、たとえば同年代で推しが同じ人とつながりたいなど、細かい条件を記載している人を見かけました。こうした条件を記載することで、好きなものや嫌いなものを自己開示し、自分で居心地のいいコミュニティを作っていますね。

高橋
次に「手間をかけずにスムーズにつながっていたい」というインサイトに対しては、身近な人、属性が近い人とつながれるZenlyなどがあります。Zenlyは既にサービス終了しましたが、かなり便利に活用していました。どの人がどの街にいるか、よく行く店はどこかなど、地理に紐づいた情報が得られて、「この子はよく渋谷で遊んでるな」とか「この店によく通っているな」とか、個人のパーソナリティが見えてくるのが面白かったです。

江口
Zenlyは位置情報を意図的に曖昧にできる機能もあって、細かい調整機能が絶妙だと思いました。アプリの利用時間やバッテリーの残量など細かい状況がわかるのも面白かったです。友だちがいる場所がわかるというだけで、待ち合わせ時の連絡の手間も省けるし、その人との距離感が縮まったように感じられるので、そのあたりに支持された理由があるのかもしれないと思いました。

高橋
そうですね。最後の「コンテンツ視聴や購買において失敗したくない」というインサイトに対しては、信頼あるオピニオンリーダーとつながれる、Lemon8というアプリがあります。いつも見慣れているInstagramやTikTokとUIが似ていて、コメント欄に長文が記載できます。情報をまとめているアカウントがたくさん存在するため、さまざまな情報のキュレーションアプリのような感じで活用されています。キュレーションアカウントだけを見るためのアプリとして使えるので、友達やインフルエンサーの投稿を見るInstagramと使い分けができる点が便利だと思います。InstagramもTikTokもLemon8も機能やUIはとても似ているのですが、だからこそいかに自分らしいタイムラインをつくるかがポイントになっているような気がします。

■一定の制限を設けたSNS、ニッチなニーズに応えるアプリに注目していく

江口
ほかに今後注目すべきソーシャルメディアがあれば教えてください。

高橋
BondeeというメタバースSNSがあるのですが、自分のアバターやルームをカスタマイズし友だちと共有できます。アバターの動きを通じて感情を豊かに表現したり、居心地のいいコミュニティがつくれたりと、いくつかのSNSのいいとこどりをしているようなアプリで、チャットもできて、一言投稿や画像投稿もできるほか、リアルでのステータスがメタバース空間にも反映されるので、たとえば友だちのアバターの様子を見て「いまは仕事を頑張ってるんだな」などと、その人のリアルを感じることができるところが魅力です。デザインもY2K(2000年代のレトロな印象)ぽく、UIがかわいいのも特徴的です。

江口
たしかに少しレトロなデザインがかわいらしいですね。

高橋
モバイルサイズの画像生成もできるので、Instagramのストーリー投稿で共有しやすいのもポイントです。ストーリーで友だちがやっているのを見て自分も始めたという人も多いようです。

江口
最後になりますが、Z世代を見据えたマーケティングにおいて、これからどんな可能性が考えられるかについてもお話できたらと思います。

これからはAIを活用した居心地のいいコミュニケーション開発が進められると思いますが、「あなたはこういうタイプだからこれがおすすめですよ」といった提案は、Z世代からは敬遠されてしまうのではないかと思います。彼らは無意識のうちに自分たちが居心地のいい空間をつくっているので、レコメンドよりも、たとえば一連の診断で自分の性格がわかるものや、SNSの使い方のタイプを可視化するような、自己診断のようなものにAIを用い、コミュニティをつくりやすく支援するサービスなどが受け入れられるような気がしました。

高橋
これからは、アプリにせよメディアにせよ、よりニッチで細分化されたサービスを提供する方向になるのかなと思います。いま欧米では学校内のSNSなど、小さなコミュニティ内だけで活用するアプリがはやっています。FacebookやInstagram、Twitterといったオープンで包括的な機能を提供するというよりも、そのアプリを使って何ができるのか、どういうコミュニケーションがとれるのかが、ある程度限定されていたり、縮小されていたりする方が、利用が広がりやすいと考えます。エージェンシーとしては、そういうニッチなニーズに対応するようなメディアに注目し、広告商品を開発していくといいのかもしれません。また、個々のユーザーへのターゲティングが難しくなっているなかで、アプリのコンテキストに合った広告配信は今後より重要度が高まっていくと思います。

江口
そうですね。
メタバースSNSの盛り上がりなど、Z世代の動向にはこれからもぜひ注目していきたいですね。今日はありがとうございました。

高橋二稀
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究室
2020年DAC入社。Z世代のデジタル行動やECソリューションなど、生活者に近い接点を中心としてデジタルビジネスのトレンド調査、事業開発を行う。

江口 英里
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究室 兼Media Innovation Lab
2018年DAC入社。先端テクノロジーや海外メディアの調査・研究に従事、新たな市場・ビジネスへの対応提案を行う。またデジタル広告業界団体「IAB」との連携を担当し、グローバルでの広告業界の潮流を捉え、HDYグループ全体へのナレッジ共有(社内セミナー運営等)を推進。

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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