コラム
プログラマティックOOH本格始動。広告会社プランナー視点で語る国内OOHの進化と活用事例
──Advertising Week Asia 2023より
2023年6月6日(火)~8日(木)、東京ミッドタウンにて「アドバタイジングウィーク・アジア2023」が開催され、さまざまなコンテンツトラックやインタラクティブなディスカッション、基調講演、セミナーセッション、ネットワーキングが展開されました。
コロナ禍による打撃から順調な回復を見せている日本のOOH市場において、日々進化を続けているプログラマティックOOH。本稿ではその最新の取り組みや未来像について、OOHの最前線で活躍する広告会社のプランナーたちが議論したセッションの内容をご紹介します。
川口 亘氏
株式会社 LIVE BOARD
取締役兼ストラテジー部ディレクター
村山 有美氏
グループエム・ジャパン株式会社
マインドシェア/マネージングディレクター
福田 博史氏
株式会社電通
第3統合ソリューション局 コネクションプランニング2部 シニアソリューションディレクター
長瀬 大仁朗
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局
これからのメディアプランニング成功の鍵を握るOOHの活用
川口
本日は大手広告会社のプランナーのお三方に、OOH広告の実際の活用例や近年変化している点など、進化したOOH広告の最新動向についてうかがっていけたらと思います。
まず私の所属するライブボードについて簡単にご説明します。
2019年にドコモと電通の出資により設立した、日本初となるインプレッションに基づいたOOH広告配信を行う媒体社であり、配信のプラットフォームを持つ会社です。
特徴の1つは、ドコモのデータを使って視認者数を可視化し、インプレッションベースで広告配信できること。2つ目は、ほかのデータも使い、ターゲットを絞ったフレキシブルな広告配信ができること。3つ目は、アンケートだけでなくIDやログベースで広告効果を測定できるので、広告主のKPIに対する達成度を数字やデータで示せることです。
配信方法としては、属性に応じたデモグラフィックターゲティングや、気象データと連動したウェザーターゲティング、趣味嗜好やライフスタイルに応じてターゲットを絞るカスタムオーディエンスなど、さまざまな手法を選択できます。これらの機能の背後にあるのはドコモのビッグデータで、ドコモの通信キャリアとしてのデータのほか、dポイントクラブなど会員属性のデータを、プランニングや効果測定に活かせるのが大きな強みです。ライブボード単体でリーチやフリークエンシーがシミュレーションできるのはもちろん、テレビ、デジタル、YouTubeとライブボードを組み合わせた上で、リーチやフリークエンシーがどれくらいで、広告主がいかに予算を配分するのが適切かシミュレーションできるようになっています。
ではここから本題です。まず村山さん、グローバルのお客様のキャンペーンを扱う中でのプランニングの考え方、OOHの位置づけなどについて教えてください。
村山
弊社は8割がグローバルのお客様で、買い付けだけではなく、メディア戦略、作り方、最終的なKPIをどう到達するかという総合的なメディアプランニングを行っています。
世の中的には、2022年の広告出稿量は5.9兆円とされていますが、そのうち50%がデジタル、30%がテレビ、OOHの出稿金額は7%程。これだけデジタルシフトが起きている中、OOHにおいても、いかにきちんと計測でき、結果まで可視化させることができるかが大きく問われていると思います。実際に、ブランド需要を喚起するような認知フェーズ、誘導フェーズ、最終的にコンバージョン、リードをとってくるフェーズそれぞれのKPIに対し、OOH広告がそれぞれにどう貢献しているのか、きちんと効果を計測できるようなメディアプランをしていきたいという要望も増えています。
その中で弊社は、フルファネルターゲティングのメソドロジーを使いながら、SEEのフェーズではどのメディアを使ってどう計測していくか、THINKではどういう人たちをターゲットにして何を目的にしていくか、そしてDOでは最終的にコンバージョンをどうとっていくかということを、上から下までのファネルを使いながら実践しています。
このうちOOHは昔なら認知に属していて、大きなキャンペーンが発生するとOOHで大きく出し、見てもらうというのが一つの役割でした。
でも今は、OOHもきちんと計測し、見ただけではなくどれだけブランドに寄与し、ウェブサイトにトラフィックをとばしセールスを伸ばせたのかというところまで追えればベストという時代です。日本ではこうした取り組みはまだ始まったばかりですが、海外においては、テレビの枠もプログラマティックバイイングで、OOHもデジタル化されていることが非常に多いです。たとえばウェブサイト上での人気商品を逐一アップデートしながら、それをOOHのクリエイティブに反映させたり、サーチやソーシャルで話題のキーワードにリンクさせてクリエイティブをセットしていく。その結果、OOHでただ大きく見せてインパクトを強めるだけでなく、実際のセールスやコンシューマーのエンゲージメントまでとっていくという事例が増えています。
もう一つ、ターゲットとするオーディエンスにいかにOOHのクリエイティブや使い方、時間を充てていくかを、統合的に実践したキャンペーンの事例もあります。こういうデジタル的なケーススタディの作りこみが増えてきているのが実態です。日本でもそういう動きは出てきているので、弊社としても皆さんと協業して取り組んでいきたいところですね。
川口
長瀬さんはAaaS(Advertising as a Searvice)を推進されていますが、メディア横断でプランニングする際の課題感や、データを活用してOOHが今後どう変化していくかについてお話いただけますか。
長瀬
博報堂DYグループでは現在、広告主のメディア投資効果の最大化を目指すAaaSを提供しています。本日は、我々がメディアプラナーとしてどういう視点で広告主のプラニングに携わっているか、AaaSの考え方のご紹介も含めて、お話しします。まずプラナーは、やはり広告主の課題解決のために統合してプラニングしていく、広告効果最大化のために何がふさわしいかをカスタマイズしていくことが大事だと考えます。そのうえで、従来のOOHではできなかったところ、これから我々メディアプラナーが会社を超えて期待したいところをまとめてみました。
1つは、「試算できる」ということ。事前にプラニングし数字に落とし込めることが重要だと思います。2つ目は、「計測できる」ということ。なんとなく出た感じがするとか、やった感じがするというのも大事ですが、いまはプログラマティックに予実を管理していくことが求められます。コントロールし、マネージしていくためにも、計測、メジャメントできることが非常に大事になってきます。
3つ目は、「メディア同士糊代がある」ということ。どんな魅力的なメディアでも単体で取り組むことは難しいので、デジタル、テレビ、DOOHと統合し、統一指標で管理していくことができれば理想的です。このあたりが、メディアプラナーが今求めていることかと思います。
82・7%というのは何の割合かお分かりでしょうか。
生活者のメディア接触の構成比のなかで、テレビ、SP、コネクテッドテレビ、OOHという主要メディアが占める割合です。
テレビが引き続き強い中、コネクテッドテレビも増えてきており、そこにOOHも入ってくる。このあたりを押さえるだけでだいたいメディアプランニングの8割はカバーできるというのがポイントです。ほとんどの広告主にとって、デジタル、テレビをカスタマイズして活用していくのがある種当たり前になっている中、7割8割をさらに持ち上げ、クオリティを高めていくためには、OOHの活用が鍵を握るとメディアプラナーとしては思います。
プランそのものを普通にするか、違いをつくるか。
OOHをどう活用するかで差がついていくのではないでしょうか。
我々が日々広告主に向き合う中で感じているのは、広告主の領域とメディア会社の領域に分断が起きているということです。広告主は広告をすることで得られるマーケティング上の「効果」 を求めていますが、それを評価する指標とメディアの取引指標は統一されていません。加えて、メディア間、例えばテレビとデジタルの取引・評価指標も統一されていませんでした。その分断を解決していくことを目指し提供しているのが、データとデジタル技術を駆使した広告メディアビジネスの次世代型モデル AaaSです。テレビ、デジタルに加え、またライブボードさんのスクリーンもそうですが、デジタルOOHをこの世界観に統合することで、2つの領域をつなげ、業界全体を大きく盛り上げていく。少しでもそのお手伝いができればと考えています。
気象や時間で変化する”人の気持ち”をとらえて広告を出し分けていく
川口
福田さんは電通で統合ソリューションを推進されていますが、ライブボードを活用した統合メディアプランニングの将来像や、人基点の統合メディアソリューションについて考えていることをお聞かせください。
福田
統合が大事だという話もありましたが、私たちの最大の目的は効果を上げていくこと、事業成長していくことであり、統合はそのための手段です。その上で重要なのは、ビジネスの対象は人であるということを、今一度しっかり見つめ直すことだと思うのです。
近い将来、多くの企業がコスト効率よくメッセージを届けるようになると思いますが、私たちはロボットではありません。いかに感情をしっかりと高めていくことができるかという、人間らしいマーケティングを考えるべき時代にきていると思っています。人は状況によって違う解を出したりします。暑かったら1枚脱ぎたいし、寒ければヒートテックを着たいと思う。そのモーメントをしっかりととらえて、どのようなメッセージを届けていくのが効果的であるか、これを考える必要があります。このモーメントアプローチが、統合の先に効果を上げるキーになるのではないでしょうか。
関与が高まるタイミングで効果的なメッセージを発信し、同一等価金額の投資対効果をいかに上げていくかというのが、これからの主戦場になっていくと思います。
これからのメディアソリューションには、以下4つの条件があると考えます。それをライブボードさんが備えているという意味で、「ライブボードis KING」と謳ってみました。
唐突に感じられるかもしれませんが、結構まじめに考えました(笑)。KはKindness。自分にとって第一印象がわかりやすく歩留るソリューションであるかが大切ということです。世の中、何を言ってるかわからないソリューションがたくさんありますが、わかりにくいソリューションはそもそもよくありません。IはIdea。チームゴト化し、アイデアが前進していく状態になるかが大事です。NはNotice。ここは特に大事だと思いますが、できることだけではなく、できないことが最初に分かっていた方が期待値を設計しやすいですし、チームが前進していくためのレバーになる。言った言わないも避けられます。GはGapless。やりっぱなしにせず、しっかりチェックして意思決定して次のアクションにつなげていける。見通しのいいソリューションかどうかも大事だということです。
ここで、ライブボードで行った吉野家の事例をご紹介します。
吉野家が現在推進しているマーケティングDXの一環として、OOH広告に一体どのくらい送客効果があるのかの効果をLIVEBOARD活用して可視化するプロジェクトを行いました。ポイントは、「共通のドコモIDのためデータ突合が可能」という点。位置行動データとd払いのデータ突合が、ファーストパーティデータの授受もなく普通に検証に活用できるのです。これにより、その場所に行きライブボードの広告に当たった人、当たってない人たちがドコモのID単位でわかり、その人たちが実際にd払いで吉野家に来店し何かしら食べているかを判定できます。ここで新規の来店者の創出CPAを検証したところ、平均顧客単価金額の約1.55倍というデータが見えてきました。さらに時間帯別のモーメントにより、朝時間帯の広告接触がリフトに貢献することが明らかになりました。朝には何を食べたいか、などを踏まえてどのようなメッセージを出すなどの進化にもつながっていく可能性を感じる事例となりました。
川口
村山さん、長瀬さん、この事例についてどう感じられましたか?
村山
コロナ禍で多くの人が支払い方法を変え、バーコード払いも増えていきましたよね。データはどんどん溜まっているはずで、OOHで見た人がどれだけ支払いしたのかや、新規がどれだけとれているかを分析するソースはできているので、今後DOOHの活躍の機会はどんどん増えていくでしょうし、プランナー側としてもお客様へのインパクトを想定した提案がしやすくなっていくのかなと思います。この吉野家のような座組がもっと増え、データの精緻化が進むといいですね。
長瀬
時間帯別のリフトなどは、従来のOOHでは見たことがないデータでした。時間帯別にデータで見せられると、人の気持ちの変化というものがはっきりわかりますね。ここにかけるクリエイティブという点でも、我々にできることはすごく増えるだろうなと思いました。また、ライブボードさんはd払いの購買データとつながっているので、一回のお客様単価だけでなく、その後ミドルユーザーになるのかヘビーユーザーになっていくのかまでも特定していけるという奥行きがあります。一度来たお客さんにいかに継続して利用していただくか、そのためのOOHの活用方など、手法がぐっと広がっていきそうだという印象を受けました。
福田
平均客単価金額の1.55倍は、結構興味深い数字だと思います。一回当たり客単価で広告CPAをしっかり回収できるはずがないんですよね。なので、単発だけではくリピートを踏まえてLTVをどう上げていけるかが、まさにブランディング活動で大事になっていくと思います。私としても引き続きサポートさせて頂きたいと思っております。
長瀬
OOH広告でLTVの話が出てくること自体が画期的。この吉野家の効果検証で、また違う次元の世界に入ってきているのを感じます。
福田
では代表的なソリューションについてもご紹介します。
外的要因に連動したモーメント配信のアプローチです。通常のOOHは、クリエイティブも期間も固定で、終了後は結果もよくわからないままでした。一方ライブボードでは、気象庁のデータとつながっていて、連動させたい天気・温度の設定条件を設計し、各セグメントに対応したクリエイティブ素材を準備さえしておけば、条件連動でメッセージ配信ができます。暑くなってきたからビールが飲みたい、寒くなってきたからインナーウェアが1枚欲しいというように、飲料メーカーや服飾メーカーで事例があります。人基点でモーメントを分析するだけではなく、しっかり施策配信まで一気通貫で様々な施策が展開できるのは「docomo data square」というPDCAのシステムがあるからです。疑似ファーストパーティ―データ環境の構築もあるので、データを提供いただかなくとも広告の効果検証が可能です。OOHの未来をつくっていく、ひとつのカギになっていくと思っております。
川口
ありがとうございます。その時々でモーメントも人の気持ちも全然違います。それによって素材やプロモーションを出し分ける、そういう世界ができればすごく面白くなっていきそうですね。
以上となります。本日はありがとうございました。
川口 亘氏
株式会社 LIVE BOARD
取締役兼ストラテジー部ディレクター
村山 有美氏
グループエム・ジャパン株式会社
マインドシェア/マネージングディレクター
福田 博史氏
株式会社電通
第3統合ソリューション局 コネクションプランニング2部 シニアソリューションディレクター
長瀬 大仁朗
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
統合アカウントプロデュース局