コラム
テレビ番組の視聴率に寄与する広告とは──AaaSを活用した番宣広告の最適化
COLUMNS

博報堂DYグループが提供している次世代型広告モデルAaaS(Advertising as a Service)。AaaSを活用してテレビ番組の広告効果の最大化を目指す取り組みが始まったのは、2022年4月のことでした。そこから2年近くの取り組みの中で、視聴率に寄与する番宣広告の「型」がある程度見えてきたと博報堂DYグループのメンバーは話します。番宣広告の効果測定と最適化におけるAaaSの活用法と、視聴率向上のための継続的な取り組みについて、放送局のご担当者を交えて語ってもらいました。

AaaSと関西テレビとの取り組み記事第一弾はこちら

中林 佳苗氏
関西テレビ放送
コンテンツ統括本部 コンテンツデザイン局
宣伝・ブランディング部

吉田 拓海
博報堂DYメディアパートナーズ
関西支社 統合プラニング局 AaaSプラニング部
メディアプロデューサー

高田 凜太郎
博報堂DYメディアパートナーズ
関西支社 統合プラニング局 AaaSプラニング部
メディアプラナー

佐藤 京士郎
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
エリアビジネス本部

リアルタイム視聴率をいかに上げていくか

──博報堂DYメディアパートナーズがAaaSを活用して関西テレビの番組宣伝の支援を始めたのは2022年4月からでした。この取り組みがスタートした経緯をあらためてご説明ください。

吉田
私たちが放送局の番宣支援をさせていただく場合、特定の番組の単発的な取り組みとなるのが以前は一般的でした。しかし、広告の効果を検証し、広告展開を最適化していくには、継続的に支援させていただくことが望ましいと私たちは考えていました。そのような問題意識を関西テレビの皆さんと共有させていただけたことでスタートしたのが、AaaSを活用した取り組みです。2022年度は主にドラマを対象に、番宣広告がリアルタイム視聴にどのような影響を与えているかを検証しました。

──AaaSを活用した広告効果検証とは、どのようなものですか。

高田
インターネットにつながったテレビの実視聴率を計測し、それをプラットフォーマーが提供しているデータクリーンルームの中でほかのデータと突合して、どのような人が視聴したかを把握する──。それが番宣広告におけるAaaS活用の基本的な方法です。

──データクリーンルームは、詳細な個人情報と紐づけずに生活者の傾向などを把握することを可能にする仕組みですね。

高田
そのとおりです。セキュアーな環境で視聴者像をある程度絞り込んでいって、どのような媒体のどのような配信手法がどのような層に効果があるかを把握していきます。そのナレッジを蓄積していって、より最適な広告配信を見極めていくという考え方です。

吉田
番組の視聴のきっかけとなるのは広告だけではありません、番宣広告以外の例えばSNSの口コミなども総合的に分析しながら、1年間かけてドラマの視聴率を上げていく方法を模索したのが2022年でした。

──放送局としての課題感もお聞かせいただけますか。

中林
以前は、映像はテレビで見るものでしたが、最近では配信サービスやインターネットで映像を楽しむ人が増えています。映像視聴のスタイルが多様化し、コンテンツの数が増え続けている中で、どうすればテレビ番組を見てもらえるか──。それが放送局の大きな課題です。そのために番宣広告の方法論をブラッシュアップして、より多くの視聴者の皆さんに番組の魅力を感じてもらえるようにする必要があると私たちは考えています。

──近年では見逃し配信などのサービスも充実しています。視聴率の考え方も変わってきているのでしょうか。

中林
そこは社内でも議論が分かれるところです。
新しい評価軸が必要であるという意見もありますが、「リアルタイム視聴率」という数字がある限りは、それを重視していこうというのが現在の私たちのスタンスです。リアルタイム視聴率をしっかり獲得したうえで、プラスアルファの視聴を増やしていく。それが現状の目標ですね。

「音声広告」という新しいチャレンジ

──2023年度の取り組みはどのようなものだったのでしょうか。

吉田
2022年度の1年間の取り組みで、ドラマへの視聴誘引を効率的に実現できる媒体や広告メニューがある程度明らかになり、1つの「型」ができたという確かな手ごたえを得ました。一方、ドラマと並行してバラエティー番組の番宣広告分析も何度か行ったのですが、ドラマとバラエティーでは広告効果に傾向の違いがあるという感触がありました。
そこで、2023年度はバラエティー番組における番宣広告の「型」をつくるチャレンジをしませんかというご提案をしました。そこで4月からはバラエティー番組を対象にとした取り組みをさせていただけることになりました。

──中林さんは、その番組の宣伝を担当されているわけですね。番組開始時点では、どのような宣伝が必要であるとお考えでしたか。

中林
一般に、新番組スタート時には認知度を上げるのに苦労するものです。
また今回チャレンジしているバラエティー番組は、MCを務める出演者が知名度はあるものの、タイトルから内容がすぐにわかるような番組ではないという事情もありました。どのような番組かわからないけれど、面白そうだから見てみよう──。そんな人を増やしていくことが必要であるというのが私たちの課題意識でした。

──バラエティならではの難しさもあるのでしょうか。

中林
ドラマは普通ワンクール(3カ月)で終了するので、宣伝の取り組みもその期間で終わります。それに対して、バラエティーは人気が続く限り継続していくことになります。番組が続く中でファンを増やしていくことが求められるだけではなく、視聴率や視聴傾向を見ながらコンテンツの内容や宣伝方法を変えていくことが必要です。常に模索しながら最適な解を見極めていかなければならない点に、バラエティー番組の難しさがあると言えます。

──具体的な取り組みについてお聞きしていきたいと思います。まず、広告を配信するメディアはどのようなものを活用しているのですか。

佐藤
検索サイトのバナー広告、動画広告など、過去に番宣広告に活用してきた媒体に加えて、今回は音声広告にチャレンジしています。若者に人気のある出演者の番組なので、若年層に支持されるのではないかという仮説を私たちはもっていました。番組のことを若い人たちに広く知ってもらえれば、きっと視聴率向上につながるに違いない。そう考えて、普通はあまりテレビの番宣広告には使わない音声広告に着目したわけです。

中林
音声広告なら、出演者の面白さが若い人たちにより伝わるのではないかという判断でしたね。出演者の方々も柔軟に対応してくださって、ほとんどアドリブで面白い話をしてくださいました。

佐藤
広告出稿後に効果を分析した結果、過去に使ってきた媒体と同等かそれ以上の効果があることがわかりました。音声広告の活用は成功だったと言っていいと思います。

吉田
広告媒体、広告メニュー、クリエイティブ。
広告効果は、主にその3つの要素によって決まると考えられます。要素の組み合わせのバリエーションは非常に幅広いので、今後も音声広告以外のさまざまなチャレンジがあり得ると考えています。広告効果を可視化できる媒体に出稿していくべきであるという考え方もありますが、広告出稿の本来の目的は、効果を検証することではなく、より多くの方に番組を見て頂くことです。ツールによって効果を捕捉することができなくても、明らかに効果があると考えられる方法には積極的にチャレンジしていくべきだと思っています。

高田
広告だけではなく、SNSでオーガニックにファンを増やしていく方法なども重要ということですよね。

──ワンクールで終わる取り組みではないぶん、やるべきことがいろいろありそうですね。

吉田
おっしゃるとおりです。継続性という点にバラエティーの難しさがあるというお話が中林さんからありましたが、それは難しさであると同時に可能性でもあると僕たちは考えています。効果検証と最適化のPDCAサイクルを何度も回しながら、より確かな方法論を確立することができれば、ほかの番組の視聴率向上の施策にも活用していただけるようになると思っています。

予算を1円たりとも無駄にしない提案を

──現段階における課題がありましたらお聞かせください。

佐藤
デジタル広告の運用面で言うと、まだ最適な配信方法を見極めるところまではいっていません。ターゲティングの設定や、視聴率に確実につながるような導線設計などが今後の課題であると考えています。

もう1つ、クリエイティブに関してもまだまだチャレンジできる余地があると思います。放送局が制作した映像を流すだけでなく、そこに放送日までのカウントダウンのバナーを加えるなど、クリエイティブのリッチ化に継続的に取り組んでいきたいですね。

高田
ショート動画の活用も1つの課題だと思います。若年層との親和性が高いと言われている縦型短尺動画を積極的に配信して番組への興味を喚起できれば、視聴率へのインパクトが期待できるはずです。

中林
放送局としては、予算という観点からいろいろな物事を考えなければなりません。限られた予算の中で、いかに精度の高い広告を効率的に配信していくか。それが私たちにとっての大きな課題ですね。その点で、広告の効果検証は必須の取り組みであると言えます。

吉田
効果検証をした上で、1回ごとの広告の精度を確実に上げていくことが僕たちの役割です。広告予算を1円たりとも無駄にしないご提案をいかにできるか──。簡単なことではありませんが、その意識を忘れてはいけないと思っています。

長期的なパートナーシップから生まれた成果

──博報堂DYグループのこれまでの支援についての意見をお聞かせいただけますでしょうか。

中林
テレビ局側の私たちも日々模索を続けている中、いろいろ相談に乗っていただけたり、こちらからの要望にそのつど柔軟に対応していただけたりするのはたいへんありがたいですね。広告施策の提案も、過去の分析に基づいた客観的なものなので、安心してお任せできます。何より、私たちと博報堂DYグループの皆さんが1つのチームとなって、目標に向かって前向きな取り組みを続けられていることに感謝しています。

──今後、番組の視聴率向上にどう貢献していきたいと考えていますか。

佐藤
デジタルの領域は移り変わりが激しいので、常に最新情報にキャッチアップして、最適なメディアや広告メニューを継続的にご提案してきたいと思っています。

高田
視聴率につながる要因を引き続き検証していきたいですね。
AaaSを活用するだけではなく、あらゆる方法論を用いて、要因分析とそれに基づいた施策提案を続けていきたいと考えています。

吉田
2022年4月からの取り組みで、番宣広告をかなりのレベルまで進化させることができたという実感があります。それは間違いなく継続の賜物だと思います。長期的なパートナーシップの中で、成功と失敗を共有しながら知見やノウハウを蓄積することができたのは、関西テレビの皆さんのご理解があったからこそです。今後もこのパートナーシップを維持しながら、視聴率アップの方法論をブラッシュアップしていきたいですね。

データを活用した広告の効果検証に取り組む場合、どうしても専門的な話が多くなってしまいます。
私たちがやるべきことは、データの専門家ではない方々にも伝わるよう丁寧なガイドをすることであり、広告効果を上げるという目標に向かって徹底的に誠実であり続けることです。あらゆる方法を使って番組を盛り上げて、これまで以上に信頼していただけるパートナーになっていきたい。そう考えています。

中林 佳苗氏
関西テレビ放送
コンテンツ統括本部 コンテンツデザイン局
宣伝・ブランディング部

吉田 拓海
博報堂DYメディアパートナーズ
関西支社 統合プラニング局 AaaSプラニング部
メディアプロデューサー

高田 凜太郎
博報堂DYメディアパートナーズ
関西支社 統合プラニング局 AaaSプラニング部
メディアプラナー

佐藤 京士郎
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
エリアビジネス本部

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