コラム
団塊ジュニアを語る・後編
~過去、現在、未来 親世代と子世代をつなぐ存在として3世代で捉える
Z世代、α世代と、次代の消費を担う若年層に注目が集まっていますが、一方で上の世代に目を向けると、人口800万人超の団塊ジュニア世代は大きな顧客層といえます。そのボリュームゆえに、受験戦争や就職氷河期といったワードでひと括りに表現されてきましたが、果たして彼らは“ひとつの塊”と括れるのでしょうか?
そんな問いをもって、博報堂DYメディアパートナーズでは団塊ジュニア世代当事者の武方浩紀と大野光貴を中心に、団塊ジュニア世代の意識調査を行いました。自分の軸が明確で、オフラインとオンラインを自在に行き来する様子がわかった前編に続き、後編では子どもや若年時代を踏まえて現在と今後を考察していきます。
前編:団塊ジュニアの購買とメディア接触 武方浩紀(博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局)
後編:団塊ジュニアの過去・現在・未来 大野光貴(博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局)
インタビュアー 新美妙子(博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局)
デジタルを使いつつ、迷ったらテレビ番組やリアル店舗を頼りにする
新美
前編でも提示しましたが、本調査で考察できたことを先にお出ししておきます。
新美
前編では、団塊ジュニアの生活意識や購買意識、購買ファネルに効いているメディアなどを解説しました。そこから、個々人が自分の価値観や好みに基づいて行動していること、オフラインとオンラインを柔軟に行き来する購買の様子が見てとれました。団塊ジュニアは、ボリュームが大きいからといって、決してひとつの“塊(かたまり)”ではないことが浮き彫りになりました。
後編では先の結果も踏まえて、団塊ジュニアの過去と現在、そして少し先の未来を考察していきます。大野さん、お願いします。
大野
私も団塊ジュニア世代の大野です。
前編の調査を担当した武方さんも自分も、また自分の周りの同世代も、個々を見ればいろいろな考えを持っています。それを何らか明らかにできればと思い、前編の調査と連携しながら、生声をすくい上げて気持ちを捉える定量的な自由回答調査を設計しました。
その中で、「購入を迷うときに価格以外で影響を受けそうなこと」を聞きました。私も含め皆さん、値段は当然ながら気にすると思いますが、それ以外の検討軸は何なのか。
1位は「実物を見る、試す」ことでした。前編で紹介した調査結果で、ECが広く普及している状況がありつつも、もし購入を迷った場合はリアル店舗で現物を見ることが、ひとつの確認作業と判断材料になっているのだろうと思います。
この世代の特徴は、人生の前半をアナログの中で過ごし、後半ではデジタルに置き換わっていく変化を体験しながら、今ではその両方を知っている点です。
テクノロジーの発展とライフスタイルの変化が重なった
新美
2位に「テレビ番組の紹介」が入っていますが、これはどう見ますか?
大野
テレビは依然として、迷ったときの大きな判断材料になっています。
前編の調査でも、自由時間にはテレビを見ることが多いという結果がありましたが、この世代は子ども時代をテレビとともに過ごし、大人になってデジタルが登場してもやはりテレビがメディアの中心を担ってきたので、影響は大きいでしょう。その上で、デジタルもうまく取り入れて情報を多面的に収得し、咀嚼した上で自分の考えとして購買の判断をしている。それが団塊ジュニア世代のもう一つの意思決定パターンになっています。
新美
なるほど。ただ、さらに上の世代でも同じではないかという気もします。私もそうですが、団塊ジュニアの上のバブル世代にも、生活にネットやスマホが浸透しています。どういったところに差があるでしょう?
大野
Windows95が登場して家庭や職場でネットを使うようになったのが、我々団塊ジュニアがちょうど20歳を超えたころに重なります。20代前半の頃は知識や経験もまだ少なく、ネットの出現により情報は人やメディアから見聞きするものから、自分で検索して探せるものになり、積極的に知識や情報を得ようとする時に、ネットは最適な手段だったのです。
当時はネット上でできることも限られていましたが、「新しい情報摂取のツールとして仕事で使わなければ」という感覚はどの世代よりあったと思いますし、いち早く取り込んでいった世代でもあると思います。まさに今の生成AIに対しての感覚に近いと思います。
購入商品や利用サービスからは、年齢がわからない
新美
続いて、具体的に直近で自分用に買った・支払ったものを答えてもらったところ、驚くほどバラエティに富んでいましたね。前編で、流行や価格にあまり左右されない購買行動を紹介しましたが、それを踏まえても多様でした。
大野
そうですね。ベースとしては、前編で触れた結果とも通じますが、「自分が好きなものがはっきりしている」ことが見てとれます。自分の好みや好奇心に忠実な感じがあり、そこには理由もあるでしょう。
たとえば、「好きだから」購入した「キャンパス地のリュック」は、リュックが必要だったというより、具体的にキャンパス地にこだわりがあったのですよね。ドジャースの帽子は大谷翔平選手のファンだからでしょうし、BTSやMr.Childrenは“推し”といえます。
少し大袈裟に言えば、団塊ジュニアには半世紀の人生経験の中で形成された価値観が中心にあって、その上で自分が一番心地よくなれるモノやサービスとの出会いやトキメキがあれば、購買行動につながっていきます。
だから、このリストだけ見て「何歳くらいの人が買ったか」を聞かれても、50歳とはとても想像がつきませんよね。
新美
どちらかというと、若い人をイメージしそうですね。
大野
ですよね。これまでは、「この世代はこういうものを好む」というある種の固定観念が少なからずあったと思いますが、少なくとも団塊ジュニア世代については通用しなさそうです。あらゆる選択肢の中から「自分が好き、ほしい、やってみたい」という素直な気持ちに従って決めている感じです。
この世代に対して「絶対こういうのは好きじゃない!」といったトーンは要注意です。先入観だけが先行してしまうと、せっかくのビジネスチャンスを逃してしまうかもしれません。
幼少期に家族でテレビ番組を楽しんだ記憶が強い
大野
前編の調査で、団塊ジュニア世代は生まれたときからカラーテレビがあり、テレビの影響力がある程度は高いことに触れました。先ほど、大人になってからのライフスタイルの変化とテクノロジーの進化について述べましたが、団塊ジュニアの今後を考えるにあたり、幼少期を含めた過去から現在を捉えてみました。
今の若年層、特にZ世代(※1997~2012年生まれ)の後期やその下のα世代(※2010年以降生まれ)を‟生まれたときからスマホがある”と表現するのと同様に、我々にとっては生まれたときの最新メディアがテレビだったんです。幼少期に、家の中心となる部屋にテレビがあり、家族全員で見るという視聴スタイルを経験してきました。
それを踏まえて、テレビの過去の体験と現在の印象を尋ねたところ、過去については約7割の方からいい思い出が聞かれ、非常に好印象な反応でした。
新美
「これまでの人生の中で、テレビがおもしろかった、楽しかったという記憶は?」という質問に、バラエティ番組や、時代の変化を切り取るニュースといった回答が挙がりました。
大野
ただテレビを見ただけでなく、誰とどの番組をどんな思いで見ていたなど、とても鮮明に記憶に残っているのが印象深いです。小学生、あるいは中学生くらいですかね。歌番組を見ながら一緒に歌ったり、そういうのはとてもエモーショナルな体験として記憶に定着していると感じます。
新美
一方、現在のテレビの印象では、不満もあがってきていますね。それは、幼少期からの‟テレビ愛”があるからこそ……ということですか?
大野
そうだと思います。不満がないと仰る方もいましたが、何らかの不満を持つ方が多くいました。いい思い出があるだけに、時代とともに変わっていくテレビのあり方に具体的な不満や違和感を持つのでしょう。
新美
社会の変化は仕方ない部分はありますが、かつて楽しかったものを同じように届けても、本人たちが年齢を重ねている分、楽しいとは限らないですし。現状を踏まえて、何を届けたらいいかを考えないといけないですね。
テレビ番組も、動画サービスなどのオンデマンドで観たい
大野
さらに今、テレビだけでなく動画サービスなどの映像コンテンツも浸透しています。これらは決して若い世代だけが楽しむものではなく、団塊ジュニア世代もテレビに次いで使っている様子が前編の調査結果からわかりました。その点では、見るものが変わっている、広がっている感じがあります。
新美
むしろ幼少期からたくさんの映像コンテンツに触れているだけに、若年層より見る眼が厳しいかもしれないですね。
大野
そうですね。ある意味、いちばん目の肥えた世代といえるかもしれません。見たいものもはっきりしていますし、一定のデジタル活用のリテラシーもあるので、自分が好むコンテンツを自分で検索して見つけられる。買い物の状況と一緒ですね。
団塊ジュニアにとっては、テレビと並列に動画サービスの選択肢もある、メディア選択の端境期といえそうです。
新美
年齢的には、まだ子育てが終わってなかったり親へのサポートが必要になったりと、自由時間をたっぷり取れるわけではないですよね。その隙間の自由時間を楽しむものとしてテレビがあると考えると、なんとなく漫然とテレビをつける、というものでもなさそうです。
大野
そう思いますね。そこで、今後テレビ番組をどう視聴したいかを聞いたところ、4人に1人が「PCやスマホでの配信サービスで見たい」と答えました。これは非常におもしろい結果だと思います。
いちばん多いのは、従来通り「テレビで見たい」「録画して後から見たい」で合計6割なのですが、テレビ配信サービスや動画配信サービスで見たい人も15%ずつくらいいて、隙間時間をオンデマンドで楽しみたい意向がうかがえます。テレビで見るには、リビングなどにあるテレビの前に座ることが必要なので、場所に関する自由さは低いかなと。今後、オンデマンドのニーズや実際の利用は増えそうです。
健康不安に対する「正しく信頼性のある情報」が必要
大野
ここまで購買やメディア接触を見てきて、自分の軸が明確で多様性があることがつかめましたが、一方で共通点もありました。それは、健康への不安や悩みです。少し先の未来を考えていただく意図で、「今から5年後に不安に思うことは?」と聞くと、大半の回答が健康に関することでした。
現代の50代はまだまだ健康な方が多いですが、ちょうど親が70代後半~80代に差し掛かり、健康の大切さを実感する機会も増えます。子育てが終わっていない場合、子どもの心配もある。そう考えると上下の世代をつなぐ、3世代にまたがる存在としても捉えられますね。
また、健康でも老眼など自分の老化を感じ始めるころで、「老後」という言葉が頭に浮かんでいる様子があります。50代だと、女性は更年期への不安を挙げる方も多いですが、最近では男性にも更年期があると知られ始めて、実際に挙げた方もいらっしゃいました。
新美
自由回答を見ると、とてもリアルですね。団塊ジュニアより上の世代だと、既に親の介護などもありつつ自分の健康不安の真っ只中にいるので、その点、まだ経験していないからこそ不安が募っている団塊ジュニアに求められる情報を検討することがカギになりそうです。
大野
はい、“きたる未来に備えなきゃ”という意識に応える、正しい情報を発信できるメディアが大事だと思います。
不安だからこそ、不安を煽る情報に惑わされたり、情報の取り方を見誤ったりしがちですが、
メディアや企業は、ただ不安を煽るだけの情報発信だけでなく、健康不安に対しても前向きに、ポジティブに捉えられるようなコミュニケーションも心がけていきたいですよね。
テクノロジーとヒューマンセントリックな意識の共存に可能性
新美
同感です。親の心配があり、子育て中だと子どもの心配もある、その中で自分が信頼できる情報やメディアにどう接触するかが課題になりますね。
仲間内や周囲を頼るのもひとつですが、健康に関することは対面では聞きづらくもあるので、そうした場合にテクノロジーが役立つのではないかと思います。大野さんはテクノロジーの今後の役割をどう思いますか?
大野
団塊ジュニアに限ったことでもないですが、AIは今後ますます進化していきます。自分の価値観や好み、心身の状態までをも察し、それを言語化する手助けをしてくれるでしょう。そうなれば、団塊ジュニアの嗜好を属性や統計的に判断するのではなく、個々の価値観や課題をより鮮明に浮かび上がらせてくれると思います。それが今後に期待したいテクノロジーの役割であり、トキメキのある商品との出会いを作れたり、個々の不安に寄り添えるサービスを提案できるきっかけにもなっていくかと思います。
実際、5年後の不安に対して、どんなテクノロジーやサービスがあったらいいかと聞いたところ、たとえば身体の衰えをサポートしてくれるロボット的なマシンやAI、オンライン診療など、かなり具体的な回答がありました。また、地方に住む方にとっては運転も必須なので、自動運転や移動の不自由を解消する機能などが挙がりました。
新美
一方、テクノロジーでは解決できない、という意見もありましたね。決して、ツールをつくればOKという世界ではないと考えると、むしろ私たちがコミュニケーションの力で何か役立つチャンスがあるようにも感じます。
大野
そうですね。テクノロジーは日々進化しているので、想像がつきにくいというのも要因のひとつと思いますが、デジタルを便利に使いこなしながらも、どこかでリアルな人やモノとの繋がりを大切にし、情緒的でありアナログ的でもあるヒューマンセントリックな感覚を大事にしている世代かなという気もします。テクノロジーがすべてではないという意識が根底にあるのでしょう。
新美
改めて今回の調査をまとめると、団塊ジュニアは決してひとつの“塊(かたまり)”ではなく多種多様であること、オンラインとオフラインを自在に行き来しながらもテレビの存在が大きく、興味喚起や購買の後押しになっていること。また、親世代と子世代をつなぐ世代として捉えることで、見方や接触の仕方、商品やサービス案の糸口がつかめる可能性も見えました。
ボリュームが非常に大きく、加えて上下の世代に関する情報摂取や消費を担うこともある団塊ジュニアについて、今後も調査と考察を続けていければと思います。
新美 妙子
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局
武方 浩紀
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局
大野 光貴
博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局