コラム
日本のスポーツクライミングを牽引する17歳。安楽宙斗選手の成長を支えるものとは──アスリートイメージ評価調査インタビュー#3
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小学2年生でスポーツクライミングをはじめ、現在高校3年生。シニア大会初出場となる2023年のIFSCクライミングワールドカップでは、ボルダーとリードの2種目で年間王者に輝きました。2024年夏の銀メダルも記憶に新しい安楽宙斗選手に、競技との出会いや試合に臨む姿勢、気になるプライベートについて伺います。

(聞き手:博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局 武方浩紀)

7歳からクライミングをスタート。課題を見つけて解決する、の繰り返し

-先日小学生を対象としたスポーツクライミングの体験会に参加されていましたが、子どもたちを教えてみていかがでしたか?

安楽:僕は普段から「考えてクライミングする」ことを意識して練習しているので、人に教えるのも上手いほうかなと思います。登っているのを見るとどこが苦手なのかわかるので、それをアドバイスすると次は登れるようになる。登れて喜んでいる姿を見るのがうれしいので、教えるのは好きですね。
これを機にもっとうまくなろうと思ったり、クライミングが好きになってくれたらうれしいです。

-安楽選手がクライミングをはじめたきっかけは?

安楽:僕が7歳のとき、近所にクライミングジムができたんです。その頃はほとんど知名度がなくて、クライミングなんて知らない人ばかり。とりあえず体を動かしに行こうと通いはじめたんですが、すぐにハマってしまって。夏休み前から行きはじめて、夏休み中ほぼ毎日登ってましたね(笑)。僕、それまで運動経験がほとんどなくて、でも木登りだけはしていたんです。保育園に木登りしていい木があって、ずっと登ってました(笑)。

-はじめに「考えてクライミングする」とおっしゃっていましたが、クライマーには頭脳派と感覚派がいると思いますか?

安楽:もちろんみんな頭で考えながらクライミングしていますが、ある程度感覚に頼っている部分もあると思います。自分は最近やっと、感覚的なことも分析して言語化できるようになってきた。それは、「なんでできなかったんだろう」ということを徹底的に考えて突き止めるようにしているから。逆にうまくいったときも「できたラッキー!」ではなく、なぜ成功したかを突き詰めるようにしています。常に課題を見つけて、それを解決しての繰り返しですね。

練習を信じて平常心で試合に臨む。失敗したら、また原因を探ればいい

-大きな大会も経験されていますが、試合にはどのような気持ちで臨んでいますか?

安楽:練習してきたことを信じて、ひとつひとつに集中すること。前のコースを引きずらず、着実にこなしていくことは意識しています。失敗するとやっぱり落ち込むし焦るんですが、その気持ちを引きずってしまうと疲れが出てしまう。逆にうまく登れても「まぁよかった」くらいのテンションで抑えています。浮き沈みを激しくせず、平常心で一本一本切り替えていくことは意識しています。

-大舞台でも緊張せず、平常心を保つのはむずかしいことかと思いますが、なにか意識していることはありますか?

安楽:緊張を解消するためには、その前の練習や準備を本気でやること。
そこに自信を持てれば大丈夫だと思います。
もちろん失敗したくないという気持ちは浮かぶと思いますが、本気で準備して失敗するなら仕方ない。逆に言えば、これで失敗したら仕方ないくらいまで準備することですね。そこまですれば、失敗したらその原因を探ればいいという気持ちになれると思います。

-試合前のルーティンはありますか?

安楽:とくにないですね。前日ちゃんと早く寝ることくらいです(笑)。6時間だと少し足りないけど、寝過ぎてもだるくなってしまうので7時間くらいが理想です。あとは、朝起きてコールドシャワーを浴びています。血流がよくなってドーパミンが出るみたいで。髪も濡れてセットしやすいし、一石二鳥です(笑)。

自分の活躍がクライミングを知ってもらう機会になれば。認知度95%以上を目指したい

-博報堂DYメディアパートナーズでは「アスリートイメージ評価調査」という調査を行っているのですが、スポーツクライミングの認知度を調査したところ、今年6月には76.7%で、まったく知らないという人が23.3%。8月のオリンピック後に再調査したところ、まったく知らないが15.5%と8ポイント減っています。安楽選手の活躍によって世の中を動かしたのかなと思いますが、数字をご覧になっていかがですか?

安楽:最近はテレビ番組に呼んでいただくこともあって、競技自体をみなさんに知っていただけるようになったのはうれしいですね。これからは認知度95%以上を目指したいです!自分が結果を出せば、それだけ知ってもらえる機会になると思うので。

やってみたいのはスケートボード。技を讃えあう文化がクライミングとの共通点

-安楽選手個人のデータを見ても、6月から8月で3倍ほど認知度がアップしていますし、今後のご活躍でさらに数字も伸びていきそうですね。
全体のランキングでも「テクニックがある」アスリートでは2位、「知性的な」アスリートでは5位にランクインしています!

ここからは少しクライミングと離れた質問もさせていただきたいのですが、最近ハマっていることなどありますか?

安楽:音楽を聴くことは多いですね。英語に触れるのが好きなので海外のラップを聴くことが多いです。日本語と英語の表現の違いをみるのがおもしろくて。日本語だといろいろな言い方ができる言葉でも、英語にするとひとつの単語に集約されたりして、日本語ってけっこう表現が豊かなんだなと気付かされます。

-クライミング以外でやってみたい競技はありますか?

安楽:ほかの運動はほとんど経験がないんですが、最近見ておもしろそうだなと思ったのはスケボー。まだやったことはないんですけどね(笑)。
クライミングも仲間とみんなで登って、登れたら「すごいね!」って讃えあう競技。そういう意味では共通点があるかもしれません。僕は対人競技があまり得意じゃないのかもしれないですね。人と戦うよりは技を磨くほうが向いている気がします。

-日常生活で「クライミング選手あるある」のようなものはありますか?

安楽:テーマパークで岩のオブジェクトを見つけると触ってしまいます(笑)。代表チームでどこかに行っても、みんなそう。あとは川で遊んでいるときとか、あの岩はこう登れるなとか、ここを飛べるなとか、あの技使えるなとか(笑)。岩とかざらざらしたコンクリートを見ると触ってしまうことが多いですね。

-9月から再びワールドカップがスタートします。抱負をお聞かせください。

安楽:大きな大会が終わって改善点がみつかったので、それをクリアしていきたいというのがひとつ。もちろん優勝を狙っていますが、あまり気負いすぎてもよくないので、大会を楽しむことを第一に考えたいです。

-今日はありがとうございました。さいごに、色紙に座右の銘をお願いします。

安楽:「努力は必ずしも報われないけれど、自分を成長させてくれる」というのが座右の銘。色紙にはちょっと書きにくいけど…こんな感じでどうでしょうか!(笑)

アスリートイメージ評価調査
【調査概要】
調査方法:Web調査
調査地区:首都圏+京阪神圏(東京都、神奈川県、千葉県、埼玉県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県)
調査対象者:対象エリアに在住の15~69歳の男女
有効回収サンプル数:600サンプル
調査期間:2024年8月15日~8月19日
実査機関:QO
※6月調査は2024年6月27日~7月1日に実査。

安楽宙斗
2006年11月14日、千葉県生まれ。株式会社JSOL所属。小学生時代から頭角を現し、2020、22年にはユース日本選手権でボルダー、リードの2冠を勝ち取る。シニアデビューした2023年にはIFSCクライミングワールドカップでボルダーとリードの2種目で年間王者に、同時獲得は史上初。パリオリンピック2024では日本男子初となる銀メダルを獲得。

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