コラム
「動画広告とシナジーを生むデジタル音声広告の可能性」
最新のデジタル音声広告の動向や活用事例、またデジタル音声広告の特徴を踏まえたメディアプラニングの考え方まで、多彩なゲストの方々と博報堂DYメディアパートナーズテレビラジオビジネス局ラジオアカウント推進部小泉憲太がモデレーターとなって、ディスカッションしました。
<モデレーター>
小泉 憲太
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
テレビラジオビジネス局 ラジオアカウント推進部
<ゲスト>
八木 太亮
株式会社オトナル
代表取締役
的場 美江
スポティファイジャパン株式会社
広告事業部 統括部長
堀田 菜々瀬
株式会社Hakuhodo DY ONE
第一アカウント本部
■耳の可処分時間にリーチできアテンション性能の高い音声メディア
小泉
早速ですが、「第5のデジタル広告としての音声広告」とも言われている音声広告の現在に関して、八木さんからお願いします。
八木
昨年立ち上がったJIAAの「デジタルオーディオ広告研究会」という業界団体内組織が今年7月には「デジタルーディオ広告部会」に昇格。まさに現在進行形で、デジタルオーディオ広告が公式なデジタル広告として日本でも定義されつつあります。また、かつてのように音声メディア=地上波ラジオというわけではなく、その定義が拡張され続けているのが現状です。その多様化する現在のデジタルオーディオを、以下の6つに分類してみました。
まずは、配信プラットフォーマーが配信するものとして次の3つがあります。
1つは、radikoやラジオクラウド、広告は入りませんが「らじる★らじる」など、ラジオ由来のインターネットラジオ。
2つ目は広告メディアとしても機能しうるSpotifyのような音楽配信サービス。
3つ目は小説などを音声で聴くオーディオブック。こちらもタイアップメニューがあるのでメディアと捉えられます。
続いて、誰でも配信できるものとして、VoicyやRadiotalkといった音声配信プラットフォーム。
続いて、デジタルオーディオの代表格であり、世界でインターネットラジオをけん引しているポッドキャスト。
最後は音声SNS。Xスペースや2020年のClubhouseなどライブオーディオ型 で、フォローし合って聴くのが特徴です。広告機能はまだありませんが、親しみを感じられるメディアとして認知されています。
ここで、デジタル音声広告市場が今後明確に伸びるという根拠をお見せします。アメリカのデジタル音声広告市場は毎年成長を続け、昨年時点で1兆円を突破。前年比18%の伸びを見せています。音声メディア、動画、バナー、リスティングの4つのデジタル広告フォーマットの成長率を見ても、過去3年で音声が最も伸びています。また、検索、ディスプレイ広告、動画、その他、音声というフォーマット別に見ても、検索とディスプレイが過去5年間のデジタル広告シェアで4%程減っている一方、5カ年で見ると動画と音声が伸びています。(出典:IAB Internet Advertising Revenue Report Full-year 2023 results April 2024)
成長要因としては、Spotifyなどストリーミングサービスの利用者増加、つまりデジタル音声広告の在庫が増加していること。また、インターネットラジオのリスナーが拡大していること。さらにAI技術で精度の高い広告配信が可能になったことがあります。これについては、クリエイティブを10パターン作って可変で出すなどもできますし、「東京都の赤坂エリアの皆さん」といった呼び掛けのCMをAIが組み替えて生成することも可能。可変性の高い広告やリッチな広告体験をダイナミッククリエイティブで実現できるようになり、デジタル音声広告の価値上昇につながっているとIAB(Interactive Advertising Bureau)でも言われています。
日本のラジオ市場の規模は世界各国の中でも5位に入りますから、ポテンシャルは大きいと考えます。
国内のラジオ由来のデジタル広告費も実は前年比127%増と、伸びている。インターネットの広告費全体の平均成長が107%なので、20%ぐらい平均を上回った成長をしています。また、デジタルラジオ配信をする国内企業を個人的にウォッチしているのですが、北欧暮らしの道具店やパタゴニアはブランデッドポッドキャストを配信しており、オウンドメディア的な活用をしています。今年からはトヨタイムズのポッドキャストも始まりました。肌感ですが、昨年末から今年にかけて企業がYouTubeの次にポッドキャストでインターネットラジオを始めるケースが非常に増えています。世界に目を移しても、企業が運営するブランデッドポッドキャストは増加しています。
音声と動画は、「ながら時間」に視聴されるかどうかという点で明確な違いがあります。ビデオリサーチの調査によると、1日におけるながら時間、何かしながらメディアに接触する時間は、平日平均で5時間以上、土日は6時間以上あるそうです。この時間に強いのが音声メディア。デジタルだと更にこの強みが表れます。
つまり、音声広告を実施するべき理由とキーワードは「耳の可処分時間」なんです。SNS、動画プラットフォームは原則的には視覚の可処分時間を取り合っていますが、音声は耳の可処分時間にリーチできる。家事中や朝の身支度の時間、あるいは育児中、自動車移動、作業中、勉強中…運動中なんかも、非常にいい音声広告接触時間です。
また、昨年アメリカの電通が各メディアにおける広告のアテンション性能を調べたところ、音声はその性能が特に高いことがわかっています。(【出典】Lumen: Audio Ads Outperform Video For Attention And Brand Recall, Dentsu Study Reveals)広告再生時間の何%消費者の注意を引けるのか、そして1000インプレッション辺りの注目秒数が出されるのですが、いずれも音声が圧倒的に高かった。特にイヤホンで聴いている場合、外音が遮断され、没入状態で広告に接触できます。メディアプランニングの父と言われている「リーセンシー論」のアーウィン・エフロン氏の言葉を借りれば、「目をそらすことはできても耳を閉じることはできない」。接触さえできれば認知の精度が高く、メッセージを送り込む性能が高いメディアということがわかります。
最後に、いくつか音声メディアの具体例をご紹介します。
1つ目はSpotify。世界中のクリエイターによる数千万もの音楽を楽しめるデジタル配信サービスで広告枠があります。ポッドキャストも聴けて、非常にリッチなターゲティング機能、高機能なメディアとして広告配信できます。
2つ目はradiko。日本のラジオ局99局のコンテンツが聴ける世界的にも珍しいプラットフォームです。ラジコオーディオアドという形で運用型でも純広告でも買える。ターゲティングメニューもあります。
3つ目はプラットフォームに縛られずにインターネットラジオを聴くことができる、ポッドキャスト。もう少し詳しく説明すると、たとえばBBC、Global Newsなどのメディア企業が、複数のプラットフォームに同じコンテンツを送り込むことができます。リスナーは、SpotifyでもAppleポッドキャストでもAmazon Musicでも同じBBCのコンテンツを聴くことができるわけです。ポッドキャスト広告は、その中継で広告を入れることで、複数のプラットフォームに一括配信することができます。
4つ目は最近登場してきた、ゲーム内音声広告。スマートフォンでゲームをやっていると、音声広告がまるでFMラジオのように流れてくるというものです。運用型や純広告で買え、最近注目を集めています。
国内の音声アプリメディアは増加傾向にあり、今後さらに増えていくでしょう。ただしメディア配信面が多様化していくため、YouTubeとセットで買われることが多い。先述の通り、YouTubeではリーチできない時間帯に接触できるのが音声広告の最大の特長ですから、ぜひプランニングに取り入れていただければと思います。
小泉
ありがとうございました。弊社では月間6.5億imp程、音声の在庫があると試算しており、決して他のメディアにも劣らないリーチ、ポテンシャルあるメディアだと思っています。ぜひ音声広告の特徴を意識してプランニング頂きたいですね。
■音声広告に最適化したクリエイティブで効果を最大化させる
小泉
続いて堀田さんより、「デジタルプランニングにおける音声広告の活用方法に関して」というテーマで、Spotifyさんの活用事例をご紹介いただきます。
堀田
今回ご紹介するのは、広告主様のサービスにおけるSpotify活用事例です。Spotify視聴経由で指名検索する、リッスンスルーコンバージョンで計れる指標の部分と、併せてマクロミルのクロスメディア調査を行い、既存の動画広告との併用による相乗効果も評価しました。
音声広告を提案するに至った理由の1つ目は、認知拡大のための新しいメディアを探していた点。こちらの広告主様では定常的に動画広告を複数媒体配信させていましたが、新しい認知メディアとしてオフスクリーンのタイミングを捉えられる音声広告に着目し、他動画広告との接触タイミングの違いや視聴態度の違いをふまえてご提案するに至りました。2点目は、音声広告が市場としても拡大傾向にある点です。とはいえ出稿している企業数はまだ少ないため、先んじて出稿を行うことでSOVなり先行優位の獲得を目指せると考えました。
ではなぜSpotify広告だったのか。プラットフォームとして大きいのはもちろん、若年層に強いアプローチ力を持つ点がありました。今回訴求したサービスは、今後、若年層や女性層に対して認知拡大及び獲得をより一層強化させたいと考えており、そういった背景の中、音声広告を出稿できるメディアの中でも若年層ユーザーの多さや女性比率の高さに特長をもつSpotifyがもっとも親和性の高いメディアと考えました。
提案で意識したのは、音声広告に最適な音声クリエイティブを作るということと、音声広告のクロスメディア効果をしっかり検証していくという2点です。1点目については、以前こちらの広告主様がスポットで既存の動画広告の音声を使用する形で音声広告を実施した際に、オーディエンスの視聴態度や視聴する環境が動画とは異なるため、より高い成果を出すには音声広告に最適化したクリエイティブを制作することが重要であるという学びがありました。ですので今回は、幅広い層のSpotifyユーザーにヒットする企画にしたいという狙いから、音声広告に最適化したクリエイティブを目指し、Spotify上でユーザーが視聴するコンテンツを想定し制作を行いました。2点目は、まだトライアル段階ではありましたが、Spotify単体ではなく既存の動画広告と併用した際の相乗効果をきちんと検証することを提案に据えました。
CMの制作にあたっては、サービスの特徴で2パターンの訴求があり、演出は、音楽企画、ラジオ企画、朗読の声優企画という3パターンを採用。合わせて合計6パターンを制作しました。どの制作会社に音楽を依頼するか、歌詞やナレーションのスピード感、社名の耳残りなど、細部にまでこだわったため制作は大変ではありましたが、ユーザーが音楽を聴いている間に入ったとしても嫌悪感を抱かれず、トンマナとしてもなじみの良いものに仕上げることができました。検証期間における効果は、特に音楽企画が、リッスンスルーコンバージョンのCPAで見ても安価に配信できたという実績が出ました。
クロスメディア効果について。まずSpotify単体での実績としても、好意度、利用意向、推奨意向の全項目においてリフトアップが見られました。広告非認知者においても、各項目でリフトアップが見られるという成果が出ました。そして既存のYouTubeと併用した成果としては、YouTubeとSpotifyどちらも重複で認知しているユーザーによるリフトアップがもっとも高く出ました。それぞれの単体認知者よりも重複認知者に対するリフトアップが高い点は、個人的にも発見でした。
今回得た知見の1つは、音声と動画ではユーザーの接触タイミングや視聴態度が違うため、1日の中でユーザーを面で捉えることによって、リーチやフリークエンシーも拡大する可能性があるということでした。さらには視覚的に訴求する動画だけではなくスマホやPCを見ていない時間も含めて繰り返しメッセージを訴求することができるSpotifyの音声広告を併用することでキャンペーン効果も最大化できる。2つ目は、音声広告に最適化した素材を制作することで理解度が向上する点です。どれだけ耳残りがいいか、トンマナとしてもいかにスムーズに聴けるかが問われるので、構成やナレーションのスピード感までもこだわることで、より良い素材作りができると感じました。
小泉
ありがとうございます。
やはり、Spotifyの音楽やポッドキャストとシームレスに連携できるような、違和感のない広告が非常に重要なのでしょうね。
■没入感やシチュエーションマッチなど音声の特性を活かした広告提案を
小泉
ではここから、「デジタル音声の特徴を踏まえたメディアプランニングの考え方」というテーマで皆さんとディスカッションできればと思います。音声フォーマットの特徴として聴取完了率が高いというデータがあります。音声プラットフォームの一つであるSpotifyの音声広告の完全聴取率が96%で、イヤホンやヘッドホンで聴くリスナーが全体の85%というデータがあり、メッセージの伝達効率がいいメディアかと思います。堀田さん、完全聴取率の高さについてプランナーとしていかがですか。
堀田
企業が何をKPIに置いているかにもよりますが、確かに最後まで視聴していただくことで訴求をより理解してもらえたり、検索やコンバージョンにまで繋がる可能性が高まる。認知向上といった指標については効果が期待できます。
小泉
そうですね。ここで広告の煩わしさについてのレポートを八木さんからご紹介いただけますか。
八木
2023年にアメリカの調査会社が調べたレポートによると、YouTubeで広告を煩わしくないとする層は23%、音声ストリーミングサービスでは37%です。(出典:EDISON RESEARCH The Podcast Consumer 2023 An infinite Dial Report)クリエイティブに触れて「いいな、心地いいな」から、「すごくいけてるじゃん」と印象がポジティブになっていくのは音声ならではです。嫌われにくい、だから完聴率も高くなります。
小泉
なるほど。Spotifyでも、広告クオリティやタイミングにこだわるクライアントが増えている印象ですがプラットフォーム側からみた際にこの傾向はいかがですか。
的場
そうですね。キャンペーン設計の時点で、音声広告ありきで考え、広告会社側もクリエイティブの担当部署に作っていただくケースも増えています。やはり、ユーザーがどういうモーメントで聴いているかを計算して作られたものは、事後調査でも非常に良い結果が出ている。たとえば通勤通学中に、パーソナルケアや「あ、あれやるの忘れてた!」というところに刺さる時短家電、ちょっと暑い日の飲料など、モーメントごとに自分ごと化させられる内容をわずらわしくなく刷りこめるのが我々の強みですし、そこまできちんと考えるクライアントは増えています。
小泉
音声は外で聴くことが多いので、寒くて風邪をひきそうだなとか、紫外線や匂い、喉の乾きなどが気になるなどのシチュエーションと広告をマッチさせられると面白い体験になりますし、相性はいいメディアですよね。
そして、キャンペーン設計の段階からCM制作におけるタレントの調整など、あらかじめ決まっているとCMのクオリティも高められそですね。
的場
タレントをキャスティングした場合でも、スタジオ撮りの残り5分ぐらいで音声素材を取りきれたりする。それほど手間をかけずに独自素材ができるのではないかと思います。また、自分の好きなタレントさんの声が耳から聴こえてくると、ファンとしては嬉しい。そういう活用も、キャンペーン設計の段階から組み込める優位性かと思います。
小泉
続いてイヤホン/ヘッドホンで聞くリスナーが全体の85%という点について、再び八木さんからデータをご紹介いただきます。
八木
オーストラリアの音声会社が、映像+音声で触れたときと、音声だけに触れたときの脳波を比較調査したところ、脳波の反応率が明確に違っていて、生理学的には、音声だけの方がメッセージに集中してより伝わることがわかっています。ちなみにロンドン大学の別の調査だと、ホラー映画を映像として音声つきで見たときに比べ、オーディオブックで聴いたときの方がハラハラドキドキ具合が高かった。映像がある場合は、別の情報にも目が行ってしまいますが、音声の場合は没入状態になり、脳内でその様子を思い浮かべるため、音声だけの方が影響力が高いというわけです。(オーストラリアのオーディオ配信会社ARNの研究機関「NeuroLab」の調査レポートより)
またイヤホンなどで聴いているということは、耳が占有状態になっている。音声だけで接触した方が効果が高いというのは非常に重要なポイントです。
小泉
提案する立場としても、やはり映像と音声で役割づけをきちんと行う必要がありそうですね。
堀田
音声の場合、たとえば好きな声優さんが出たりするとSNSでも反応がとても良くて。ブランドへの好意度は音声広告がよりリフトアップしやすいと感じます。
八木
私たちも音声広告で熱量が高いファンのいる芸能人の方が出演するCMを配信したことがありますが、「広告を流してくれてありがとう」という反応がありました。動画だと、流れているコンテンツに触れるという体験ですが、音声だと自分が直接語りかけられているような疑似体験になるのか、「遭遇できて嬉しい、幸せ」ということが起きてしまう。音声ならではの強い没入感、臨場感があるからこそかもしれません。
小泉
ここで少し話がそれますが、音声がもっとも強みを発揮するのはミドルファネルではないかと考えています。
八木
音声コンテンツは移動中に接触するので、その場で物を買うというわけでもない。やはりそこで鍵になるのは「ながら聴き」。シチュエーションマッチした場合の効果が大きく、態度変容に効くというのは音声ならではだと思います。マスまではいかないけれども獲得ではない場合、シチュエーションマッチを使うことでミドルファネルに対して非常に有効だと考えます。
的場
完全聴取率が高いので30秒フルで聴かせられますよね。キーメッセージを人の行動導線とか日常生活の中で繰り返し刷りこんでいくことで、自然と製品の深い理解まで導けると思う。そういった点でもミドルファネルには非常に効果的かと思います。
小泉
そうですね。今日お話しを伺って改めてデジタル音声広告の可能性を感じました。少しでもご興味を持って頂けたら、お気軽にお問合せいただければと思います。
お三方、どうもありがとうございました。
八木 太亮
株式会社オトナル
代表取締役
的場 美江
スポティファイジャパン株式会社
広告事業部 統括部長
小泉 憲太
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
テレビラジオビジネス局 ラジオアカウント推進部
堀田 菜々瀬
株式会社Hakuhodo DY ONE
第一アカウント本部