コラム
あなたのブランドは大丈夫?ブランドのための戦略的広告出稿とは ~AaaS× DoubleVerifyが描くデジタル広告の未来~
─Advertising Week Asia 2024より
マーケティング&広告業界で最大級のグローバル・プレミアイベント「アドバタイジングウィーク・アジア2024」。昨年に引き続きリアルとオンラインで開催された今回も、各界の最新の知見に触れる刺激的で魅力的な数多くのプログラムが実施されました。
本稿では「あなたのブランドは大丈夫?ブランドのための戦略的広告出稿とは~AaaS×DoubleVerifyが描くデジタル広告の未来~」の内容をご紹介します。
モデレーター
長瀬 大仁朗
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーム戦略局 局長補佐
スピーカー
武田 隆
DoubleVerify Japan株式会社
代表取締役 日本法人代表
飯塚 隆博
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
AaaSビジネス戦略局 局長
■AIを原動力に複雑化し続けるデジタル広告環境
長瀬
まずは武田さんから、日本のアドベリフィケーションの概況についてご説明いただけますか。
武田
経済産業省をはじめ、多くの方がデジタル広告の品質に高い関心を寄せている一方で、アドベリフィケーションツールの普及にはまだ至っていません。導入費用の高さが障壁になっているという見方もありますが、実態は、そもそも導入バリューが完全に理解されておらず、投資に値するという結論に至らないのだと思います。
アドベリフィケーションというのは、以下の4つの基本的な計測の指標です。
まず、ボットや機械的な行為などによって広告主が投資したものがどこかにかすめ取られてしまうようなアドフラウド、並びにSIVT(無効なトラフィック)を検知して、できるだけ回避します。
またブランドセーフティ(安全性)とスータビリティ(適合性)など、不適切な広告が配信されていないかも測る必要があります。
単に安全か安全でないかだけではなく、ブランドにとって適合する環境なのかどうかということも併せて提示する必要があります。続いてビューアビリティは、業界の基準を満たす形で広告が表示されているかどうかの判定です。それからジオ(地域内)というのは、ターゲットされたエリアにきちんと配信されているかを見る基準です。
いまやAIがいろいろな形で私達の生活や仕事に浸透しつつあり、良くも悪くも影響を排除できないものになっています。
それに対して、私たちはAIを使い、向き合わなくてはならないのが現状です。今、広告市場は、私たちが今まで経験したことがない劇的な変化に直面しているのです。特にデジタル広告市場ができてからの変化がもっとも大きく、その原動力がAIです。アドフラウドはAIによって非常に高い精度で巧妙になり、スピードも上がってきています。広告が掲載されるコンテンツ環境も、AIによるディープフェイクなど真偽の判定が難しくなっています。YouTubeやTikTokなど、UGCのコンテンツの影響力も非常に強まっています。
コンテンツの品質に関しては、たとえば選挙シーズンはブランドスータビリティのリスクが2.5倍上昇すると言われていて、おそらく今後さらに上昇するでしょう。たとえば誤解を呼ぶような情報を意図的に流すといったケースでAIが暗躍しています。こうした偽情報の拡散の悪化については多くの人が懸念を抱いています。
フラウドについても、数自体はツールを入れることで抑え込むことができますが、新しいスキームが生まれ、そこに派生する亜種がどんどん増加しています。一つ一つ判定しなければ制御ができませんが、増殖のスピードも上がっているため非常に難しい状況です。特にモバイルはフラウドにさらされており、件数も倍増しています。
またUGCのショート動画が広告の世界を席巻し、非常に多くのコンテンツがものすごいスピードで生まれている。そういう環境下で広告活動をしなければいけなくなりました。デジタル音声だけのコンテンツも生まれてきていますし、状況は複雑化の一途をたどっています。
■ブランドセーフティ領域における強力なアライアンス
長瀬
続いて両社の業務提携について、飯塚さんからご説明いただけますか。
飯塚
この7月に両社で業務提携を行った背景と狙いからお話しします。
弊社としては、今我々が提唱している「テクノロジーの力によって広告効果を最大化するAaaS」において、広告主やメディア、さらには社会全体における重要な課題をテーマアップし、各領域でさまざまなプレーヤーとアライアンスを広げ、with/powered by戦略でソリューションを共創していこうとしています。
ブランドセーフティ、AI、販促、オールモニターなどの様々な領域が注目されていますが、今回のDoubleVerify Japanとの提携は、喫緊の課題であるブランドセーフティ領域におけるアライアンスです。デジタルメディアの品質測定と広告運用、そしてAIテクノロジーを駆使したパフォーマンスソリューションの開発に強みを持つDoubleVerify Japanとの協業を通じて、デジタル広告の質的な課題に高度に対処し、広告配信の品質を向上させ、安心安全な広告環境をクライアントに提供することが、その目的です。
長瀬
AaaSについても簡単にご説明いただけますか。
飯塚
AaaSは、メディア基点での投資最適化を通じて、広告主の事業貢献、そしてビジネス貢献をさせていただく新しいビジネスモデルです。
広告メディアのDXを成し遂げるべく2020年12月にリリースし、おかげさまで多くのお客様に導入していただいています。
AaaSのコンセプトの1つ目は、メディア広告の価値を「枠から効果へ」と転換させることです。これまで広告取引として私たちは枠の売買を行ってきましたが、クライアントが欲しいのはその先にある効果です。特に出稿後の効果検証が不十分であったテレビ広告に対しても効果の可視化とPDCA運用がこれまで以上に可能になってきました。このような環境から、デジタル広告はもちろん、テレビ広告においても従来の「枠」の売買による広告取引から、「効果」の売買による広告取引へとシフトすることを目指しています。
2つ目は、テレビとデジタルを中心としたメディアを横断しての最適化です。これまでテレビだとGRP/PRPを、デジタルだとクリックやコンバージョンといった指標を用いて取引をしていましたが、AaaSではこれらの異なる指標を統合することで、テレビとデジタルを横断するより効果的な広告配信が可能です。
3つ目は、そもそも何にどうやってその広告が効いたかをしっかりと紐解き、クライアントごとのKPI達成を通じて広告主の事業成果最大化に寄与します。AaaSでは、生活者データ、メディアデータそしてファーストパーティーデータをセキュアな状態で突合し、アルゴリズムやAIを活用することで効果を可視化・分析、最適な示唆を導きクライアントのKPI達成を目指します。
4つ目は常時接続コンサルティングです。データの常時接続はもちろんのこと、日々の会話を含めてコンサルタントと常時接続することで、単に数字の把握だけでなく、数字を読み解き戦略を作り策定していくことを、コンサルタントが並走し、より高い効果を追求してPDCAを回し続けていく。最終的には事業効果の最大化を実現するという体制です。
ソリューションとしては、マーケティング施策を最適化するAnalytics AaaS、テレビデジタルを横断して最適化するTele-Digi AaaS、テレビデジタルの各メディア単位で最適化を行うTV AaaSとDigital AaaSという4つがあります。
長瀬
ありがとうございます。続いては武田さん、DoubleVerifyさんについてご説明お願いできますか。
武田
DoubleVerifyは2008年に世界で初めてアドベリフィケーションのツールを開発する会社として誕生しました。目指しているのは、デジタル広告のエコシステム自体の透明性を担保することで、強固で安全で安心して広告主が投資できるような環境を作り上げること。これが一貫したビジョンです。
そうした安全な環境で投資をしていただくことで、より良い成果を広告主に上げていただくことがミッションです。
世界中の企業と仕事をさせていただいており、全てのインプレッションをお預かりし、管理し、すべて自社内で完結するのが特徴です。世界各国のさまざまな業界の認定団体から認定を受けており、プロダクトの認定数は世界最多。粒度を細かく分析していただけるようにデータを用意しており、たとえばブランドセーフティに関連するカテゴリーも100以上あって、その中からブランドのニーズに合わせたカスタマイズが可能です。データ更新も15分に1回、1日200回行い、リアルタイムでデータが取れます。新しいプラットフォームがどんどん生まれていますが、すべてにおいて透明性が担保されなければ意味がないので、全て可視化でき、安心して投資していただける環境を整えるための取り組みを行っています。
元々ブランドセーフティ、安全性の担保を中心にやってきた会社ですが、ブランドが安全なだけではなく適合しているかどうか、ニーズに合っているのか、ビューアビリティなど、効率に対するベリフィケーションに進化してきました。さらに今はパフォーマンスを推進する領域へとイノベーションを進めています。たとえばアテンション指標やコンテキスト、データ、さらにそれをAIの力で自動化して精度を上げ、最終的にビジネスの成果に直結するようなデータをご提供できるよう、進化を遂げつつあります。
事例としてアテンション測定という指標をご紹介させてください。
弊社の場合、ビューアビリティを測定している同じインプレッションをさらに深く分析します。エンゲージメントという軸と露出という軸で、その環境下でどれだけコンテンツが接触されたか、露出のされ方はどうだったかなどをより細かく見ることで、アテンションというスコアにしてお出しします。このように、パフォーマンスの測定までカバーしている状況です。
■なぜ今、ブランドセーフティなのか?
長瀬
ここからはディスカッションパートです。テーマを3つ用意しているので、それぞれの現状と未来についてお話しください。1つ目は、「今こそブランドセーフティが求められる理由とは?」です。
飯塚
欧米ではブランドセーフティ対策が数年前から進んでいます。日本の場合は、コスト面や理解不足が要因でなかなか対策が進んでいません。そんな中、日本でも詐欺広告がきっかけとなり、プラットフォームに対してはもちろんのこと、広告を出す側の責任も問われるようになりました。ブランドセーフティへの意識が高まり始め、広告主からの相談も増えてきました。
今までもブランドセーフティの必要性はあったものの、枠の善し悪しという定性的な質を評価する術が少なかったわけですが、現在はDoubleVerifyさんも取り組まれているように、質の部分の定量データやテクノロジーによって可視化が進んできました。
改めてブランドセーフティ、質の視点を、広告配信に運用していける時代になった。これも今こそブランドセーフティ求められる理由かと思います。
我々が考えるブランドセーフティには大きく2つの役割があります。
1つは守りのアプローチで、もう1つは攻めのアプローチです。ブランド毀損を防ぐだけではなく、ブランドセーフティをブランド力に変えていくという積極的な価値転換こそが重要です。企業価値を守るだけでなく、その守りが、一連の施策として企業価値の向上に繋がるということです。昨今のコンプライアンスやリスクマネジメントとも同じような考え方だと思います。
イメージしやすいよう、テレビ広告の例を用いて説明します。
テレビ自体はすでに優良で危険の少ないコンテンツプラットフォームであり、広告自体もかなり厳しい考査を経て放送されるわけですが、そんな中でもたとえばサスペンスとか、ある種の刺激の強いコンテンツを避けるとか、アルコールや自動車業種、特定業種に合わない枠を排除する方法もあり、これがブランドの価値棄損を防ぐアプローチになっています。さらにそこから、たとえばテレビ番組と連携したインフォマーシャルだとか、一社提供によるミニ枠や、さらにはブランデッドコンテンツといった、広告自体をコンテンツ化することで、ブランドの価値向上を狙うアプローチがあります。
デジタル広告配信においても同様で、ブランドセーフティの取り組みは守りから攻めまで地続きで考えられます。広告主のブランドイメージにとってマイナスの可能性を排除し、プラスの方向へ転じさせることが重要かと思います。
長瀬
ありがとうございます。武田さん、デジタル広告との共通点についていかがですか。
武田
アドベリフィケーションの世界でも、ブランドセーフティへの配慮が高まることで新しい掲載面に出しにくくなるなど、マーケティング活動にネガティブな影響が出ることもあります。そこで出てきた概念が、ブランドスータビリティです。どんなブランドでもニーズによって出せるところ、安全なところはあるはずなのです。
たとえば、コンテクスチュアルという手法を使い、コンテンツとの関連性や興味関心のエリアに寄った形で配信するといった考え方は、ブランド価値向上を狙うアプローチになるし、ブランドスータビリティと共通するところです。
■AaaSによる効率化とアドベリフィケーションによる質の担保を併せて実現していく
長瀬
2社の業務提携により何が実現できるのか教えていただけますか。
飯塚
ブランドセーフティからスータビリティにおけるフェーズを4つに分けた上で、目下の取り組みとしては、どの面が有効かつ質的にも担保されているか、包含リストのアプローチを始めています。
包含リストの取り組み自体は目新しいものではありませんが、今回のポイントとしては、本来だとコストがかかってしまったり、CPMが上がってしまったりすることで敬遠するクライアントもあると思いますが、ブランドセーフティを担保した広告配信面においてAaaSのAIアルゴリズムを活用して分析入札、オペレーション管理を行うことで、運用工数を効率化し、結果的に予算を下げる。これが実現されているところです。
つまり効率の担保と質の担保が、両者の強みを活かす形で実現します。これが今回の業務提携のシナジーです。
武田
メディアの視点からAaaSが生まれ、効率を追求するようになり、我々もブランドセーフティという、アドベリフィケーションの観点から、質から効率の方へと進んできた。そこに共通するエンジンとしてAIがある。まさにお互いの強みとするところが組み合わさった、素晴らしい連携だと思います。
長瀬
現時点で具体的に語れるインパクトなどはありますか。
飯塚
実は現在、両社でのPoCがかなり進んでいます。掲載面の配慮をしない元々の通常配信と比較して、リスト化された優良面に絞って配信していくと当然コストはかなり上がっていきます。しかし今回のPoCでは、AIの力でその費用を抑制することで運用コストを削減して、ほぼ何も考えずに配信した結果と、しっかり質を担保して配信した結果の配信費をほぼ同じにするというところまで実現できています。
ブランドセーフティがもたらす広告効果についても、KPIとして視聴完了率というデータを使って紐解いてみたところ、PoCの平均値で約3割向上させることができました。これまでと同じような費用で、ここでKPIとして設定した視聴完了率をしっかりと上げていくことができています。
長瀬
ブランドセーフティが担保された上で、同じようなコストで広告効果を上げていけるポテンシャルがあるのですね。
では、両社で今後実現していきたいことについて伺えますか。
飯塚
先述のように、より精緻なターゲティングや効率の良い配信などコスト面のメリットを高め、効率性を担保した使いやすさを実現する。それによって、成果を追求する広告主にとって“使いやすい”ブランドセーフティ配信という選択肢を提供することが、まず第一です。
さらに先の展開としては、両社が保有するデータを連携させ、スクラッチ開発によって、ブランドセーフティを超えた先のスータビリティにつながるソリューションを手がけていきます。
武田
現在テレビとデジタルに使われている異なる指標に代わる共通指標として、私たちはアテンションのご紹介を3年前に始めました。これが、オンラインオフライン問わず全てのメディア、プラットフォームを計測する共通の仕様になっていくことが、業界にとっても理想だと考えています。
飯塚
アテンションはクライアントごとにいろんな項目があるのが現状ですが、いまDoubleVerifyさんは、このアテンションをさまざまな項目に分類ししっかり定義付けされており、非常に選びやすくなっている。これは重要なことだと思います。
従来型のマーケティング指標では、入り口としてリーチがあり、その先に態度変容があります。ブランドセーフティやアテンションといった指標は、両者の間に入ってくる指標だと思っています。そして、生活者のブランド体験をこの指標が変えていくことに繋がるのではないかと考えています。AaaSの各ソリューションにもこういったデータを入れ込むことで、よりブランド価値の向上を体現するようなシミュレーションが可能になると考えています。
長瀬
両社の取り組みについて、今後も皆さんにぜひ注目いただければと思います。ありがとうございました。
長瀬 大仁朗
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
プラットフォーム戦略局 局長補佐
武田 隆
DoubleVerify Japan株式会社
代表取締役 日本法人代表
飯塚 隆博
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
AaaSビジネス戦略局 局長