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Media Innovation Lab
【Media Innovation Labレポート45】存在感を増す”グランフルエンサー”の実像 前編
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シニア世代をはじめさまざまな世代に影響力を持つグランフルエンサー。
世界的に進む高齢化により、国内外でその存在感が増しつつあります。
年齢を感じさせないアクティブな活動で、Z世代からも支持を集めるグランフルエンサーの実像や、期待されるマーケティング価値などについて、Hakuhodo DY ONE 広告技術研究部の陳辰と同社令和シニア研究所リーダーの吉川真紀子に、Hakuhodo DY ONE 研究開発局長 兼 Media Innovation Labの永松範之が聞いていきます。

■ライフスタイルも価値観も激変し、シニア世代に新しい需要が生まれている

永松
現在、ソーシャルメディア上でアクティブに活動し、Z世代からも大きな支持を得るグランフルエンサーが国内外で話題です。そもそも高齢化はグローバル規模で進んでおり、世界では40年後には60歳以上が占める人口が約24%、現在の倍以上になるとされています。(PopulaitionPyramid .net)
こうした環境下で、シニア世代を対象とした新しいビジネスやマーケティングの取り組みも近年増えてきています。シニア世代におけるデジタル活用も活発化しており、シニア世代が個性を活かして、Z世代など幅広い世代への影響力を発揮するなど、デジタルを活用し積極的に新しいことへ挑戦する姿が見えてきました。実際、内閣府高齢社会白書等のデータからは、今の60、70、80代は、新しい技術や情報への受容性が高いというデータもあります。

今回、シニア世代に向けたマーケティングについて吉川さんから、シニア世代を活用したマーケティングについて陳さんからお話しいただければと思います。

吉川
ありがとうございます。
まず総論的な話として、シニアマーケティングは現在フェーズ4.0に来ていると感じています。
長期的に見ると、最初にマーケティングやプロダクト開発においてシニア世代が注目され始めたのがフェーズ1.0で、1970~1980年代あたり。少子高齢化の末に訪れるであろう高齢化社会が、社会課題として広く認識されはじめたタイミングでした。ただ当時は、増えていくシニア世代に対して介護や医療でいかにサポートしていくかという点での関心が強かった。それがフェーズ2.0の2000年代になり、高度経済成長期を経験し消費力もある団塊世代が一気にシニア世代になってくるにつれ、「アクティブシニア」という言葉が出始めます。
旅行や趣味や健康増進など、シニアをターゲットにした消費市場が拡大し、経済的主体として捉えられるようになったのが、非常に大きな転換点でした。
その後、急激にデジタル化が進み、一方では自在にスマートフォンやSNS、オンラインバンク等を使いこなし、もう一方ではそれらに全く触れられない人も出てきた。シニア世代の中でも大きな情報格差が生まれ、必要な情報が全体に届きにくい“デジタルデバイド”の時代になったのがフェーズ3.0。シニア向けのデジタル広告も届けるのが難しい時代が続いていたかと思います。そしてコロナの間、ステイホームが呼び掛けられオフラインの購買行動ができなくなり、さらには各キャリアでの3G回線が終了を迎えます。これらがほぼ同時に起きた結果、70代で8割がスマートフォンを所有するようになり、シニア世代のライフスタイルが急激に変わっていきました。2018年頃に出てきた「人生100年時代」の考え方に準じれば、60代の方でもその先数十年は生きられる時代になり、健康や美容だけでなく、ライフスタイル、金融商品など、今までとはちょっと違う商材やプロダクトのプロモーションも活発に行われるようになりました。そうしてシニア世代が再注目されるようになったのが現在のフェーズ4.0であり、グランフルエンサーの登場もその一環だと捉えています。

たとえばインスタグラムでおしゃれな投稿をしているシニア世代の方がいたり、“シニア世代のコスプレデビュー”がXのトレンドトップを飾ったり、65歳以上で構成されているeスポーツチームが若い世代から人気を集めてニュースになったりしています。昔は想像できなかった多様なシニア像が見られるようになり、シニア自体も、世間の目も非常に変わってきたのが現状かと思います。

また、データ的に見ても、身体機能が若返っていることがわかっています。
日本科学未来館の常設展「老いパーク」によると、1990年代の65歳と今の85歳の歩行速度が同じだそうです。平均寿命と健康寿命も年々伸び、認知機能も若返ってきている。80代になっても、6割の高齢者は認知機能が健全であるというデータもあります。(令和シニア白書P.7)
先述の社会的な変化と、スマートフォンを通して触れる情報が他世代と変わらなくなってきた結果、新しい価値観形成が起きているのではないかと考えています。

つまり健康状態やインサイトも含めて価値観が年齢によって変わらない、いわゆる「消齢化」が起きているわけです。そのうえで私たちは、「Z世代化する令和シニア」という視点で、今のシニア世代を捉えていきたいと思っています。

永松
「グランフルエンサー」という言葉を聞き慣れない人も多いと思います。改めてグランフルエンサーの定義についてお願いできますか。


グランフルエンサーとは「一番上」を表す「グランド」と「インフルエンサー」を組み合わせた造語で、ここでは60歳以上の「グラン世代」でインフルエンサーとしてSNSで人気になっている方々を指します。

永松
彼らグランフルエンサーが今注目されている背景や要因は何でしょうか。


国内外で高齢化が進んでいく一方で、トラディショナルなマーケティングが今もなお多い状況です。
また世間的には「新しいもの(特にデジタル)への受容性が低い」といった旧来の高齢者像が根強く残る中で、高齢者の寿命は伸び、長い人生の中で多様な生き方が選択できる“マルチステージモデル”に変化してきています。生涯現役であり、どんな生き方でも働き方でも選べるという状態になってきている。価値観もどんどん更新され、高齢者である自分にも新しい需要もあることに気づき、ライフスタイルの一つとしてインフルエンサーとして生きていくこともできるようになってきたということだと思います。

■「Z世代化する令和シニア」とは…!?

永松
グランフルエンサーを含めたシニア世代の特徴やインサイトについても詳しく教えていただけますか。

吉川
我々の2024年の調査※で、α世代の16歳から85歳まで、各項目に対する意向を調べたデータがあります。「病気に関わらず健康でいたい」などの項目が上位に来るのは、シニア世代なら当然かと思いますが、「人生でいろいろな経験をしたい」「人生を楽しみたい」という項目も、シニアになるほど上がっている。健康面とか相続がどうとか、当然不安もありますが、同時に好奇心もあるということを前提にコミュニケーションしていく必要があると思います。※令和シニア白書https://digiful.hakuhodody-one.co.jp/download/178942419765

シニア世代の間に多様な生き方が生まれている背景として、まずは可処分時間の増加があります。同じ調査によると、65歳以上の約半数が平日に6時間以上の可処分時間を持ちます(20〜50代ではその割合が約20%以下)。その時間を使って時短勤務や再雇用、アルバイトなど多様な働き方をしています。子育てが終了していることも、マーケティング上の注目すべきポイントだと思っています。というのも、特に60代は仕事や育児、介護などのライフステージの変化が非常に生じやすく、それらから解放されるなどして自由時間が持てるようになった結果、新しいことへのモチベーションも上がっていく世代なのです。

さらに、人生100年時代の今、まだまだ元気に生きていきたいしその分お金を稼ぐ必要もある。そうしたことを考えるモーメントがシニア世代にはある。消費力も他世代とそれほど変わらない。そうしたことを踏まえ、どういうところにモチベーションがあるのかを捉えていくことがまず必要かと思います。

身軽になって時間もできて、いろいろなことにチャレンジしやすい世代ということで、実際に「新しく始めたこと」を世代ごとに聞いてみると、60代前半、特に女性で急激に上がります。始めたこととしては、アウトドアや学び直しなど、今までのシニア像らしい回答もありつつ、YouTubeの動画作成やnoteへの投稿などがある。

退職をきっかけに何十年分のキャリアやスキルをアウトプットする場所がなくなってしまった結果、SNSに投稿するなど、不特定多数の人に対して何かを伝えていきたいという欲求が出てきて、オンラインサービスの活用につながっているのだと考えます。

NTTドコモ モバイル社会研究所の調査によると70代のスマートフォン所有率が今年初めて8割を超えているそうで、持つのが当たり前になりつつある。スマートフォンの中にはデフォルトでSNSがインストールされていたり、子供のすすめなどで入れることもあるので、さまざまなアプリにも触れやすくなっています。

一方で、80代のスマートフォン所有率は6割にとどまっており、70代と80代の格差はかなりあります。

平均メディア利用時間も最近では変化が大きく、総務省の令和5年の調査データによると、50代はネットが前年比で+30.3分、テレビも実は増えていて+2.5分ですが、インターネットでメディアに接触する時間が非常に増えています。(令和シニア白書P.30)
60代はインターネットで+10.5分、テレビは-12.8分。可処分時間としてはネットの利用時間が非常に増えています。さらに可処分時間の長さでいうと、やはり20代と60代が時間としてのシェアはすごく取りやすく、注目すべき世代かと思います。

検索の利用状況を見てみると、実は50、60代は全世代の中で一番検索歴が長く、現在も7割が検索サイトを利用しています。またYouTubeの視聴も非常に伸びていて、60代はYouTubeで66.3%の方が利用している。次いでFacebook、インスタグラム、TikTokも13%となっています。

YouTubeが想定を超えて伸びていますが、利用目的はそれぞれ違うため、グランフルエンサーを起用するにしても、どのような情報が求められているかはよく考える必要があると思います。さらにシニア世代は、「テレビで見たものを深堀するため検索・閲覧する傾向が強い。ニュースでやっていた情報をYouTubeで更に深堀りする傾向があるようです。

いずれにしても、令和シニアは、好奇心が非常に強く、不安もあるけれどもそれだけじゃない。一人の人の中でも陰陽を併せ持つような特徴があります。

また、定年退職などのタイミングをきっかけに新しいコミュニティを作りやすいという傾向は従来からありましたが、近年で特徴的なのは、生成AIを活用するコミュニティやオンラインゲームのコミュニティが活発であることです。70代でも7、8割がゲーム経験があるくらいですから、コミュニティの種類も変わってきています。

また、我々は「Z世代化する令和シニア」と言っているのですが、Z世代に近いような価値観が消齢化の中でいくつか出てきており、テーマとして調査をしています。
その結果、「おわん型」と言われる構図が見えてきました。
一定の項目で、Z世代とシニア世代が膨らみ、30、40代がへこむインサイトの傾向がわかりました。やはり時間とお金が使えるタイミングである影響が大きく、自分のことだけで精一杯な時期から、人や社会に対して感覚が鋭くなり、周囲の人を助けたり、自分の幸せよりみんなの幸せを願うなどの傾向が出てくる。こうしたことも、グランフルエンサーを起用する施策においては注意すべきだと思います。ブランドに対してもその世界観に共感できるかどうかを重視する傾向が、若年層とシニア層のどちらの世代にも強くあります。

一つだけ注意したいのが、Z世代とシニア世代が、全く同じであると言う意味では当然ないことです。
例えば、どちらの世代もSDGsに対する関心は非常に高いですが、シニア世代にとってのSDGsは、公害など本当にリアルにあったニュースの中で考えるSDGsですが、Z世代にとっては教育で受けている世界的な観点のSDGs。着眼点が違うようです。それぞれ、意志の高さは同じでも、やはりそれぞれの世代で経験値は違いますから、単純に同じと考えればいいというわけではないですね。

デジタル時代を味方にしながら多様な自己実現を果たす令和シニアが今よく見られます。テクノロジーの進歩やシニアの価値観の多様化もあり、また健康面で課題があっても、テクノロジーや医療の力でより生活しやすくなった。それがシニアの消費行動や価値観編成にも影響しているのではないか、というのが調査から見えてきたところです。

※令和シニア白書_ver.1.0|Hakuhodo DY ONE(令和シニア研究所)
https://digiful.hakuhodody-one.co.jp/download/178942419765

後編に続く

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとHakuhodo DY ONEが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

陳 辰
Hakuhodo DY ONE
新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究部

吉川 真紀子
Hakuhodo DY ONE
令和シニア研究所リーダー

永松 範之
Hakuhodo DY ONE
新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局長 兼 Media Innovation Lab

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