コラム
データドリブン
 リアルとネットの行動データ活用によるメディアと広告コミュニケーションの新しいかたち
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今年6月、新たにタッグを組んだタメコ株式会社と株式会社博報堂DYメディアパートナーズ。屋内外での生活者の”リアルな行動特性”と”オンラインの行動データ”を連携させ、よりパーソナライズされた広告配信が可能なメディアサービスの提供に向けて、今まさに取り組みを始めています。タメコのムイ・キム取締役と、博報堂DYメディアパートナーズ・アウトドアメディア局の佐藤智施に、両社の共創で期待される効果、今後のビジョンなどについて語ってもらいました。

 

両社の出会い~リアルタイムでピンポイントのキュレーションが可能に

キム氏:
我々が開発したスマホアプリ「タメコ」では、店舗に入ったユーザーはスマホに触れることなく自動で来店ポイントを獲得することができます。店舗事業者からすると、アンケートなどの調査を実施しなくても、どんな属性の人がどの店舗にどれくらいの頻度で訪れているかが把握できます。さらにこうした情報をもとにクーポンを配信するのであれば、例えば飲食店の場合、お腹が空く時間帯のタイミングで、あるいはその店舗の近辺でクーポンを受け取れる仕組みになっています。結果的にこのクーポンはチラシやメルマガ販促と比較すると、倍から数十倍に上るクーポン利用率を達成しています。スマホアプリ「タメコ」に限らず、このように”タイミング”と”場所”をベースに、コンテンツと広告をキュレーションできれば、リアル版の行動ターゲティングが実現できる。こうした目的で広告会社と一緒に取り組めば、新しいビジネスを創造できるんじゃないかと思ったんです。

佐藤:
今までの広告は基本的に一方通行で、広告主がさまざまなメディアを通じて生活者に情報を届けてきました。そのため、コミュニケーション活動の競争優位の源泉が”マーケティング”や”クリエイティブ”でした。しかしデジタル化が進み、ウェブにとどまらず購買データや屋内外の行動データなどを通じて、より深く生活者を知る機会が増えてきました。そうすると今後はそれらの”データ”と、そのデータを利活用する”テクノロジー”が競争優位の源泉になっていく。その前提の中で我々としては、独自の技術を持つタメコと取り組むことは、将来的に広告ビジネスの付加価値化をできるチャンスだと思ったのです。

また、それ以上に個人的に価値を感じたのは、ユーザーの生活動線を活用できるということ。例えば、現在、渋谷に滞在しているから渋谷にいる人に適したコミュニケーションをとる、という発想だけではなく、その人の普段の生活行動の範囲自体を把握できるようになる。そうすれば、広告主は生活者によりマッチした情報提供を実現できる。コミュニケーション活動がぐっと向上する可能性があるなと思ったんです。

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キム氏:
まず我々の技術を説明すると、店舗事業者のアプリに統合型 SDK(タメコSDKと博報堂DYホールディングスの広告SDKを連携)※を実装した上で、タメコの独自シグナル発信端末を店内に置きます。その結果、あちこちに飛んでいるシグナルやセンサーから得た膨大なインプットデータを生成して、我々独自のアルゴリズムで解析し、その人が店舗内のどのあたりにいるかとか、何分間滞在しているかなどを導き出します。このテクノロジーにより、動線解析をした上でパーソナライズされた広告配信が実現可能となる。店舗事業のアプリ運営者に対してより収益が上がる、魅力的な提案をできる機会を得ました。

※SDK:Software Development Kit(ソフトウェア開発キット)

広告主、メディアの両方に大きなメリット

佐藤:
サービスのローンチを受け、広告主、メディアの両方から反響がありました。広告主サイドからの反響は、ウェブでの閲覧・検索履歴のみならず、屋内外でのリアルな行動を捕捉することで、より生活者の興味関心を洞察できるということです。ある商品に関してウェブで検索していることよりも、実際に店舗に足を運ぶほうが興味関心度は高いはずだろうと。これまで顧客ターゲットとしてセグメントできなかった顧客へリーチできるようになったことについても評価をいただきました。また、メディアサイドに関しては、リアル店舗内で最適なコミュニケーションがとれるようになるということです。さらに、屋内外の行動データを利活用する手段として、アウトドアメディアやダイレクトメール、チラシをより最適化するためのプランニングツールとして非常に相性がいい。このように、これからはリアル行動情報を、既存メディアに対してどのように活用していくのかということにも注目が高まっています。

また、メディアサービス全体を考えたときに、マス領域とインターネット領域、屋内外の領域をデータも含めてどのように統合させ、生活者のアクティベーションをデザインしていくかは課題です。その課題解決のためにも、行動データを活用していくことは非常に大切です。我々は広告主サイドとメディアサイドの間に入って仕事をさせていただいているので、その両社サイドにとってメリットのあることを実現していきたいです。

キム氏:
先ほどの”店舗に足を運ぶ”という話は”行動には意志がある”と表現できると思います。相当の意志があるからこそ、時間を割いてそこまで足を運んでいるわけですよね。そしてさらに言うと、”場所”には意味付け要素があるんです。そこが駅の喫煙コーナーなのか蕎麦屋なのかで、まったく違うストーリーになってくる。例えば、ある人が家電量販店のエアコンコーナーに2日間連続で通っていたとすると、その人が3回目に来店した際は本気で買う気だとわかりますよね。関心の高さに加え、購買の緊急性までもがデータから自動的に読み取れる、非常に面白い技術なのです。

佐藤:
確かに「店内にいる」というデータがとれたとしても、それが何階なのか、どこの売り場にいるかが実は重要です。そのデータを補足できるのが、タメコの技術の強みですよね。

小売業者にとってはどのメーカーの商品が売れても良いわけですが、メーカーにとっては自社の商品が売れてほしいと思うわけです。例えば、店内にいるという情報だけではなく、店内の中でも特にどのカテゴリーや商品の前にいるという情報がわかったほうが、メーカーは広告を出稿しやすい。また、店内での行動データの精度が上がることで、販促施策に閉じない形で、新しい広告主に対してもコミュニケーション機会を創造できます。

キム氏:
間違いないですね。生活者の物理動線データが十分に蓄積されていけば、例えばその人がいつも飲み物コーナーに寄ってから惣菜コーナーに行くとすると、その動線に沿って、飲み物コーナーにいるときに惣菜の広告を打つことができる。そんな予見モデルも可能です。

佐藤:
そうですよね。その行動予測モデルと、あとはパーソナライズ化。今後、データの利活用を考えると、その2点が必要不可欠です。

個人に最適解の広告配信ができる未来

キム氏:
パーソナライズ化ですね。僕が考えているのは、すべての人に「One to Oneマーケティング」を実現していきたい。独身で肉とビールが好きな同じ36歳男性であっても、やはりペルソナはそれぞれ違うはず。あらゆるプロファイリングをすることで、最適解の広告配信ができるようになるんだと思います。それと同時に、ユーザーにとっては、それがもはや広告にすら感じず、立派なコンテンツとして見る時代が来ると思います。そんな世界観に持っていけるといいですね。

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佐藤:
キムさんがよく言っている「ペルソナの設計」ということが、さらに肝になっていくと考えます。ペルソナの設計をするためには、生活者をより深く観察し続けるということが大切。その生活者をより深く観察するためには、リアルの行動データを分析することが必須。プランニングの仕方、メディアの選び方、コミュニケーション、クリエイティブの方向性、そういったことすべてに影響を与えていくと思います。広告主や媒体社のビジネス全体にどう寄与していくかというのは、きちんと考えていく必要がある。

キム氏:
今後のチャレンジとしては、将来的には海外展開も考えていきたい。スマホ人口が急増し、経済的な活力もあるASEAN地域が面白いでしょうね。スマホ広告というのは、ユーザー数そのものが媒体の大きさにつながります。そういう意味で、スマホユーザーが急速に増えつつあるASEANから攻めるというのは、物理的にも地理的にもロジカル。

佐藤:
確かにそうですね。私の今後のチャレンジとしては”時間のメディア化”だと思っています。PCなら家の中や会社などと場所が限定されますが、スマホはもう生活のあらゆるシーンに入り込んでいる。スマホが使われるシーンは、電車やバスでの移動時間だったり、待ち合わせまでの隙間時間だったりします。そうすると、そのタイミング自体がメディア化の機会となります。またその際、かなり頻繁でかつ細切れのコミュニケーションが必要になってくるわけで、そもそものコミュニケーション設計を変えなければならない。

あと、我々は”情報のタイムライン化”という言葉を使っているのですが、自分にとって重要な情報でも、情報量が多すぎるとタイムラインのようにどんどん消えていってしまいますよね。なので、適切なタイミングをどう捉えていくかが非常に重要になると思います。そのような意味で今後は、今までメディアになり得なかった場所や時間がメディアになったりする。テクノロジーの進化やサービスの高度化により、メディアビジネスの可能性はどんどん広がっていると思います。

■プロフィール■

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ムイ・キム

タメコ株式会社 取締役 兼 COO
ゴールドマン・サックス証券入社。その後JPモルガン証券などで計4年間の株式部門を経て、ボストン大学で法学博士号(JD)取得。2008年よりニューヨーク州弁護士としてサリバン・アンド・クロムウェル法律事務所で米国証券法アドバイザー。ユニゾン・キャピタルで企業投資チームに従事後、現在に至る。

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佐藤 智施

博報堂DYメディアパートナーズ アウトドアメディア局
博報堂 データドリブンマーケティング局
博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター
ビジネスディベロップメントディレクター
大学卒業後、IT ベンチャー、外資系マーケティングサービス、M&Aコンサルティング企業において、一貫して事業開発・運営およびサービスモデル構築のキャリアを積む。2013 年株式会社博報堂入社。現在は新たな領域でのメディアビジネス開発に従事。

 

■関連リリース■
【2016.06.17】生活者のリアル行動特性に基づきパーソナライズされたメディアサービスの提供に向けた取り組みを開始

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