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得意先企業の事業成果にコミットする次世代型メディアプランニング【第三回】-データアナリストから見たデータドリブンプランニングの今
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コラムの第3回は、データドリブンプラニングセンター所属のデータアナリストが語る、機械学習やディープラーニング(深層学習)に代表されるデータサイエンスのプランニングへの活用についてです。日々の企業活動や生活者の行動がデータとして記録される時代において、統計解析技術の発達や解析スピードの向上などのデータサイエンス領域の進歩が、どのようにプラニングに活かされ、事業成果にコミットするのか?、今後の展望も含めてデータアナリストの二名に語ってもらいました。

【第一回】-メディアプランニングの次世代化を推進する「データドリブンプラニングセンター」とは?-
【第二回】-メディア部門の中にあるプランニング組織に求められる専門性とその多様な仕事領域に迫る-

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写真右から)博報堂DYメディアパートナーズ データドリブンプラニングセンター ダイレクトビジネスプロデュース部 谷口 翔、データアナリティクス部 山中 大蔵

―担当している業務内容について

谷口:私は、新規顧客獲得を目指しているダイレクト事業などのある得意先企業において、獲得数を最大にするための各メディアの最適化に加え、得意先企業の事業目標達成に向けた事業戦略立案から、アクイジション、CRM、データマーケティング支援など、ダイレクトビジネスにおける、フルファネル型のPDCAマネジメントを担当しています。

山中:私は、得意先企業におけるマーケティングの効果測定業務を担当しています。特にマーケティング・ミックス・モデリング(MMM)などの解析手法を活用し、マーケティングROIの算出に加えて、マーケティング・ミックスの最適化や販売予測などの業務を担当しています。

―今までのキャリアについて

谷口:博報堂DYメディアパートナーズに入る前は、スキンケア商品や健康食品などのダイレクトマーケティングに従事していて、新規顧客獲得をはじめ、顧客を育成しLTVを最大化するためのCRMまで一貫して担当していました。

山中:今と同じような仕事を長きに渡り担当されていたのですね。転職しようと思ったきっかけなどあれば教えてください。

谷口:前職ではダイレクト通販企業のマーケティング担当でしたが、販売拡大に向け短期的な視点でのPDCA運用だけではなく、ブランド育成や中長期的な商品戦略の重要性を感じ、多様なリソースを活かして大きな視野でプランニングを行なっている総合広告会社に魅力を感じたのがきっかけです。

山中:なるほど、そういう理由があったのですね。私は、新卒で博報堂に入社したのですが、初任で配属された経理財務局を皮切りに、取引管理、決算、予算策定業務など、本社マネジメント業務を一通り経験したのち、今の部署に異動してきました。

谷口:山中さんも事業視点を持つ仕事の経験があるのですね。このデータドリブンプラニングセンターは、中途採用の人が多いだけでなく、多様なバックグラウンドを持つ人材が集まっていると思います。そういった多様性がある組織の中で「得意先の事業成長に寄与する」という組織ビジョンを掲げ、最適なチームを構成して統合プランニングを実施しているところが当センターの強みだと思います。

―生活者の行動データをメディアプランニングに活用する

山中:最近は様々なデータが記録される時代になり、メディアプランニングへの活用も進んできている印象があります。

谷口:その観点では、これからは生活者の「実行動データ」をプランニングに取りこむことが必須になってきています。デバイスやコンテンツの多様化による生活者のメディア接触の変化に対応するためにも、生活者の「実行動データ」を活用したメディアプランニングが今まで以上に重要になります。

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山中:「実行動データ」を活用した最近のプランニング事例があれば教えてください。

谷口:オンライン上のCV(コンバージョン ※以下CV)データや検索データとTVの視聴データを繋げることで、TVCMの視聴と検索行動の関連性を解析し、TVCMとWEB広告の複合的な効果の可視化を行ないました。WEB上での行動データである検索データと、リアルな行動データである視聴データを解析することで、CVに近いターゲットに対する最適な統合プランニングが可能になります。更に、そのプランニングにデータサイエンスを活用し、生活者の「実行動データ」に基づく最適パターンを常にアップデートし、自動的なメディアプランニングや最適な予算配分が出来るようになると思います。

山中:活用できるデータが増えるとメディアプランニングの自由度も格段に高まりますね。ただ、データが増えると分析に対する時間や労力、コストも増えそうですが。

谷口:ですので、データサイエンスや関連するシステムやツールなどをうまく活用することにより、効率性や生産性の向上に繋げ、プランニングの精度向上だけではなく、得意先の事業成長に繋がる仕組みを作っていけるのではないかと思います。

山中:そうですね。せっかくなので、今日はデータサイエンスが得意先の事業成長に寄与できるかという視点で、いくつかのテーマを語っていければと思います。

―広告会社こそ、”効率性や生産性の向上”の視点を持つべき。

山中:効率性や生産性の向上という話が出たので、もう少し具体的な話があれば聞いてみたいです。

谷口:これはツールという視点にはなるのですが、今まで手作業で実施していた分析をBIツール(ビジネスインテリジェンスツール:企業に蓄積された大量のデータを収集して分析するためのツールにより可視化した結果、得意先企業側含め、業務負担が大きく軽減し、生産性が高まりました。

山中:僕自身も、社内用のMMM分析ツールができて業務スピードが格段に高まった結果、得意先企業の満足度も高まったと思っています。

谷口:メディアプランニングの観点でも、最近はTVや新聞などのオフラインメディアで獲得データや顧客データに基づいた設計が求められることが多くなってきていています。クリエイティブも、新規獲得数や資料請求数など“獲得指標”で管理し、メディア×クリエイティブの効果検証を希望する得意先企業が増えて来ており、効果検証について処理するデータが多い中でスピードが求められます。

山中:クリエイティブの効果検証や検証の効率化について、ディープラーニングを活用した画像解析が今後カギになってきそうですよね。

谷口:そうですね、既に画像解析に活用されている畳み込みニューラルネットワーク(順伝播型人工ディープニューラルネットワークの一種。画像や動画認識に広く使われているモデル)などの手法が見込まれます。どんなクリエイティブが獲得に寄与したかをデータから学習させ、最適なクリエイティブを自動生成することで、クリエイティブ毎の評価分析や制作に費やしていた多大な時間と労力を最小限に抑え、労働生産性の向上にも繋がると思います。さらに、その自動生成したクリエイティブごとのCV数を、精度高く予測できるようになる日が来るのではないかと思っています。

山中:たしかに。私たち広告会社の生産性が高まれば、得意先企業内の意思決定スピードも速められるので、ダイレクト型の企業に限らず、全ての企業で事業を成長させるためには重要なことです。広告会社としても、今後は得意先企業の満足度と労働生産性を両立させていかなければならないと思うので、そのためにデータサイエンスは率先して取り入れて行く必要があると思いますね。

―データサイエンスを活用し、”ミクロ×マクロのPDCA“を両輪で回していく。

谷口:ダイレクト領域は短期のPDCAを回していくことがメインの仕事になりますが、一方、山中さんが専門のMMMは、より中長期的かつマクロな視点の仕事と言えますよね。

山中:計量経済学のアプローチであるMMMの担当者として、常日頃、経済分野のトレンドは追うようにしているのですが、特にマクロ経済分野で画像解析などの非構造型のデータの活用が急速に進みつつあります。

谷口:例えば、景気判断に画像を活用するということでしょうか。

山中:衛星データから都市や工場の明るさを指数化し景気を判断することや、アメリカのウォルマートの駐車場の混み具合を指数化するなど、景気判断に非構造型データを活用する研究事例が増えてきています。他にも、経済産業省が主導して開発したSNS×AI景況感指数など、twitterデータや経済ニュース、アナリストレポートなどのテキスト情報を解析することで、景気を即時的に判断しようという試みが進んでいます。

谷口:面白い事例ですね。活用が難しいと言われている画像やテキストなどの非構造型データでの事例がそこまで進んでいるとは驚きました。

山中:事例はあくまでも経済分野が中心ですが、マーケティングでの活用事例が今後増えてくると思います。やはり、事業成長を考える上でマクロな視点で捉えることはとても重要なことです。経済や景気の動き、業界トレンドなどをデータサイエンスの活用により即時的に捉えられるようになると、意思決定のスピードを早めることもできます。

谷口:僕の担当している領域にもうまく取り入れられたらいいなと思いました。

山中:先ほど谷口さんからも話があった実行動データの事例は、個人単位のミクロなデータだと思いますが、そのようなデータが揃った際に可能になるマルチタッチポイントアトリビューション(MTA)による投資最適化を組み込むのは面白いなと思っています。MMMによる投資最適化と合わせることで、「ミクロデータとマクロデータを活用し、短期と中長期のPDCAを両輪で回していく」、これが得意先企業の事業成長にコミットすることに繋がるのではないかと感じています。

―”ビジネスモデルの変化“にも寄り添うメディアプランニングを。

山中:あと、担当させて頂いている得意先企業の方とディスカッションする中で、いわゆる”デジタルトランスフォーメーション”というような、事業変革に関する課題が顕在化してきている企業が多い点も見逃せません。インダストリー4.0に代表されるように、IoTにより様々なモノとインターネットがつながり、そこからデータが生まれ、そのデータを価値に変える過程の中で自らのビジネスモデルまで変える必要があると考えている企業もあります。

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谷口:そのような中で、私たちにはどんなことが求められるのでしょうか。

山中:単なるモノを売るビジネスからサブスクリプション型のビジネスへの変革を望まれている場合、当然、マーケティングも変えていくことが求められ、社内で使うべきシステムも変える必要があるかもしれません。また、今まで以上にLTVの視点を持ったプランニングが求められるので、獲得すべき見込み客への考え方を変え、離脱防止に向けた取り組みも必要になります。データサイエンスを活用できる領域は確実に増えてきそうです。

谷口:得意先企業のビジネスモデルが変われば、当然メディアの役割も変わってきますし、システムからエグゼキューションまでを統合してプランニングしなければならない時代になっているということですね。

―データアナリストとして必要なことは、豊富な分析視点とコミュニケーション力

谷口:今まで、事業成長にコミットするという視点の中で、データサイエンスの活用の方向性を”生産性の向上”、”短期と中長期のPDCAサイクル”、”ビジネスモデルの変革”という3つのテーマで語ってきましたが、結局は、何のためにデータサイエンスを使うかというところにたどり着きます。

山中:そうですね。価値ある分析にするためには、データの量が増え、分析手法が多様化したとしても、得意先企業の課題や目的を常に議論しながら、モデルの活用の方向性をステップバイステップで決めていくことが重要だと思っています。

谷口:あと、「どういった人がその集計結果を扱うか」が重要であることは見逃せません。アクチュアルデータはあくまでも結果なので、現場担当者がその要因を多角的な視点で分析し、その結果に対しての示唆と今後のマーケティングにどう活用するかを考えることが一番重要だと思います。

山中:まさに、得意先企業と信頼関係を築くためにデータアナリストとして持つべき資質ですね。ちなみに、僕は、得意先企業の方とデータを通して語り合う時間が一番楽しい時間です。

谷口:その気持ち、よくわかります。

◆プロフィール

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谷口 翔
データドリブンプラニングセンター
ダイレクトビジネスプロデュース部 メディアプロデューススーパーバイザー

2016年博報堂DYメディアパートナーズ中途入社。前職ではメーカーのダイレクト事業を担当し、新規顧客獲得を始め、LTV最大化に向けた顧客育成からCRMまでを一貫して手掛ける。博報堂DYメディアパートナーズでは、獲得数最大化のためのメディア最適化に加え、得意先企業の事業目標達成に向けた戦略立案から、新規獲得、CRM、データマーケティング支援など、ダイレクトビジネス全体のPDCAマネジメントを担当。

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山中 大蔵
データドリブンプラニングセンター
データアナリティクス部 アナリスト

2007年博報堂入社。初任配属以降、7年半に渡り本社マネジメントスタッフとして、業績管理・予算策定・中期計画策定・全社会議体運営に携わった後、2014年より博報堂DYメディアパートナーズにて、マーケティング・ミックス・モデリング等を活用したマーケティングROIの可視化業務に取り組む。財務部門とマーケティング部門の両方に在籍した経験を活かした分析を得意としている。

★2/14(水)開催の関連セミナーはこちら
http://www.hakuhodo.co.jp/archives/announcement/43120

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