コラム
メディア・コンテンツビジネス
ニュースメディアが直面する、ジャーナリズム・ビジネス双方の課題とソリューション ~World News Media Congress 2017~
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■はじめに

2017年のニュースメディアを振り返るにあたり、WAN-IFRA(世界新聞協会)総会として開催されたニュースパブリッシングメディアに特化した年次イベントである「World News Media Congress」の視察報告をお届けします。
本イベントは、世界中の新聞社、通信社、メディア企業、配信事業者、テクノロジベンダなどが集まるイベントで、今年で69回目を迎えました。
2017年度の会議についても、南アフリカ共和国の都市・ダーバンにて3日間開催され、世界各国から700名を超える参加があり、日本からは日本新聞協会ほか、朝日新聞社、共同通信社、十勝毎日新聞社などが参加しました。

2017年の流行語としてあげられた「フェイクニュース」は、本イベントでも重要なキーワードとして語られており、全体を通じて「報道・言論の自由」に対する危機意識を強く打ち出していました。
今回は、博報堂DYメディアパートナーズ 新聞局の玉井雄大が、現地で語られていたニュースメディアが直面する課題についての議論や、世界のニュースメディア事例についてレポートします。

World News Media Congress 2017 @南アフリカ・ダーバン視察報告

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■「報道の自由」と「フェイクニュース」

初日に催された開会式では、WAN-IFRA会長トーマス・ブルネガード氏によるウェルカムスピーチの後、報道の自由に寄与したジャーナリストに授与する「自由のための金ペン賞」の発表がありました。

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まずブルネガード氏からは、「過去1年を振り返ると、残念ながらニュースメディア業界は、“民主的な報道”という点で新たな問題に直面している。 世界中で報道・言論の自由に関する問題が引き続き発生しており、ニュースメディアが政権に敵視されるという事態まで起こっている」とコメントがありました。

そのうえで今年の金ペン賞は、トルコ紙Cumhuriyet(ジュムフリエト)のジャン・ドゥンダル元編集長に贈られました。政権による言論弾圧が続くトルコで、多くのニュースメディアが事業を休止する中、牢獄に入れられながらも40年間ジャーナリストを続けてきたことが評価されました。

一方で、米大統領選はじめ、SNSでのフェイクニュースの影響力が増大しており、ドイツではFacebookやTwitterなどのソーシャルメディアに対して、違法コンテンツの撤去を義務付ける法律の制定に向けた動きも出ているとのこと。違法コンテンツ撤去に関する規制や法律は、政権による「報道・言論の自由」の剥奪と表裏一体でもあるため、ニュースメディアにとって非常に悩ましい課題となっていました。

■デジタルシフトは「do or die」

また、ビジネスの側面においても会議全体を通して、様々な意見が飛び交いました。

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ロンドンを拠点とするメディア業界向けコンサルティング会社Innovation International Media Consulting Group社がニュースメディア業界の最新トレンドを発表するセッションを行いました。
同社代表のユアン・セニョール氏は「2017年はニュースメディアにとって、最後の変革のチャンス。 デジタルシフトに向けて、 ”do or die(実行するか、倒産するか)“の覚悟で変革への行動を起こすべき時である」と、非常に強い言葉でアピール。
世界的に紙版の新聞の広告収入が落ち込んでいる中、The New York Times紙はじめ、デジタルシフトを積極的に推進し、デジタルにおける購読収入の大幅な増加を果たしたニュースメディアが出てきていることが彼の言葉を裏付けています。

セニョール氏は続いて、このデジタルシフトを遂行する上でのキーファクターとして、「ニュースメディアの編集局をデジタル時代に適した体制にトランスフォーメーションすること」をあげました。具体的には、24時間体制でコンテンツを制作・編集できる体制を構築する必要性などをアピールしました。

■「impression」から「engagement」へ

セニョール氏が必要性を強くアピールしたデジタル上でのニュースコンテンツ配信ビジネスにおいては、昨年度の会議でも「”クリック“から”クロック“へ」というキーワードが出ていたようですが、今年は「”impression“から”engagement“へ」という言葉が打ち出されていました。
“engagement”を重視するのは、Google、Facebookなど一部のプラットフォーマー集中しているデジタル広告市場の現状や、アドブロックツールの普及により、“impression”を価値とした広告ビジネスモデルでは、今後成り立たなくなる可能性があるため、と語られていました。
今年のキーワードを裏付けるように、リーチ重視のテキスト・ディスプレイ広告から脱却し、オーディエンスエクスペリエンスを重視したビジネスモデルが、今回の会議でも数多く紹介されました。

印象的だったビジネスモデルとしては、

(1)フランスのGroup Figaro社によるサブスクリプションモデルの成功事例
(デジタルニュースメディア「lefigaro.fr」の月額定期購読収入モデル)
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(2)スウェーデンのSchibsted社の制作能力強化によるネイティブアド成功事例
(ネイティブアド制作に特化したブランドスタジオの設立)
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(3)アメリカのScroll社による複数メディアをまとめたアドブロックシステムの成功事例
(広告なしページを表示できるようになるユーザー課金型サービス)
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の3つです。

正攻法ともいえる(1)の月額定期購読モデルに加えて、(2)のような今まで広告会社が行っていた広告制作領域への進出や、(3)のようなオーディエンスエクスペリエンス向上のため、広告枠を排除していくサービスなど、非常に刺激的な成功事例が紹介されました。

■最後に

世界的にフェイクニュースの影響力があるなかで、改めて新聞はじめ既存のニュースメディアの「信頼性」が重要視されているのを肌で感じることができたとともに、ニュースメディアの事業領域が、徐々に広告会社の既存事業領域と重なっていくなかで、広告マンの一人として、ニュースメディア・広告クライアント双方に対して、どんな価値をご提供していけるのか、改めて検討をしていく必要性を痛感した視察となりました。

玉井雄大 新聞局 デジタル・コンテンツビジネス推進部
兼 データドリブンビジネス開発センター開発推進部

2012年博報堂DYメディアパートナーズ入社。地上波・BS放送のテレビタイム領域で番組セールスなどを担当。2015年10月より、新聞局にて新聞社保有のプロパティを活用したコンテンツビジネスの企画・セールスなどを担当。

※執筆者の部署名は、執筆時のものであり現在の情報と異なる場合があります。

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