コラム
メディア・コンテンツビジネス
もっと多くの人にスポーツクライミングの魅力を届けたい! マーケティングパートナーとしての想い
2020年東京オリンピックの追加種目として、近年注目度が増しているスポーツクライミング。博報堂DYグループは、現在マーケティングパートナーとしてスポーツクライミング振興や認知度向上のため様々な取り組みを行っています。現在の担当者である博報堂DYメディアパートナーズスポーツビジネス局の佐治由佳、山内咲季、博報堂DYスポーツマーケティングの稲村彰映、歌川雄太に、これまでの取り組みについて、現状の課題、また今後の展望などについて聞きました。
担当者の「目利き力」で生まれたスポーツクライミングとの関係性。
博報堂DYグループが日本山岳・スポーツクライミング協会(JMSCA)のマーケティングパートナーになるまで
山内
2013年入社で、当初はメディアマーケティングの部署に配属されました。私自身もともとスポーツをやっていたこともあり、1年半ほど前に希望してスポーツビジネス局に異動しました。スポーツクライミング、フィギュアスケートをメインに、テニスや東京マラソンなどを担当しています。
佐治
私は大広から2008年に博報堂DYメディアパートナーズ所属へ移りました。最近ではインターハイ、箱根駅伝、東京マラソン等を主に担当しています。スポーツクライミングを担当するようになったのは2017年4月からです。
歌川
僕は2010年に博報堂DYスポーツマーケティングに入社し、現在はプロデューサーとしてスポーツコンテンツを活用したスポンサーアクティベーションだけでなく、ライツホルダー(競技団体や、リーグ、自治体等)主催のスポーツ大会、イベントの運営、プロモーションなどにも携わっています。入社から数年間はサッカーをメインに担当していましたが、これまで、スポーツクライミングを始めとし、自転車、バスケットボール、柔道、フィギュアスケート等海外コンテンツを中心に様々なスポーツに携わってきました。
稲村
私が博報堂DYメディアパートナーズに入ったのが2006年。当初佐治さんと一緒に箱根駅伝や日本陸上、マラソンなど陸上まわりの仕事に携わったほか、スキージャンプやスキーの世界選手権、スノーボードの展示会などのウインタースポーツ、世界柔道、トライアスロン、水泳、テニス、体操、新体操、格闘技、モータースポーツ、そしてインターハイなど様々なジャンルのスポーツコンテンツに関わりました。2012年に博報堂DYスポーツマーケティングに移り、Jリーグ関係やアスリートのキャスティング、野球代表関係Webサイト企画制作と運営、調査分析、歌川と一緒に自転車、そして新規事業開発など、多岐にわたる業務に携わってきました。
歌川
弊社とスポーツクライミングとの関わりが始まったのが2014年ごろ。大会のスポット協賛から始まり、2016年には、日本山岳・スポーツクライミング協会(当時日本山岳協会)が持つスポーツクライミングに関するコンテンツを博報堂DYグループで全部売っていくという、買い切りを始めました。その頃から当時の担当者は、スポーツクライミングの大会や競技自体にどのようにマーケティング価値を備えさせていくか、色々と検討していました。要はロゴや看板の使い方から、表彰式等の演出でスポンサーのブランド露出を図るなど、他のスポーツでは一般的なスポーツマーケティングの文化がまだ存在しない競技だったんです。そういう状況でしたので、僕らは自分たちにできる範囲内で、大会運営をお手伝いしたりしていたわけですが、ちょうど東京オリンピックの新種目の最終候補として残ったこともあり、メディアからの取材もどんどん入るようになっていました。何社も集まる取材でカメラをどう仕切っていくかなど、僕らが持つ知見からメディア対応についても簡単にアドバイスをしていたような状態でした。
稲村
そんななか、2016年4月、当時の担当者と歌川が共に海外出張で不在だったため、突然私がワールドカップの運営を任されることになったんです。正直かなりの無茶ぶりだなと思いましたよ(苦笑)。そこで私自身、初めてクライミングという競技にメイン担当として向き合うことになったのですが、歌川が言ったように、しっかりとしたコンテンツがあるにもかかわらずうまくマーケティング関連が回っていないことに気が付きました。そこで、ワールドカップ終了直後の5月、日本山岳・スポーツクライミング協会(当時、日本山岳協会)に「スポーツマーケティング」の考え方を取り入れる意義、可能性などについて、協会に話をしに行かせていただいたんです。そうしたところ、数カ月後には「一緒にやりましょう」と言っていただけて、12月にはマーケティングパートナーとして正式に契約締結となり、私自身は協会のマーケティング委員長という立場に就任しました。
佐治
仕事の成り立ちには大きく分けて二つあると思います。一つは会社が組織として様々な権利の獲得に動き非常に大きな関係性が結ばれるパターンと、もう一つはある一人の担当者が持つ「このスポーツは将来性がある、成長させたい、大きなビジネスになる」という強い意志や自信、目利き力、熱意から仕事が始まるパターンです。スポーツクライミングの場合は後者で、当時の担当者が持っていたスポーツクライミングに対する熱い想いが実ったと思っています。
次にこのスポーツが来る!というのを見極めるのは本当に難しくて、いくら「来る」と思っても、オリンピック競技や種目になったり、強い日本人選手がたくさん出てくるとは限りません。そういう意味で、最初の担当者の目利き力は素晴らしかったなと思うし、彼の想いをそのまま引き継ぐ形で、私たちも業務に専念しています。
僕らの役割は「翻訳者」。
競技の魅力を自分たちの言葉で、得意先や生活者に伝えていく
歌川
スポーツクライミングに関しては、スポンサー企業に対する「売り物」として成立させるために、僕らも一緒になって価値をつくりあげているという実感があります。すでに出来上がったものを仕入れて売るという、通常の業務とは少し異なる感覚ではありますね。たとえばオリンピックの最終候補として注目を集めたときも、メディアとのリレーションシップが成立していなければスポーツクライミングが露出もしていかないし、ニュースとしても扱ってもらえません。チャンスを逃すとビジネスとして成立しなくなる。スポーツクライミングの大会がここまで注目されていますよ、という実績があって初めて、売り物としてセールスにつながるんです。そのために僕らも大会運営のお手伝いからメディア対応までをお手伝いしてきました。
佐治
その結果ようやく2017年のマーケティングの成功につなげることはできましたが、今、売っていく内容として完全なのか、スポンサーの課題に応えられるものになっているかというと、まだまだ道半ばです。色々な方に協力をしていただきながら土台は少しずつ作れてきてはいるので、今後それをどうやって形にしていくか、実現していくかを考えています。
例えば今年新しくスポンサーに入ってくださったある企業の場合、スポーツクライミングの競技としての先進性、未来へ向けた可能性といった事を、感じ取ってくださる担当者の方がいました。実際私たちも何度も先方に通いながら、それこそ稲村、歌川にも同行してもらい、いろんな質問に対して一つ一つ丁寧に説明をするということを繰り返しました。スポンサーの声からも色々と気付く事もあって大事にしています。
役割で言うと、博報堂DYメディアパートナーズはコンテンツを作る、仕入れて、付加価値を付け、売ることで、売れたものに対して運営を行っていくのが博報堂DYスポーツマーケティングの役割です。でもこれらの役割は、実はそれほどきれいに切り離せるものでもありません。ある得意先に対してどんなアクティベーションを提案すればセールスが成功するかを、私たちも現場をよく知る稲村、歌川のようなメンバーと一緒に検討し、まとめあげてから提案へと進めています。会社は違えど、まさに一つのチームという感覚で仕事をしています。クライミングの現場に稲村、歌川の2人がいる事は圧倒的な安定感と安心感があって現場を託せます。それができるから、博報堂DYメディアパートナーズは新しいスポンサー開拓に進んでいけると思っています。
山内
また、スポーツ協賛をご提案する際にメディア露出というのもやはり大きな決め手になります。たとえば現場レベルでは良いと判断していただけても、最終的には上層部の判断で決まることが多いことから、役員の方々が見ていたテレビ番組や新聞にその競技が紹介されていたり、既に競技に関する露出データが蓄積されていたりすると最終決定の後押しになります。やはり、媒体選定と同様に、スポーツ協賛においても得意先に納得していただけるデータというものが決定の大きな鍵となっています。
稲村
そうした得意先が実際に大会を見に来るとなれば、私たちの言葉でわかりやすく競技を解説するということも行っています。また、ナショナルチームで帯同などすると、たとえば今年の競技課題のトレンドとか、調子のよい選手など現場の実情を交えて解説することもあります。時には協会の副会長でありクライミング界のレジェンドである平山ユージさんにも解説をいただき、表層的な話だけではない、そういった細かい見どころなどもお伝えすると、得意先のスポーツクライミングへの興味関心度が高まったりします。
私たち代理店の存在価値というのは、競技のエキスパートの方々と、競技について興味はあるけどどう楽しめばいいかわからないという人たちの間を取り持つ、いわば翻訳者であることだと思うんです。私たちはフロントラインにいて、生活者や現場の生の声を自分たちの言葉に翻訳し、お得意先だったりライツホルダーに伝えていく。責任も大きいですが、本当に貴重な経験ができていると思います。
歌川
そうですね。そして役員はもちろん社員の方にも、スポーツクライミングについてまずは知ってもらい、そして受け入れてもらえるよう、クライミングを体験してもらえる機会を設けるといったインナー対策も重要だと考えています。
それこそスポーツクライミングの魅力の一つでもありますが、普通の人たちが気軽に楽しめる、いわゆるdoスポーツとしても人気が高いわけです。一度体験していただければ、トップレベルの選手のクライミングを見た時にそのすごさを体感してもらうことができると思っています。
2020年以降、「金の卵」としての競技をどう育てていくか。
無限の可能性を追求していきたい
稲村
マーケティング委員の立場としては、大会が成功しメディアに載って生活者にスポーツクライミングの魅力が伝わることも大事ですが、選手が表彰台の真ん中に立つなどベストパフォーマンスで活躍してくれることが純粋に喜びですね。ワールドカップなどの世界大会で日の丸が掲げられたり君が代が流れるということは、なかなか経験できることではないですからね。ことスポーツクライミングに関しては日本人選手が世界で活躍する機会もすごく多くて、それがコンテンツの価値にもつながっています。前の担当者からはずっと「金の卵」だと言われてきたんですが、これまでは選手の活躍があまりフォーカスされてこなかった。そこをちゃんと設計立てていけば、競技や選手にしっかりと光が当たって、もともと持っている魅力が開花すると思うんです。これまでも怒涛の年月でしたが、これから2020年に向けても、さらに濃厚な時間を過ごし、結果としてスポーツクライミングの魅力が世の中に広がって行くんじゃないかなと思っています。
歌川
僕の場合は、やはりイベントをどういいものにできるか、大会をどう成功させるかという視点で見ています。クライミングの魅力が多くの人に伝わり、認知されることで、マーケティング価値も高まっていく。かつてはボランティアの方中心で運営してきて、観客も2~300人しかいなかったところから、スポーツクライミングの注目度も上がり、僕たちも運営に少しずつ携わらせてもらう中で、去年のボルダリングジャパンカップではついに代々木第二体育館のチケット1500枚が完売するまでになりました。
その間には、前述した大会運営やメディア対応におけるアドバイスはもちろんですが、たとえばテレビで中継するのに適切な競技のタイムコントロールだったり、音響や照明との連動だったり、こちらもプロとして、イベントとして総合的に価値を高めるためのサポートを行ってきました。そしてそれがこれまでクライミングを支えてきた競技団体やボランティアの方々への一方的な押し付けにならないよう、我々も現場の皆さんと一緒に汗をかいて、あくまでも共につくりあげていくんだという意識を大切にしました。最終的にマーケティングパートナーとして信頼していただける関係性が築けたのは、本当に嬉しいことですね。
稲村
スポーツクライミングの仕事をしていて感じるのは、自分がこの10数年ずっと携わってきたスポーツマーケティングの知識のすべてが、ここに集約されているということ。いままで身につけてきた知見のすべてをアウトプットできている実感があります。そしてそれが大会の観客動員数や報道露出量という形で可視化させていくことにも大きな喜びを感じますね。
歌川
ここ2、3年広報的な部分でもケアをしていて、メディアに対してクライミングの体験の場を設けたり、記者会見をやったり資料をつくったりということを積み重ねてきました。メディア自身がクライミングの知識がないと記事が書けませんからね。稲村は毎回世界中で大会が終わるとメディア向けに情報を丁寧に出していますし、それによって、オリンピック新種目としての表層的なニュースではなく、具体的に誰が勝ってどういう活躍をしたかということまで報じてもらえるようになる。
佐治
確かに新しいスポーツだからこそ競技の認知度も低くて、その良さを伝えるのは難しい。そこがセールス上の難しさでもあるわけですが、逆にこれからの新しいスポーツを、「色がついていない」からこそサポートし、未来へ向けて育てていくんだという姿勢のスポンサーも多いわけです。今後の競技の発展、普及の為、サポートしてくださる企業の為に、これから少しずつ、市場規模や認知度についてのより精緻な調査データを積み重ねていかなくてはならないと考えています。
山内
本当にそうですね。セールスの立場から言えば、まずはセールスシートをつくってそれを営業に理解してもらうことが最初のハードルで、その次は営業が得意先に持っていき受け取っていただくのが次のハードル、さらにそこから役員にいって……と、最終的にその競技をサポートしていただくまで、いくつものハードルをクリアしていかなければなりません。でも、そうしてスポンサーに競技を応援していただけることこそが、この競技の素晴らしさをより多くの人に知っていただくための大切なきっかけになる。それがわかっているので、難しい仕事ではありますが、売れた時の喜びはひとしおです(笑)。本当にやりがいのある仕事ですね。
歌川
そしてオリンピックに向けては、何と言っても日本人選手の層の厚みが注目ポイントになるでしょうね。オリンピック枠は男女20人ずつで最大2人ずつの出場枠しかないわけですが、こんなに表彰台に上がる選手が多いなか、一体だれが選ばれるのか見当がつかない。毎年1位になる選手がいつも勝てるわけではないですし、去年でいうと伊藤ふたば選手のようなニューヒロインが突然現れることもある。来年、再来年は誰がトップにいるかわからないといった状況も、スポーツクライミングの魅力になっていると思いますね。弊社としてキャスティングをお手伝いしている楢﨑智亜選手、野口啓代選手らの活躍にも期待していますね。そこに若い世代がどれだけ台頭してくるか、注目です。
稲村
いずれにしても、重要なのは、2020年以降だとも思います。現時点におけるスポンサーにとってのマーケティング価値については、いかに注目される大会にするかとか、どれだけの規模の大会に成長させるかといった視点なわけですが、それだけだとやはり限界がある。これから取り組むべきは、toCに向き合い、どうdoスポーツとしての人気を取り込んで施策に落とし込んでいくか、そのリーチによってスポンサーをどのように広げていけるかといった部分だと思います。その点では無限の可能性があると思います。
◆プロフィール
佐治由佳(サジ ユカ)
博報堂DYメディアパートナーズ
スポーツビジネス局スポーツビジネス1部 コンテンツプロデューサー
1994年大広、2008年博報堂DYMPに入社
入社以来約20年間スポーツビジネスに従事、主にアマチュアスポーツを担当。
最近の業務は箱根駅伝、インターハイ、クライミング、東京マラソン等。
山内咲季(ヤマウチ サキ)
博報堂DYメディアパートナーズ
スポーツビジネス局スポーツビジネス1部
2013年博報堂DYMPに入社
初任配属では、旧統合CDCに配属。
化粧品、通信、食品、教育、スポーツメーカーなど様々な企業のメディアプランニングを担当。
多段階制度を経て、スポーツビジネス局に異動。
現在の業務はクライミング、フィギュアスケート、テニス等。
稲村彰映(イナムラ アキテル)
博報堂DYスポーツマーケティング
アスリート事業本部 アスリート1部 兼 アスリート2部 プロデューサー
2006年1月博報堂DYメディアパートナーズ中途採用。スポーツ事業局にて、スポーツコンテンツ担当。
2012年1月博報堂DYスポーツマーケティングに入社し、スポーツマーケティングに従事。
2016年4月株式会社データスタジアムに兼務出向(~2017年3月末)
2017年5月公益社団法人日本山岳・スポーツクライミング協会マーケティング委員長就任
歌川雄太(ウタガワ ユウタ)
博報堂DYスポーツマーケティング
イベントプロデュース本部 イベントプロデュース2部 プロデューサー
2010年8月博報堂DYスポーツマーケティングに入社。
入社より、イベントの企画、制作、運営及びプロモーション等を中心に、スポンサーアクティベーションからライツホルダーの主催大会まで様々なスポーツを担当。
現在の主な担当競技は自転車、スポーツクライミング等。
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