コラム
メディア・コンテンツビジネス
デジタル化時代のラジオビジネス ~デジタル化に伴うラジオ局の変化
世の中のデジタル化が進み、生活者のメディア接触がインターネット、特にモバイルに集中していくなか、ラジオビジネスはどう影響を受け、変化していくのか――。シリーズ2回目のテーマは、「ラジオ局の変化」について。博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局 ラジオ部の大塚亜斗夢が、昨今のラジオ局のデジタル変容について、また広告会社の仕事の変化について語ります。
ラジオ放送局は、コンテンツプロバイダーへ
僕は2015年に博報堂に入社し、2017年から博報堂DYメディアパートナーズに出向、現在はラジオ局ラジオ部に所属しています。ラジオ放送局の番組制作そのものに関わったり、局の様々なビジネススキームを企画検討する業務に当たっています。
かつてラジオと言えば、ラジオ受信機や車のカーラジオで聴くという聴取スタイルが主流でしたが、いまはradikoやラジオクラウドなどの登場により、スマートフォンでどこでも簡単にラジオを聴ける環境が整っています。
まさにいま、メディアとしての「ラジオ」の概念が大きく変わりつつあるのだと感じています。
たとえば、ラジオリスナーというと40代50代以上のイメージが強いですが、最近は若者にもラジオを聴く習慣のある人は多く、朝のメイク中によくラジオアプリを利用するという10代20代の女性もいるそうです。視線はメイクに集中しながら、耳では人気お笑い芸人さんのトークを楽しむ。また通勤通学時間に楽しむという方も多く、場所や番組表に縛られることなく自分の生活スタイルに合わせたタイミングで好きな番組を楽しんでいる様子が分かります。
ラジオというメディアの捉え方が、番組表という枠組みの中の放送時間に合わせて楽しむというよりも、リスナーのタイミングに合わせて好きな時に好きな番組を楽しむ、純粋ないちコンテンツとなっているのではないでしょうか。つまりラジオ局が、マスメディアという立ち位置よりも、スマートフォンで利用できる様々なコンテンツのひとつである音声データを扱う、ひとつのコンテンツプロバイダーとしての立ち位置に変容しつつあるのだと言えると思います。
既存リスナーを維持しつつ、積極的に若年層を取り込んでいく
つい先日、とあるラジオ局の屋外イベントが、赤坂で2日間にわたり開催され、約16万人が来場しました。昨年度の同イベントの動員数は約9万人とのことでしたので、相当な増加となっています。なかでも特筆すべきは、来場者の年齢層です。僕もずっと現場にいましたが、若い世代が多いなという印象でした。いわゆるラジオ関連のイベントって、これまでは年齢層がある程度高い、いわゆる昔からのラジオファンが多く集まるイメージや傾向が実態としてあるわけですが、今回のイベントの場合はそこが明らかに違っていました。そこには近年、ラジオ局が若年層を取り込むための番組、コンテンツづくり、そして編成の改革に非常に力を入れてきたという背景があり、その成果がイベントへの来場層に実際に表れていたということだと思います。
「若年層のリスナー獲得に向けた施策」については、AM局、FM局に限らずいまや各局が取り組んでいることではありますが、今年はとくにそのような流れも多く、長寿番組を終了させる代わりにヒップホップアーティストをパーソナリティに据えたカルチャー番組をスタートさせたり、老若男女に人気なタレントを起用した番組をスタートさせたりしています。大胆な変革を行った結果、聴取率を維持しながら、リスナーの若返りを図っているというのが現状です。
ただここでおさえておきたいのは、各ラジオ局が年齢層の高いリスナーを完全に切り捨てようとしているわけではないということです。ラジオのひとつの媒体特性として、パーソナリティとリスナーの距離感が非常に近いということが挙げられます。
ラジオという音声メディアでは、テレビと異なり、自分に対して1対1で語りかけられているような感覚をおぼえ、そのためにパーソナリティとリスナーが非常に強い結びつきを持っていると言われています。そうした絆を長年にわたり築いてきたリスナー、ファンは他に代えがたいですし、彼らがいることで、いまも番組やラジオ局自体が支えられている側面もある。リスナーが支持する番組はしっかりと残しつつも、新たな風を積極的に取り込んでいこうということなのだと思います。
期待が寄せられる「新しいオーディオ広告の幕開け」
こうした背景と、前述の「ラジオ番組のコンテンツ化」の視点をふまえると、ラジオ局としていま必要なのは、業界内の限られたパイからリスナーを奪い合うのではなく、他の様々なコンテンツに勝てる「音声コンテンツ」をつくることだと考えます。
もともとラジオ局は非常に高い番組制作能力を持っていますし、長年パーソナリティをしてきたタレントさんたちとのしっかりした関係値も既にある。広告主企業が大物タレントを活用して、製品やサービスの訴求をしたいという場合に、ラジオ局が間に入るケースも増えてきていると思います。
良質なコンテンツを制作・提供する能力はすでにあるとして、残された課題が何かというと、上手なマネタイズの方法と、デジタル化に則した聴取状況や購買データなどの取得だと感じます。
マネタイズ面でいうと、博報堂DYメディアパートナーズが提供するラジオクラウドでも広告配信が可能ですし、radikoにおいても今年7月より、地上波とは異なるradikoオリジナルの広告を流せるようになりました。これは「新しいオーディオ広告の幕開け」とも言われていて、各方面から大きな期待が寄せられているところです。
データの取得に関しても、現在各局が様々なwebメディアやアプリとの提携を始めていて、元来ラジオが苦手としていた、広告効果やリスナー像の把握などに取り掛かろうとしている動きがあります。
また、広告物の制作・搬入のタイミングという点でもラジオは優れているんです。たとえばテレビでも雑誌でも、素材をつくるだけで非常に時間がかかるものですが、ラジオは極端に言えば5分で制作できてしまう。音を録って、バランスをとったらすぐに素材完成、というところまでいけますから。
かつてはMOというメディアを使って、広告素材をラジオ局に搬入していましたが、いまはRadi Pos(ラジポス)でオンライン入稿をしていて、入稿後に素材指示をすれば3日後には流れるという仕組みになっています。近い将来、素材さえ入れておけば、放送数時間前に指示をすることで素材を入れ替えたりといったこともできるようになると思います。webメディアのような即時性も備えるようになると考えられます。例えば、雨が降ってきたのでこっちの素材に換えるとか、社会的事件が起きてしまったので差し替えるなど、そのときどきの条件で柔軟に対応していけるようになるでしょう。
プラットフォームの境目がなくなる中、コンテンツの魅力で勝負をしていく
テレビや動画配信サービスなどにも言えることだと思いますが、いま、特に若いリスナーは「その番組がどこのラジオ局で制作されたものか」ということに対してあまり意識していないのではないでしょうか。そのラジオ局を気に入っているから聴くというよりは、純粋にひとつの音声コンテンツとしてこの番組が面白いから聴く、好きなアーティストがパーソナリティをやっているから聴く、という動機がほとんどだと思います。そうなるともはや、局の違いや、コンテンツを聴取するプラットフォームの違いは自然と淘汰されていき、少し先の未来では、何かひとつの大きな枠組みに集約される可能性もあるのではないでしょうか。
だからこそ、今後問われていくのは“コンテンツとしての制作物の魅力”になってくると思っています。広告会社のラジオ局担当としても、何よりラジオ番組のブランドを高めたいし、多くのリスナーを引っ張っていける番組作りをお手伝いしたい。ライバルはラジオ以外のあらゆるメディアなわけですから、僕自身も他媒体の知識やイベント周り、コンテンツ周りの知見を幅広く習得しながら、それらの制作コンテンツと戦って勝てるようなものをつくりたいと思います。そして、それができるのが僕たちです、と胸を張って言えるような未来をつくりたいですね。
■プロフィール
大塚亜斗夢
博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局 ラジオ部
2015年博報堂入社。営業配属を経て、2017年より博報堂DYメディアパートナーズ ラジオ局へ異動。地上波の放送に限らず、媒体社の様々な強みを活かしたソリューションプロデュースに従事。
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