コラム
メディア・コンテンツビジネス
広告会社の「エンタテインメントビジネス」 コンテンツプロデューサー座談会【後編】
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2018年、博報堂DYメデイアパートナーズに、新たにエンタテインメントビジネス局ができました。同局の中で活躍するコンテンツプロデューサー4人に集まってもらい、広告会社がどのようにエンタテインメントビジネスに関わっているのか、これまでの経験やこれからの展望などを語っていただきました。聞き手はエンタテインメントビジネス局の杉山豊(すぴ)。杉山が日ごろから尊敬しているという、山下真由子、細谷まどか、岩村真麻、鄭 守娟の4人を迎え、話を伺っていきます。

★前編はこちら

■広告会社が仲介するメリット

杉山
さて、みなさんのお仕事の内容を聞いたところで、次は広告会社としてエンタテインメントに関わることについて、もう少し深く探ってみたいと思います。
岩村さん、タイの放送局に日本のテレビ番組の販売をしたとき、なぜ放送局自身ではなく、博報堂DYメディアパートナーズが仲介したのですか?

岩村
通常、海外の放送局と日本の放送局は、番組のセールスは直接やり取りをしています。ただ、このときは、新しくできるタイのテレビ局ということで、日本のテレビ局側としてはいろいろな不安があったのだと思います。そこで、細かい交渉事も全て弊社がやりますということで仲介しました。また、番組を起点として360°展開を協働できる可能性や博報堂DYグループ現地拠点が抱える日系、ローカルクライアントとの立体的な展開ができる可能性なども仲介するメリットとして感じてもらえた点です。

杉山
それが、放送局と放送局の間になぜ広告会社が入るのかという問いに対するひとつの答えですね。

岩村
そうですね。契約書の作成や、日本のコンテンツホルダーから預かった作品の素材を読み込みパッケージ商品化します。タイ人にわかりやすいように番組に関する情報や内容を記載したセールスシート作成、トレーラー製作、それらを英語化するなど各作品を商品化して海外へ提案をしています。

細谷
岩村さんのお話のように、広告会社の仕事というのは、結局のところ“通訳翻訳業務”だと思っています。これは物理的な「言語」のことを意味していません。同じ日本国内であっても、メーカーとコンテンツホルダーでは文化や商習慣が異なります。そういう異なる領域にいらっしゃる企業や方々の間に入って、片方の希望をもう片方にとってもメリットになるよう翻訳しながらうまく着地させることだと。岩村さんが、放送局同士の間に入って調整しているのは、単に語学の問題ではなくまさにこれなのだと思います。間に入って調整できる能力が高ければ、私たちが必要とされる機会は増えるでしょうね。

山下
その翻訳機能って、意外とシンプルなことなのではないかなと思います。美術って専門家が、専門的に難しい話をすると、眠くなってしまうことがありますけど、違う角度で自分ごと化できるように説明するときちんと伝わって興味を持ってもらえるんです。
私自身が営業と一緒にプレゼンに行けないときに、彼らに展覧会の内容などをしっかり説明して伝授すると、次に会うときにはその展覧会や画家を俄然好きになってくれていて嬉しかったという経験を何度かしました。それこそ、2010年当時の社内では「フェルメールって何?」という人も多かったのですが、解説の切り口によって、こんなふうにもっと知りたいと思ってくれる人が増えるんだということを実感できました。私自身、いろんなところで板挟みになることが多く、自ずと変換能力がついたのかもしれません(笑)。

杉山
広告会社が間に入るというメリットは、そこにあるんでしょうね。


私が通っていた通訳翻訳大学院では、同時通訳士を育てるとき、医療や法律などさまざまな専門分野について、専門家は別にいるから深く極める必要はないけれど、全分野について広く浅くは知っておくべきだと教わります。専門家が何のことを伝えたいのかを理解して咀嚼して「伝わる言葉」で通訳する能力が求められるのです。そういう点では、広告会社も一緒かなと思いました。営業は広告会社の中でも一番広くいろいろなことをやらなきゃいけない立場でそれに似てると思ってましたが、博報堂DYメディアパートナーズに来たら、みんなそれぞれのジャンルに深みがある。深いからこそコンテンツホルダーに信頼される。コンテンツの仕事って、その人を信頼して任せるということが多いんだなと思うようになりました。

■広告会社への期待感に応える

山下
文化事業領域でいうと、美術を筆頭に、クラシック音楽でもオペラでも、観賞する生活者が固定化されているという危機感を持っています。だからこちらから何か協力させてくださいとドアをノックしたとき、期待の眼差しで迎えられることが多いのだと思います。彼ら自身、長く関わってきただけに、思いつくプロモーションの手法がマンネリ化しているという自覚があるので、だからこそ博報堂DYグループならなにか楽しいことを考えてくれそうという期待感をいつも感じます。そういう役割や仕事をより積極的につくっていくべきなのだろうなという使命を感じてもいます。

杉山
先日、山下さんと話していてなるほどと思ったのは、SNS時代のいま、みんながうんちくを語りたがるときに、美術展はうんちくを語るのにものすごくいいコンテンツだということでした。「怖い絵展」あたりから変わってきましたよね。たとえば、この画家には妻と愛人の間にドロドロとしたものがあって、だからこの絵はこう読み解けるのだとか。ムンク展で言えば、有名な「叫び」の絵は、川の音が叫びであり、右側の人物は耳を塞いでいるのだとか。
エンタテインメントビジネスで手応えがあると思うのは、生活者がネタを求めているということです。得意先が普通のメディアではないところで何かをやりたいときに、何かネタがあるというのがエンタメのビジネスになってきているなと。

山下
いま、美術展では押し付けがましくなく作品の楽しみ方を提示してあげると、俄然話題が盛り上がるという流れがあります。みんなが、新しい知識や周りが知らない裏ネタを求めているのだと思います。これまでは作品に関する芸術性ばかりが語られすぎました。それよりも、作品が描かれた当時の時代背景や作家の想いなどを語ると、みんなが“自分ごと化”してくれるという流れが顕著になってきたと思います。美術展が知識欲のある人にとって、手軽に体験できるものとして需要が高まっていることを逆手にとり、SNSのようなプロモーションでより積極的に仕掛けていくのはありだと思います。

杉山
細谷さんは、この映画はあたると思って手がけるのですか、それともこの映画ならクライアントがつきそうだなと予想して取り組みますか?

細谷
映画会社ではなく、“広告会社”である当社が“映画”を“ビジネス”としてやる以上、両方の視点が必要だと思います。BtoB=得意先のためになること、BtoC=一般の方に喜んでいただけること、という2つの視点があると思いますが、「この作品はBtoCを軸に考え、BtoBがあまり見込めないとしても取り組むべき事業である」という判断をすることもあるし、「BtoCはチャレンジ度が高い企画だけど、BtoBで広がりがあるから進めよう」と判断するときもあります。ただ広告会社としては、BtoBに受け入れてもらいやすい作品をBtoCで進めればダブルで収益性が高くなると思います。
これはあるアーティストのマネージャーさんの言葉ですが、「僕たちがタイアップしたいのは時代なんです」と。それによって、アーティストにとってどれだけ面白い広がりが生まれるかということを重視しているのだと思います。だからつねにwin-winをつくらなければという感覚は持っています。

山下
文化事業領域でいうと、広告会社はいい刺激になる存在ではあるのかなと思います。つまり、クラシック音楽もオペラもバレエも美術も、知識のある人が偉い、というような文脈に陥りやすい傾向にありますが、私たちのようなその界隈だけに留まらない視点を持っている存在があったほうが、凝り固まりすぎずいいのかなと。ただ、文化事業領域では、ここがとても重要なポイントですが、なにか問題を解決してくれそうという存在であり続けるためには、当然同等の知識なり、対等に語れる経験のあることが大前提になります。つまり信頼をしてもらえているかという事が大切です。

細谷
ある映画のプロデューサーが言ってくれた言葉が頭に残っているのですが、テレビやインターネットなどが媒体化すると、メディアはすべてが競合になり、どこにとっても敵じゃない組み先となりえるのは広告会社だと。そうすると今は私たちにとって、チャンスなのかなと思え、とても嬉しい言葉でした。

岩村
コンテンツセールスを行う際に、自社コンテンツではないので、お客様から広告会社経由で販売をする意義を問われることがあります。自社(薄利な完パケ販売で終わらずにさまざまなプロモーション展開の可能性(ECやマーチャンダイジング)や博報堂グループが抱えるクライアントとの立体的な展開ができることをメリットとして感じていただています。コンテンツビジネスを更に拡大するためには、自社コンテンツを増やせば新たな収益源が得られますし、ビジネスチャンスの創出もできるかと思います。これからは自分たちのIP(知的財産)をもっと増やすことも必要かと考えます。


広告会社の大元は、クライアントビジネスのために存在するのだと思っているので、エンタテインメントビジネスを手がけるときもそれを意識しないといけないかなと思います。その観点からいうと、博報堂のコンテンツビジネス室の先輩から聞いてとても印象的だった言葉が、「データはマイナスをなくして、コンテンツはプラスを生む」ということです。なるほどなと思いました。データとコンテンツと掛け合わせて相乗効果をつくっていかなくてはならないのではないかと。
それから、自社コンテンツをつくるという点では、コンテンツは継続しないと信頼されないので、パワフルなコンテンツホルダーにいつでも入れてもらえるように、体制を整えておかないといけない。今日集まったみなさんはコンテンツのプロですが、広告会社自体はコンテンツ業界ではゼロからつくるという点でまだまだ素人じゃないですか。すべてをゼロから始めるのは、あまりにリスクが高すぎるとも思います。強いコンテンツホルダーと、いかにコラボレーションできるかを工夫しながら続けていく必要があるかもしれませんよね。

■世界に向かって仕掛けていきたい

杉山
では最後に、皆さんに今後のコンテンツビジネスでの夢をうかがいましょう。


グローバルな仕事がしたいですね。私にとっては、日韓の仕事はグローバルではないので(笑)、ハリウッドかブロードウェイとか行きたいですね!今はまだ夢ですけど。でも、すぴさんを始めここにいらっしゃるみなさんと何か大きい夢を一緒に叶えたいですね。

山下
最近、仏像など和物の展覧会が伸びてきており、次は「浮世絵から読み解く江戸の食」という切り口に特化して今新しい企画を作っているところなのですが、仏像も浮世絵もその流行は国内からではなく、海外からの評価が始まりです。今の大きな目標は、日本人が有名でも有名じゃなくてもいいから、自分の目で自分の好きな作品を見つけられる土壌をつくりたいということです。とくに自国のアートを語れる日本人を、もっと増やしたいという思いが根底にあります。きっかけさえあれば好きなものがより明確になると思うのです。その土壌づくりに少しでも貢献できるような仕事がしたいですね。

岩村
現業からすると、東南アジアのビジネス展開が多いのですが、今後は欧米に向けて日本の優良なコンテンツを紹介できたらという気持ちがあります。
先日、カンヌで開催されたMIPCOM(ミプコム=世界最大規模の国際テレビ番組見本市)に初めて博報堂DYメディアパートナーズとして出展したのですが、自社コンテンツが少なくて寂しい思いをしました。増えればコンテンツホルダーから仕入れるばかりではなく、グローバルに対応できる自分たちのIPを、みなさんとつくっていけたらなと思います。

細谷
自分がクリエイターとしても、プロデューサーとしても活動できるのが私の強みであり、同時に弱さであると感じています。会社にいるとプロデューサーとしていろいろ動くことはできるけれど、クリエイターとしての出番はどうしても少なくなっていきます。でも、社外活動も含め、ここから10年、この2つをバランスよく育てたい。それは自分にしかつくり出せない世界が確立できなければ、プロデューサーとしても生き残っていけないと思っているからです。
これまで皆さんの話を聞いてきて、それが海外に通じるものにまでなればもっと嬉しいですね。

杉山
みなさん夢がビッグでうれしい(笑)! 担当しているコンテンツがひとつの文化で、それをなんとかしたい、大きく育てたいという思いがみんなの中にあるんですね。

細谷
大きくしていきたいのは、お金にしていきたいからですよね。コンテンツへの愛情ももちろんあるけど、ビジネスとして大きくしていかなければ、継続できませんから。

山下
ビジネスとして大きくしていかなければという点ですが、私も共感します。大学時代、演劇をやっていたときに、当時小劇場演劇の支援をしていた企業に協賛金をもらいに行ったのです。本当に小さな劇団だったのですが、よく協賛してくださったなと思います。そのときに協賛金があったことで、できることとやりたいことが大きく広がったという経験がありました。入社後、利益を上げられなくて苦しんだ時期もありますが、お金があることで解決するということを自身で経験しているし、よく見てきてもいる。だから、お金に関する意識は実は強いと思います。

杉山
この局がエンタテインメント局ではなく、エンタテインメント“ビジネス”局たる所以は、まさにそこなんじゃないかなと思います。お金が回っていかないものには生活者は集まらないし、良くなっていかないですからね。
この4人に集まってもらった甲斐がありました。たくさんの気づきをもらいましたし、みなさんもお互いにそうだったかと思います。これからもますますの活躍を期待しています。

前列左から、エンタテインメントビジネス局 山下真由子、細谷まどか。後列左から、鄭 守娟、杉山豊、岩村真麻

 

■プロフィール

杉山豊(すぴ)
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部

 

山下真由子
エンタテインメントビジネス局 ビジネス開発部
1999年博報堂入社。役員秘書業務を経た後、2004年博報堂DYメディアパートナーズ設立時から現在に至るまで十数年エンタテインメント部門に所属。主に美術博物展・舞台(演劇・ミュージカル)・コンサート等の富裕層コンテンツの企画開発プロデュース・キャスティング・実施運営制作・スポンサーカスタマイズ等、幅広くライブエンタテインメントジャンルのビジネスに従事している。

 

細谷まどか
エンタテインメントビジネス局 ビジネス開発部
2000年博報堂入社、2004年経営統合に伴い博報堂DYメディアパートナーズへ。04年『ドラマーシャル』、05年『フィッティングアド』、06年『オヤジズムCM』などを企画プロデュース後、映画に活動の場を移す。スタジオジブリを担当。主なプロデュース作品は『あしたの私のつくり方』(07年)、『サラリーマンNEO』(11年)・『ボクたちの交換日記』(13年)、『WOOD JOB!~神去なあなあ日常~』(14年)・『金メダル男』(16年)。

 

岩村真麻
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
2013年博報堂DYメディアパートナーズ入社。海外のHDYグループ各社の基盤構築のためのビジネスプラン、新規事業開発、コンテンツ領域拡大といった業務を推進。コンテンツビジネス領域拡大に向け、東南アジアにおいて日本コンテンツセールスを推進など現在も海外案件の対応を担当。

 

鄭 守娟
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
2013年博報堂入社、営業局にて外資から大手ドメスティックブランドまでの制作担当として実務経験を積み2017年博報堂DYメディアパートナーズコンテンツビジネスセンターへ。各コンテンツのクライアントセールスから現在は展示、舞台、映画などのアソシエイトプロデューサーとして名高い先輩の方々の下で修行中。

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