コラム
メディア・コンテンツビジネス
広告会社の「エンタテインメントビジネス」座談会・第2弾【後編】
2018年、博報堂DYメデイアパートナーズに、新たにエンタテインメントビジネス局ができました。同局で活躍する人たちに話を伺う企画の第2弾。今回も聞き手はエンタテインメントビジネス局の杉山豊(すぴ)です。杉山が同部署の中でも“ニューウェーブ”と感じている、松本詠子、竹田裕人、川合 英、長島志歩、小原裕貴に話を聞きました。
★前編はこちら
■広告会社でエンタテインメントに関わる人に必要なこと
杉山
エンタテインメントビジネスに関わる人材の資質について感じることはありますか。
竹田
僕がいろいろやってきて思うのは、広告会社でエンタテインメントに関わりたいと考える人にとって大切なことは、3つあると思うんです。
1つは広告に関する知見。自分自身でAtoZができるか、もしくはできる人を知っていること。
2つめはマネタイズの感覚。たとえばクライアントが一億円の出資をしたとき、いくらプロモーションで使い、どのくらい券売し、うちがどのくらいの利益を得るのか、そして自分の可動費をどう考えるか。
3つめが特定なジャンルのプロフェッショナルであること。たとえばレコード会社や映画会社の方々は、高校生くらいから専門的にやっている方がたくさんいて、そういった方々と同じくらいそのジャンルについて話せないと仕事になりません。ただし、あまねくというのは難しいかなと思うんです。だから、特定のジャンルでいいからプロになることが大切だと感じます。
僕の話をすると、日本の広告会社の社員の中ではダンスミュージックについては僕が一番くわしいと思います。だから音楽レーベル各社から新しいダンスミュージックのアーティストのプロモーションがしたいとか、興業をやりたいときには、必ず自分のところに話がくると思っています。こういう立ち位置をどうやってつくるのかというところなんじゃないかなと思います。
1つめの話に戻ると、ある案件のときには川合くんにストラテジックプラニングをお願いしましたし、映画の案件では、長島さんにディレクターをお願いしました。こういうふうに互いの良いところを生かして組んで仕事ができるのが、他のコンテンツの制作会社ではできない、博報堂DYメディアパートナーズのいいところだと思います。
川合
まさにそういうことだと思います。僕は異動してくる前に、2010年から博報堂DYメディアパートナーズと博報堂が毎年共同で行っているコンテンツに関する大きな調査(コンテンツファン消費行動調査)を担当していました。異動後はその調査データをコンテンツホルダーに対する提案などに活かしています。競合他社にはない優位性もあるので、こうしたデータを活かすことは1つのポイントになると思います。
長島
エンタテインメントやコンテンツに対する愛がなければいけないと思います。今はファンのコミュニティも強くなっているので、表面的な仕掛けや言葉はすぐに分かりますし、信頼してもらえない。広告会社の人間がちょこんと入って仕掛けたところで、わかっていないと言われてしまいます。ちゃんと愛をもって、深掘りして関わっていかなければいけないんです。もちろん、すべてに精通する必要はないと思いますが、これだけはというものを持っていないといけないでしょうね。
杉山
コンテンツ側としっかり話せる関係性をつくることも重要なのではないかと思います。松本さんは担当されているコンテンツ側のキーマンからよく相談を受けているそうですが、この点はいかがですか。
松本
たまたま、ちょうどいいところに私がいて、言いやすいと思っていただいているのかもしれません。何か聞かれたときは、必ずすぐに回答します。返事をしても、「考えます」ではダメなんですよね。その場でやれるのか、やれないのかを即答することも大切ですし、できるかどうか最大限手を尽くしてみることも大切だと思います。コンテンツサイドの人は自分の知恵をさらに大きくしてくれる人を探しているなと感じます。だから、何か考えついたとき、そのことについてすぐに返事を受け取れることが大事なのでしょう。だから、即答が必要になるわけですが、基本的には営業職と全く同じスタンスですよ。
竹田
僕は、今、松本さんがいった、「たまたまいる」ことがすごく大事だと思うんですよ。実のところ、そこに「たまたまいる」わけがないんです。僕は、どのフェスティバルにも、どのクラブにも行きます。DJをしているからだし、好きだから行くんですけど、そこで顔を合わせた人が「今度相談に乗ってよ」ということなんていくらでもあります。たまたまじゃないんですよ、必然なんです。だから、話がくるんです。実際、仕事先で会社の名刺を出すと「松本さんどうしている?」って声をかけられることも少なくないですからね。感度が必要なところだと思いますが、必要なところに必ず顔を出しておくということです。営業では当たり前のことかもしれませんが、エンタテインメントビジネスに関わるなら、すごく重要なことだと思います。
松本
少なくとも、関わるエンタテインメントのことが好きだったり、なにかやりたいことがあったりしないとダメですよね。それに長島さんが言ったみたいに愛も必要だと思います。でもまずは一生懸命、相手の要望に応えるという姿勢なんじゃないでしょうか。
竹田
僕ね、うちの会社が大好きなんですよ。いろんな人がいて、こんなことやりたいと言ったら誰かが聞いていてくれる。僕はここでもっとエンタテインメントビジネスをやっていきたいし、その先頭になるのは、うちの部署だということに自信をもってやっていきたい。そのうえで言いたいのは、エンタテインメントは“当てる気概”がないとダメだということです。
僕が得意とするダンスミュージックは、この10年で大きな波が来ています。当てるなら今しかないんです。本気で当たるダンスミュージックのフェスティバルをつくろうとしています。
■今注目しているエンタテインメント
杉山
今注目しているのはどんなことですか。
竹田
マーケットとしては、東南アジアがくると思います。仕事の関係でアジアに行くことが多いのですが、先日ベトナムのホーチミン市に行ったとき、スタバでおしゃべりしながらコーヒーを飲んでインスタグラムを利用する子たちを見ました。ミャンマーでも、カンボジアでもそうです。圧倒的にエンタテインメントが少ないので、そこに日本がどんなふうに仕掛けていけるのかと考えています。こうした地域にはEDM(エレクトロニック・ダンス・ミュージック)のマーケットがあるのですが、同じアジア人だからこそ、どんなプロモーションができるかという話を聞いてもらえるという土壌ができているので、これからが楽しみというところですね。
松本
確かにタイやシンガポールなどはおもしろいんだろうなと思います。タイにはBNK48がいますが、タイに行って現地の人に言われたのが、彼女たちは国民的な人気があり、かつての日本のピンクレディのようなムーブメントになっているということです。この話を聞いて、もしかすると、タイではこれからかつての日本が経験したような芸能関係の盛り上がりが起きるかもしれないなと。そうなると、かつて日本を風靡したような音楽番組が大きな盛り上がりを見せるかもしれないなとも思います。
竹田
ヒットは今よりさらに細かいものがたくさん出てくると思います。音楽配信サービスに個人でも音楽をアップロードできるようになって、レコメンドされればいろんな国で再生されるので、もっと個人からの発信が増えるのではないでしょうか。なんとなくつくった曲が100万回再生になって、ヒットするみたいなことが増えてくると思います。ただ、それゆえにテイストメーカーが必要にもなるでしょう。大手のレーベルじゃなくてもテイストを決めるレーベルが必要になってきます。それにテレビ局やラジオ局などでは、明快なセレクションができる人間が重宝されるようになると言われています。
長島
私は、いろいろなサービスにレコメンド機能が備わりすぎていて、たまに嫌気がさすことがあるんです。たまには意図しないモノやコトに出合いたいなと思うことがあります。街を移動するとマンガを拾い読みできるアプリがあるんですが、私の趣味や志向とまったく関係ないものが出てくるので、面白い出合いがあるなと思いました。コンテンツとの出合い自体にエンタメ性をつくることも面白いんじゃないかと思っています。
川合
変化が早くて、エンタテインメント的には面白い時代ですよね。映画ではNetflixでしかやっていない「ROMA/ローマ」がアカデミー賞にノミネートされていますが、たぶん、受賞しても劇場公開はしないでしょう。こんなふうにコンテンツの枠にとらわれない発想が必要になっていくでしょうし、いいところを取り入れて新しいものをつくっていくことが求められるんでしょうね。広告会社としては、どう価値を提供していくかになるわけですが、そこに乗り遅れてはいけないなと思います。
■もし50億円を自由に使えるなら
杉山
さて、ではそれぞれに50億円預けるから、好きに使っていいよと言われたら、何に使いますか。
川合
僕はエンタメ関連のアプリサービスをつくってみたいです。世界中に点在するエンタメコンテンツ好きを熱狂させられる様なサービスが作れないか日々妄想しており、形にしていきたいと思っています。
小原
会社として何かに注力していくという話であれば、専門的なところを買収して組織化するほうがいいと思います。たとえばファンクラブ運営会社やチケット販売会社というのもひとつの候補かもしれませんね。広告会社のノウハウを生かすこともできるでしょうし。
松本
私も小原くんと同じく、専門的なところをなにか買収するかなあ。ただその前にきちんと未来設計図を描いてから、その設計図に見合うプロが集まっているところを買収するべきだと思います。ファンクラブは一例ですけど、もう少し資金があるならレーベルごと買ってしまうとか(笑)。50億では無理ですけど。
あと、人を育てるという観点では全員野球をして達成感、成功体験を味わうということが大切だと思うので、たとえば30人位のチームをつくって、映画でも絵画展でもミュージカルでもコンサートでもダンス公演でも、博報堂DYグループオリジナルの大きなコンテンツを、グループ員だけで全員野球で1からつくってみる。たとえ初めてだろうと、失敗に終わろうと、そこから得るもの、引き継がれていくものは非常に大きな価値があると思います。
長島
ファンにとっての“夢のプロジェクト“のような事をやりたいです。コンテンツを手掛ける会社としてのテントポールとして、そういう取り組みが出来る会社なんだ、と国内外の人たちに目を向けてもらうきっかけに出来れば、会社的にも長い目でみて費用対効果があるのではと。私個人的には好きなハリウッドスターを集めた映画が観たいですが、50億では絶対につくれません(笑)
竹田
50億だったら、音楽フェスのアジアパシフィック地域の権利を買いますね。これ、本当に買える規模ですよ。さっきは東南アジアの話をしましたが、インドもこれから来ます、確実に。だからその前にインドでの権利を買うというのもありですね。日本では開催数が少ないのであまり実感できないかもしれませんが、アジア各地では音楽フェスはかなり開催されているので、利益も見込めるはずです。
杉山
興味深い意見をたくさんいただきましたし、僕自身、とても刺激になりました。今回はお互いに連携していることもよく見えた座談会だったと思います。これからもそれぞれの長所を生かして活躍してください。
■プロフィール
杉山豊(すぴ)
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
1987年博報堂入社。セールスプロモーション、デジタル、コンテンツ・ビジネス、クリエイティブ畑を歩み、2010年から博報堂DYメディアパートナーズに新設されたクリエイティブ・チームに所属。現在メディア起点の広告コンテンツの開発に取り組む。新聞広告が好きと公言し、また映画ライター「杉山すぴ豊」名義で雑誌に映画レビュー等を多数寄稿。
松本詠子
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
博報堂で営業職経験後、エンタメ局(当時EBU)へ。舞台・映画などを経験後、博報堂DYメディアパートナーズ設立とともにエンタテインメントビジネス局へ。筆頭プロデューサーとしての芝居、コンサート等事業展開が中心。韓流スターのファンクラブ・ドーム公演やKPOPアイドルのコンサートも手掛け、国内アイドルグループの立ち上げ等にも従事。
竹田裕人
エンタテインメントビジネス局 ビジネス開発部 プロデューサー
CM、テレビ・ラジオ番組、イベントのプロデュースから、海外アーティストのブッキング、音楽フェスティバルや商業施設のブランディングやPR業務まで担う。広告の分野以外でも、名古屋芸術大学特別講師やこれまでにFM大阪、愛知、新潟などラジオパーソナリティとしても活動し、幅広い視点からの施策実施を得意とする。
小原裕貴
エンタテインメントビジネス局 グループビジネスデザイン部
2003年博報堂入社、営業局にて大手飲料メーカーや通信、トイレタリー等のクライアントを担当し、2018年に博報堂DYメディアパートナーズのエンタテインメントビジネス局へ。
コンテンツホルダーと協業したコンテンツ開発やクライアントセールス等、コンテンツプロデュース業務を従事。現在は「e-sports関連」,「Mリーグ」等を担当。
川合 英
エンタテインメントビジネス局 ビジネス開発部
博報堂に入社後ストラテジックプラニング職として、流通、航空、有料衛星放送、レジャー関連のコンテンツ企業など様々なクライアントの広告プロモーションの戦略立案、及びマーケティング・コンサルティング業務に携わる。2017年11月より現職に。博報堂グループで毎年実施しているコンテンツファン消費行動調査などを始めデータをプラニングに活かしつつ、コンテンツを軸にした広告プロモーションの企画・実施、事業開発に取り組む。
長島志歩
エンタテインメントビジネス局 映像コンテンツ開発部
映画会社で広告営業、ライセンス営業などを経験後、2017年に博報堂DYメディアパートナーズに入社。配信サービスやテレビ局と連動したコンテンツの製作、プロモーション等を中心にエンタテインメントビジネスに従事。主な担当作品はGYAO!「私のAIする王子様」、ABCテレビ×GYAO!「KBOYS」など。
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