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麻雀プロチーム戦「Mリーグ」の初代覇者・赤坂ドリブンズに聞く、ビジネスチャンスとチーム運営【後編】
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2018年7月に発足した麻雀プロリーグ戦こと「Mリーグ」。数多の麻雀プレイヤーからトッププロが選抜され、オーナー企業がサポートする7チームによって争われます。初年度の熱戦を制したのは博報堂DYメディアパートナーズがオーナーの「赤坂ドリブンズ」でした。

初代王者となった「赤坂ドリブンズ」ですが、そもそもなぜ、広告会社である博報堂DYメディアパートナーズがMリーグに参入することになったのでしょうか。その背景やチーム運営の取り組み、今後の展望などを、監督を務めた博報堂 コンテンツビジネス室の越山剛と、チームのフロントメンバーとして活動する博報堂DYメディアパートナーズ エンタテインメントビジネス局の小原裕貴に聞きました。

★前編はこちら

試合前の1時間で部室に集合、休日にも振り返り

──赤坂ドリブンズとしてのよくある一日は、どのように過ごしますか。

越山
レギュラーシーズン中は試合が夜19時から始まります。選手は17時に試合会場入りの予定になっているのですが、赤坂ドリブンズは「部室」と読んでいる会社近くの雀荘に16時に集まり、まずは練習と意識共有をするために一局交えます。そこで気持ちをすり合わせてから会場入りするようにしていました。このルーティンをしているのは、僕が見聞きする限りは赤坂ドリブンズだけでしたね。

──試合後もまた部室へ?

越山
試合が終わったあとは、だいたいみんなで飲みに行きます。まずはミーティングして、その日の試合で考えたことや反省点を共有します。お酒がなくてもいいんですが、試合後でお腹も空いていますし、会議室で向かい合ってもシリアスになりすぎるので。毎回決まった居酒屋で、糖質制限をしているおじさんたちでハイボールを飲みながら話しています(笑)。

園田さんの公式ツイッターより

飲みながら、ひたすら麻雀の話をして、ちゃんと帰る。園田(賢)は平日、会社員としての仕事があるので、次の日も朝起きて出社。村上(淳)や鈴木(たろう)は試合のビデオを見直したりするのを繰り返しています。

試合がない日は、僕の自宅などに集まって、他のチームが対戦しているところを見たり、自分たちの試合の映像を振り返ったり。麻雀の1ゲームは、用語では「1半荘(ハンチャン)」といいますが、だいたい1時間から1時間半ぐらいです。それを4時間ほどかけて、それこそ一手ずつ検証しながら、その手の正しさについて議論していくんです。

──赤坂ドリブンズが大切にする「期待値」の高め方(※前編参照)にも通じますね。

越山
Mリーグは7チームに21人のプロ雀士が所属して試合をしますが、Mリーグ独特のルールもあります。大きなところでは、公式大会では採用されてこなかった「赤牌(※)」入りです。だからこそ、みんなが最適解を持っていないこともあって、プロにとっても手探りなところもあります。

つまり、Mリーグのチームの歴史は横並びで、Mリーガーとしては条件も同じ。ある意味、広告の競合プレゼンよりもフラットな状態でスタートできているゲームにおいて、僕らは負けたくないという思いが強くありました。

※赤牌とは、自身が得点したときに持っているとボーナスポイントがもらえるドラ扱いとなる赤色をした牌。赤牌が常時入っていると得点が高くなりやすく、ゲーム全体のバランスが大きく変わる。

──小原さんが担当されるフロントの役割は、どういった担当になるのでしょうか。

小原
日々の選手の活動やチームマネージメントに関しては監督に任せますが、そのベースになる環境作りです。部室の準備やチーム運営予算の管理などです。また、Mリーグ自体もできあがったばかりで、それぞれのチームスタッフによって「リーグ運営」についても作り上げていく段階です。7チームにはそれぞれオーナー企業7社が付いていますが、それぞれにビジネスマンでもあるフロントが携わっており、各チームから集って協議をしています。

──Mリーグそのものの運営にも関わられていると。

小原
そうですね。初年度はスタートして、走りながら決めていく形でした。必ず月1回、7社で集まり、合議制で決めて進めています。リーグの試合形式やドラフト会議、ファンクラブの組織化、グッズの制作や販売戦略、ECサイトの整備、リーグ全体のプロモーション、協賛企業へのアプローチなどは僕らで検討しています。

※Mリーグオフィシャルサイトより

──リーグ運営でいくと、マネタイズやビジネス展開も、まさにこれからといったところでしょうか。

越山
リーグとしても、チームとしても「これから」ですね。とはいえ、実際は1年も経っていないわけですから、それほど慌てることもないのでは?と、個人的には捉えています。

麻雀を「見る」楽しみを喚起。パブリックビューイングも人気

──MリーグはAbemaTVで全試合を配信されたのも特色の一つです。配信初期から終盤にかけて反響の変化はありましたか?

越山
想像よりも大きかったです。視聴者数だけで見ても、終盤では5分以上見ている1日あたりユニークユーザーが17万。シーズン開始初期では1試合当たり10万ユニークユーザーでしたし、リーグ中はずっと右肩上がりでしたから。結果だけ見れば、まずはMリーグとして認知され、視聴されるファンを増やせたといっていいでしょう。少なくとも、平日の夜時間帯で、それだけ麻雀が注目を集めていたことはありませんから。

小原
あとは「パブリックビューイング」も人気でした。バルーンを手にして叩きながら、麻雀を見て、みんなで盛り上がるといった楽しまれ方は新しかったですね。みんなで一つの画面を見ながら歓喜に湧いている姿には、ポテンシャルを感じました。

※AbemaTV Mリーグ放送より

越山
麻雀は基本的に「する人」と「見る人」がほぼ合致します。一方で対照的なのはフィギュアスケートやF1で、プレーする人と見る人はほとんど重なりません。それが、麻雀はこれまで「する人」がほとんどで、「見る人」という受け皿がなかった。運営委員会がパブリックビューイングや生配信を設け、「見る人」が一喜一憂して声を上げる文化を作れたのはすごい。

Mリーグのパブリックビューイングとして用意している会場のキャパシティは、現在では最大でも300人ほどですが、全ての試合で有料チケットが売り切れています。

小原
来場者としては30代が最も多いというデータがあります。思ったより若い年代が来ていますね。女性も全体の35%で、実際のプレー人口よりも比率は高い。

※出典:Mリーグパブリックビューイング来場者アンケート

越山
赤坂ドリブンズの選手たちも、女性ファンからファンレターや差し入れをもらうことがあって、おじさんたち3人は喜んでいますよ(笑)。

小原
パブリックビューイングが終わったあとに、選手とファンとのふれ合い時間を設けているんですが、そこでも列ができて、みんなで写真を撮ったりサイン会をしたり。

越山
今っぽいタッチポイントの作り方ではありますよね。そういう仕組みもすごくいいのかな。撮った写真や感想が、ファンのTwitterなどを通じて拡散していきますから。そのあたりのマーケティング施策についても、僕たち博報堂DYグループをはじめ、電通さんも入られてますから、一緒に運営している知見が生かされているのでしょう。

6月下旬にはディナーショウも開催される。

赤坂ドリブンズの“IP”としての可能性

──赤坂ドリブンズとしては勝利で魅せていく一方、「博報堂DYメディアパートナーズ」としては、どのようにMリーグビジネスを盛り上げていく考えですか。

越山
麻雀が「する人」と「見る人」が重なる稀有な競技だということを与件として捉え、この人たちが満足する何かを提供していくことがマネタイズの基礎になるはずです。

たとえば、「する人」をターゲットにすれば、「赤坂ドリブンズの麻雀の打ち方」といった知識や技術の提供は、Mリーグビジネスの収益可能性の一つでしょう。やはり、前例となるヒントとしてはゴルフですね。過去長きにわたって雑誌メディアで、最近だとネットを通じてレッスンや映像教材の販売などを手がけていました。

とはいえ、そのためにはチームとして強くなければ説得力、商品価値が生まれません。赤坂ドリブンズは、現在のところ唯一の優勝チームですし、うまくビジネスにも変えていきたいと思っています。

──スポーツとしては健全な稼ぎ方といえそうですね。

小原
eスポーツにも携わっている経験から感じるのは、「する人」と「見る人」の重なりでいえば、eスポーツも近しい点があります。eスポーツもこれまでのゲーム業界につきまとってきた「オタクっぽい」「子どもの教育に悪い」といったイメージを変え、健全で知的なスポーツである流れを作ってきました。eスポーツも世の中が変わりつつあり、それに賛同する企業も増えてきています。

Mリーグに関しても、時間はかかると思いますが、同じように変わっていけるはずです。いずれは、マーケティングの材料として麻雀を活用してもらうようになれたらいいですね。ゴルフのプロとアマチュアの関係性に近しいですが、麻雀も同様に企業とプロ選手が交流する機会を作るなど、可能性はいろいろあるんじゃないでしょうか。

──麻雀のマーケティング活用について、どういった点に生かせる余地がありそうですか?

小原
シニアターゲットのスポンサーであれば、「健康麻雀」を軸にしたイベントやキャンペーン開催はすぐに思いつくところですよね。ファンの年代層も幅広いですから、ゆくゆくは若いファンがさらに増えていければ、そこをコアターゲットに攻めるときの施策としても活用できるのではないでしょうか。さきほどは女性ファンの話もありましたが、20代や30代女性は、データ上でも肌感としても多いようです。

越山
企業相手のBtoBビジネスを考えると、企業において決定権を持つ人たちにとっては、麻雀は「社会人としてのコミュニケーションツール」として嗜まれてきたものだと思います。浸透度の早さはeスポーツと比べても早いかもしれません。

僕としては、60代や70代といった元気なシニア層を取りたいところです。他チームはそれぞれの考えがあると思いますが、赤坂ドリブンズとしてはそこを狙いたい。それこそ巣鴨を選手が歩いたら「ドリブンズだ!」って言われるくらいに(笑)。シニア層に人気なタレントさんとタッグを組めたらいいですね。広告会社として、ちゃんといいところに目をつけて、戦略はつくっていきたいです。

──正しく「赤坂ドリブンズ」が博報堂DYグループにとってのIPになり、ビジネスに利活用されていく。それは一つの強みになりそうです。

越山
チャンスは多いです。それも「期待値」の考え方の一つとして、60代や70代に愛されるチームになる戦略は、僕も仮説として持っています。そもそも博報堂が広告会社ですから、アイデアの一つに赤坂ドリブンズを含めてもらい、麻雀に限らずイベントやキャンペーンなどに絡めた提案をできたらいいですね。

生活者向けでなくても、クライアントの中には麻雀部や麻雀愛好会を持つ企業もありますから、そこで赤坂ドリブンズが試合できれば、クライアントとの関係性がより強固になるかもしれない。そういった意味でも、赤坂ドリブンズというIP(知的財産)は、様々に展開できるポテンシャルがあると考えています。

赤坂ドリブンズの美学を磨いて、来シーズンへ

──次なるシーズンも優勝が目標とは思いますが、ぜひ意気込みを聞かせてください。

越山
麻雀の面でいえば、赤坂ドリブンズの打ち方が戦術トレンドとして、各チームにも波及しているように感じています。たとえば、サッカーでも4バックやハイプレスなど、時々によって研究と実践がされ、流行もありますよね。ただ、僕らとしては、その潮目をちゃんと見極め、最も期待値が高い最適解をブレずに求めていこうと、選手たちとは話をしています。優勝はしましたが、そこからは逃れられないかなと。

──それこそ優勝インタビューで鈴木たろう選手が「“僕ら”の麻雀は(勝負を)オリるとしても得するように厚かましく打つ」と、“赤坂ドリブンズの打ち方”を話していたのが印象的でした。これまで個人で麻雀を打ってきたことを思うと、大きな変化ではないかと。

越山
「美学」の捉え方が変わってきたのでしょうね。日本の文化からすれば「負けるときも堂々と負ける」と考えるかもしれませんが、赤坂ドリブンズは負けるときでも「ちょっとでも得する」ように考えます。ポイントを少しでも稼ぐ、もしくは対戦相手の着順を操作し、相対的な得を稼ぐ。「潔くなく、あきらめ悪く、本当に美しくなく」負けるチームです(笑)

たしかにこれまでの文化においては美しくない負け方であっても、われわれはそれを美しいと思っています。0.1%の勝てる可能性まで突き詰めるのがプロであると考えていますから、そういう姿勢を崩さずに臨めればいいですね。

──まさに1年かけて作ってきた「赤坂ドリブンズの美学」に磨きがかかると。

越山
それに、やはり博報堂DYグループとしても初のオーナープロチームですから、社員に対しても結果を出す責務があると捉えています。その点でも、後ろ指をさされるような戦い方をしていたら、勝ち負けのポイント以外にも影響する可能性がゼロではないとは思っています。本業においてもクライアントが見ていたり、麻雀ファンの方がいらっしゃったりするでしょうから。

赤坂ドリブンズも「博報堂DYグループは最後まで仕事をしっかりする」「合理的で賢い施策を選択する」といった会社としてのイメージを背負っていかなければならないと考えます。「麻雀チームが強い会社」って、僕は個人的にはいいなって思うんです。知的であり、勝負観があるイメージは、プラスですよね。

 

■プロフィール 

越山剛
博報堂 コンテンツビジネス室
1996年博報堂入社、営業局にて大手食品メーカー、精密機器メーカーを担当し、2000年に博報堂DYメディアパートナーズのスポーツ事業局へ。ゴルフトーナメントの企画・運営、イチロー選手のマネジメント事業を担当。その後、ビジネス開発局でメジャーリーグのライブ動画配信事業を起こし、2015年に博報堂コンテンツビジネス室へ。現在は世界初のインターネット動物園事業を、日本全国の動物園と協業中。

 

小原裕貴
博報堂DYメディアパートナーズ
エンタテインメントビジネス局
2003年博報堂入社、営業局にて大手飲料メーカーや通信、トイレタリー等のクライアントを担当し、2018年に博報堂DYメディアパートナーズのエンタテインメントビジネス局へ。コンテンツホルダーと協業したコンテンツ開発やクライアントセールス等、コンテンツプロデュース業務を従事。現在は「e-sports関連」,「Mリーグ」等を担当。

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