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THINK ABOUT CREATIVITY 須之内元也 連載コラムvol.2_ユカイ工学 青木俊介CEOを訪ねて
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須之内元也がクリエイティビティについて考える「THINK ABOUT CREATIVITY」。初回の公開から重い腰をあげての第二回。ゲストはチームラボ、pixivの立ち上げに参加し、その後ユカイ工学株式会社を創業した青木俊介さん。「ロボティクスで世の中をユカイにする」というテーマを掲げ、ユニークなコミュニケーションロボットを世に送りだされている青木さんを訪ね、クリエイティビティとは何かについて語りました。

広告会社のクリエイターは視野が狭い!?

須之内
今日は、クリエイティビティについて青木さんとお話しできればと思って伺いました。僕、もともと広告会社のクリエイターってダサいところもあるなと思っていて(笑)。リスクを背負って何かをクリエイションしているわけではないのに、カッコつけてるじゃないですか。でも世の中にはいわゆる“クリエイター”とは呼ばれていなくても、よっぽどクリエイティブな仕事をしている人がたくさんいる。そういう方々のお話が、いま広告業界でクリエイターと呼ばれる人たちにはいい刺激剤になるんじゃないかと思ったんです。視野が広がるっていうか。

青木
そうなんですね。僕が須之内さんと知り合ってからもう4、5年になりますが、一貫してそう言われていますよね。

須之内
はい、ずっとそう思ってるんです。青木さんと初めてお会いしたのが、「DeAL(Device Act Lab.)」という社内プロジェクトのラボでしたよね。広告会社が自分たちでものづくりにトライしてみようというもので。そもそも僕らはものづくりの勝手がわからないので、青木さんに相談に行ったのが始まりでした。IOTという言葉もまだ浸透していない、3Dプリンターさえまだ珍しかった頃。新宿の、男子なら間違いなくドキドキするようなガレージスペースにオフィスがあった。

青木
すごいボロいところで(笑)。あのプロジェクトでご一緒した方々とその後も仕事が広がっていったので、とてもありがたいなと思っています。

須之内
あのときも、ユカイ工学のチームの皆さんが全員とても個性的で、すごく落ち込んだんです。皆さんに比べて広告会社の人間の僕はなんてつまらないんだろうと思って。

青木
いやいや、僕としては逆に心配してたんですよ。こちらは空気を読むとかが苦手で、しゃべりたいことを勝手にしゃべるというタイプの人間が多いから(笑)。


DeAL(Device Act Lab.)で一緒に開発した「Paby」
ベビーモビールとスマ―トフォンを介して、遠隔で親子がコミュニケーションをとることができる。

子どもの感覚が一番信頼できる

須之内
青木さんが考える、クリエイティブな人ってどういう人でしょうか?

青木
僕は、身体知にカギがあるような気がしていて。クリエイティビティにはまず一目で驚きを感じさせる能力が必要だと思うんですが、それって身体的なものからくると思うんですよね。たとえばダンスなんかそうですが、面白いなと思うときって、その人の動きを見て面白いと感じている。そしてその動きは、素人でも誰でも面白いと思えるような動きをしている。クリエイティビティがある人って、そういう身体感覚に優れた人が多いような気がします。

須之内
それって広告会社の人間には足りない気がする。アイデアとか企画を考える感覚は磨かれていても、実際にものを生み出すための身体感覚があるかというと……。手を動かす、ということにもつながりますか?

青木
そうですね、「手が考える」とも言いますからね。でもたとえ、もともとそういうセンスがある人でも、形にするまでの基礎的な能力はやはり必要ですから。両者の掛け算のような気はします。それから、形になるまであきらめないハート。

須之内
確かに、ものづくりは期間も体力も時間がかかる。あきらめてしまいがちですからね。そういう能力って、後天的に身につけていけるものなんでしょうか。

青木
身につけられるものだと思いますよ。水木しげるさんだって、妖怪により近づくために毎晩青山霊園に散歩に行っていたという話ですから(笑)。やはり努力されている。

須之内
さすがですね(笑)。青木さんのこれまでの体験でいうとどうですか?クリエイティビティを発揮するために必要なものは何か、実感されることなどはありますか?

青木
うーん、やっぱり子どもにはかなわないなって。僕たちが当たり前と思っている人間社会の想定とかを一切無視しているから。だから信頼できる。子どもの視点って、一番クリエイティブのヒントがあるような気がしますよ。

須之内
確かに。そういえばこないだうちの子がダンゴムシを握りつぶしていたんですが(笑)、手についた紫色っぽい体液を見て、「パパ、なんでダンゴムシの血は赤くないの?」って。「赤くないのか……、パパそれは知らなかったな」としか言えなかった(笑)。だって考えたこともなかったですもん。

青木
すごく正直なんですよね。「これつまんない」とかも遠慮なく言うし。

須之内
僕のつくった広告もたいてい子どもにはつまんないと言われます。売れなさそうとか(笑)。

青木
それはグサっときますね(笑)。でもだからこそ、喜んでくれたらすごく嬉しいですよね。以前小さいお子さんから「BOCCOありがとう、あおきさんだいすき」っていう絵入りの手紙をもらったことがあって。あまりに感激したので額に入れて飾ってありますよ。こういう喜びのフィードバックは嬉しいです。

須之内
それはいいですね。何よりもモチベーション上がりますね!

ものづくりに欠かせないストーリーづくり

須之内
いまユカイ工学さんのチーム構成はどうなっていますか?

青木
全部で17、8名所属していますが、7割方がエンジニアです。プロダクトデザインはもちろんですが、基本的にはグラフィックも全部社内でやっています。一つの技術を深堀りするというよりも、どちらかというと幅広く、いろいろな施策が得意な人が多いかもしれません。あと、基本的に手を動かすこと、アウトプットするのが好きな人が集まっています。仕事のはずなのに、ふと気づくと全然関係ないのをつくっているとか(笑)。作品を個人で発表しているとか、ネーミングを考えたりチラシをつくったり……そういうのが好きで、センスのある人が理想的ですね。

須之内
オフの日でも工作をしちゃってるとかですよね。確かにユカイ工学さんにはそういう方が多いような印象です。それから、ロボット開発にあたっては、やはり人間生活について考えることが基本だったりしますか?そういう視点がないと生活に密着するものをつくるのはきっと難しいのではないかなと思うんですが。

青木
本当にそう。おっしゃる通りです。人間のことを観察し、考えて、製品に落とし込むという作業が必要です。これは実は小説を書くことと似ているのかなと最近考えているんです。

須之内
おぉ、面白いですね。ものづくりが、物語をつくることと表裏一体ということですか。

青木
そうですね。僕たちがものをつくる過程って、まずはストーリーがあって、そこにうまくはまるピースを探すという作業だと思うんですよ。もちろん「Wao!」の部分、見た目の驚きというのは必要ですが、それだけでは実際に使ってもらえないんですよね。そもそも、皆いまはそんなに物を必要としてないじゃないですか。家電でも、いまあるもので一通りなんでもできるんですよね。でもパンがモチモチになると聞くと、ちょっと高いトースターも買いたくなる。以前須之内さんとご一緒したプロジェクトで、実はそこが一番勉強になったんですよ。

須之内
本当ですか!それはありがとうございます。確かに広告会社は、そういうストーリーとか、人間生活のことを考えるのは得意分野かもしれないですね。プロダクトが、その性能を超えて何をもたらしてくれるのか、そこに共感するようなストーリーがないと、人は振り向かないし買いたいとも思わないですからね。

ロボットの究極は昆虫!?

須之内
いま特に注目している分野とかってありますか?

青木
生き物はすごく面白いなと思います。自然界には実は最強の生き物っていないじゃないですか。チーターだって速く走るのに注力してるから、走り終えるとすごいバててしまって、せっかく仕留めた獲物を横取りされちゃったりする(笑)。強みと弱みが裏返しなんですよね。プロダクトも一緒で、何かひとつ、すごい機能に特化して生存競争を生き残ろうと頑張っているような。

須之内
それすごい面白いですね。

青木
特に虫は面白いと思いますよ。たとえばハエは、二枚のうち一枚の羽の機能を捨てて、センサーとして使うことで、水平移動ができるようになっているとか。そういう生存戦略みないなものにグっときます。あとは単純に、虫ってまるで工芸品みたいにきれいじゃないですか。

須之内
そうですよね。つくろうと思ってもあの形はつくれない。機能と造形が一体となってあの形になっている。もしかして、ロボットの究極はそこですか?

青木
僕はそう思っています。人の造形も、やはり虫にはかなわないですよ。究極のAIをつくると人間ということになりますが、それって自分のおかんがもう一人できるのと同じことで。しょせん人間だから、あまり面白くはない(笑)。

須之内
確かに人間型ロボットよりも昆虫型ロボットの方がワクワクしますよね。そもそもユカイ工学さんは「ロボティクスで世の中をユカイにする」と謳ってらっしゃって。知り合った当時それを見て、すごいなと思った。まだそういう需要が世の中にも感じられなかったから……。

青木
そうですよ。当時は「ロボット?趣味のサークル活動でしょ?」という反応が多かった。でもおかげさまでようやくロボットが市場でもここまで注目されるようになって。自分としては、砂漠で長いことさまよっていたら車が通りかかった、くらいに嬉しい状況(笑)。

須之内
完全に時代が追い付いてきた感じですよね。これからもワクワクするようなものづくりをしていってください。僕も楽しみにしています。今日はありがとうございました!

【対談後記】
青木さんが「ロボットをつくるのは小説を書くのと一緒」と言っていたのが印象的でした。僕も、広告会社の事業領域が拡張していく中で、「ものがたりとものづくりの融合」にこそ、新しいチャンスがあるんではないか、と考えていたこともあって、ものづくりの第一人者である青木さんの発言が偶然にもシンクロしていて驚きました。
最後に、僕がお手伝いをさせていただいている「au未来研究所」に関連してちょっとした宣伝を・・・!今、期間限定で、IOTシューズをはいて親子で楽しむ体験型迷路「FUMM ADVENTURE」を、よみうりランドさんとのコラボレーションで開設・運営しています。実はコレも、ユカイ工学さんにも開発にご協力いただいているんです。IOTシューズとスマホが連動し、ストーリーを読み進めるように迷路をめぐっていく-。そんな“ものがたり”と“ものづくり”が融合したようなアトラクションになっています。ぜひお近くにお越しの際はご体験いただければと・・・!

★体験型迷路「FUMM ADVENTURE」★


開催期間:2016/10/ 8 (土)〜2016/12/ 25 (
日)
場所:よみうりランド「グッジョバ!!」エリア内
料金:500円(税込)※2人1組 ※別途よみうりランドの入園料が必要 ※ワンデーパス、ひよこパスの利用可
年齢制限:4歳以上 ※要保護者もしくは中学生以上の方の付き添いが必要です。
靴のサイズ:16〜20cm ※靴を履き替えてお楽しみいただくアトラクションです。

■プロフィール


青木俊介

ユカイ工学CEO
東京大学在学中にチームラボ株式会社を設立、取締役CTOに就任。翌年東京大学工学部計数工学科卒業。2007年鷺坂隆志と共にロボッティクスベンチャー・ユカイ工学LLC設立。2008年、ピクシブ株式会社の取締役CTO就任。登録ユーザー1200万人のサービスを立ち上げる。2011年、ユカイ工学を株式会社化。グッドデザイン賞審査委員。スマホと音声メッセージやテキストメッセージのやり取りができたり、子どもの帰宅を知らせてくれるロボットBOCCOをはじめとする自社製品や、企業各社との連携でさまざまなコミュニケーションロボットを企画、開発している。


須之内元也

博報堂 統合プラニング局 兼
博報堂DYメディアパートナーズ メディア・コンテンツクリエイティブセンター
クリエイター・オブ・ザ・イヤー・メダリスト(2015)受賞。ACC TVCMシルバー/MEゴールド、アドフェスト・インタラクティブ・ゴールド、カンヌ・サイバー・ブロンズの他、TIAA、電通賞など受賞歴あり。手がけた「ワンダーコア」が日経トレンディ・DIMEのヒットランキング2冠達成。最近の主な仕事に、「オークローンマーケティング ワンダーコア」「爽健美茶 国民投票」「ファンタ×ゴールデンボンバー 謎解きキャンペーン」「KDDI au未来研究所」「パナソニック Wonder Kabuki Theater」など。

【関連情報】
THINK ABOUT CREATIVITY 須之内元也 連載コラムVol.1「スノウチなりのクリエイティビティ」ってなんだ??

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