コラム
メディア環境研究所
CES2017レポート(前編) ~変わるインターフェース~
加藤 薫メディア環境研究所
今年も、全米家電協会(CEA)主催で米国ネバダ州ラスベガスにて行われた「Consumer Electronics Show(CES)」に取材に行ってきました。CESは家電新製品のお披露目の場として知られており、今年が50回目の開催となる非常に歴史があるコンベンションです。ここ数年は家電のみならず、テクノロジーを使った製品やサービスを幅広く扱い、車メーカーやスタートアップ企業までもが多数参加する世界最大級のコンベンションとなり、その一年の業界トレンドを示唆する場として、業界内外の熱い注目を集めています。
「つながる、わかる」から「(実際に)できる」へ
CESの潮目が変わったと言われる2015年は、IoT(Internet of Things )というキーワードがフィーチャーされ、会場内は「インターネットに繋がった製品群」であふれていましたが、この2年間で、会場の様子は大きく様変わりしています。IoTという言葉は分解されて、「モノ+AI」の組み合わせで、如何に実際の生活者の毎日に作用するところまで、「サービスを設計できているか」を各社が競う状況となりました。
たとえば、睡眠まわりのサービスを例にとりますと、過去の2015年は「(単に)つながる」=「インターネットに接続したスマート枕で睡眠時間を計測するような製品」が、2016年は「わかる」=「枕と、クラウドに接続したアプリで睡眠質を総合診断するサービス」、といったものが目立ったのですが、2017年の動向としては「(実際に)できる」ということがポイントになってきています。今年のInnovation Awardを受賞したあるベッドメーカーからは、入眠や起床支援(灯り・香り)、イビキ防止のために枕の片側が持ち上がって強制的に寝返り打ちまで行うプロダクト&サービス群へ、といった形のかなり手厚いサービス提案がなされ、プレスの注目を集めました。これは睡眠まわりに限らず、全体的な傾向です。すなわち、企業が生活者に提供する価値が、「つながる」「わかる」だけでは物足りなくなり、「実際に何ができるか」が求められるフェーズに突入しつつあると言えるでしょう。
変わるインターフェース
画像1. ユーザーインターフェースの歴史CES2017 Amazon社セッションにて筆者撮影
実際に生活に作用するという点において、新しい展開を見せたのが、「音声によるインターフェース」です。Voice of computing, Voice control, Vocal computingなど、Vで始まるキーワードが会場展示やセッションのあちこちで目立ちました。その中で圧倒的な存在感をみせていたのが、Amazon社です。「(画像1)」はAmazon社のセッションで発表していたものですが、UIの歴史をひもとくと70年代までが文字で、80年代がグラフィックユーザーインターフェース、その後ウェブ、モバイルがきて、今まさにボイスユーザーインターフェースというのがきているのではないかということを強く言っています。Amazon社の主張のファクトにあるものは、いったい何でしょうか?
Amazon社のAmazon Echoという端末は、ご存知の方も多いかと思いますが、もともとは2015年の夏に米国で発売となった音声コントロールのスピーカーです。公式発表はありませんが、様々なアナリストの方が推計するには、現在500万台から600万台くらい普及しているということです。ただ、Amazon Echoを単なるスピーカーと捉えるのは早計だったことが、今回のCESで判明しました。ボイスユーザーインターフェースのファクトを担うのは、Amazon Echoに内蔵されているAIのAmazon Alexaだったのです。
冷蔵庫に「お水、買って」と話すと、モノが届く未来
Amazon Alexaの拡張性を印象づけたサービスとして、最もプレスやアナリストをうならせたのは、LG社が発表としたAmazon Alexa搭載の冷蔵庫です。この冷蔵庫に、“Alexa, I’d like to buy sparkling water(アレクサ、お水、買って)”と話しかけると、ECのカートに商品が入り、そのまま届いてしまうというサービスです。Amazon社は以前より、「PCやスマートフォンの画面を介さずに商品が買える機能」を提供してきました。日本では昨年年末にサービスがスタートとしたAmazon Dashもその一環ですね。私も実際に利用していますが、ボタンひとつで届くというのは非常に簡便ではありますが、「発注感、買った感」ともいうべきものが若干薄い印象を持ちました。一方で、しゃべり言葉に出してAIに何かをお願いするというインターフェースは、家族に話しかけているかのような自然さで、モノを買ったという感覚がはっきりします。生活のなかで身体性をもって根付き、実際に作用するサービスとしての可能性が感じられるものと言えるのではないでしょうか?
Amazon Alexaは「Skill」と呼ばれるソウトウェアをインストールしていくことで、その機能を拡張していきます。「Skill」はスマートフォンにとっての「アプリ」のようなものです。上記のEC機能以外にも、Amazon Alexaを家とつなぐことで、照明のオン/オフ、窓の開閉などのスマートハウスまわりでの拡張や、車につなげば、車載エンタテインメントや、車にいながらにして家の中をコントロールできることを謳う自動車メーカーとの連携など、CES2017の会場のそこここに「Amazon Alexa」搭載サービスが発表されていました。その数は約700製品とも言われ、「音声コントロール」という新しいインターフェースのサービス群の中で、大きな存在感を放つ状況となりました。
「音声コントロール」という新しいインターフェースの領域には、Amazon社以外にも多くのプレイヤーが参入しようとしています。 (画像2)
画像2. 各社の音声コントロールデバイス
レポート後編では、こうした新しいインターフェースが台頭、普及していくことで、モノづくりを含めた産業構造はどうなっていくのか、そして、その中で生活者のメディアやブランドの体験はどうなっていくのかについて、お話していきたいと思います。
【関連情報】
CES2015レポート「インターネット化する生活空間」(前篇) ~ CESから考える、IoTの定義とは? ~
CES2015レポート「インターネット化する生活空間」(後篇) ~ IoTサービスの今後 ~