コラム
メディア環境研究所
10代がメディアに求めるものとは? TVerとTikTokから読み解くティーンとの向き合い方 @メ環研プレミアムフォーラム2023冬
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若者のテレビ離れが度々話題になることもありますが、メディア環境研究所が行った調査では「実は若者ほどテレビ番組が好き」という事実も見えてきました。なかでも、学校生活をコロナ禍で送った10代のメディア生活はかなり特徴的です。

2023年12月4日(月)に開催した、メディア環境研究所プレミアムフォーラム2023冬では、「イノベーターティーンのメディア生活」と題し、若者に支持される2つのプラットフォームの事例から10代との向き合い方を探りました。

未来のメインユーザーに対し、メディアがすべきアプローチとは? ゲストスピーカーはTVer取締役の薄井大郎さんとTikTok for Businessの駒﨑誠一郎さん、モデレーターはメディア環境研究所の山本泰士GMです。

10代が支持するメディアが見たイノベーターティーン像

TVerにおける10代の特徴・特性は?

山本泰士GM(以下、山本):我々は若者ほどテレビ番組が好きという事実に注目し、関連する調査を行ってきました。すると、10代の35.2%が「TVerを見ることが習慣になっている」とわかりました。これは他の年齢層に比べて非常に高い比率です。

山本:詳しく見ていくと、彼らはSNSで話題のドラマをTVerで追いかけて、最終的にリアルタイム参入したり、「ヒマだな」と思ったらTVerで見たい番組を探したりしていたのです。

このような行動をとるティーンの特性や特徴をTVerではどう見ていますか?

薄井大郎さん(以下、薄井):TVerにおけるティーンは利用者数の中で全体の8~9%ほどと日本の人口構成比とほぼ同じです。しかし、TVerの認知率や利用意向はティーンが最も高く、特にティーンの女性に絞ると認知率は9割近くなり、利用意向も一番高いのが特徴的ですね。

山本:「視聴への熱心さ」というエンゲージメントではティーンがもっとも高いということですか?

薄井:そうです。TVerでは多くのドラマの1~3話を常に公開していますが、それを知っている方も、見たいという方もティーンの比率がもっとも高いです。「SNSでドラマが話題になってから見たい」というティーンの欲求に応えられているんじゃないかなと思います。

山本:SNSからの追いかけ視聴が増えている中で、ティーンがいち早くビビッドに反応しているということですか?

薄井:そうですね。やはりティーンは情報感度が一番高く、動きが早いと思います。

TikTokにおける10代の特徴・特性は?

山本:今、イノベーターティーンの間ではTikTokのアルゴリズムに興味がないことを学ばせたり、アカウントをあえて1回消して新しいことを引き寄せるという行動が起きていました。10代に使いこなされているTikTokから見た、イノベーターティーンはどうでしょうか?

駒﨑誠一郎さん(以下、駒﨑):私はTikTokをSNSというよりも、エンターテインメント動画プラットフォームと位置づけています。ユーザーの平均年齢は36歳で上の世代も結構いて、動画視聴だけでなく化粧品から不動産までありとあらゆる業種の商材が売れる場でもあります。

現在、ユーザーが急増し、コンテンツの多様化が進んでいますが、その根幹を成しているのが、超パーソナライズドされたレコメンドシステムです。このシステムにより興味が顕在化しているコンテンツだけでなく、潜在的に興味があるコンテンツまで届けられます。

これまでにない未知との情報と出会えるようなったのですが、まさに10代の情報のたどり着き方がレコメンド中心になっていますね。

山本:レコメンドされる動画はユーザーが作成したものですか?

駒﨑:そうです。我々の世代は、調べたいものを自分で検索するのが当たり前でした。でも、より多くの情報があふれる現在、ティーンにとってはむやみやたらにダイブして情報を取りに行くということ自体がリスクなのでしょう。

フェイク情報をつかまされたり、要らぬネット上の争いに巻き込まれて傷ついたりするようなことを防ぐために、テクノロジーを通して信用できる自分に合う情報を得ようとしているのではないかと思います。

また、「タイパ(タイムパフォーマンス)」という言葉もあるように、限られた自分の時間を大切にし、QOLを高めるために選りすぐりの情報を得たいという欲求が出ていると感じています。

駒﨑:私は日本のティーンの特徴・特性のひとつに、センシティブさが挙げられると考えています。仕事柄、海外の子ども達の現状も見聞きしますが、シリコンバレーにいるような自己表現、自己主張の強いタイプと日本のティーンは全然違いますね。

そんな彼らの生態を理解するのにうってつけなのが、TikTokのトレンド大賞です。

駒﨑:今のティーンへの理解を深めるために、TikTokトレンド大賞の中から「#お前今日何したんだよ」を紹介させてください。これは何かうまくいかない日常を鼓舞するような動画につけられたハッシュタグで1億回以上再生されています。類似の動画がどんどん作られ、幅広い世代に広がりました。

元ネタとなったshaneさんの投稿

山本:元ネタからかなり変わりつつ、かなり面白いですね(笑)。

駒﨑:見ていると元気が出ますよね。テクノロジーを使いこなし、ささやかな自己肯定や自己表現楽しんでいるのが今のリアルな10代の姿だと感じています。

10代がメディアに求めているものは?

コンテンツ選びでもタイパを重視

山本:サービスを展開する上で10代ユーザーを意識したときに、TVerで重視していたり気をつけたりしていることはありますか?

薄井:今、TVerではドラマのダイジェスト特集を意識的にやっていて。各ドラマの1話や前半部分のダイジェストを一覧で並べています。

薄井:タイパを重視するティーンには、ダイジェストや予告をまとめて見たいという強いニーズがあります。短い動画をどんどん見ていって、先の展開が気になったり、話題になっていたりしたら本格的に視聴する様子が見えます。

山本:「予告まとめ」とは、今クールのドラマの予告編をまとめているということですか?

薄井:そうです、短い予告を一気に見られる形です。またTVerでは放送局を横断し、名作ドラマを年代別・ジャンル・俳優という切り口でまとめた特集もやっています。過去作に対する視聴意欲は、全体では60%ほどであるところ、ティーンでは9割に達しています。切り口を見せることの効果を感じていますね。

山本:メディア環境研究所の調査でも「なぜTVerを見ているの?」と聞いたときに、ティーンでは他の年代に比べて「選びやすい」が多くあがっていました。ものすごく情報量がある中で、TVerが選ぶタイパを効率的にしているのではないでしょうか。

薄井:テーマの切り口には、話題になっていたり、面白いと思ってもらえることをとても意識しています。

過去にキャンプに関する番組をまとめた特集を組んだとき、ある現象が起きました。よく見られていたのはバラエティー番組やドラマではなく、超人気の探偵が活躍するアニメ番組 だったんです。要するに、作中の事件は結構キャンプ場で起きていたんですよ。こういう見られ方があるのかと、我々もすごく勉強になりました。

山本:いかに気になってもらい視聴してもらうか、その入り口をたくさん考えているということですか?

薄井:そうですね。それをレコメンドという形で提供しているのがTik Tokさんだと思います。TVerでもレコメンド機能を強化しているところではありますが、「こういうふうにまとめたら興味を持ってもらえるんじゃないか」と人力の企画にも注力しているのがTVerなんだと思います。

デジタル空間でも疲弊しない居場所づくり

山本:TikTokが10代ユーザーに対して重視していることはなんですか。

駒﨑:攻めの部分では、好奇心の解放です。ルールをガチガチに決めるのではなく、ティーンの創造性をいかんなく発揮できる「遊び道具」を提供しつづけることですね。例えば、エフェクトハウスという、初心者から試せるARのエフェクト作成ツールをローンチしましました。人気漫画のキャラクターをフィーチャーしたエフェクトの作成などもしています。

守りの部分ではデジタルウェルビーイングです。ティーンは接触する情報量が圧倒的に増えたことで、その分傷つくことも増えています。デジタルスペースの中で精神を疲弊させないで、安心できる居場所作りがプラットフォームのミッションだと思います。

駒﨑:一例を挙げると、TikTokでは全世界の10代ユーザー共通でデフォルトで1日の視聴時間を60分に制限しています。またダッシュボードの親子間共有のほか、悩みを専門家に相談をできる環境づくりにも積極的に取り組んでいます。

キーワードは「つながり」と「寄り添い」

山本:ではメディアやブランドがこれから社会へ出ていく若者たちにもっと面白がってもらえたり、使ってもらえるために、私たちは何をすればいいのでしょうか?

薄井:私は、ダラダラ流れているだけのストリームがひとつの切り口になる気がします。今、アメリカで流行っているFAST(Free Ad-Supported Streaming TV)のように、例えばドラマだけがダーッとずっと流れている形態ですね。ちょっとテレビっぽいですけれど、スマホアプリを開いた瞬間に何かが流れている、そこで未知のコンテンツに出会ったり、これ面白いかもと見てもらえる可能性が出てくるのではないかと思います。

山本:「自分の好きなものがずっと流れていて新しいことも知れる」という意味では、推しの文脈ですごく強そうですね。

薄井:またティーンを対象にした調査では「つながり」というワードがよく出てくると思います。今のTVerには、お気に入り登録機能があるので、例えば、そのお気に入りが他の人にも見えれば「この人のお気に入りって何だろう」とコミュニケーションが図れるようになり、つながりができる。それは面白いのではないか?と思っています。

駒﨑:確かに少しプライベートな部分が見えるとすごく気になります。僕も薄井さんがいつもどんなものを見ているか興味があります。

山本:有名人やインフルエンサーが何を見ているかとかも気になりますね。

薄井:そうなんです。あり得るかなと思っています。

駒﨑:私はティーンの日常に寄り添うことが重要だと思っています。そもそもTikTokは日常を楽しむためのプラットフォームです。そこに企業がプロモーションのときだけ若者に光を当てて、プロモーションが終わったら去るようなことをやっていると、その見え透いた魂胆はすぐばれてしまいます。

薄井:実際に企業臭がしたら離れていきますね。

駒﨑:企業臭とは、商売における自己都合なアプローチです。1人の人間と向き合うときに、自己都合だけ考えていたら嫌われますよね。

企業がティーンの日常に寄り添うには、日常的にコミュニケーションを持てる接点を用意するのがいいと思います。

ハリウッドの巨匠マーティン・スコセッシ監督の言葉を借りると「もっとも個人的なことが、もっとも創造的である」ということ。企業やブランドが覚悟を持ってパーソナル部分や普段見せない情報をさらけ出せれば、ティーンの共感度と信頼度は高まっていくのではないかと思います。

薄井:日々、ご自身とは年齢が離れたユーザーと向き合う中で、駒﨑さんが意識していることは何ですか?

駒﨑:ティーンは攻撃されず、少しずつでも自己表現できる場所を常に探していると思うんです。どんな場所でも、彼らが自己表現できる仕組みを提供することが大事だと思います。それが彼らの自信にもつながって、その自信を作れたことに対して、提供元の企業やブランドに感謝や好感が芽生えると思います。

薄井:上から何かをするということではなく?

駒﨑:同じ目線になっていくということです。

山本:では、駒﨑さんから薄井さんに質問はありますか?

駒﨑:TikTokが基本的にフローな場所なのに対し、TVerはストックの場所です。お互いの良さを活かしたシナジーが作れるような気がしています。ぜひ一緒に取り組みがしたいなと思いました。

薄井:いいですね。TVerには開いたときにぱっと動いているコンテンツがないので、私個人としてはもっと動きがあるといいなと思っています。

山本:これを機に何かコラボレーションが生まれたら大変面白いですね。

まとめ

今の10代は物心ついた頃からインターネットが身近で、コロナ禍に学生時代を送るなど上の世代が経験したことがない環境で成長してきた存在です。大人以上にテクノロジーを使いこなす姿に「付き合い方がわからない」と悩む方も多いことでしょう。

しかし、ティーンとの付き合い方についてTikTok for Businessの駒﨑さんが強調するように、メディアやブランドも誠実な態度で一人の人間として向き合っていけば、自然と信頼関係が生まれていくでしょう。

パネルディスカッションの中で、ティーンの信頼や共感を得るキーワードとして好奇心、つながり、寄り添いなどがあがりました。これらを軸に彼らの良きナビゲーターになるのがメディアやブランドの役割なのではないでしょうか。

(編集協力=沢井メグ+鬼頭佳代/ノオト)

※掲載している情報/見解、研究員や執筆者の所属/経歴/肩書などは掲載当時のものです。

薄井大郎
TVer取締役 サービス事業本部長
2006年、株式会社TBSテレビ入社。営業局でのテレビ広告営業、報道局での取材記者などを経験したのち、2020年より編成局編成課長。2022年6月より株式会社TVerに出向し、2023年4月より現職。

駒﨑誠一郎
TikTok for Business Group Head, Brand Strategy Global Business Solutions, Japan
広告代理店、グローバルスポーツブランドにてプランニングディレクター、広告宣伝部長を経て、FMCG、GAME、自動車、小売、エンタメなど様々なマーケティング活用を推進している。

山本泰士
博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 グループマネージャー兼上席研究員
2003年博報堂入社。マーケティングプラナーとしてコミュニケーションプラニングを担当。11年から生活総合研究所で生活者の未来洞察に従事。15年より買物研究所、20年に所長。複雑化する情報・購買環境下における買物インサイトを洞察。21年よりメディア環境研究所へ異動。メディア・コミュニティ・コマースの際がなくなる時代のメディア環境について問題意識を持ちながら洞察と発信を行っている。著書に「なぜそれが買われるか?~情報爆発時代に選ばれる商品の法則(朝日新書)」等

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