レポート
カンファレンス
「マルチスクリーン時代の広告最適化」を議論する
REPORT

「マルチスクリーン時代のキャンペーン&広告オプティマイゼーション」と題して開催されたアドテック東京2014の公式セッション。論点は、広告主、メディア、広告会社の3つの視点で考える、「“TVCM×動画広告”における広告最適化」。ヤフーの友澤氏がモデレーターを務め、サントリービジネスエキスパート 島田氏、グーグル 近藤氏、博報堂DYメディアパートナーズ 飯塚の4名が登場し、広告最適化についてディスカッションを行いました。

■ 広告最適化の定義とは? ■

友澤:私は、ヤフーのマーケティング推進室で、広告主や広告会社と共同で調査などを行いながら広告最適化に取り組んでいます。今日は、「TVCM×動画広告」を論点にしてディスカッションをしたいと思います。さて、まずはそれぞれのお立場で考える「広告最適化」についてお聞かせください。

飯塚:広告主によって最適化するKPIが全く異なっています。しかし、広告会社としては、アウトプットのメディアをニュートラルに見渡し、メディアとタッグ組んで得意先課題の解決施策を考えます。その結果、得意先の課題解決につながり、満足につながること。それが、私たちが考える広告最適化です。

島田:私は、以前にTVCMの担当、現在はネット広告の担当をしていますが、「広告最適化」と言われても一言では語れません。ただ、ブランドや商品の課題を解決するコミュニケーション活動がうまくいけば、それが最適化の一つと言えるのかなと思います。

近藤:ネットメディアから見た広告最適化の場合、ネットビジネスのみを考えがちですが、他メディアも含めながら、オンラインでのビジネスをスケールアップするのがミッションだと思っています。今はオンラインだけを語ればいいという時代ではありません。広告主や広告会社のニーズや課題と向き合うことが、私たちにとっての広告最適化だと思います。

友澤:今回のテーマにも入っている、マルチスクリーンがどういうものか?を、「メディア定点調査2014」(※1)で見ると、この1年でPCが減ってタブレットが増えている。最近急速に起こっている、大きな地殻変動といってもいいくらいの変化ですね。ここが、「広告最適化」を論点としている大きなポイント。50~60代はネットの割合が低く、テレビの割合が大きい。30~40代はテレビとネットが半々。10~20代は、1.6倍くらいスマホのほうがテレビより多い。テレビの強さはわかるが、ネットにしか接触できない層も明確にいます。では、その層に対してどう広告最適化するのか?が重要なポイントだと思います。
では、博報堂DYメディアパートナーズの「テレビプラス」は、こうしたところをどう考えているのでしょうか?

飯塚:TVCMと同様に動画広告も「ターゲット獲得」だけではなく、「ブランティング」を目的として「認知」や「リーチ」の面から得意先に提供していくべきではないか?と考えています。ただそのためには、3つの課題があります。まず、リーチや認知といったテレビと同じ指標でプラニングを行うこと。次に、広告会社のマス広告担当営業が、広告主のマス広告担当者に提案する際、動画広告も同時に提案する体制を作ること。そして、動画広告の効果検証を行い、TVCMと組み合わせた場合などの効果検証を行い、商品価値を高めていくことです。
この課題に直面した時に、動画広告はi-メディア担当、TVCMはテレビスポット担当、調査はメディアプラニング担当がやっていましたが、これらの部門が一体とならねば解決できない時期に来ているということで、「テレビプラス」という社内プロジェクトチームが立ち上がりました。
そして、このプロジェクトチームで、グーグルやヤフーとタッグを組んでいろんなキャンペーンについて検証していきました。

友澤:さて、グーグルもこの検証には参加していますよね?その背景について聞かせてください。

近藤:広告会社が動画広告を売っていく時、「広告主から、どう納得していただくか?」という、とてもシンプルな意見があった。その時に、いわゆる“数値化”が求められると感じて参加したんです。測定方法などについては、過去の経験も活かしています。スペイン、ドイツ、アメリカなどでも同様の取り組みを行っていますが、同じフォーマットでシンプルに比較するのは、他の国ではまだやっていません。
今回は、最も基本的な調査ができたと考えています。

飯塚:調査の第1弾は、TVCMとグーグルのInStream動画広告を組み合わせ、サントリー社を含む全7業種、17ブランドで、大規模調査を実施しました(※3)。条件としては、TVCMとInStream動画広告は素材同じです。まず、複合接触効果という視点から調査をするのですが、若干ですが、ターゲットリーチ効率については、TVCMだけよりも、InStream動画広告とかけ合わせることで向上いたしました。購買パネルの「広告認知率」という視点で見ると、「TVCM×InStream動画広告」は、同じ動画に2回接触させるならば、TVCMに2回接触するよりも、TVCMとInStream動画広告に各1回接触したほうが、広告認知効率が、はるかに高いことがわかりました。商品認知、商品興味関心、好意度、購買意向などでも同様で、ほぼ全てのサンプルでこうした効果が確認できていました。

第2弾は、さらにYahoo! JAPANのインスクロールをかけ合わせました(※4)。この調査は全6業種で実施したところ、TVCMの出稿よりは、VCM×InStream動画広告、Yahoo!JAPANのインスクロールの3つに接触することでとても高くなる。同じように、広告認知から購買に近づく指標に変化させていくほど、高い効果を確認することができました。

友澤:島田さん。ここまでで、何か発見はありましたか?

島田:“当たり前”の結果が出てよかった。(笑)
でも、これまで何を基準にしたらいいのだろうか?という疑問はあった。いま、なかなかテレビを見ない人たちが増えている中で、そうはいってもTVCMの影響力は大きい。3年程前から、自社で調査を行っていたが、自社に関連するブランドだけが対象なので、比較できないというジレンマを感じていました。こうした中で、今回のような結果が出てくると、「限られた広告予算の中で、広告の最適化になっているのかな?」という判断材料にはなると思います。

近藤:私も、当たり前という指摘はその通りだと思います。単体のスコア自体は、あまり意味がないという皆さんの感覚と同じです。でも、「じゃあ、動画広告をどれくらい使ったらいいの?」という疑問があると思う。今回の取り組みは、時間と労力をかけて行った調査が、今後のプラニングに活用できるのが一番大きなポイントであり、それに真っ向から取り組んだことが大きいと思う。

■ TVCMと動画広告の複合効果をシミュレーションする ■

友澤:ビッグデータなどでも同じですが、当たり前の調査結果を「ふーん」と言って終わるか、施策につなげるか。つまり、マーケティングするか、オペレーションするかで全然違うと思うんです。今回のように、数値化できれば様々な仮説も生まれてきます。そして施策も生まれます。当たり前の結果を、数値化するというのは、意味があるんです。これを、博報堂DYメディアパートナーズがやる、テレビスポットビジネスの方がやるというのが、大変意義深いと思っています。
さて、そんな中で登場した「テレビプラスシミュレーター」とは?

飯塚:皆さんのおかげで、様々なデータが取得できました。それを、友澤さんがおっしゃった、どうマーケティングしていくのか?という視点でできたのが、今回の「テレビプラスシミュレーター」(※5)です。これは、「アドオンシミュレーション」と「アロケーション」の両者で使えます。
テレビスポットに、「Youtube InStream」「Yahoo! InSchloll」を組み合わせる場合、「どれくらいまで効果があがるのか?」を見ることができます。

友澤:ここまで、TVCMと動画広告をどう組み合わせるかという話がありましたが、ぶっちゃげ使えますか?

島田:まあ、とりあえず使うと思いますが、ここでお金とられると・・・・。(笑)
ただ、可視化できるということは大きい。デジタルを社内で提案する際、「出稿するのはわかったけど、どうなるの?」と予測を求められることが多い。一方で、デジタルがさらに重要になってきていることもわかっている。説得しなきゃいけないときに、なかなか出来ていないというジレンマの中、デジタル担当者にとっていい武器になるという面もあります。
重要なことは、私たちの目的は広告最適化では無く、メッセージやブランドの想いをお客様にどうやって伝えるか、どうやって頭の中に残していただくかです。当社の商品を手に取っていただき、買っていただくことです。今回の取り組みは、そのずっと手前であり第一歩だと思っています。

友澤:今後、可視化できる広告とできない広告があるとすると、前者のプライオリティはあがりますか?

島田:そうだと思います。デジタルはみんなそうだと思うのですが、全て数字で把握できる。もちろん、視聴率や発行部数も物差しとしてはある。でも、デジタルはそれが一番リアルだし、すごく大切なところです。そして、私たち自身も消費者の一人としてデータを大事にする一方で、「実感」というのも大切にしていかなければならないと考えています。

■ 「広告最適化」に向けた、それぞれの課題 ■

友澤:この仕組みの課題というよりも、広告最適化って実際に調査をして実際に数値を出してみると、“当たり前”な感じがあったり、広告主としては予算を付け替えたり変えたりしていく。
さて、広告主、メディア、広告会社にもそれぞれが広告最適化について向き合う時、どんな課題がありますか?

近藤:メディアサイドの課題としては、マルチデバイス、マルチディスプレイという環境変化にどうついていくか。この調査も、パソコンでスタートして、スマートフォンやTVのディスプレイなど、動画広告の露出される場所が増えていく中、データ取り込みを広告主や広告会社の業務にどうやってマッチさせていくかが、重要なチャレンジになると感じています。

飯塚:私たちにとっての課題は、クリエイティブを変えたときはどうなるか?得意先のKPI設定や、広告課題の解決によってどうなるか?など、多様なパターンがあります。
今回のフォーマットに限らない、さらなるパターンに対応して行くことが課題です。

島田:TVCMや動画広告は、コミュニケーションの手段。そして、手段を目的にしてはいけないと思っています。これらが、事業全体の中でどういう役割を果たしたのか?を忘れてはいけないと思っています。

友澤:これからは、「どう試すか?」が大きな課題です。そして、こういう話に行くほどクリエイティブの重要性も増します。今回は、媒体買い付けの話題だったので数値化できますが、クリエイティブの要素も突き詰めないといけません。いま、リッチアドなども増えているので、今後の調査は広告主やメディア、そして広告会社が連携していかなければならないですね。

近藤:広告最適化について考えると、今回私たちが取り組んだノーム値に近い比較できるものを作ること、広告主などが独自に(調査結果などを)蓄積していくことなどが必要です。広告最適化といっても、全ての広告主に適用できるものなんて不可能。今後は、(ノーム値作りと独自の調査結果作り)その両方を、連携しながら作っていきたいですね。

島田:“質”を追求する部分は、3者で一緒にやっていかないといけない。お客様のことを考えながら、(お客様に)当社に振り向いていただくためにクリエイティブやコンテンツなどを作りだしていきます。

飯塚:私たちは、広告主の課題に様々な知見を持って向き合う必要があります。これまで、TVCMと動画広告などのネット施策を一緒に広告主に提案することが2、3年前には考えられませんでした。でも今後は、(広告主の)課題を解決するために、「テレビプラス」をはじめとして、様々な挑戦を行う必要があります。

友澤:こうした取り組は、グローバルでも多々出てくるのですが、すぐに消えていきます。本当は徹底的にやるテーマ。1回で終わるのではなく、来年もこの場で同じようなメンバーで経過報告をしたいですね。
これまでTVとネットは対立関係にありましたが、目安ができるとプランしやすくなっていくので、可視化されている広告と、可視化されていない広告は、全社のほうにシフトいくのかな?と思います。データ化はデジタルの強みです。今後はヤフーも、様々なデータを開示しないといけない。私たちも、広告主や広告会社と一緒に広告最適化のテーマに取り組んでいかないといけないと思っています。

(博報堂DYメディアパートナーズ 広報室)

【登壇者プロフィール】

■友澤大輔 ヤフー㈱ マーケティングイノベーション本部長
2012年7月Yahoo! JAPANに入社。以前はさまざまな企業でデータドリブンマーケティングを推進。さまざまな新しい取り組みをドライブしてきた。Yahoo! JAPANでは入社後すぐにマーケティングイノベーション室(本部)を新設。デジタル技術とYahoo! JAPANのアセットを最大限に活用した新しいマーケティング手法を、「広告主Yahoo! JAPAN」として積極開発推進する。Web広告研究会 ビックデータ委員会 委員長。

■島田博之 サントリービジネスエキスパート㈱ 宣伝部 課長
1995年サントリー株式会社に入社。静岡支店に勤務後、一般社団法人日本ゴルフトーナメント振興協会へ出向。2001年に宣伝事業部へ異動し、イベントやスポンサード関連業務を担当。2008年より、サントリービジネスエキスパート株式会社宣伝部にて、電波(TV・BS・ラジオ)メディア担当としてメディアバイイングやコンテンツ開発に従事、2012年からは現職であるインターネットメディアを担当。

■近藤忠弘 グーグル㈱ 広告代理店営業本部長
グーグルに入社以前より14年にわたり、日本のインターネット広告ビジネスに携わってきており、社内外の活動を通して、特にディスプレイ広告の発展に寄与。グーグルに入社後は、日本におけるYouTubeおよびGoogleディスプレイネットワーク上のディスプレイ広告営業の統括を行い、現在は、博報堂DYグループの広告会社営業を統括。 2007年には日本アドバタイザーズ協会Web広告研究会のアワードである、Web人賞受賞、ネット広告白書2010の編集委員。

■飯塚隆博 ㈱博報堂DYメディアパートナーズ テレビスポットビジネス局テレビスポット業務推進部長
1995年博報堂入社 4年間テレビスポットの現場を担当し、その後メディアプラニングの領域へ。博報堂DYメディアパートナーズの創業をはさんで8年ほどのプラナー経験を積み、メディアプロデュースセクションに異動。主にメディアとコンテンツの企画開発・提案に5年間尽力。メディアプラニング時代と合わせた 13年間で約200社のメディア・コンテンツ業務に関わる。 2012年からテレビスポットビジネス局に戻り、現在業務推進部長として全クライアントのスポット業務をサポート。今年度は、テレビスポットを中心とした他メディアとの連携商品を企画開発することも部署ミッションとして掲げて活動中。

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