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メディア環境研究所ウェビナー MEDIA NEW NORMAL コロナ禍は生活をどう変えたか メディアはどう変わるか パネルディスカッション Report
REPORT

2020年春よりメディア環境研究所が研究を続けている、メディアにおける「新常態」。コロナ禍が始まり1年が経ち、私たちの生活には大きな変化がおきています。メディア環境研究所は、最新のオリジナル調査「メディアニューノーマル調査」のご報告と共に、今後メディアはどう変わっていくのか、これからの2つの潮流を提示するウェビナーをDAY1、DAY2の二日間開催しました。本稿ではDay2後半に開催されたパネルディスカッションの内容をご紹介します。

Day2
パネルディスカッション 「地域アクション」から考える未来づくり

登壇者:
松下智彦氏(株式会社朝日新聞社 統合プロデュース本部 デジタル・ソリューション部次長)
竹田真二氏(森ビル株式会社 オフィス事業部 営業推進部兼企画推進部 部長補佐)

モデレーター:
新美妙子(メディア環境研究所 上席研究員)

■新しい地域ネットワークを作りつつあるさまざまな取り組み

新美
このパネルディスカッションでは、「地域アクションから考える未来づくり」と題して、メディア企業や広告主企業から見た地域アクション、そこから考える未来づくりをゲストのお二人と話し合いたいと思います。まずは自己紹介をお願いします。

松下
朝日新聞社の松下です。入社以来広告の営業をしていて、この8年間はデジタル事業を中心とした営業をしています。また、広告主と一緒に世の中とのコミュニケーションをつくっていくコンテンツマーケティングにも取り組んでいます。
朝日新聞社では、2020年10月に、Asahi Digital Solutions(ADS)というナーチャリングプログラムの提供を開始しました。その中で軸となっているのが、朝日新聞社が提供している30を超えるメディアです。これらのメディアにはそれぞれ読者の皆さんとのコミュニティがあり、それをどのように維持していくかということを考えています。

竹田
森ビルの竹田です。森ビル株式会社に入社し、コーポレートファイナンスや、都市開発、経営企画などに携わってきました。現在は「働く場の創造」ということで、オフィス事業部で、企業誘致の支援や新たなワークプレイスの企画、企業の事業創出を支援する場などをつくっています。
2019年、森ビルのオフィスワーカーに行ったアンケート調査で、「オンとオフを区別しますか?」と質問したら、年齢が若いほど「ワークライフバランスではなく、ワークライフインテグレーションだ」という回答がありました。コロナ禍で、家で働くことも増え、まさにワークとライフが不可分なものになってきています。そういう中で改めて思うのは、テクノロジーによって人に会わずにできることはたくさんあるけれど、やはり人と会いたい、人と会うことで新しい価値が生まれる、人と一緒に体験することは大事だ、ということです。私たちの都市づくりも人と人をつなげることに取り組んでいます。

新美
ありがとうございます。森ビルは、六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズを手がけていらっしゃいます。キーノートでは、西日本新聞社や静岡新聞社・静岡放送などメディア企業の地域アクションをご報告しましたが、どのように感じられましたか?

竹田
キーノートで何度も取り上げられていたように、読んだり、見たりしたメディアの情報に共感し、「自分も何かできるんじゃないか」「これっておかしいよね」「自分の価値観を見直した方がいいかもしれない」といった気づきを与えることが、まさにメディアの力だと思います。事実は事実として伝えなければなりませんが、情報を伝えるだけではなく、その先で、人の行動を変えることができるのがメディアの力だなと、キーノートを見て思いました。

新美
行動を変える力があるメディア企業として、松下さんはキーノートをどうご覧になりましたか。

松下
新聞社の人間として、静岡新聞社・静岡放送のイノベーションレポートは衝撃的である一方で、共感する部分が多く、メディアが抱える課題、向き合わなければならない課題といったものを実感させられます。メディアができていなかったのは、顧客視点なんですよね。キーノートや竹田さんのお話から感じるのは、新聞社がこれからトライしなければならないのは、ラストワンマイルをどうつくっていくかということだと思いました。ニュースやファクトを届けるのはメディアとして必ずやらなければならない仕事ですが、そこにとどまらず、最後のもう1歩に何をするのか、生活者の皆さんにも入っていただき、一緒につくっていくことに取り組んでいければと思います。さらに、メディアだからこそやらなければならないのが、「少し先の姿を見据えること」です。生活者の皆さんの足場にならなければなりません。一緒につくって、一緒に先を考えるということが必要だと感じました。

新美
コロナ禍によって、人と人が思うように会えない状況の中で、地域アクションという点からラストワンマイルをどのようにお考えですか。

松下
地域でのラストワンマイルといえば、新聞社の場合、販売店の存在があります。朝日新聞社や各販売店では、宅配事業・出前活動にも取り組んでいます。販売店を軸にして、新聞を届けるだけではなく、地域の皆さんに物も運んでいるのです。コロナ禍で在宅時間が増える中、家に居ながら物が届く宅配事業も展開しています。

新美
販売店は日本ならではの新聞社のラストワンマイルですね。販売店の宅配事業を竹田さんはどうとらえていらっしゃいますか。

竹田
私のような不動産業の人間からすると、あれだけたくさんの販売店を街中の良い場所に持っているのは羨ましいことです。その視点からすると、新聞や物を配送するという機能だけでなく、もっといろいろな使い方をすればいいのにと思います。多様なライフスタイルが認められ、急激な価値変容が起きている現在、これからのメディアはいろいろな選択肢を説明する、見せる場として人々の行動変容を促すことも可能だと思います。ですから、販売店もいろいろな使い方をするのが面白いと思います。

新美
生活者とのリアルな接点を持つのはすごく難しい中で、販売店は既にある接点。大きな強みだと思います。このラストワンマイル以外にも、コロナ禍における地域アクションはあると思います。

松下
そうですね。メディアに限らず、これからの産業支援や技術革新で役立つ手法の一つに、クラウドファンディングがあります。キーノートの静岡新聞社の動画にも登場していましたが、朝日新聞社でも、A-portというクラウドファンディングを運営しています。A-portは沖縄タイムスとも事業提携していて、例えば沖縄の首里城の再建に向けた「第九㏌OKINAWA」という音楽イベントの支援に読者の皆さんとともに取り組んでいます。これは沖縄発のものですが、地域の課題を超えた世界遺産の再建という課題を全国へ展開し支援しています。

新美
なるほど。

松下
今日のテーマとして、どうやって地域とつながっていくか、地域をつなげていくかということがあると思います。その点では、明治安田生命とA-portを使ったプロジェクトに取り組んでいます。明治安田生命は、Jリーグのタイトルパートナーをはじめ、47都道府県とつながっていく活動「地元の元気プロジェクト」も実施しています。そこで、地元に想いをもった若手アスリートを応援する「地元アスリート応援プログラム」をA-portを使って展開。明治安田生命からの直接の支援に加えて、地域全体でアスリートを支援できるプラットフォームを提供しています。また、選手紹介は朝日新聞社が取材して記事にしており、アスリートの個性を引き出し、地域やユーザーとつなげています。「メディアはただ発信するだけではなく、行動を起こしてもらうために発信するのだ」という取り組みがクラウドファンディングともいえるかもしれません。

竹田
クラウドファンディングは面白いと思いますね。社会的な意義や共感するメッセージをきちんと発信することができれば、クラウドファンディングに限らず、もしかしたら別の行動を促すこともできます。六本木ヒルズや虎ノ門ヒルズのワーカーさんからも、「大手IT企業に勤めているけれど、空いている時間に砂漠問題を手伝ってみたい」「勤めている会社では貧困問題などに取り組んではいないが、個人としては問題の解決を手伝いたい」といった声をよく聞きます。クラウドファンディングには、地域アクションのソリューションとして、「お金」だけではなく「関わり方」というものがあります。

新美
確かに「関わり方」はこれから益々大切になっていく気がします。ところで、このコロナ禍で、リアルとオンラインによる人の距離感のようなものが変わってきたと感じています。そのあたりについて竹田さんはどう感じていますか。

竹田
リアルにはものすごく濃密な部分と、ものすごく薄い部分の両方があり、オンラインはその間をつなぐのではないかと思っています。恋人や社員同士の濃密な関係は、オンラインだけでは築くことはできません。企業の関係も、ゴルフ場でトップ同士が時間を共有する中で生まれることもあります。そのような濃密なものは、やはりリアルにしかないのかなと思います。リアルの薄い関係は、たとえば、隣近所との関係などで、誰が住んでいるとか、「近所の子供が泣いているけど大丈夫かな」とか、自然に入ってくる情報です。図書館もそうですよね。興味のある本はインターネットで買えますが、図書館には多量の本があって、全く興味のない情報も入ってくることで出会うことがあります。これはリアルの強さだと思います。一方、オンラインでの関係は、ウェビナーに参加するように、やはりアクティブに行動することが求められます。それによって、リアルでは集まりづらかった遠方の人や、海外の人が集まることができるわけです。だから、オンラインは、リアルの濃い関係と薄い関係の間に入るものだと思います。

■行動源としてのメディアに必要なのは、共感できる世界を作ること

新美
次に、企業が行動源になるということについて、お二人はどのようにお考えですか。

松下
今まで話してきた内容が、メディアが行動源になることの一部だと思いますが、コロナ禍で行動が制限され、実際にものに触れることが難しくなる中、DtoC(Direct to Consumer)には可能性を感じます。直接触れられないからこそ、物へのブランドストーリーがより必要になるんだと思います。DtoCはブランドストーリーが、ユーザーの「体験したい」「共感したい」といった思いを生み、購入につなげたり応援したりする仕組みで、まさにメディアが生み出す体験価値の一つだと思います。これからのメディアは、課題に対して皆が共感して動いていく世界を作る役目もあると考えています。

新美
そうですね。竹田さんはいかがですか。

竹田
我々が都市づくりをする際に気をつけていることは、地域、地域で違うということです。「六本木ヒルズをうちにも作ってください」とよく言われますが、六本木だから六本木ヒルズを作ったのであって、その土地その土地に暮らす人々の生活は、歴史や気候、地形などから、文化も違っているはずなのです。根づいているものは地域によって違うので、同じものを売るにしても、そこを丁寧に紐解くことが必要。メディアも気をつけて取材されていると思いますが、プロの編集力やジャーナリズムの力で、ストーリーをちゃんとつないであげることで共感が生まれ、次のアクションにつながっていく、あるいは考えが変わっていくのかなと思います。

新美
虎ノ門と六本木は近いけれど全然違う。都市づくりでは、それぞれが全く違うまちだという認識が必要だということがすごく面白いと思いました。

竹田
そのあたりは、また別の機会に詳しくお話ししたいです。

新美
やはり大切なのは「生活者と共に」ということですね。生活者をきちんと見て、地域を丁寧に紐解いてストーリーをつくっていくことが重要だということを改めて感じました。
以上でパネルディスカッションを終了したいと思います。お二人ともありがとうございました!

松下智彦
株式会社朝日新聞社 統合プロデュース本部 デジタル・ソリューション部次長

竹田真二
森ビル株式会社 オフィス事業部 営業推進部兼企画推進部 部長補佐

新美妙子
メディア環境研究所 上席研究員

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