レポート
アドテック東京
【アドテック東京2018レポート】 動画ブランドリフトの本当の効果〜ケーススタディ
2018年10月4日、5日の2日間にわたって開催されたマーケティングとテクロノジーに関するカンファレンス「ad:tech tokyo 2018(アドテック東京)」が開催されました。10年目となる今年も、各界からキーパーソンたちが集まり、刺激的な議論を展開。
本セッションでは、サイバーエージェントの金子彰洋氏をモデレーターに、拡大するデジタル広告市場において、どのようにブランドリフトを捉えコミュニケーションに落とし込むかについて、株式会社モスフードサービスの人見靖氏、株式会社カネボウ化粧品の中根志功氏、そして博報堂DYメディアパートナーズの中澤壮吉が議論を交わしました。(以下敬称略)
・モデレーター
金子彰洋:株式会社サイバーエージェント 次世代ブランド戦略室 マーケティングサイエンス局 局長兼プランニングディレクター
・スピーカー
人見靖:株式会社モスフードサービス ダイレクトマーケティンググループ グループリーダー
中根志功:株式会社カネボウ化粧品 マーケティング戦略企画グループ
中澤壮吉:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 統合メディアプラニング局 局長
■各社が取り組む動画によるブランドリフト施策
金子:2019年から2020年には、インターネット広告費がテレビ広告費を上回ると予測されています。そんななか、オンラインビデオ市場は右肩上がりの状況にあるということを踏まえたうえで、動画のブランドリフト、ケーススタディとその効果など、さまざまな話を展開したいと思います。まずは、中根さん、人見さんから動画のケーススタディについてです。
中根:とある新商品の動画について、生活者はどんな表情で動画を見て、何秒で笑顔になったのかといったことを計測し、並行してアンケートを行いました。動画を見て笑った理由などを分析してブランドリフトや検索意向、購入意向に役立てようという意図です。今回の生活者の反応では、動画を見て笑った人は検索意向と購入意向が高いという結果になりました。なお、動画は寝ながらスマホで見るという方が多いため、これはYouTubeで夜10時以降に配信しました。
人見:私たちの動画はネット注文の普及を目指したものです。動画を見てもらい、ネット注文ができるという印象を残すことだけにねらいを絞って制作しました。ですから、コミカルと意外性を意識しました。店舗の前を通ったときに、そういえば面白い動画があったなと思い出してほしいと考えています。若い世代に見てもらうために配信メディアはInstagram、Twitter、Facebookを選択しました。これまでの各メディアでの動画広告配信数は1,400万回近くになり、シミュレーション値の420万回配信に対して達成率は300%を超えています。コメントも、ほぼねらい通りのものが寄せられています。
金子:ありがとうございます。では、ブランドリフトの点から中澤さんはクライアントからどのようなKPIを設定されて、プラニングにかかることが多いですか?
中澤:むしろ、こちらからKPIをどう設定すればいいですかと伺うパターンが多いですね。
金子:中根さんはKPIをオリエンしますか、それとも決めてくださいと言うことが多いですか?
中根:KPIは必ず決めますが、その設定方法は決めません。参加してもらう広告会社のチームのメンバーは決めたいと思いますね。
中澤:メディア技術寄りの、リーチなどテクノロジーで計測できるKPI設定の場合と、ブランド寄りで好意度を上げたいとか、CX(カスタマーエクスペリエンス)につなげたいという場合では、広告会社に期待するチームは変わりますか?
中根:その通りですね。私からも中澤さんに伺いたいことがあります。テレビ出稿とデジタル広告の経験があまりなくて、それらのKPI設計がよく分からないんですよ。
中澤:まずは、クロスメディアのリーチをきちんと測ることが大切ですね。ブランド指標ばかりを追いかけると、接触をした人に、どういう効果があったのかが分からなくなり、クリエイティブを評価すればいいのか、何を評価すればいいのか分からなくなります。一方で、クロスメディアのリーチをきちんと計ることは、物理的に100点満点を取れる状況ではありません。そこで逆にお聞きしたいことは、いろいろな制約があるなかで、どの指標を取って何を諦めるのかを知りたいですね。
中根:去年のキャンペーンより、良かったのか悪かったのか。そのような指標をリーチとクリエイティブから語ることができるようになりたいと、多くの広告主が思っているでしょうね。
金子:では次に、最近の気になるテーマについて話題を移したいのですが、人見さんから順にお願いします。
人見:動画広告の配信タイミングに注力したいと思っています。外食産業の特性として、広告配信が毎日だとうっとうしく思われてしまうことがあります。それにランチ直前の12時前の配信と、13時すぎの配信では効果がまるで違いますから、究極は食べる可能性が高い状態の人だけに配信したいですね。また、昼に配信するにしても、新商品やサービスを印象づけることが大切だと思います。若い世代の配信も不足しているので、今は種まきのつもりで情報を流しています。
中澤:広くターゲティングしながら、印象を残して思い出してもらう。動画のクリエイティブでモスバーガーらしいコミュニケーションをするということですね。
中根:私は5Gという、通信速度がこれまでの100倍になる環境で、生活者が感じるブランドにおいてどんな情報を提供するべきかを考えています。
中澤:動画広告におけるインサイト、ジャーニー、ターゲティング、フォーマット、メジャメントはいずれもまだ完璧な状態ではなく、それらを整えていく必要があると感じています。少なくともトライ&エラーでやってきた知見は残したいと思います。また、海外の状況をリサーチすると、日本流のマーケティングのやり方があるのではないかと思うようになりました。海外と比べるとクライアントと広告会社の関係がより密接なので、意思決定もKPIも一緒に決めるという関係性のなかで、その意思決定や広告効果の計測の方法、クリエイティブとメディアのプランニングの融合などで、海外から取材が来るぐらいの日本流のやり方をつくりたいと思います。
■オリジナリティのある体験をいかにつくるか。チャレンジが求められる
金子:最後に、これからのチャレンジを教えてください。まずは中澤さんから。
中澤:最近はデータドリブンを意識しすぎて、逆に視野が狭くなってしまっているところもあります。マーケターや広告会社の本来のミッションは、商品が売れるようにお手伝いすることだと思うので、需要創造や行動創造、新しいプロモーションづくりにチャレンジする必要があります。そのなかで“新しいメディア体験”を開発するという、クリエイティビティをつくりたいと考えています。
中根:カネボウがもたらす体験が一番便利だよね、というものをつくりたいと思っています。いまやっているものでそれに近いのが、肌の状態を知ることができる「肌水分センサー」というアプリ。そういう、シーンを独占できるCXをもっと開発したいですね。
人見:ネット注文は2011年ごろに思いついたもので、そうした外食業界初・デジタルマーケティング業界初というような新しい企画や、楽しい企画をパートナーの皆さんと開発したいと思っています。
金子:今回のセッションで、皆さんの意見で共通していたのが、オリジナリティが重要ということですね。動画の制作を含めて、広告活動にはオリジナリティがないと差別化ができず、突き抜けることができません。それはKPI設定も、メジャメントの方法も、パートナーとの組み方も、データの使い方も同じということではないでしょうか。本日はありがとうございました。
◆プロフィール
金子 彰洋
株式会社サイバーエージェント
次世代ブランド戦略室 マーケティングサイエンス局 局長兼プランニングディレクター
2012年株式会社サイバーエージェント入社。 クリエイティブ、データ、メディア、リサーチ各領域の専門職を経て、現職。 次世代ブランド戦略室のプランニング責任者を務める。 現在、自動車/飲料/化粧品/アパレルなど国内外幅広い業界のプランニングディレクターを担当。 ブランド広告特化型DSPやメディアプランニングツール、クリエイティブ分析メソッドの開発も行う。
人見 靖
株式会社モスフードサービス
ダイレクトマーケティンググループ グループリーダー
ブランド戦略室ダイレクトマーケティンググループ所属。公式サイト、公式アプリ、モスのネット注文サイト、SNS、ハウスカードなどのデジタル領域を担う。
中根 志功
株式会社カネボウ化粧品
マーケティング戦略企画グループ
2001年株式会社カネボウ入社。 2007年ダイレクトMK部門へ異動し、DMP導入/運用。2016年花王株式会社 DMC出向 2016年カネボウ化粧品 『スマイルコネクト』アプリとスマホで肌水分が計れる『肌水分センサーデバイス』を開発。O2O_CRMアプリ開発/運用に従事、PM担当。
中澤 壮吉
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ
統合メディアプラニング局 局長
1995年に博報堂入社。媒体、営業および統合コミュニケーションプラニング領域、DMP開発推進、データアナリティクス、メディアプラニング、デジタルマーケティング機能統括の経験を経て、2018年より現職。メディアとマーケティングの統合~高度ソリューション化を推進している。アドフェスト2016、スパイクスアジア2016、カンヌライオンズ2017、フェスティバルオブメディアグローバルアワード2018審査員。
★こちらのコラムは博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しました