レポート
アドテック東京
データ統合、スポーツメディアの拡大、顧客創造…博報堂DYグループ登壇セッション【アドテック東京2018レポート】
2018年10月4日、5日の2日間にわたり、マーケティングとテクノロジーについてのカンファレンス「ad:tech Tokyo 2018(アドテック東京)」が開催されました。10年目となる今年も、各界からキーパーソンたちが集まり、刺激的な議論を展開。
本稿では、博報堂DYグループの関係者が登壇したセッション「デジタル基盤の統合を本当に成功させるための要素」「デジタルコンテンツマーケティングによるスポーツメディアビジネスの拡張」「顧客創造と顧客基盤マーケティング」をご紹介します。
■デジタル基盤の統合を本当に成功させるための要素
石野正規:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ストラテジックプラニングディレクター
福田晃仁:株式会社JTB Web販売部主幹 戦略担当部長
橋本好真:ソニーマーケティング株式会社 マーケティングマネジャー
津止久雄:メルセデス・ベンツ日本株式会社 マネージャー
モデレーターを務めた石野は、「マーケッターが戦略を実行するためには、データをどのようにつなぐかといったことを理解しなければなりません。正しく理解していないと戦略が分断されることも起きます」と切り出し、データをリッチにしていくために、①「生活者の360°」をどうとらえるべきか、②パーソナライズをどうするのか、③オフラインデータとデータ経済圏はどうなるか、その3点についてディスカッションを行いました。
石野は「やみくもにデータを集めても、生活者の360°、つまり顧客のすべてがわかるわけではありません」と話し、生活者と企業との関わりのステージに合わせてデータを取得していくべきとの論を展開しました。橋本氏は生活者の360°をとらえるのはコストや技術面から難しいとし、現状では自社データで足りないところをサード・パーティ・データで補完していると説明しました。津止氏は、サイトへの来訪者をセグメントし、来訪者の関心に合わせて広告の配信等の最適化を図っている自社の例を紹介。福田氏は、リスタートしたJTBの新体制 (Data Science Central) について説明し、3つの軸の相互関係について紹介。旅行商材の販売データの特異性や、小売りとの購買傾向の違いについて解説しました。また、ハワイ旅行を例に「旅行の目的は様々あり、属性や購買金額で分けることに意味はない。カップルなら結婚、というように、その目的や楽しみ方は、同行者から類推できるケースがある」と旅行のコンテキストの重要性について語りました。パーソナライズについて石野は、「クラスター型」「One to One型」、それぞれに課題がある中で、「5W1H」でとらえるという手法を紹介。「どういう時のモーメントを大切にしているのでしょうか」という石野の問いかけに対して、津止氏は、クルマの購入時よりもその後の体験が大切とし、その理由を「販売の現場と顧客との接触が増え、さまざまな情報が得られるから」と答えていました。
店舗などのオフラインでの来店データの取得について、橋本氏はアンケートなどでデータを取っているほか、顧客の来店を把握し、顧客にとって有用なメッセージを届けられるようコミュニケーション設計に生かしていると説明。福田氏は、来店客がどのような旅行商品のカタログを見ているのかを把握できるようにしたいと、今後の構想を明らかにしました。
福田氏はまた、アメリカではすでに、ホテルと航空会社などの間で情報のやりとりをしていると現状を伝え、最後に石野が、日本でもデータを貯めるだけでなく、企業間での交換や流通までを踏まえて取り組む必要があると議論を締めくくりました。
■デジタルコンテンツマーケティングによるスポーツメディアビジネスの拡張
菅裕紀:株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ストラテジックプラニングディレクター
小泉真也:株式会社Link Sports 代表取締役CEO
黒飛功二朗:株式会社運動通信社(SPORTSBULL) 代表取締役社長
田中大貴:株式会社インフライト 代表 アナウンサー・スポーツアンカー
菅は、博報堂DYメディアパートナーズに所属する一方で、「ベースボールゲート」という野球に特化したメディアを運営していると自己紹介。また、このセッションのテーマを「スポーツコンテンツの価値の最大化にしています」と語るとともに、以降の進行をフリーアナウンサーであるインフライト代表の田中氏にお願いしました。
モデレーターを引き継いだ田中氏は、広告ビジネスとユーザー体験の2つの視点からテーマを整理したいと言い、「広告主にとって、広告価値の最大化とは何でしょうか」と黒飛氏に問いかけました。「スポーツは喜怒哀楽が発生しやすいのが特徴であり、その心が動くタイミングに広告主のメッセージを寄り添わせることがポイントです」と、黒飛氏は回答。一方、菅は「スポーツコンテンツを配信する際に、コンテンツの調達コストだけでなく配信費用などのコストもかかる。それらがネットワーク広告などの入札単価と同じ水準で取引されると成立しないのが課題。広告主に対して、スポーツの価値や熱量といったものを可視化し、そこにかかる広告費をどれだけペイできるかを伝えることが必要です」と言及しました。
また、「ファンやユーザーを蓄積するデータベースが重要ですね」との田中氏の指摘に対して、菅はベースボールDMPを広告主に提供し、地方の広告主のターゲティング広告などに活用していることを紹介しました。小泉氏は、現状ではプロの有名選手の小中学生時代のデータや動画などがほとんどないので、プロを目指す子どもたちがどう育っていくかをコンテンツデータベースとして残したいとしました。
次に、生活者にとってのスポーツコンテンツの価値の最大化とはなにかと田中氏から聞かれた菅は、ウェブはターゲットを絞ることができるのが強みと回答。「スポーツに関して、テレビや新聞などでは取り扱いにくいものも、ウェブでは中継や記事にできるので、濃いファンなどには評価されています」と語り、ベースボールゲートの現在の取り組みについても、「野球に特化しているので、マニアックなコンテンツを濃いファンに届けています」と説明しました。
田中氏は「東京六大学がWEB配信を通して球場来場者がV字回復したように、できるだけ競技を見る場所をつくることも大切ですね」と言い、菅も黒飛氏も高校野球の人気拡大を例に、テレビやウェブなど、いろいろなところで競技に触れることができるようになると、野球場などのリアルな現場にも人は戻ると答えました。小泉氏も「スポーツは最後にはリアルに戻るもので、ウェブはリアルを補完するものです」と語りました。
これからについては、小泉氏は、あらゆるアマチュアスポーツを扱うポータルサイトのリリースを予定中と語り、黒飛氏は、東西の10大学の学生新聞会と連動した大学スポーツチャンネルを立ち上げる予定としました。最後に菅が「ユーザー・広告主双方にとって上質な体験を提供することで、スポーツの振興に役立ちたいですね」とまとめて、セッションは幕となりました。
■顧客創造と顧客基盤マーケティング
露木章史:株式会社博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 ストラテジックプラニングディレクター
北本毅:石川トヨタ自動車株式会社 経営企画部 部長
森亨弘:九州旅客鉄道株式会社 上席執行役員 総合企画本部 副本部長兼経営企画部部長
山名敏雄:日本航空株式会社 コーポレートブランド推進部 Webコミュニケーショングループ長
このセッションのモデレーターを務めた露木は、「自動車、鉄道、航空のモビリティ3社の皆さまにお越しいただきました」と挨拶し、ブームがないモビリティという商材をどう売っているのか、また、その際の課題と解決について議論を深めたいとしました。北本氏は「丈夫なクルマが増えたこともあって、半数以上のクルマの保有年数が9年以上となっています」と状況を解説。「ホームページやアプリなどで、自動車メーカーとは違う独自の情報を発信し、お客様とつながっています」と、「ロングスパンのカーライフ」への対応を語りました。森氏は、鉄道の売上シェアは全体の40%程度。駅ビルやその他の事業で顧客との接点を増やしていると、現在の経営状況を説明。その中で「JRキューポ」という共通ポイントをつくり、顧客に利便性を提供する一方で、購買履歴などのデータをマーケティングなどに活用することを始めていると報告しました。山名氏は「クルマや鉄道と違って、航空会社は日常的に顧客と接点を持てないのが特徴であり、大きく異なる点です」と話し、顧客との接点の確保、データの蓄積と活用の手段として、SNSとマイレージの事例をあげました。
露木から「現在の課題と、その解決方法」を問われた北本氏は、「リリースしたアプリなどから得た顧客の声や情報を、クルマの代替につなげることが課題です」と返答。同じく森氏は「昨年のポイント統合から急ピッチでつくってきた基盤を活用して、顧客とのコミュニケーションの質を上げること、優良顧客づくりを進めることを考えています」と答えました。また、KPIの設定について、「金額か頻度かどちらを重視するのか判断が難しく、悩みどころです」と打ち明けていました。山名氏は、SNSに頼るだけではなく、自社でコミュニケーション基盤をつくること、AIなどを活用してニーズの「予兆」をつかむこと、多種多様なサービスがあるので、必要な情報を必要な方に届けることの3点を課題としてあげました。SNSやウェブの運営については、社内で知見を持っている人間が限られていることが苦労する点としました。
モデレーターを務めた露木はディスカッションの最後に、「モビリティというブームがなく、空気のような存在を売るためには、見えなかったものを可視化することがポイントになり、そのためにシステムの構築などが必要になるようです。また、データとデータ、データと人、人と人のつなげ方は依然として課題で、その解決に飛び道具はありません。やはり継続的な計測と解釈、そして対策に腰を据えて取り組むことが求められます」と、まとめて終了しました。
◆プロフィール
石野 正規
株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ
ストラテジックプラニングスーパーバイサー
2009年博報堂入社 2016年博報堂DYメディアパートナーズ出向~現職に至る ブランドマーケティング領域に従事。現職に至るまでに、東京のみならず中部支社・中国(北京)を経験し、トイレタリー・食品メーカー・通信・住宅・公共事業・自動車など多数のマーケティングコミュニケーション戦略構築を実施。 現在、デジタルマーケティング・アドテクノロジーといった領域を掛け合わせ、自動車・通信教育・飲料メーカー・媒体社のマーケティング基盤構築、CRM、ブランドマーケティングを統合したマーケティングを実践中。
菅 裕紀
株式会社 博報堂DYメディアパートナーズ
ストラテジックプラニングスーパーバイザー
マスメディアとデジタルの統合により、ビジネスの企画から実行に至るまで統一された枠組みの構築を提供することを得意とする。 家電、トイレタリーなどのコンシューマー企業から、媒体社やコンテンツホルダーまで、 幅広くマーケティング戦略とメディア戦略のプランニングを経験。 一方、グループ内のベンチャーキャピタルにてベンチャー投資業務も経験し、国内スタートアップ企業との事業開発や最新テクノロジーの発掘や投資なども行う。 最近では、野球に関するWEBメディア”BASEBALLGATE”の事業責任者として、スポーツコンテンツの魅力やファンの熱量を可視化し、周辺産業も含めたマーケット活性化に挑戦している。
露木 章史
株式会社 博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局 ストラテジックプラニングディレクター
前職は自動車メーカーで研究開発を担当。 現在は、博報堂ブランド・イノベーション・デザイン局に在籍。これまで、顧客データ分析、サービス開発、ユーザーエクスペリエンス開発、ユーザビリティ開発、アプリ開発を担当してきた。サービスの受容性・収益性の設計やその時系列変化をPoCにて検証し、企画・開発にフィードバックすることで、実需ある商品・サービス開発をプロデューサ/PMとしてリードすることがライフワークである。
★こちらのコラムは博報堂DYグループの「“生活者データ・ドリブン”マーケティング通信」より転載しました
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