レポート
アドテック東京
5Gで変わる、メディア・コンテンツ!【アドテック東京2019レポート】
マーケティングとテクノロジーに関するカンファレンス「ad:tech東京2019」において、『5Gで変わる、メディア・コンテンツ!』というタイトルでセッションが行われました。スピーカーとして株式会社電通 電通イノベーションイニシアティブ戦略投資部の渡辺大和プロデューサー、株式会社フジテレビジョン総合事業局コンテンツ事業センターの冨川八峰局次長、株式会社NTTドコモ5G・IoTソリューション推進室の有田浩之ソリューション営業推進担当部長が登壇、博報堂DYメディアパートナーズ クリエイティブ&テクノロジー局の安島博之がモデレーターを務めました。
■各社が取り組んでいる5G関連事業
安島
このセッションでは、5~10年後、5Gによってメディアやコンテンツ、広告、エンターテインメントはどのようにアップグレードされていくのかを議論したいと思います。
まず「5G」の3つの特徴を簡単にご説明します。1つ目は「高速・大容量」。伝送できるデータの嵩だけではなく、データの種類も増えるのがポイントです。2つ目は「低遅延」。通信の遅延が気にならなくなり、物理的な距離の制約が消えます。そして3つ目は「多接続」。スマホはもちろん、あらゆるIoT端末が繋がることで、現実世界がモニタリング・可視化され、ビジネスに活用できるような時代が来るということです。
ただ商用サービススタートと同時に、この3つの特徴を一気に活用できるわけではありませんし、そもそも5G端末の普及も必要になってきます。一方で、Wi-Fi6という新しい規格も出てきますが、機器のメンテや敷設コストを考えれば、やはり通信を空気のように意識せずに使える5Gの世界というのは意味があることだと思います。そんななか、現在みなさんが取り組まれている5G関連事業、検証などについてうかがっていければと思います。
渡辺
電通の渡辺です。ある技術的なイノベーションに対し、技術者や専門家といったコアな人たちの間で定番になりつつあるユースケース仮説を信じつつ、市場の多くの人が理解できるような文脈につくり直し、マーケットに接続するというのがイノベーションに対するマーケターの役割だと思っています。そして、市場の常識を独特の切り口から覆すというのがイノベーションだとも考えています。そういうことを、ベンチャーや独特の切り口を持つプレイヤーの方々と共に推進していくことが我々のいまの役割です。
具体的に行っているのは、VR/ARを総称したXR領域――ある調査ではVR映像は8Kの3~10倍ほどの容量と言われていますが、そこで5Gの世界に向けて何ができるかの検証です。2016年にロサンゼルスのSurvios というVRゲーム会社に投資したのですが、当時多くの会社がVRヘッドセット自体を開発する中、この会社はソフト開発に注力していました。そして、世間が「VRのゲームは酔う」という風評になったタイミングで、ほぼ全く酔わない「Raw Data」というVRゲームを発表し、Steamというプラットフォームの全PCゲームの中で売上1位になりました。また、通常のスキームではコンテンツホルダーはIPを出すときにお金を払ってもらう側ですが、この会社が次に出したゲーム「CREED : Rise to Glory VR」では、Surviosの開発力を評価してコンテンツホルダーである映画会社が開発資金を出し、結果的に大ヒットしました。
そして現在、家庭用のヘッドセットが期待ほどは広がらない反面、XRの世界ではロケーションベースのバーチャルエンターテインメントというものが代わりに広がりつつあります。5Gも、戦後の街頭テレビのような形で、普及の過渡期においてはある限られた区画内での活用もあるのではないか、とも考えています。
安島
XRが普及する途中の踊り場においては、ロケーションベースのエンターテインメントが解になるということですね。後ほど詳しくうかがいたいです。
冨川
私は現在フジテレビで、映像配信やデジタルニュース、アニメ、映像パッケージ、海外の番組販売といったビジネスのほか、デジタル系の新規ビジネスにも取り組んでいて、テクノロジーとエンターテインメントの融合領域にフォーカスし、これをどうマネタイズするかに注力しています。とっつきやすく成長市場でもある「イベント(ライブコンテンツ)」にチャレンジしていこうという計画です。
具体的には主にスポーツ中継において、5Gで送られた選手情報をリアルタイムで出していく「ジオスタ」というサービスブランドをNTTドコモと開発中です。これはさまざまなスポーツに適用できるのですが、さらにアイドルライブや競輪といったジャンルへの応用も模索しているところです。
安島
「ジオスタ」は3年くらいやられていて、すでに実証実験も5件くらい行われていますよね。5Gの酸いも甘いもご存知だと思うので、後ほど詳しくお願いします。
有田
NTTドコモの有田です。最近は5Gを活用した地方創生に取り組んでおり、パートナー企業や自治体の皆様と一緒にモデルづくりをやっています。「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」といって、2018年2月からスタートした、5Gのビジネスモデルを我々と一緒に創出しましょうという取り組みです。自治体や研究開発、経営層、サービス企画部門…あらゆる分野、業種の方々に参画いただき、すでに3100を超えるパートナーがいます。さらに、我々は5G時代を見据え、多様なデバイスが簡単につながり新たなユーザー体験を実現する「マイネットワーク構想」を掲げています。たとえばH2Lというベンチャー企業と開発している「Body Sharing」は人間の脳から出る微弱な電気信号を利用し、腕に取り付けたバンドを通じて、VR空間にいる自分のアバターの手指を動かしたり、腕にとまった鳥の重みを感じることができます。こうした技術は、5Gを使って遠隔で何かを制御するときに非常に重要になると考えています。
また、5G時代にはARグラスも絶対にブレイクすると考えています。たとえば製造業で、現場に入った新入社員がこのグラスをつければ、左目で電子マニュアルを確認できたり、カメラを通して何十キロも離れたオフィスにいる先輩から指示を受けることもできます。エンタメだけでなく、こうした世界でもARグラスは大いに活用されるだろうと考えています。
安島
弊社も「ドコモ5Gオープンパートナープログラム」に参加していて、遍く5Gの恩恵を享受できる未来を実現するドライバーとして非常に期待しております。
私自身は博報堂DYメディアパートナーズのクリエイティブ&テクノロジー局で、媒体社の皆様との協業で新しいソリューションや事業開発に取り組んでいます。コンテンツをフックに新しいものを仕掛けていくことが得意なチームで、5G周りでも、有田さんからのお話にもあったH2Lさんの技術を使ったアイデアコンテストにエントリーさせていただくなどの取り組みをしています。また、広島県の「ひろしまサンドボックス」というオープンイノベーションのプログラムでは、ドコモさん、中国放送さんと3社で、「Neo Live Viewing」という、マルチアングルや立体音響などを活用したパブリックビューイング事業の実証実験を行う予定です。広島スタジアムのチケットはプラチナ化しているので、パブリックビューイングのニーズは大きい。テレビとスタジアム観戦のいいとこ取りするようなサービスで、今後も事業として回していけそうかしっかり見定めたいと考えています。
■5Gが可能にする「未来」の世界と、現状の課題感
安島
では5Gに期待すること、実現したいことについてお話ください。
渡辺
現在「Survios Portals Live」という、現実空間の身体の動きとVRのキャラクターの動きが完全にリンクした共時体験のプラットフォームを開発中です。5Gの回線がつながる範囲であれば、何百メートル、何キロでもフィールドを広げることができる。たとえば自治体などがある土地にローカル5Gネットワークを引き、遊具や建物などのハードコストほぼ0で、遊園地を開園するといったこともできる。ただ、この技術はまだコアなので、マーケターとしては今後こうした技術をどういう切り口で市場に対して広めていくかを考えるフェーズにいるところです。
安島
本当に「未来」という感じですね。ここまで来ると、もはや技術的な制約を取り払ってプランニングしていった方が面白いものができそうです。
冨川
テレビ局としては、MaaSとの組み合わせもやるべき領域だと考えていて、移動式のパブリックビューイングなどの企画をいま温めています。それから、自分の身体を3Dスキャンして仮想空間に取り込めるような小型で移動式の装置ができれば、何かエンターテインメントもできそうです。
安島
今はまだ「自動運転をいかに安全に実現するか?」という議論ばかりですが、その先は当然こういう話になりますよね。移動している車内で運転しなければ暇なので、そこにこういうコンテンツを提供していくというのは、すごく可能性があると思います。
有田
「窓コンシェル」という、新幹線などの移動空間や自動運転の車内で、インタラクティブにリッチな観光情報を提供するというアイデアもでてきています。この技術を応用した別のアイデアとしては、たとえば自分の乗る電車を上空から見るのは現実的に不可能ですが、定点カメラを設置し、特定の場所を通過するときに窓に投影し、「いまこんなところをこの電車は走ってるんだ」といったことができたり、切符にスマホをかざすとこれから乗る電車が飛び出てくるとか、窓にスマホをかざすと「あれは〇〇山です」と教えてもらえたり、いろんなコンテンツが考えられるのではないかと思っています。
安島
5Gの活用により観光体験そのものを変えるということですね。ここにほんの少しでいいので広告的なものを入れていただきたいですね。ここまでデータがとれて、ロケーションに応じたものを出せるとなると、決して不快ではない、シチュエーションに合わせた適切な広告が出せると思います。
有田
契約情報である程度の属性もわかるので、男性向け女性向けなど、広告の出しわけも可能です。
渡辺
確かに、事業を持続させるためのマネタイズの一本として広告が追加されるといいですね。実際、現状のロケーションベースのエンターテインメントは、事業として継続性を担保するうえでまだ課題があるという認識です。商業施設のテナントは通例短くても2~3年の入居期間が求められますが、一方でVRの施設は最初は話題になっても、なかなかその後も3000円程度の値段を据え置きながらBtoCで新規客をを取り続けるというのは厳しい戦いになっております。また施設要件としてWi-Fiも光回線等の速い回線がつながっていないといけないので、意外と都内ではスペースを見つけにくい。人を詰め込んで課金額を上げれば、UXも下がってしまう。だったらソシャゲの方が儲かるよねとなってしまうジレンマを抱えている。
冨川
5Gをはじめとするテクノロジーを活用する、新しいエンターテインメントの市場はプレイヤーも揃っていて、実際の利活用のタイミングにはなっているものの、お金が回っていないんですよね。その原因としては、まず、大企業の技術部門など、最新技術を提供する側とコンテンツを提供する側との関係が希薄で、リスクを取りづらい雰囲気になっていることがある。ビジネスリスクを積極的にとっていかないといけないような気がしています。
渡辺
リスクマネーを供給するキャピタリストの視点で見ると、そこには3つのポイントがあります。1つは、小さくてもいいのでユニットエコノミクスが回っているかどうか。その実証があれば、コスト圧縮面でイノベーションが起き一気に黒字化したタイミングでリスクマネーが入ってくることもある。2つ目は、一度成り立ったビジネスモデルがたとえ成り立たなくなっても代わりのビジネスモデルに転換可能かどうか。それもリスクマネーを出す側としては安心材料になります。3つ目は、前2つの内部要因の話とは異なる外部要因の話、たとえば巨大資本のトップがVR事業を強力に推進することをコミットすれば、後に引けないオブリゲーションが生まれ、資金も集まりやすいのかなと思います。
■課題解決に向けての挑戦とこれから
安島
現状の課題解決に向けての取り組みについて教えてください。
渡辺
ロケーションを含むXRビジネスの検証を地道に積み上げていこうと思っています。日比谷で行ったこのVR体験施設「Survios Virtual Reality Arcade」の実証は、我々がハンズオンの一環として支援しているものですが、施設稼働率は9割を超え、日本でのサービスコンテンツそのものの受容性は確認できました。このときゲームプレー前にVR広告を見てもらい、効果を調査したところ、ブランド好意度や購買につながるアクション検討意向などがすべて上昇したのです。利用料課金以外でのマネタイズの仮説が一本立つなと思いましたし、BtoBでのマネタイズができればコンテンツホルダーの新しいリクープ機会にもなり、強いコンテンツが入ってきやすいようなビジネスモデルも構築できるのではという仮説検証ができました。
冨川
私どもは今後も「ジオスタ」を追求していきたいですね。これまではWatchスポーツの話が主でしたが、最新の「ジオスタゴルフ」はDoスポーツを通じてユーザーに新しい体験を提供するというもの。ゴルフの場合、実質4人でやっているようなものなので、その体験を共有できるような、いまあるものに新しいものを付加していくことにトライしていきたいです。
有田
現実的に5Gは、28ギガという非常に高い周波数帯だと、電波が数10~数100メートルしか飛びません。一方いまの携帯電話はキロ単位で飛ぶ。このエリアの課題を解決するために、キロ単位で電波が飛ぶ低い周波数帯の上に高いスピードが出る新しい周波数帯を重ねることで、一定のエリアにいくとダウンロード速度が落ちるけれども、別のエリアにいくとぐっと速くなるといった形で、4Gレベルのクオリティを担保しようとしています。
さらに「Massive MIMO」という、100個以上のアンテナで一気に伝送することでスピードアップさせる技術や、「beamforming」といって、端末の方向に対して複数のアンテナから細い電波を発射し、携帯が使える半径を伸ばすといった技術も現在開発中です。
安島
ありがとうございます。
ここにお集まりの、次世代のメディアやコンテンツをつくっていく方々にもこの輪に入っていただき、一緒に5Gの素晴らしい世界を実現させていければと思います。
◆プロフィール
安島 博之
博報堂DYメディアパートナーズ
クリエイティブ&テクノロジー局 ビジネスディベロップメントディレクター
2005年、博報堂入社。営業として流通、メーカー、エンタメ企業などを担当した後、2013年より博報堂DYホールディングス傘下の新会社設立に参画し、スマホアプリのサービス設計、パートナーアライアンス、マネタイズなどの事業推進一切を経験。2017年より現職で、媒体社との協業による事業開発、ソリューション開発に従事。
渡辺 大和
株式会社電通
電通イノベーションイニシアティブ
戦略投資部 プロデューサー
電通のコーポレートベンチャーキャピタル「電通ベンチャーズ」で、投資担当領域はVR/AR/XR、e-sports、メディア/コンテンツ、ブロックチェーン等。メディア・コンテンツ領域では、米VRスタートアップSurviosのプロジェクトや国内のブロックチェーン関連事業などを推進。経済産業省「始動 Next Innovator」1期生。株式会社電通 経営企画局、シリコンバレーのVC「Morado Ventures」を経て、現職。
冨川 八峰
株式会社フジテレビジョン
総合事業局コンテンツ事業センター 局次長
金融機関勤務を経てフジテレビジョン。
デジタルコンテンツ開発・フラットフォーム運営全般を担当。
有田 浩之
株式会社NTTドコモ
5G・IoTソリューション推進室 ソリューション営業推進 担当部長
1990年日本電信電話株式会社入社。2014年メディカルICT推進室長を経て2019年より現職。5Gのビジネス利用シーン創出による地方創生および産業振興を推進。