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それは本当に儲かるか?デジタル広告真の価値(ad:tech tokyo2015より)
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2015年12月1、2日の2日間にわたって開催された、デジタルマーケティングの最新情報が集まる「ad:tech tokyo2015」。本セッションではメディア企業の面々が主役として登壇。博報堂DYメディアパートナーズの半田勝彦も交えて、広告収益、またオーディエンスのエンゲージメントを向上させるために、どのようにデータ活用をしていくべきか、またどのようにビジネスに活かしていけるかなどについて語りました。(以下敬称略)

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■デジタル広告、各企業の向き合い方

江川:いま日本の伝統的な媒体社はデジタルへの対応を模索しています。今日は、代表的なメディア企業でどんな取り組みが行われており、そして今後勝ち抜いていくためにどうすべきかについて、本音で語っていただければと思います。最初に伺いたいのは、ずばり「儲かってるの?」という部分。インターネットのトラフィックが増える一方、従来のパブリッシャーが占めるトラフィックの割合は減っているという現状で、各社どう取り組まれているんでしょうか?

戸井:日本経済新聞社の戸井です。世界最大手の広告代理店である英WPPの代表者で、広告業界の大物マーティン・ソレル氏が、デジタル広告は儲からなくなってきており、メディアは課金に進むべきだと述べ、衝撃を与えました。ユーザーの顔が見えないような形で売る広告では、もう儲からないということを述べたのだと考えています。幸いなことに、日経はいち早く有料の電子版事業をスタートさせ、購読者を独自のID(日経ID)で管理する仕組みを実装済みです。そして、この日経IDを活用してデバイス横断型で、付加価値の高いターゲティング広告を配信する仕組みを構築しています。日経IDは単なるクッキーデータではなく、ユーザー自らが登録したプロフィルデータです。電子版の履歴なども合わせれば、非常にオーセンティックな(信頼性の高い)データが得られます。このIDだけでしか到達できない企業経営者のような特別な方々をどう増やしていき、彼らに向けてどうコンテクスチュアルにアプローチしていくか。それを考えて広告マネタイズに取り組もうとしています。

長崎:講談社の長崎です。弊社の2014年度のB2Bの売り上げを見ますと、広告収入は対前年比で20%ダウンしています。逆に知的財産ベースのライツを含めた事業収入は、前年比150%。これは今後の姿を象徴するものであり、同時に成功の鍵が隠されているとも思います。広告収入はフロー型のいわば「ぶどう」の栽培。これをストック型の事業収入、つまり「ワイン」の商売にどうつなげていくかが重要です。マザーコンテンツ開発というのはフロー型で広告、販売収入で支えていくんですが、これをストック型に変換していくと売り手市場の知的財産になる。この2段階ビジネスを考えています。
数年前はほとんどが雑誌中心のメディアで、それらのデジタル展開がメインでしたが、昨今は完全なるデジタルファーストのメディアも増えていますし、eコマースやキュレーションメディアなどさまざまなプレイヤーの方々と協力し、メディアやサービスをつくっています。さらにグッドコンシューマーを集めるために課金にも挑戦中です。

田端:LINEの田端です。いまグローバルで400社以上にLINE公式アカウントを持っていただいています。大量消費財のブランドだけでなく、この1年はラグジュアリーブランドにまで膨らんだというところに非常に手応えを感じています。無料で提供される広告モデルの企業キャラクターのスタンプは、タップしたら公式サイトに飛ぶわけでもないし何人ダウンロードして何回使うかが保証されているわけでもない。それでもいま多くの企業に購入して頂いています。LINEにある膨大なトラフィックを、既存のネット広告のCPMいくらという文法で見てマネタイズするのであれば付加価値はない。スタンプやオフィシャルアカウントの新しいモデルとして、受け入れられてきているのだと実感しています。
広告ブロッキングも気にしていません。なぜなら企業のキャラクターであってもスタンプに「ありがとう」とあればユーザーはあくまでも相手からの「ありがとう」というメッセージ自体を受け取る。広告だから無視するということは、相手からのメッセージを無視することになるのでありえないんです。Gmailでもいまプロモーションメールは振り分けられてしまいますが、LINEなら企業のアカウントがほかの友だちと同列にメッセージリストに並ぶので開封率も高くなります。

半田:博報堂DYメディアパートナーズの半田です。従来のデータビジネスでは広告主さんに向けてパートナーとしてサポートさせていただくという形でしたが、昨年から媒体社さんに向けて、媒体社さんが保有するオーディエンスデータをDMPに入れて、分析や戦略立案、共同で打ち手を実施していくということをやっています。どうマネタイズするのかという点に関しては、直接広告だけではなくて、CRMで読者との絆を深めながらどう新聞・雑誌の実売につなげていくかとか、リアル×データというところも含めて網羅的にさまざまな取り組みをさせていただいています。正確な解というのはまだなくて、一緒に試行錯誤させていただいているところです。
広告主さんと私たちのDMPを使って媒体社さんに広告配信するわけですが、当然その際、分析、データの統合などを通して、データ蓄積を行いながら次に生かしていく。分析段階で読者ユーザーの方々を可視化し、独自のクラスターをつくっていくというのは我々の強みではないかと思います。ただウェブクッキーでDMPをやっている現状、データに付加価値をつけるという意味で、適正な価格に対応できているか、あるいはそもそも価値を提供できているのかという点でまだトライアルの部分が多いです。

 ■メディア企業が共に儲かる世界観を目指す

江川:この一年を振り返りながら、今後どうしていきたいか、具体的に教えてください。

戸井:私たちは「送客よりも創客」と言っていますが、単純にお客様を媒体社のサイトから広告主のサイトへ送り込むだけではなく、市場を創る、新しいお客様を創るという点に広告の役割、意味があると考えています。日経に出した広告をきっかけに良いお客様が得られたと、広告主の皆様に実感していただく必要があると思います。そのためには、効果を定量的に測る仕組みが必要だと考えています。この創客の効果は、広告主のCRMと媒体社のCRMを連携することで、測定できるものと考えています。このコンセプトに基づいて、新たにDMPを実装しましたので、これを活用してもうワンステップ上のソリューションをご提供させていただく予定です。日経IDもうまく使っていただいて、日経電子版を単なる広告スペースとしてではなく、マーケティングプラットフォームとして活用していただければと考えています。

長崎:「講談社のチャレンジ」ということで、今後の戦略のネタばらしをさせていただきます。媒体社の方々に同じようにどんどんチャレンジしていただき、業界全体でコンテンツの価値とオーディエンスの価値両方を上げていきたいんです。キーワードの一つはアンプリファイ(増幅)。コンテンツに付加価値をつけ、オーディエンスを拡張させる。二つ目はトランスフォーム(変換)。コンテンツをドラマ化や映画化などに展開、さらに周辺のオーディエンスにリーチしていく。三つ目がプロモート(換金)。広告販売やユーザー課金など。この点、オーディエンス価値をプロモートによってどう高めるかというのは今後の課題です。
いま、我々のタイアップコンテンツの広告効果を検証し、購買行動データとも連携するべく、CCCマーケティングさんと新しいサービスを始めたところです。ある意味究極の組み合わせではないでしょうか。雑誌コンテンツを拡張すること、読者を核にオーディエンスを拡張すること。いまその事例をつくっているところです。

田端:我々は狭い意味での広告媒体社になるつもりはなく、企業やメディアの皆さんのインフラになれると思っています。たとえば銀行さんとの事例では、LINEのアカウント内で残高照会ができます。広告を、ではなく、支店を出してくださいというレベルに近い提案ができるんです。宅配ピザさんでの事例の場合、位置情報が送れるのでピクニック中の公園までデリバリーを頼める。問い合わせ、カスタマーサポートをテキストチャットでできたりもします。メディア企業の皆さんにはぜひ自社コンテンツを配信したり、マネタイズのインフラとしてとらえていただければ。
LINEビジネスコネクトというかたちでAPIを開けていますし、これからもいろんな形でAPIは拡張していくと思いますが、ネット企業でない限りAPIをゼロから開発していくのは難しい。そういう点で、今後もいろんなパートナーさんと連携を取りながら、簡単に使えるようにサポートさせていただきたいと思っています。

半田:いまどんなデータを持っているかを洗い出し、棚卸をする必要があると思っています。クッキーベースだけでなくて、イベント参加履歴や購買データなどを含めて、IDベースまでおさえていく。広告的に見れば、RTBに卸していくという形だけでなく、手売りで売れている純広告をいかにデータを使って価値づけしていくか。そういうプログラマティックダイレクトの方向に進んでいくんだろうということを意識しながら、マーケットをつくっていきたいと思います。ただ、データだけでなく、メディア企業も我々も、どうコミュニケーションを設計、編集できるかが重要です。コンテクストとかメッセージ配信のタイミング、動画も含めての掛け算をしつつ、メディアと生活者、広告主と生活者のエンゲージメントをつくっていく。そのためにデータ×クリエイション、データ×コミュニケーションが非常に大事なんじゃないかと思います。

江川:パブリッシャーの皆さんが共に儲けていけるような世界観を目指して、これから一緒に盛り上げていけるといいですね。ありがとうございました。

【登壇者プロフィール】

モデレーター:

江川0128

江川亮一 シーセンス株式会社 代表取締役
1997年日本オラクル株式会社入社。ITコンサルタントとして大手企業向けウェブシステム構築やERP導入に従事。その後日本IBMを経て検索エンジン大手オートノミー、ファストサーチ&トランスファーにて数々のウェブサイトでの検索・レコメンデーション導入を担当。2010年、オンライン・メディア企業向けに収益の最大化・ユーザエクスペリエンス向上ソリューションをクラウドで提供するシーセンスの立ち上げに参画。

スピーカー:

長崎0128

長崎亘宏 株式会社 講談社ライツ・メディアビジネス局 局次長 兼 第一事業局 局次長
デルフィス、マッキャンエリクソンそれぞれのメディアプランニング職を経て2006年講談社入社。雑誌、コミック、デジタルメディアの広告商品開発やイベント事業に携わる。2010年よりJMPA(日本雑誌協会)、JMAA(日本雑誌広告協会)、協力各社によって運営されている雑誌広告効果測定調査「M-VALUE」設立に従事。2014年よりJIAA(日本インタラクティブ広告協会)ネイティブ広告部会座長として、ガイドラインや広告効果指標の整備をリード。

田端0128

田端信太郎 LINE株式会社 上級執行役員 法人ビジネス担当
株式会社リクルートにて、フリーマガジン「R25」の立上げを行い、創刊後広告責任者を務める。その後株式会社ライブドアにて、ライブドアニュース責任者を経て執行役員メディア事業部長に。2010年にコンデネット・ジェーピーにて、カントリーマネージャーに就任、ウェブ部門を統括。 2012年NHN Japan株式会社(現LINE株式会社)執行役員就任。広告事業部門を統括。2014年上級執行役員法人ビジネス担当に就任。

戸井0128

戸井精一郎 日本経済新聞社 顧客サービス本部シニアプロデューサー
1984年日経マグロウヒル社(現日経BP社)入社。専門媒体(紙・ネット)の広告営業と新事業開発に従事。Webサイトの評価について、「ページビュー」のみならず、表示された「コンテンツの質」、それを見る「オーディエンスの属性」という三つの指標で立体的に測るべきだと考え、これを「Page Value」(ページバリュー)として提唱。2010年日本経済新聞社へ出向、2015年から現職。日経IDを活用した日本経済新聞社のデジタル事業推進がミッション。

半田0128

半田勝彦 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ メディアビジネス開発センター開発三部長
作詞家の秋元康氏のもとでコンテンツビジネスを経験したのち、2001年博報堂中途入社。2006年日本最大級のファッションイベント「東京ガールズコレクション」の広告・企画機能を持つF1メディアを立ち上げ、代表取締役社長に就任。雑誌局出版ビジネス部部長を経て、2014年メディアビジネス開発センターにて現職。投資戦略局戦略企画グループも兼務する。次世代メディアビジネスとして「動画×データ」プラットフォーム開発に取り組む。

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