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ソロ男、シニア、子育てママ 次の鉱脈ターゲットをつかまえるための、最新生活者研究(博報堂Consulactionセミナーより)
参考 → 博報堂Consulaction HP
新しいサービスや商品を企画する際「常識を疑え」とはよく言われますが、ありがちなターゲット像にとらわれてしまうことは決して少なくありません。今回、子育てママ、ソロ男、シニアという3つの鉱脈ターゲットに対する最新の研究内容をご紹介します。子育てママにスマホが普及したことで今どんな変化が生まれているか、注目されることの少なかった独身男性の意外な消費傾向とは、そして新しい大人文化を生みだしつつあるシニア像の実態とは――。
キーワードは「脱・ステレオタイプ」。
それぞれのターゲットにおける、これまでのステレオタイプと実状との「ギャップ」を知っていただき、その気付きをぜひ新しい市場チャンスの発見につなげていただければと思います。
■第一章 子育てママとデジタル情報行動
現在6割以上の子育てママが利用するスマホ。こうしたデジタルメディアの普及が子育てママのライフスタイルにどんな変化を生んでいるのかをご紹介します。
講師:脇田 英津子 博報堂 こそだて家族研究所 主任研究員
・SNS使い分け術
フェイスブックは自己承認ツール。育児の成果は日常の中では感じにくいものですが、子ども自慢などの投稿に「いいね」が押されれば承認欲求が満たされ、小さな喜びを得られます。ツイッターはつながりのツール。愚痴や悩みを書きやすく、オープンカウンセリング効果もあります。悩みを語り合うことで、育児のチームメイトができる場となっています。リアルママ友との連絡のインフラがライン。井戸端会議や連絡網に利用され、ママ特有の状況や気持ちを表現するのにぴったりなスタンプが人気です。めまぐるしい子育ての中で、瞬間瞬間を記録したり、遠くのご家族と思い出を共有できる写真共有系ツールも人気です。
・購買行動
ネットとスマホで購買行動の選択肢は激増しました。たとえばお出かけ先の混雑状況を調べる際、どれくらい並ぶか、並ぶ場所に屋根があるのかまで、ママたちは口コミを比較して徹底検証します。育児・家事のスキマ時間に価格を徹底比較して安く買うことも楽しみます。選択の際は、大人が楽しめるものを優先。まず大人が楽しめて、子どもも楽しいモノやサービスが好まれます。子ども服のお下がりにもウェブのオークションが利用されています。売る時に値段がつきやすく、また買う時にも商品を検索しやすいという理由からブランド物を選ぶ動きがうまれています。
・子どものデジタル利用
現在、子ども(0-12歳)の3割以上が通話や動画サイトの閲覧にスマホを利用しています。小さい子でも自分で操作して動画を見ることができるので、長時間静かにしてほしいときなどに活用されています。ママとしては内心よくないと思いつつも、上手に楽しく使うことが大事と考えているようです。
子育て時期は世界が急に狭まったように感じてしまいがちですが、人間関係、購買の選択肢、こどもとの関わり方などにおいてデジタルメディアを活用し、子育てを契機に新しい人間関係を築いたり趣味をみつけたり資格の勉強を始めたりと、新しい自分と出会おうと積極的なママが多いと感じます。
ママを承認するコンテンツはもちろんですが、今後はもっとママならではの知恵、バイタリティをリスペクトするマーケティングが求められるのではないでしょうか。その際ポイントになるのは、その体験が単なる思い出ではなくて、シェアしたくなるものかどうか。また親子で一緒に取り組み成長できるかどうか。年代によってデジタルリテラシーも大きく異なりますし、ここ数年は特に子育てを取り巻く環境が様変わりしています。情報を逐一アップデートしていきマーケットの可能性を探し続けることが重要ではないでしょうか。
(参考)博報堂 こそだて家族研究所
■第二章「ソロ男」の消費力
今年度初めてご提案した「ソロ男(英語表記はSOLO DANDY)」。これまでなかなか見えてこなかった独身男性の生態を明かしながら、消費のポテンシャルをさぐります。
講師:荒川 和久 博報堂アクティベーション企画局 リーダー
いまや単身世帯比率は31.2%、男性の生涯未婚率は20.1%で(2010現在)、将来的に30%まで上がるとされています。過去には女性を対象にした「おひとりさま」「女子会」ブームがありましたが、消費意欲が高いとされる女性に対し、独身男性は甲斐性がない=消費できないという理由で長年ターゲットにされてきませんでした。そこで、ちゃんと働き、旺盛な消費意欲をもち、自由で気ままなライフスタイルを楽しむ。自由で自立していて自給しているひとをソロ男と定義しました。増え続けるソロ男はもはやマイノリティではなく、市場ターゲットとして無視できない存在です。
彼らは計画的に真剣に買い物をします。気に入れば高くても買うし、そうでなければ必需品でも安いものを選ぶ。メリハリの効いた買い物をします。独身でいつづける最大の理由は、実は経済的に助かるから。人のためにはお金をケチりますが自分の趣味にはお金を注ぎ込みます。
趣味に対する行動は「集める」「旅する」「応援する」「鍛える」「作る」「賭ける」といったキーワードで分けられます。海外のオークションまで出かけるコレクターや、テーマにこだわって旅をする人、とことんまでアイドルを応援する人、ジムで鍛えて毎日フェイスブックにアップする人、パスタを粉からつくる人、データ分析をするギャンブラーなどがその例です。そして彼らは、似合うと言われると買ったり、ご褒美として美味しい食事をしたり、SNSで投稿するために新商品を買うなど「承認欲求」を満たすもの、また、シリーズをコンプリートする、あえて奇抜な商品を買う、こっそりダイエットするなど「達成欲求」を満たすための消費行動をとります。
そんな彼らを5つのクラスターに分類すると、仲間との交流がさかん、消費意欲が高くブランド好きなどの「社交性ソロ男」、趣味に没頭し、一人の時間を大事にするなどの「ストイックソロ男」、さびしがり屋、一番流行に左右されるなどの「ネット弁慶ソロ男」、まじめで常識人、実は結婚したがっているなどの「きっちりソロ男」、孤独が苦にならない、無駄な買い物はしないなどの「仙人ソロ男」に分けられます。
一言で言うとドケチな浪費家、それがソロ男です。ドケチなお客さんになるか浪費家のお客さんになるかはこちら側にかかっています。ソロ男は孤独だと思われがちですが、友達や彼女もいるソロ活動系、「ソロ充」な人のこと。一人で生活する人が大勢いる社会では当然マーケットのあり方も商品の売り方買い方も変わってきます。ソロ男がこれからの社会を変えていくとも言えるのではないでしょうか。
(参考)Facebook「ソロ男」研究所
(参考)【特集】「ソロ男」、それは新しい鉱脈ターゲット。
■第三章「新しい大人世代」の肝をつかまえる
「シニア」という言葉が、もはや当事者の彼らに響かないという声をよく聞きます。今、そこにこそビジネスの機会があるということについて考えます。
講師:阪本 節郎 博報堂 新しい大人文化研究所 所長
世界的に見ても日本は急激な高齢化が進んでいます。いま50代以上は5700万人で、大人のふたりにひとりは50代以上。40代以上となると7500万人。市場の重心は確実に若者層からシニア層に移っています。
50~60代というのはライフステージが大きく変わる節目です。子どもが独立し教育費もかからない、ローンも終わりに近づき退職金も入ってきて、お金も時間もある世代です。プレミアムビールやデジタル高級一眼レフカメラ、高級シャンプーなど、中心的に消費しているのは40~60代。ここに新しい大人市場が生まれているのではないかと思います。彼らは「成熟世代」と言われても嬉しくはない。いつまでもかっこいい大人を目指し、若者にもあこがれられたい「新しい大人世代」です。人生終盤に近いのは事実だけれども、そう言われることに抵抗を感じます。健康維持に強い興味を持ちますが、健康は目標ではなく人生を充実させるための手段。ネットも当たり前に使い、メディアなどの情報について語り合う「情報縁」でつながります。「趣味人倶楽部(しゅみーとくらぶ)」というSNSサイトは趣味の情報交換に活用され32万人の会員を抱えるまさに「情報縁」サイトです。
かつての50代はサザエさんでいう波平やフネさんですが、いまは黒木瞳さん、サザンの桑田さんなどです。彼らの「若々しくセンスのある大人でいたい」「ここから人生の花を開かせたい」といった生活意識の変化に対し、どのようなサービスを提案していくのかが鍵となります。
ファミリーを卒業した彼らは、ママでもなくパパでもなく一人の大人の男性女性。彼らをクラスターに分析してみると、大きく“イノベーターグループ”と“ゆったりグループ”に分かれます。それぞれ50%で、たとえば“イノベーター”が「韓国行きましょうよ」と誘えば“ゆったり”は「じゃあ行こうかしら」となり、前者が後者をひっぱっていく力を持ちます。40代も60代もほぼ同じ割合でこの傾向が現れます。40代主婦、50代サラリーマン、60代リタイヤ層といった横の分け方ではなくて、こうした縦のクラスターで切っていく見方もあるんです。
本当はこうありたい、こうしたい、というところに届いて初めて心が動きます。そのインサイトをしっかりとらえなくてはいけません。「エクラ」「HERS」「大人のおしゃれ手帖」など新しい女性誌が成功した理由に「人生これから感」「自然体エンジョイ感」「新しいライフスタイル」を示したということがあります。こうしたメッセージに、広告力を掛け合わせ、パワーを最大化し、需要をとらえていく。それによって新しい大人市場がつくられ、花開いていくのだと思います。
(参考)【スペシャリストコラム】狙いは、「シニア」ではなく「新しい大人」がつくる巨大マーケット
(参考)新しい大人文化研究所
■講師プロフィール
脇田 英津子
博報堂 こそだて家族研究所 主任研究員
慶應義塾大学経済学部 卒業
化粧品、自動車、トイレタリー、菓子、衛生用品などのマーケティング戦略立案や商品開発にたずさわる。子育て市場マーケティングには長男の育児休暇から復帰した2001年より従事、現在に至る。
荒川 和久
博報堂 アクティベーション企画局シニアプロモーションディレクター
ソロ活動系男子研究プロジェクト・リーダー
早稲田大学法学部 卒業
自動車・飲料・アルコール飲料・食品・化粧品・流通・住宅等幅広い得意先企業のプロモーション領域業務を担当。「スマート什器」「電子レシートを活用した電子購買証明サービス」等店頭プロモーション周りのソリューション開発も手掛ける。2014年より「博報堂ソロ男プロジェクト」を立ち上げ。
阪本 節郎
博報堂 新しい大人文化研究所 所長
早稲田大学商学部 卒業
博報堂にてプロモーション職、研究開発職を経て、企業のソーシャルマーケティングの開発を推進。2000年にエルダービジネス推進室、2011年春に当研究所を設立し、現職。政府・自治体・放送局・独法の委員を歴任。