レポート
セミナー・フォーラム
新しい発想を生み出すためのイノベーティブマネージメント 〜創造的編集と場づくりのノウハウを探る(博報堂Consulactionセミナーより)
REPORT

参考 → 博報堂Consulaction HP

【イノベーティブ・マーケター研究会 vol.1】

企業の、特に、「マーケティング領域でのイノベーティブ人材創出」をサポートしたい

企業のなかのイノベーティブな人たち(=「サラリーマンイノベーター」)が自由に発想し、社外のネットワーク構築の場を提供したいという思いから、イノベーティブ・マーケタ―研究会が発足。
2015年4月22日、博報堂にて第1回目の研究会が開催されました。

セミナー中

同研究会の発起人であり、企画担当の岡弘子(博報堂コンサラクション事務局 コンテンツ編集統括責任者)による企画主旨説明のあと、「イノベーティブ人材創出に強く関心を持つ」3氏が登壇しました。
様々な意見を編集し新しい価値を創出し続ける、NewsPicks取締役兼編集長の佐々木紀彦氏、産学連携でのオープンイノベーションを進める慶應義塾大学経済学部教授の武山政直氏、社内に、プロトタイピングラボを設置し、社内オープンイノベーションの場をマネージメントする、博報堂ブランドイノベーションデザイン局の岩嵜博論氏。後半はパネルディスカッションが展開され、本日のテーマである、イノベーティブな人たちを動かしていくために必要な「編集」や「場づくり」「発想」の視点からのアプローチ、外部リソースの活用法など、いろいろな提言をいただきました。

イノベーティブ・マーケタ―研究会が目指すもの 

岡
博報堂コンサラクション事務局 コンテンツ編集統括責任者 岡弘子

はじめに、本研究会を立ち上げたきっかけをお話しさせていただきます。
現在、博報堂Consulaction(コンサラクション)のセミナーの他に、マーケティング研修の運営を担当しております。

あるとき、企業の研究開発部門に所属しておられる受講生の方から、「こんな楽しい研修は初めてでした」と言われたんですね。その理由を訊ねると「バカだなーと笑われてしまうかもしれないアイデアを話す場所がどこにもないんです。いろいろ提案しても会社ですぐに却下されてしまう」とのこと。
博報堂では、毎回様々なアイデアを、1人20〜30、ときには100は持ってこいというのが日常的。ですが、その方は、いつも根回しして事前に承認を取れたアイデアしか挙げられないそうです。

そのときに沸き上がった「本当にこれでいいのだろうか?」という疑問を、本日、ご登壇いただく佐々木さんに話したところ、「革新を起こす人というのは、個人(起業家)には多いけれど、本当は企業の中こそ革新を起こす人が少ない。そこが増えていかないと、日本はまったく変わっていかないのではないか」という見解に至りました。そこで、企業の中で改めてイノベーターを考えてみる、特に、博報堂として「マーケティングイノベーションを推進する人材」を創出するために、研究会を立ち上げました。研究会ですので、さまざまなスピーカーや参加者のみなさんが一緒に考えながら、進めていきたいと思っております。

講演1:「人」異能を編集する

 

佐々木_登壇中

株式会社ユーザベース執行役員、NewsPicks編集長 佐々木紀彦氏

【新しい統合は、人脈・教養・企画力から】

イノベーションの核である「新しい結合*」を起こすためには、人とモノとコト(アイデア)を「編集する力(編集力)」が必要だと思います。*経営資源の「新しい結合」によって起きる、従来の延長線上での改善の積み重ねとは違った、非連続的な変化(ヨーゼフ・シュンペーター)

私がこれまで、紙やwebメディアで培ってきた経験から定義すると、編集者には次の3つの能力が求められます。

①   人を探す、面白いことを見つける「スカウト」的な力
②   つなげておもしろい企画やアイデアを生み出す「クリエイター」としての力
③   生み出したものをどう見せるか考える「マーケター」としての力

また、この3つの能力すべてに共通する土台として必要な素養が3つあり、①人脈(人的ネットワーク) ②教養(知恵のネットワーク) ③企画力・センス となります。

こうした編集力を磨く秘訣として、私はよく「とにかく経験を積む」「とにかく飲みに行く」「とにかく教養を磨く」とお伝えしていますが、なかでも「教養を磨く」ことを強調したい。

なぜなら、教養という名の土壌が痩せていると、いくら専門という名の木を植えても育たない。豊かな土壌に太い木が相互に交差するように生い茂ったところに、イノベーションが生まれるものだと思うからです。

とはいえ、情報ばかり入れてせかせか勉強するのではなく、次の3つの「断ち」をお勧めします。

①   「節約断ち」して、遊び・アートに投資する。
②   「スマホ断ち」して、読書にかける時間を増やす。
③   「ビジネス書断ち」して、読みやすい新訳古典を読む。

こうして深い知識を蓄え、自分のなかで醸成することで、イノベーションを推し進める時に直面すると思われる、「孤独と批判を恐れない度胸」を養ってほしいと思います。

【知識交換の「場」がイノベーションを生む】

大企業で働いた経験がないので、あくまで想像ですが、3つのポイントがあると考えます。

1つめは、「ポジショニング」。

現時点では社内評価が低くても、ここは伸びる、面白いという確信が持てれば、そうした部署に移って実績を上げる。始めはこうした小さなイノベーションでもやがてすべてにつながると思います。

2つめは、「サーバント・マネージメント」。

自分ひとりで全部のイノベーションを起こす必要はまったくありません。自分よりも優秀な人たちを活用するスキルを学ぶことが非常に重要です。いつかメディアでも特集したいと思っていますが、文系サラリーマンがこれからも貴重な存在であり続けるためには、「マネージメント」と「マーケティング」という2つの能力が必要だと考えています。

3つめは、「知識交換、世務諮詢(せむしじゅん)」。

福沢諭吉が交詢社という社交クラブを作ったときに掲げた理念ですが、お互いの知識を交換し合えば、みんなの知識レベルがあがる。また、時事問題などについても話し合う場をたくさんつくって参加していくことが、大企業にとっても大事だと思います。

【デジタル・モバイル・ソーシャル。メディア業界は今まさに変革期】

今、デジタル化、スマホシフトによるモバイル化、ソーシャル化の3つの技術革新の波が、一気にきていることもあり、メディア業界は数十年に一度の変革期にあると言われています。

編集長として携わっている「NewsPicks」は、世界の経済情報をワンストップで届けるソーシャルメディア。異なるメディアとの融合やピッカーと呼んでいる読者との融合など、これまでのメディアになかった組み合わせをつくることで、メディアを面白くできないかなと思っています。

講演2:場〜プロトタイプスペースを活用した社内オープンイノベーションの実践

岩嵜_登壇中

博報堂ブランドイノベーションデザイン局 ストラテジックプランニングディレクター 岩嵜博論

【社内に「砂場」をつくりました】

企業のなかでイノベーションを起こしていくための「場」をつくりたい。そんな思いから、社内の一等地ともいえる社員共有スペースの一画に、ガラス張りのミニ工房(ラボ)を開設。レーザーカッターや3Dプリンターなど、デジタル工作機器を使い、手を動かして、カタチにしてみながら考える「プロトタイピング」というワークスタイルを気軽に体験できる場を提供しています。

新しいものをつくる、探す、見つけてくるといったイノベーションを生み出す場というのは、事務処理等の効率化を上げるために設計された、机が並んでいる従来のオフィス空間とは異なる文法が必要だと思います。

そこで、気軽にフラッとやってきて、それぞれ好きなものをつくったり、ふとしたきっかけから一緒に砂で何かをつくったり壊したりしながら遊ぶ。そんな「砂場」遊びができるような空間をイメージしました。ちなみに、社内に砂場をつくるという発想は、弊社で20年ぐらい前にあったそうです。

このワークスタイルは、社の研修出向制度を使って行った米国のデザインスクールで実際に学びました。そこは、デザイン思考を体系的に教えており、イノベーションのプロセスとして、アイデアレベルのものを実際にカタチにするプロトタイプという工程が入っていました。たとえば、スチレンボードで作った車のプロトタイプをつくって乗車体験をシミュレートしたり、スーパーマーケットのショッピング体験を再現したり、といった経験や体験のプロトタイプもありました。

スクールでは事あるごとに「Low Fidelity, Early Failure.」と言われ、時間をかけずに、ささっとつくったおもちゃのようなもので何度も検証を行い、失敗から学習していきます。日本では「プロトタイプ=試作」と訳されている側面もありますが、どちらかというと時間をかけて作り込んだ完成度の高いもの、というイメージが強いですよね。そこで、社内プロトタイピングラボを通じて、この試作発想のワークスタイルを企業のなかにもっと取り込めないかと思っています。

【レーザーカッターで肉を切ってみたい!】

ラボによく来る女性社員があるとき、「レーザーカッターで肉を切ってみたいんです」と言ってきました。有機物を切るとニオイが出るので、少し躊躇しましたが承諾。実験は無事に終わりましたが、その結果、あるアーティストのPVで、「フォント型に切った肉を女性が食べる」シーンというアウトプットにつながりました。この冒険じみた試みも、社内イノベーションの1つといっていいと思っています。

また、ラボで知り合った若い研究開発職の社員と、ソーシャルデザイン活動をするベテラン社員が恊働して、プロダクトを開発。「ライトモア*」という作品で、ミラノサローネで日本のソーシャルデザインとして出品されました。これも、ラボのゆるいつながりと新しい結合が生んだイノベーションです。

*2種類以上の感覚を組み合わせることによって新たな感覚や効率が生まれるクロスモーダルを組み込んだプロダクト。子どもが文字を書いたり絵を描いたりすると、書いた音が増幅して聞こえ、楽しく読み描きすることができる。

【こんな「場」があるとアイデアは生まれやすい 4つのポイント】

最後に、企業のなかで、こうした社内オープンイノベーションの「場」をつくるときに必要なポイントを4つ、ご紹介します。

①「オープン」
常に活動をビジブルにした開かれた空間になっていること。

②「フレキシブル」
フォーマルな組織から離れたゆるいつながりが得られること。

③「インフォーマル」
偶発的な対話を促す仕組みが何らかのカタチで埋め込まれていること。

④「プロトタイプ」
アイデアをカタチにできる環境があること。

理想としては、キッチンやダイニングも備え、打合せもワークショップもできるスペースをストリートレベルに設置。既存のオフィスにはない文法をもったオープンなスペースで、砂場でおこなわれているような、ゆるいつながりや偶発的な出会いのもと、新たなモノやサービスが生まれる場にしたいと考えているところです。

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【イノベーティブ・マーケター研究会 Vol.2】(2015年7月16日開催)→申し込みはこちら

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