レポート
セミナー・フォーラム
「生活者データ・ドリブン」マーケティングシリーズ (博報堂Consulactionセミナーより)
参考 → 博報堂Consulaction HP
<セミナーレポート前篇>
統合的なマーケティング活動を実現させるツール「マーケティング・オートメーション」への期待が高まっています。
2015年6月10日に開催されたセミナーでは、マーケティング・オートメーションを効果的に活用するための考え方、ノウハウ、運用の方法論などが紹介されました。その模様を2回にわたってレポートします。
【講演1】デジタライゼーションにおけるB2Cマーケティングの革新
博報堂 生活者データマーケティング推進局
マーケティングプラットフォームソリューション部
吉田 敬
マーケティングは「一人ひとりの生活者と向かい合う」時代に
~「360度アプローチ型」から「360度対話型」のコミュニケーションへ
スマートフォンなどのモバイル機器の普及、ソーシャルメディアの浸透などによって、生活者や企業を取り巻く情報環境は大きく変化しました。これまでのマーケティングコミュニケーションが、生活者にあらゆる角度からアプローチする「360度アプローチ型」だったとすれば、現在のマーケティングは「360日対話型」に変化しつつあります。
これまでのマーケティングでは、キャンペーンを繰り返すことによってそのつどコミュニケーションを活性化させる手法がしばしばとられてきました。今後はそれに加えて、生活者とのコミュニケーションを常時行う「AlwaysOn」の施策が重要になります。それがすなわち「360日対話型」のマーケティングです。これによって、より多くの生活者を商品やサービスのファンとし、関係性を強化していくことが可能になると私たちは考えています。
生活者との関係づくりを目標とするマーケティングでは、次のような要素が重要になります。コミュニケーションにおいては「戦略的かつタイムリーな小さなアイデアの積み重ね」、クリエイティブにおいては「個々の生活者に適したメッセージ」、メディア活用においては「自社メディアやソーシャルメディア」、データ活用においては「アクチュアルデータ(生活者の行動データ)」などです。また、PDCAサイクルをスピーディに回していく体制がこれまで以上に求められることになります。
マーケティングの重点が広告の「枠」から「人」へ、ブランディングの重点が「一人ひとりの生活者と向かい合うこと」へと大きく変化しつつある。それが現在の状況であると言っていいでしょう。
「個客」へのアプローチを自動化するツール
生活者との関係づくりをスピーディに実現していくには、データの活用が欠かせません。しかし、そこにはいくつかの課題があります。考えられる課題は、例えば、以下のようなものです。
●生活者データの抽出や集計に時間がかかる。
●メール配信作業(顧客のセグメンテーション、配信リストの抽出、配信オペレーションといった一連の流れ)に手間がかかる。
●施策を分析する時間がなく、効果検証が不十分なままになってしまう。
そのような課題を解決するツールとして、現在大きな注目を集めているのが、「マーケティング・オートメーション」です。
メールをセグメントごとに配信し、それへの反応を分析し、そのデータをウェブ上の行動トラッキングと組み合わせ、個々の生活者のポテンシャルをスコア化する。そして、その結果をもとに、見込み顧客を顧客に、顧客を優良顧客へと育成していく──。それがマーケティング・オートメーションの一つの典型的な活用法です。
マーケティング・オートメーションは、マーケティングの自動化を意味します。では、何を自動化するのか。一人ひとりの顧客、いわば「個客」へのアプローチを自動化するのです。誕生日や記念日などのライフイベントに合わせたアプローチ、顧客との関係を段階的に深めていくためのアプローチ、顧客のモチベーションに応じたアプローチ、顧客の志向性に合わせたアプローチ。それらを自動化していきます。
さらに、マーケティング・オートメーションを外部のDMP(データマネージメントプラットフォーム)やCRMツールと連携させれば、見込み顧客の獲得から、育成、営業フォローに至る一連のプロセスを一元的に管理することも可能になります。
生活者のインサイトを見極め、生活者のリアルタイムのモチベーションを把握しながら、最適なアプローチができること。また、その施策の成果を測定できること。さらに、これまでは分断されていたマーケティングの個々のプロセスをITによってつなぐことができること──。それらがマーケティング・オートメーションの大きなメリットなのです。
「顧客視点」のマーケティング・オートメーションでなければ意味がない
マーケティング・オートメーションを活用にするに当たっては、以下の3つの視点が重要となります。
①顧客の姿が本当に見えているか
顧客の本当の姿を捉えるには、行動データだけではなく、マーケティングリサーチのデータなどを組み合わせる必要があります。それによって、顧客に伝えるべきメッセージが明らかになります。
②リアルなカスタマージャーニーになっているか
顧客の「今」のニーズを見極め、それをそのつどコミュニケーションシナリオに反映させていくことによって、一貫性のあるメッセージングが実現します。それが、個々の顧客ごとのカスタマージャーニーにつながるのです。
③新規顧客獲得へのアプローチ
マーケティング・オートメーションは、基本的に見込み顧客や既存顧客へのアプローチを最適化するのに適したツールです。しかし、顧客リストが拡大しなければ、マーケティング活動は、同じ畑だけで収穫を得ようとする「焼畑農業」になってしまうでしょう。そこで、外部DMPなどを活用して、自社の顧客となりそうな生活者にアプローチしていく施策が必要となります。
「マーケティング×テクノロジー」視点の博報堂
博報堂グループは、「マーケティング×テクノロジー」という視点を非常に重視しています。生活者を顧客化し、それを優良顧客へと育てていく。そのプロセスを、マーケティングとシステムの両方の視点で構築していくノウハウを持っているのが私たちの強みです。
マーケティングにおいては、生活者視点に立った統合的な戦略設計を、システムにおいては、その戦略に即したトータルなシステムの構築と運用を提供し、さらには、その活動全体をPDCAによって常に改善していく──。それがこれからの時代のマーケティングにはいよいよ欠かせない取り組みとなる。そう私たちは考えています。
【講演2】顧客を捉え、アクションにつなげるために
博報堂プロダクツ ダイレクトマーケティング事業本部
データベースマーケティング一部
大木 真吾
導入前にやらなければならないことは
マーケティング・オートメーションとは、さまざまなデータを活用して、「オートメーティブ(自動的)」にOne to Oneマーケティングを実現するためのツールです。
まず、システムやITを活用して、顧客IDデータ、購買データ、施策実施データなどをデータベース化します。次に、そのデータをもとに、ターゲット抽出、商品選定、施策テーマの設定など、「個」を捉えるための戦略設計、企画立案を行います。さらにそれを自社サイトでの購買レコメンド、メール配信、オンライン広告の出稿といったコミュニケーション施策につなげていきます。このような一連のプロセスの多くの部分を自動化できるのがマーケティング・オートメーションの機能です。
マーケティング・オートメーションを導入する企業は急速に増えていますが、一方、こんな声も聞こえてきます。
「せっかく導入したけれど、十分に使いこなせず、結局半年後には誰も使わなくなった」
「ターゲティングの精度は間違いなく上がるが、そのぶん対象顧客の数が少なくなってしまう。結果、ターゲットとなる顧客の反応率がよくても、売上に大きなインパクトを与えるほどの効果にはつながらない」
「オートメーション化によって楽になると思ったが、実はいろいろたいへん。レコメンドの文面のチェックや、クリエイティブ、効果検証など、人の手でやらなければならないことは意外に多い」
こういった声が寄せられるのはなぜでしょうか。おそらく、マーケティング・オートメーション導入以前にやっておくべき戦術設計やルール作りが後回しになっているためであると考えられます。自社にとって理想的な顧客とはどのような人たちか、ターゲティング手法をどう体系化すべきか、商品特性をどう定義づけるか、施策テーマをどう設定するか──。オートメーティブな環境構築を優先的に推進した結果、それらマーケティングに必須の工程を省いてしまっているケースが少なくないのではないでしょうか。
そのような事態になることを避けるために、まずは「人力」によるパーソナルコミュニケーションの施策を実行し、一つの「型」をある程度作った上で、マーケティング・オートメーションによってその精度を上げていく。そんなやり方が有効であると私は考えています。
商品特性の定義や施策の類型化が戦略のベースとなる
マーケティング・オートメーション導入に先立って必要な作業をいくつか具体的に見ていきましょう。
<商品の特性の定義>
売り上げを伸ばしたい商品やサービスの特性によって、とるべき戦略は変わってきます。商品の特性には、例えば、以下の4つが挙げられます。
①「吸引力」のある商品=それを買った生活者がリピーターになるような商品
②「カテゴリ拡張力のある商品」=それを買った生活者がさらにほかの商品を購買したいと考えるようになる商品
③「トライアル力のある商品」=それを買った生活者がファンになりやすい商品
④「復活力のある商品」=過去に愛用者だった生活者を呼び戻す力のある商品
これらの定義をすることによって、戦略の立案が非常にスムーズになるはずです。
<施策設定方針の類型化>
その施策は「リマインド」か「レコメンド」か「アテンション」か、といったことを明確にしておくことが必要です。例えば、ビールの場合、リマインドは、ビールが好きな人にビールの情報やクーポンを送る施策です。レコメンドは、ビールが好きな人に枝豆の情報を送るといったアプローチです。関連購買を誘発する施策と言ってもいいでしょう。アテンションは、直接的な購買行動にはつながらないかもしれないけれど、ビールへの愛着を醸成するようなアプローチです。例えば、ビール祭りの情報を送るなどの施策がここには含まれるでしょう。
導入後はオートメーティブに実行パートを決める
マーケティング・オートメーション導入後の施策については、2つの観点を押さえておく必要があります。どの施策を「オートメーティブ」に実行するのか、どの施策を「人力」で実行するか、です。「オートメーティブ」なアクションは、定常的に顧客を優良顧客化するのに向いています。先のリマインドやレコメンドはこの方法で実行することが可能です。「人力」によるアクションには、スポット的なプロモーションでアテンション型のアプローチを行ったり、顧客との関係をより深めるために「おもてなし」的なアプローチを行ったりするといった方法が適しています。
優良顧客化に向けたマーケティング・オートメーションの活用タイミング
顧客の優良顧客化は、次の4つのプロセスで進んでいくと考えられます。
①顧客を構造化し、施策テーマを構築する
②顧客の行動特性をグルーピングする
③商品の特性の定義づけ
④施策設定方針を固める
この4つのプロセスのどこでマーケティング・オートメーションを活用するのかを明確にしておくことが、マーケティングの成功の鍵と言っていいでしょう。
マーケティング・オートメーションを導入するのは、効率的に売り上げを上げていくためです。それが実現しないのなら、導入の意味はありません。PDCAサイクルを回しながら、施策の効果を検証し、マーケティング・オートメーションの活用の最適なあり方を常に探っていくことが大切です。
「顧客を捉える」ための10の視点
最後に、「顧客を捉える」ためのベーシックな10の視点をご紹介したいと思います。生活者に関するデータ分析の切り口はさまざまであり、どのような分析手法を使えばいいか迷うことも多いのではないでしょうか。しかしどのようなケースであっても、最終的な目的が「マーケティングの課題を解決すること」である以上、分析の視点には共通するものがあるはずです。私は以下の10の視点を持つことによって、自社にとって必要な顧客を見つけることができると考えています。
これらの視点を適宜組み合わせながら、効果的なアクションをぜひ実現してください。
<セミナーレポート後編へつづく>
後編は、
講演3 「B2B企業における営業革新から
マーケティングへの進化(Success4B)」
博報堂コンサルティング
Sucess4B : BtoBマーケティングソリューション担当
清水 慶尚
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