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【イノベーションシリーズ】リーン・スタートアップを駆使する企業〜急成長する新規事業の見つけ方・育て方〜(博報堂Consulactionセミナーより)
参考 → 博報堂Consulaction HP
リーン・スタートアップを駆使する企業
~急成長する新規事業の見つけ方、育て方~
欧米では、数多くの企業が「リーン・スタートアップ」と呼ばれる手法を導入することで、革新的な新規事業や新商品を生み出すことに成功しています。この手法 は具体的にどのようなものなのでしょうか。数々の企業のリーン・スタートアップ導入を支援してきた実績を持つTBWA HAKUHODO QUANTUM 代表の高松充とマネージングディレクターの及部智仁が、リーン・スタートアップの最新の方法論を紹介しました。
TBWA HAKUHODO QUANTUM
代表 高松 充
リーン・スタートアップが企業変革の第一歩となる
TBWA HAKUHODOは、博報堂とTBWAワールドワイドのジョイントベンチャーとして2009年に設立された総合広告会社です。TBWA HAKUHODO QUANTUMは、その中の一ユニットとして作られました。業種を異にする企業同士、あるいは大企業とスタートアップなど、従来ではほとんど交わる機会の なかったプレーヤーを結びつけながら、リーン・スタートアップ導入を支援していく。それがTBWA HAKUHODO QUANTUMのミッションです。
現 在、多くの企業がイノベーションを起こすために試行錯誤を重ねています。なぜイノベーションが必要なのか。社会やビジネスの環境が激変している中では、新 しい領域への挑戦を続けなければ生き残っていくことはできないからです。しかし、これまで経験したことのない世界に踏み込んでいくのは、簡単なことではあ りません。新しい領域を開拓していく際の阻害要因として、たとえば以下のようなものが考えられます。
①人的リソースの確保が難しい
②社内事情を優先するあまりに発想が狭くなってしまう
③資金調達に制約が多い
④自前主義を貫こうとする雰囲気が社内にある
⑤さまざまな事業部の多様な意見に耳を傾けなければならない
⑥「それは成功するのか?」と上層部から問われる
これらの阻害要因を取り払うためには、企業文化、経営戦略、事業戦略、組織体制、業務プロセスなどを変革していく必要があります。
その変革の第一歩となる有効な方法が、リーン・スタートアップである。そう私たちは考えています。
TBWA HAKUHODO QUANTUM
マネージングディレクター 及部智仁
新規事業スタート時のリスクを減らす
リー ン・スタートアップとは、ひと言で言えば「新規事業をスタートさせる際のリスクを少なくし、さまざまな不確実性と戦うためのマネージメントの手法」のこと です。この方法論は、トヨタ自動車の「リーン生産方式」を参考に生み出されたと言われています。製造プロセスの無駄を徹底的に排除し、”リーンな=贅肉の ない”生産活動を実現する。その考え方をビジネスプロセスに応用したのが、リーン・スタートアップというわけです。
リーン・スタートアップで最も重視されるのは、実験と検証です。それを「構築──計測──学習」というサイクルで実行していくのが、リーン・スタートアップの方法です。
①構築……ビジネスモデルのアイデアを生み出し、プロトタイプを作る過程
②計測……ユーザーの評価などのデータを収集する過程
③学習……そのデータ分析をもとにビジネスモデルに修正を加えていく過程
このサイクルを繰り返すことによって、ビジネスモデルや製品に磨きをかけていくのです。
「MVP(Minimum Viable Product/必要最小限の機能を持った製品)を開発し、市場のフィードバックを獲得すること」、あるいは「早い段階から生活者へのインタビューを繰り 返すこと」がすなわちリーン・スタートアップであると考えている方も少なくないようですが、これらはあくまでもリーン・スタートアップの一部です。リー ン・スタートアップとは、新規事業を開発するために業務プロセス全体を改革することにほかなりません。
これまでの新規事業開発は、いわば「打ち上げ花火型」でした。つまり、時間をかけて計画を組み立て、実験・検証の過程を経ずにその計画を実行して完結する ような方法です。それに対してリーン・スタートアップは、トランプの神経衰弱のようにいろいろなカードをめくってみる、すなわち、いろいろなアイデアを検 証していく方法であり、そのために、構築、計測、学習のサイクルを高速で回転させていく手法です。
「リーン・エンタープライズ・ブートキャンプ」と「ハッカソン」
では、それぞれのプロセスを進めるにはどうすればいいのでしょうか。まず、「構築」の具体的な方法について見ていくことにします。この段階で有効なのが、「リーン・エンタープライズ・ブートキャンプ」と「ハッカソン」という2つの方法です。
「リーン・エンタープライズ・ブートキャンプ」は、アイデアソン型の2日間のワークショップです。ちなみに、アイデアソンとは、あるテーマをめぐって、対話をしながらアイデアやアクションプランを考案していく手法を意味します。
こ のワークショップでは、よく知られたビジネスモデル・キャンパスをアレンジした「リーン・キャンパス」を活用します。ビジネスモデル・キャンパスは、9つ のブロックにビジネスモデルのアイデアなどを書き込んでいきますが、リーン・キャンパスは12のブロックに課題、ソリューション、コンセプトなどを記入し ていく仕組みになっています。あくまでユーザー視点で項目を埋めていくのがリーン・キャンパスの特徴です。
ワー クショップでは、開発者、デザイナー、マーケターが一つのチームとなって、課題やソリューションから検証を始め、とくに不確実性の高い要素について、専門 家の意見を聞いたり、社員にインタビューしたりして修正を加えていきます。ポイントは、キャンパスに書かれている内容を、できるだけ数字などの「計測可能 な仮説」に変えていくことです。
2 つ目の「ハッカソン」は、大企業の多くが新規事業開発の際に導入している方法です。エンジニア、デザイナー、プランナー、マーケターなどがそれぞれの技 術、知識、アイデアを持ち寄って、サービスや製品のプロトタイプを短期間で作るというもので、参加者をオープンに募る「社外ハッカソン」と社内のメンバー で行う「社内ハッカソン」があります。
この2つの方法を組み合わせることで、新規事業のアイデアが継続的に生まれる組織体制の構築が可能になります。
製品と市場の適合性を測る
次の「計測」の具体的方法には、「インタビュー調査」と「MVP(Minimum Viable Product/必要最小限の機能を持った製品)開発」があります。インタビュー調査は、プロトタイプをもとに、ターゲットとなる生活者や企業にインタ ビューをし、その結果を受けて、課題、ターゲット、ソリューション、価格を修正していく過程です。その調査をもとにMVPを開発し、それを利用したユー ザーの声を集めていくのがその次の段階となります。
さらに、「リーン・アカウンティング」についても触れておきたいと思います。これは、データを会計や財務とリンクさせる手法で、これによって、新規事業のビジネスの実現可能性を「数字」によって説明することが可能になります。
リーン・アカウンティングでは、例えば、「2週間でユーザー1000万人突破」といった数字は重視されません。重視されるのは、継続的な購買行動に結びつ く評価基準や、固定客獲得のための評価基準など、あくまで具体的な項目です。例えば、固定客獲得の評価基準は、以下の5つによってあらわされます。
①Acquisition(獲得)=世間一般の人を顧客に変える要素
②Activation(活性化)=新規顧客をファンに変える要素
③Retention(保持)=顧客の忠誠度を高め、長期的な関係構築を可能にする要素
④Referral(紹介)=既存顧客が新規顧客を紹介してくれる数
⑤Revenue(収益)=企業の収益に顧客が大きな影響を及ぼす行動
頭文字の連なり(AARRR)が海賊の叫び声を想起させることから、これは「パイレーツ・メトリクス」とも呼ばれています。
リーン・スタートアップが適合するケースとしないケース
リーン・スタートアップは、もちろん、万能の手法ではありません。この方法がうまく機能しないケースもあります。
例えば、以下のようなケースです。
●すでにプロジェクトが始動してしまっているケース
●製品やサービスがすでに市場に定着しているケース
●既存の仕様を厳格に守らなければならない製品開発のケース
●医療、金融など、規制の厳しい業界向けの製品開発のケース
また、「リーン・スタートアップは、アメリカでは有効かもしれないけれど、日本ではうまく使えないのではないか?」という意見もあります。確かに、この手法を生み出したシリコンバレーには、日本にはない次のような特徴があります。
●起業を支援するエコシステムがある
●挑戦を賞賛するカルチャーがある
●イノベーションを牽引する移民の存在がある
しかし、リーン・スタートアップが日本企業に適合しないということでは決してありません。日本には、大企業にリソースが集中しているという特徴がありま す。大企業とベンチャー企業、あるいは大企業同士が協業し、人材、技術、資金、ブランド、顧客、チャネルなどを活用し、リーン・スタートアップの手法でイ ノベーションを起こす。それが、現在の日本における有効なやり方であると私たちは考えています。
異なる企業がともに手を取り合って、新しい領域の開拓にチャレンジしてみる──。その方向性をぜひ模索してみてください。
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