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「平均年齢50歳の国のマーケティング」 ~2025年に向けて、企業は今、何を準備すべきか?~(博報堂Consulactionセミナーより)
参考 → 博報堂Consulaction HP
10年後の2025年、日本の平均年齢はほぼ50歳になると言われています。
この新しい時代に向けて、企業はどのような準備をすればいいのでしょうか。
社会の成熟を悲観するのではなく、新しいマーケティングのチャンスであると捉えよう──。
そんな視点で行われたのがこのセミナーでした。
10年後の日本を読み解くヒントに溢れたセミナーの模様をお届けします。
【第1部】平均年齢50歳の国はどこに向かうのか
博報堂 統合プラニング局 エグゼクティブクリエイティブディレクター 村田 徹
10年後の未来を見通す5つの視点
2014年の日本の平均年齢は46.1歳でした。
これが2025年には50歳になり、その先は平均年齢55歳くらいで定常化していくと見られています。
その「平均年齢50歳の国」で私たちを待っているのは、どのような未来なのでしょうか。
未来には「見えている未来」と「見えない未来」の2種類があります。
「見えている未来」は、データなどを活用してシミュレーションできる未来であり、一方の「見えない未来」は、テクノロジーの進化などで非連続的に起こる社会変化の先にある未来です。
10年後の未来を考えるとき、その二つを捉えることが必要です。
遠くはないその未来について考察するために、ここでは5つの視点を提示してみたいと思います。
①超高齢化
2025年には、団塊の世代が75歳になります。
この層は「アクティブシニア」という言葉で捉えられることが多いのですが、必ずしも「アクティブ」とは言えない側面もあります。
例えば、平成20年度の国民生活白書は、アメリカ人の幸福度が年齢とともに上昇していくのに対し、日本人の幸福度は年を取るにしたがって下がっていくことを明らかにしています。
つまり、前向きに生きている高齢者が必ずしも多数ではないということです。
それゆえにあえて「アクティブ」に生きようとしている。
おそらくそんな面もあるでしょう。その裏にあるのは、以下のような実感であると私たちは考えています。
●自分の人生と折り合いをつけながら、残された10年あまりの年月を生きていかなければならない。
●人生でやりたいこと、今の自分ができること、自分が選択しなくてはならないことは何かを常に考えている。
●生きるのも大変だけれど、死ぬのも大変だと感じている。それゆえに「終活」に熱心に取り組む。
●人生でやり残したことを叶えること、若い頃に自分が好きだったことに回帰することを望んでいる。
高齢者は「まだまだ元気」「消費の主役」といった表現で語られることが少なくありません。
しかし、その裏には「生きる楽しみを少しでも長く」「やり残したことを叶えたい」「死に向かう不安の解消」といったインサイトがある。
それが超高齢化社会の実態であろうと思います。
②都市と地方
「平均年齢50歳の国」では、都市と地方は同じマーケットではなくなります。
地方は独自の価値観の中で動き始め、従来のマスマーケティングが通用しなくなります。
都市部よりも高齢化が急速に進んでいる地方では、すでに現在でも、製造業、サービス業、流通業、一次産業などにこれまでにない新しい考え方が生まれており、企業経営のあり方も変化しつつあります。
今後の地方におけるビジネスを考える場合、「B2R」という発想が必要になると私たちは考えています。
すなわち、「ビジネス・トゥ・リージョン(地域)」です。
高齢者が増え、非生産人口が増えると、地域間の人の移動は少なくなると予想されます。
つまり多くの人が、自分が生きる土地で長い過ごす時間を過ごす。
そんな時代になるということです。
これは、企業の視点から見れば、地域社会との新しい関わり方を考えなければならないということです。
その関わり方がすなわち「B2R」です。
人口減少社会では地方市場が衰退するというのが一般的な見方です。
しかし、「地方だからできる流通」「地方だからできるものづくり」の可能性があると私たちは考えています。
もちろん、ナショナル企業が果たしうる役割も確実にあるはずです。
③単身世帯の増加
2025年には、夫婦と子どもによって構成される家族世帯の数を、高齢者その他の単身世帯が大きく上回ると予想されています。
したがってマーケティングの主要な対象も、家族から「おひとりさま」に変わっていくことになります。
それによって、次のような動きが見られるようになるでしょう。
●個食用製品の増加
●ペット市場の活性化
●「所有」から「共有=シェア」へ(シェアハウス、カーシェアリングなど)
●高齢者の一人暮らしを支えるビジネスの伸長
とりわけ私たちが注目しているのが、豊かな一人暮らしを実現する住機能の高度化です。
ここで必要とされるのが、「B2H」、すなわち「ビジネス・トゥ・ホーム(家)」という発想です。
非生産人口の増加によって、人々が家で過ごす時間もまた長くなると考えられます。
結果、住宅は生活の場として高機能化するだけでなく、テクノロジーの面でもさまざまな最新技術が凝縮した空間になっていくはずです。
自宅でいろいろな料理が作れる機器、住宅内で農作物を育てられるキット、フードプリンター、家にいながら医療サービスが受けられるシステムなどが考えられます。
当然、新設住宅市場の縮小は避けられません。
リフォームや中古物件の流通が住宅市場の主流となっていくでしょう。
しかし、リフォームをたんなる「補修」ではなく「高機能化」と捉えれば、そこにビジネスチャンスが生まれるはずです。
単身世帯が増えることは、「消費の単位が個人になる」ことを意味します。
しかし、そこからさらに発想を広げて、「商品が持つ新しいストーリー」「個人と個人のつながりが生み出す新しい消費」「一人暮らしの人に安心・安全を提供するサービス」といった観点でビジネスチャンスを探っていけば、さまざまな可能性が見えてくるでしょう。
④2極化
従来のマスマーケティングは、人口の多い中間層をターゲットにしてきました。
今後、消費の傾向が2極化していくことにより、旧来型のマスマーケティングの手法が通用しにくい時代になっていくと私たちは考えています。
2極化の一方にあるのは、「これでいい」というタイプの消費です。
価格が手頃で、際立った個性があるわけではないが普遍性がある。
そんな商品やサービスがこの消費の対象となります。堅実で合理的な消費と言ってもいいかもしれません。
一方の「これがいい」は、高いお金を払っても手に入れたい、あるいは体験したいと感じられる個性やクオリティを持った商品やサービスの消費で、それぞれの生活者の嗜好にマッチするかどうかが、ある意味では価値のすべてとなります。
嗜好性は当然、生活者ごとに異なるので、決して「マス」にはならない消費と言えます。
それぞれの個人にとって高い付加価値を持つ商品やサービスを消費しようとする傾向。それが「これがいい」です。
もっとも、この2つの傾向が一人の生活者の中で同居することもありえます。
例えば、高齢者夫婦が子どもや孫と食事を楽しむ場合は回転寿司(「これでいい」)を選ぶが、夫婦だけでじっくり寿司を味わいたいときには高級寿司店(「これがいい」)に行くといったケースです。
一般に、「2極化」というテーマに話が及ぶと、「格差社会」という言葉が想起されますが、個人にとっての付加価値が大きな意味を持つようになることで、そこにビジネスチャンスが広がるとも考えられるわけです。
また、一人の生活者の中で消費の傾向が2極化するとすれば、そこにも新しいマーケティングのチャンスが生まれる可能性があるでしょう。
⑤人口減少
2010年と2015年の消費分野ごとの生活者の総支出金額を比べると、食料、家庭用耐久財、交通、通信など、あらゆるカテゴリーで支出が少なくなっていることがわかります。
これは、今後5年、10年の間にさらに減少していくと予想されています。
このようなデータを見ると、日本社会が成長していくのはもはや難しいのではないかとも考えられます。
事実、識者の間では今後の経済成長を否定する声も少なくなく、成長を目指すことに懐疑的な内容の書籍もよく出版されています。
しかし、企業が継続的に活動していくためには、成長が必須です。では、成長領域はどこにあるのでしょうか。
例えば、ロボット産業などのイノベーティブな領域や、企業間の連携などにその一つの答えがあると私たちは考えています。
日本がどれほど成熟社会になったとしても、社会は人々に働き続けることを求め、人々は働くことに情熱を傾け続けるでしょう。
しかし、働くことの価値は今後、変わっていくことになるのかもしれません。
私たちがこれから迎えるのが、「人口が減り、成長が止まる社会」であると単純に考えれば、そこに希望を見出すのは難しいでしょう。
しかし、それを「成長に向かうイノベーションへの挑戦が重要な意味を持つ社会」「会社と社員の新しい関係、会社の新しいあり方を模索しなければならない社会」「新しい働き方を考えることが必要となる社会」と捉えれば、待っているのは決してネガティブな時代ではなく、やりがいのあるチャレンジングな時代であることがわかるはずです。
企業に求められるのは、社会の変化の中に新しい可能性を読み取る力であり、非連続な変化の兆しを自社のマーケティングに取り込む力であり、さらに言うならば、マーケティングで社会を変えていくたくましさです。
ドラッガーは、「未来は予測できない、ということだけは予測できる」と言っています。
一方、パーソナルコンピューティングの父と呼ばれるアラン・カーティス・ケイは、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」と言っています。
必要なのは、この2つの見方の「掛け算」である。そう私たちは考えています。
【第2部】平均年齢50歳の国のNextマーケティング
博報堂 ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理 橋本直彦
新しい時代に対応するための3つのアプローチ
平均年齢が50歳になる2025年の日本では、市場の規模が縮小し、その内容も個別細分化し、主要な消費層の年齢も上がります。
従来型のマスマーケティングでこの市場に対応するのには限界があります。
では、どうすればいいのでしょうか。私たちは、新しい時代に対応するための3つのアプローチを提案したいと思います。
①「顧客」の捉え方の発想転換
「自社の顧客は誰か」をあらためて考え直すこと、つまり「顧客の再定義」がこのアプローチの主眼です。
顧客を再定義するには、以下の5つの視点が必要であると考えられます。
■視点1 脱デモグラフィックマーケティング
年齢を切り口とした従来のマーケティングから、例えば、「健康度×経済力」、あるいは「世帯人数×経済力」など、
別の基準で市場を切り取ってみるという視点です。
■視点2 顧客設定の適正化
「両親と子ども=標準世帯」をターゲットにする旧来の考え方から脱し、一人世帯、二人世帯を「標準」とし、そこに
どのような価値を提供できるかを考える視点です。
結果、商品やサービスは「高付加価値化」に向かう可能性も出てきます。
■視点3 団塊ジュニアという忘れられたビッグマーケットへの注目
団塊世代の人口は約600万人。それに対し、団塊ジュニア世代の数は約780万人にのぼります。
しかしこの層は、長らく有望ターゲットとは捉えられてきませんでした。
団塊ジュニアがターゲットとして重要なのは、単に数が多いからだけではありません。
この層には、2025年に70代になる団塊世代と、同じ年に成人に達する団塊ジュニアの子ども世代のいわばハブになる役割が期待できるのです。
団塊ジュニアへのアプローチの仕方によっては、3世代にまたがる多世代型商品、ロングセラー商品を生み出すことが可能になると考えられます。
■視点4 ロバスト・マーケティング
ロバスト・デザインとは「頑強なデザイン」を意味します。
ユーザーの利用の仕方がまちまちでも、目的の機能を安定して発揮する設計のことで、例えば、あらゆる体重や体形の人が乗っても壊れない椅子などがその代表的なものです。
それをマーケティングにあてはめたのがロバスト・マーケティングです。
例えば、煮豆の少量パック惣菜があります。
これは、シニアの個食市場向け商品として開発されたものですが、それ以外にも、学校給食、家族の食卓の「あと一品」、健康を志向する若い女性の食事など、さまざまな需要形態が想定されます。
需要のされ方がまちまちでも、そのすべてに対してベネフィットを提供できるような商品の開発や販売。それがロバスト・マーケティングです。
■視点5 世代を超えた時代価値の創造
平均年齢が30代だった高度成長期の日本には、世代を超えた共通の価値観がありました。
では、平均年齢50歳の日本における共通価値観とは何でしょうか。
高度成長期の日本は、老いも若きも「これから」への期待を膨らませて、「若い生活スタイル」を志向した社会だったと言っていいと思います。
一方、これからの日本は、老いも若きも成熟した「大人化した意識」で生きる社会になるはずです。
エコ消費、エシカル消費、あるいは日本人らしい生活の工夫。
そんなところに、世代を超えた共通の価値観を見出していくヒントがあるように思われます。
②ブランドのあり方が変わる
顧客の再定義は、「自社が提供する価値の見直し」につながります。
それによって、ブランドのあり方も変わることになるでしょう。ここでの視点は2つです。
■視点1 パワーブランドからファイン(きめ細かい)ブランドへ
高度成長の時代とはパワーブランドの時代、つまり、大量に生産し、市場シェアを多く獲った企業が勝ち残るという収穫逓増の法則が成立する時代でした。
しかし、今後の日本市場は、単一ではなくなります。
マスをとらえるビッグブランドを生み出してシェアを維持するマーケティングではなく、地域や個人の嗜好性に即したきめ細やかなブランディングが必要となるのがこれからの時代です。
■視点2 「中央発」から「地方発」へ
これまで、ブランドの多くは「中央発」でした。
これからの時代は、地方にこそ新しい発想を生む生活資源があると考えるべきです。
つまり「地方発」のブランドに大きな可能性があるということです。
例えば日本酒には、地方で作り、他の地方に販売するというバリューチェーンがあります。
その「地方性」の価値が海外からも認められています。
マーケティングの拠点を中央に限定せず、地域の活動に中央の企業が積極的に関わること。
そこに新しい時代のブランドが生まれる可能性があると考えられます。
③プラットフォームのマーケティング
成長期とは、モノに生活を合わせた時代だったと言えます。
それに対して、成熟期、定常期は、生活にモノを合わせる時代です。
人々はこれまでさまざまな消費の形を体験して、非常に優れた感覚を持った「卓越した消費者」となっています。
生活者が卓越していけばいくほど、自らの感覚を最も重要な指標として、モノやサービスを選んでいくことになります。
そこで重要になるのが、生活の全体をデザインできるような高い汎用性をもったプラットフォームです。
生活者に何をどう届け、どう使ってもらうかといった仕組み全体を提案できるようなプラットフォームと言ってもいいでしょう。
そのプラットフォームの上にパーツとしてのモノを載せていけば、思い思いの生活スタイルが実現できるようになる。
そんな方向性に私たちは大きな可能性を感じています。
プラットフォームビジネスは、サービス分野から始まったものでした。
最近では、空き部屋をネットワーキングして宿泊施設として活用するサービスや、一般車両をタクシーとして活用するサービスなどが新感覚のプラットフォームビジネスとして話題を集めています。
このような発想は、今後、モノを作るメーカーの側にも必要とされるはずです。
「平均年齢50歳」の時代とは、マーケティングの新しい発想を生むワクワクするような時代でもあります。
Tomorrow is not on today’s extension──明日は今日の延長線上にはない。
この言葉をもって、今日の講演を締めくくらせていただきます。
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