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「枠 トゥ ザ・フューチャー!」クリエイティブが奏でる、これからの時代の新聞・雑誌広告(ABC東京フォーラム2016)(後編)
2月2日に開催されたABC東京フォーラム2016にメディア・コンテンツクリエイティブセンターの杉山豊が登壇。さまざまな事例や証言を取り上げながら、新聞・雑誌広告のこれからの可能性について語りました。今回は後編『「仕面」としての新聞・雑誌広告を紐解く』をお届します。
参考「枠 トゥ ザ・フューチャー!」クリエイティブが奏でる、これからの時代の新聞・雑誌広告(ABC東京フォーラム2016)(前編)
後編「仕面」としての新聞・雑誌広告を紐解く
いま新聞・雑誌は単なる「紙面・誌面」というより、こちらからどんどん仕込み、仕掛けていく「仕面」として捉えられているのではないでしょうか。そんな切り口で、私なりに分析していければと思います。
「示面」
新聞一面の中に、企業がやろうとしていることをすべて盛り込み、俯瞰図としてプレゼンテーションしている事例があります。
「始面」「締面」
企業が何か始めるとき、あるいは報告するときの挨拶として新聞紙面が最適ということが言えます。テレビで言うよりもキックオフ感が出るし、信頼性があってきちんとした印象になります。企業の志を表明するのにもやはり新聞の信頼感が一役かっていることから、「志面」とも言えそうです。
「子面」
ゲームや人気キャラクターを使って子どもが興味を持つような紙面をつくり、そこから親子や世代間のコミュニケーションを図ったり、企業情報等を子どもにわかりやすく伝えることも出来ます。
「飼面」
まだ想像の世界ですが、将来犬や猫が反応するようなビジュアルが科学的にわかれば、それを活用した広告もできるのではないかと考えています。
「染面」
新聞にとって最も重要な印刷技術について。ニュージーランドの例ですが、ラグビー選手達の血を混ぜたインクで刷って、「彼らのDNAが入っている」と謳った広告は話題になりました。技術が広告を変えることもあるのです。
「視面」
テレビを視聴する目安になるのがテレビ欄ですが、ネットの場合は今何を見れるかが漠然としてしまう。そこで、YouTubeコンテンツに関してもテレビ欄のように広告として出すというやり方もあるかと。そういう意味で「視面」としました。
「嗜面」
嗜好品をからめるという意味で「嗜面」とも捉えられます。たとえば野球漫画に出てくる試合を実際のラジオ中継に見立てて放送するというものがあった。こういうメタな楽しみ方を生み出すという可能性もある。
「師面」
世の中の知らない事を教えてくれる先生としての「師面」。ニュースになっているタイムリーな話題と絡めて、知識を解説してくれるものもあります。
「地面」
地元のイベントを企画し、その告知を紙面に落としていく「地面」もあります。街を巻き込んだコンテンツをつくり、最後に紙面上でブレンドして出していきます。
また地元の広告という意味での「地面」。アイドルグループを使って、全国地方ごとに異なるメンバーを登場させて話題になった。ある地方紙では、結婚したら号外を刷って周囲に配ってもらうという、紙面カスタマイズの新規事業で話題になりました。
「使面」
例えば、紙面・誌面をくるくる丸め、キャラクターの剣として遊べるものや、広告の一部が街のガイドブックとして使えるもの。海外の例ですが、スキンケアのブランドが雑誌広告に子どもの手首に巻く紙バンドをつけて、アプリと連動させると、子どもの位置情報がわかり安全が確認できるというキャンペーンをやっていました。グラフィックの表現は普通でしたが、雑誌に織り込んだ物理的に使える誌面という考え方です。
「試面」
試供品などをつけたり、ウェブ限定のサンプリングに誘導したりというところにも寄与している「試面」でもあります。
「施面」
施策を打ってモノになる広告は「施面」と言えると思います。映画のデジタルサイネージ広告にある女優さんが出演したのですが、そのメイキング映像がYouTubeで見られるということで話題になりました。また、野球漫画の代表的作家二人がコラボレーションした雑誌社の広告がありましたが、それもQRコードからメイキング映像が見られるようになっていました。
「糸面」
赤い糸という意味での「糸面」です。歌舞伎俳優と音楽アーティストとの対談や、お菓子と国民的キャラクターのコラボ広告など、新聞社と雑誌社のネットワークを最大限活かした広告も沢山あります。
「時面」
日刊である新聞は、旬な話題、時事ネタをコンテンツにできます。タイムリー、つまり時と相性がいいので「時面」と言える。あと2日、あと1日、なんていう見せ方は新聞ならではでしょう。某ゲームメーカーが「ノー残業デー」と絡めたキャンペーンをしていましたが、今後、例えば18歳選挙権等、社会的事象をエンタテインメント化して新聞で展開することもできると思います。
こうやって見ていくと、新聞・雑誌広告には様々な工夫がなされていることがわかります。人気アイドルグループの子達が出た通信教育のCMでは、彼女たちが本当に資格を取れるかどうかが、広告文脈を超えて芸能ニュースになっていました。純粋な広告というよりは、世の中のニュースになりうるような広告コンテンツをつくるという発想がよいのかもしれません。
一言で紙面・誌面といっても、これだけ様々な見方ができるわけですから、今後は「子面チーム」「嗜面チーム」などと分業させつつ同時多発的に取り組んだほうがいいのかもしれません。デジタル時代とはいえ、すべてがデジタルに移行するというわけではなく、文字、紙の強さはある。新聞・雑誌はこれからの未来もずっと続いていくものです。それらをお手伝いしていければいいなと思っています。
<プロフィール>
杉山豊
博報堂DYメディアパートナーズ メディア・コンテンツクリエイティブセンター
1987年博報堂入社。セールスプロモーション、デジタル、コンテンツ・ビジネス、クリエイティブ畑を歩み、10年から博報堂DYメディアパートナーズに新設されたクリエイティブ・チームに所属。現在メディア起点の広告コンテンツの開発に取り組む。