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続・「リーン・スタートアップを駆使する企業」~新規事業を生み出すための最新方法論~(博報堂Consulactionセミナーより)
REPORT

参考 → 博報堂Consulaction HP

リーンスタートアップとは、製品開発前に顧客を「発見」し、ユーザー視点で試作品を作り、軌道修正を繰り返しながら新規事業を迅速に立ち上げる方法論のことです。この手法は、必ずしもスタートアップにのみ有効なわけではありません。
最近では、欧米の数多くのグローバル企業が、リーンスタートアップの手法によって革新的な新規事業や新商品を生み出しています。リーンスタートアップの本質と最新動向について、博報堂グループのQUANTUMのメンバーが解説しました。

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QUANTUM
代表取締役副社長 兼 COO 及部 智仁

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ビジネス ディプロップメント マネージャー 金 学千

■業種・業態が異なる組織の共創で新しい価値を生み出す

QUANTUMは、世界最大の広告会社グループであるオムニコムグループのTBWAと博報堂の合弁会社として創設されたTBWA\HAKUHODOの100%子会社です。従来は交わることのなかった、業種・業態が異なる組織の共創によって、プロダクト、サービス、事業、ベンチャーを輩出していく「スタートアップスタジオ」──。
それがQUANTUMです。海外で注目されるスタートアップスタジオの事例については、のちに詳しく説明したいと思います。

メンバーは、広告ビジネス出身者と異業種出身者がほぼ半数ずつ。男女の人数もおおよそ半々です。事業の柱は3つ、すなわち「コーポレートアクセラレーターによる新規事業開発」「クライアントとの共同事業開発」、そして「自社によるプロダクト開発」です。

■新規事業立ち上げを阻む様々な要因

新規事業を立ち上げようとする際は、様々な困難に遭遇するものです。事業計画を上申しても上司や上層部が理解を示してくれなかったり、トップの一声で計画が白紙になったりします。新規事業の最大のジレンマは、「やってみないとわからないのに、やらせてもらえない」ところにあります。

新規事業計画について説明すると、必ず「不確実性」を問われることになります。「そのプランには実現性があるのか?」「絶対に儲かるのか?」「100%成功できるのか?」──。
そんな質問にさらされることになります。組織的な障害もあります。想定されるのは、以下のような障害です。

●新規事業立ち上げのための組織体制がない
●成果が出るまでの時間が与えられない
●「できない理由」が次々に出てくる
●既存事業の考え方ややり方にとらわれてプロジェクトが進まない
●社内合意や調整に時間がかかる

ほかにも、資金調達や人材確保が難しかったり、既存事業と競合関係になることを避けなければならなかったりするなど、越えるべきハードルは枚挙にいとまがありません。
新規事業立ち上げの阻害要因は、以下の6点に整理することが可能です。

①人的リソース確保が難しい
②社内事情を優先するあまり発想が狭くなる
③資金調達に制約が多い
④自前主義を貫こうとする雰囲気がある
⑤様々な事業部から意見が噴出する
⑥「それは成功するのか?」と問われる

■リーンスタートアップの方法論

これらの阻害要因を乗り越えて、新規事業の立ち上げを可能にするのが「リーンスタートアップ」の方法論です。トヨタの「リーン生産方式」を起業に応用したのがこのリーンスタートアップで、ひと言でいえば「リスクを最小限にするための新規事業開発の業務プロセス改革手法」ということになります。

従来の新規事業開発は、いわば「打ち上げ花火型」でした。大きく打ち上げて、継続せずに終わってしまう。それが打ち上げ花火型の新規事業開発です。それに対して、リーンスタートアップの方法論に基づいた新規事業開発は、「神経衰弱型」と表現することができます。トランプを一枚めくってみて、それがだめだったら、次のトランプをめくってみる。それを繰り返すことで、成功する事業を見極めていくのがリーンスタートアップの考え方です。

「仮説」「検証」「方法転換」を繰り返して答えを見つけるのが、リーンスタートアップの基本的な考え方です。リーンスタートアップはまず、課題に対して適切なソリューションを見出すところから始まります。まずは、商品を開発する前の、「プロブレム/ソリューションフィット」の段階です。次に、そこから生まれる商品やサービスに対する顧客が確実にいることを証明する段階に進みます。これが「プロダクト/マーケットフィット」のフェーズです。この2つのステップによって、「0」から「1」が生まれることになります。さらに、このモデルを成長させ、十分な規模のユーザーを獲得するのが「スケール」の段階です。これは「1」を「10」にする作業ということができます。

リーンスタートアップが重視するのは、「顧客のプロ」であることです。まず、顧客を「発見」し、その顧客の存在を「実証」します。このプロセスは、「構築」と「計測」と表現されることもあります。このプロセスがうまくいかない場合は、何度でも「ピボット(軌道修正)」を繰り返します。そして、その作業の中から、MVP(Minimum Viable Product/実用最小限の製品)を生み出していきます。

その後、プロセスは顧客の「開拓」に進み、最終的な段階である「組織構築」へと至ります。

仕事場に閉じこもってアイデアを練るだけでは、顧客のプロとなることはできません。「Get Out of the Building(オフィスの外に出よ)」が、リーンスタートアップにおける重要な考え方です。

ちなみに、シリコンバレーにあるスタートアップ起業家の養成所「Yコンビネーター」では、リーンスタートアップに取り組む起業家は、「プロダクトを作ること」と、「顧客となる人々と話すこと」のほかは、食事、睡眠、程度な運動以外をしてはならないと教えているそうです。

では、具体的なケースで、リーンスタートアップの手法について考えてみましょう。

ある大手食品メーカーA社は、ヒットを飛ばした商品の売上に収益の多くを支えられています。 しかし、近年、その商品を取り巻く環境が大きく変化しており、直近10年間の売上推移は微減基調にあります。
経営層は環境の変化をいち早く察知し、事業改革の必要性を強く意識していました。

そこで、社内に現業と兼務で新規事業開発を行う7人のチームが作られました。しかし、与えられた開発期間は短期間であり、予算も限られています。また、チームの7人はみな、それぞれの現場で責任ある仕事を任せられている社員であり、新規事業開発に十分な時間を割くことができません。

そうした中、企画会議を通じて新規事業のテーマや領域が決まりました。しかし、その後の市場分析などに時間を取られて、プロジェクト全体が進展しない状況が続いています──。

このようなケースでプロジェクトを動かしていくには、どうずればいいのでしょうか。

新規事業開発の初動時によく見られるのが、例えば次のような動きです。

●事業部へ相談し、営業先を探索する
●当該分野に詳しそうな社員にインタビューする
●新規事業に専任できる体制をめざして社内交渉を行う
●予算増額を目指し社内調整する
●市場調査に注力する

一見してわかるように、これらの動きはすべて社内に向けられたものです。私たちは、新規事業をスピーディにスタートさせるには、社外のリソースを上手に活用していくことが必要であると考えます。
それを実現するソリューションがコーポレートアクセラレーター(スタートアップと新規事業を加速させる)プログラムです。

コーポレートアクセラレータープログラムは、以下のステップで進行していきます。

①設計…プログラムデザインのフェーズ。
ワークショップなどを通じて、解決すべきテーマを設定し、取り組むべき領域を決めていく。

②募集/選考…社外のプレーヤーとのマッチングフェーズ。
プログラムにともに取り組んでくれる社外のスタートアップを募集し、選考する。

③プロトタイピング/事業開発…製品やサービスのプロトタイプをつくり、事業モデルを構築するフェーズ。
この段階で、外部の技術なども探索する。

④プレゼンテーション/ネクストステップ…事業パートナーになりうるプレーヤーやベンチャーキャピタルにプレゼンテーションを行い、業務提携、資本提携の可能性を探り、事業拡大の方向性を模索する。

外部のスタートアップとのコラボレーションによって新規事業をドライブしていくアクセラレータープログラムは、海外でも数多く活用されています。

例えば、ウォルト・ディズニーは、テクノロジー系のスタートアップとのコラボレーションによって、エンターテイメント分野のイノベーションを生み出す取り組みにチャレンジしています。これは、一方のベンチャー企業にとっても、ディズニーのキャラクターを活用してサービスを開発できるまたとない機会となっています。

また、メジャーリーグ球団のLAドジャーズは、外部のスタートアップと組んで、スポーツ、エンターテインメント、メディアの領域を掛け合わせたイノベーティブな製品、サービスの創出を続けています。

■新規事業の組織を「外」に持ち、「社外」に出ることが新規事業成功のカギ

私たちは、リーンスタートアップの手法を最大限にいかすために、新規事業立ち上げのための組織を会社の外に持つべきであると考えています。それが、冒頭に触れた「スタートアップスタジオ」です。
このような組織は「リーンスタートアップを駆使する企業」という本の中では「コロニー」と呼ばれていますが、私たちは「出島」と表現しています。日本が鎖国されていた頃に、唯一、治外法権、独立自治区であり、外国人の滞在が許された長崎の出島にちなんだ表現です。

スタートアップスタジオにおけるスタートアップの組成は、以下の5つのステップで進んでいきます。

●STEP 1  アイデア捻出/客員起業家を含めたコアチームの形成/インフラと資金の形成
●STEP 2  スタートアップ設立準備
●STEP 3  事業として成長するか否かの判断
●STEP 4  組織としての自立/資金調達
●STEP 5  成長

仮に、STEP 3で事業の成長可能性が「NO」と判断されたら、この時点での撤退もありえます。また前のステップに戻ってプランを練り直すという選択肢もあり得ます。

■新しい事業を迅速に生み出すスタートアップスタジオ

最後に、スタートアップスタジオの役割や機能について、あらためて整理しておきたいと思います。

スタートアップスタジオの役割は、起業家と起業家、大企業とスタートアップ、大学と起業家、あるいはスタートアップとスタートアップを結びつけて、新しい事業を迅速に生み出していくところにあります。Twitter、Flickr、Trello、Slackなど、現在数多くのユーザーに利用されているサービスは、もともとスタートアップスタジオから生まれたものです。

スタートアップスタジオは、シリコンバレーだけでなく、欧州にも次々と誕生しています。現在、世界のスタートアップスタジオは83カ所を数えます。ハーバードビジネススクールも立ち上げました。

フランスの起業家であり投資家であるチボー・エルジエーレ氏は、「スタートアップスタジオとは、繰り返しプロダクトを生み出し、そのプロダクトで会社を生み出す新業態である。スタートアップスタジオが持つインフラや資金がスタートアップの成長を高める」と言っています。

米フロリダの有名なスタートアップスタジオであるライコスは、スタートアップスタジオの機能として、以下のような要素を上げています。

●スタートアップスタジオは、同時に複数のプロダクトやアイデアを開発して、フォーカスすべきプロダクトを選別していく
●プロダクト・アイデアに適した人材を、客員起業家を含めてリクルーティングして集め、コアチームを組成する
●CFOや法律担当、税務・公認会計士など、バックオフィスのリソースを共有する
●プロダクトの成長のためにスタートアップスタジオのネットワークを活用する
●フルタイムでスタートアップスタジオで働くデザイナー、開発チーム、マーケティングのスタッフをアサインする
●スタートアップスタジオとスタートアップで株式を分け合う

最近では、「CBINSIGHTS」「CrunchBase」「AngelList」など、スタートアップやベンチャーキャピタルの情報を集めたデータベースサービスも充実しています。本日紹介したコーポレートアクセラレータープログラムやスタートアップスタジオ、これらのデータベースを活用して、ぜひ大企業の方々こそ新規事業立ち上げにチャレンジし、成功を目指していただきたいと思います。

これまで私たちは、数多くの企業と新規事業開発に挑戦してきました。最初は、どの企業のご担当者も、断崖絶壁から深い谷に向けて飛び降りるようなイメージを持たれていたものです。しかし、実際に取り組んでみると、子どもがちょっとした高さの飛び込み台からプールに飛び込むくらいのチャレンジであることをご理解いただけます。

新規事業開発に悩んでいるご担当者は、ぜひ私たちにご相談ください。

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