レポート
セミナー・フォーラム
「体験をデザインする」デジタルサイネージ広告事例(デジタルサイネージジャパン2016より)
6月8日(水)から10日(金)の3日間にわたり開催された国内最大級のデジタルスクリーンメディア産業イベント「デジタルサイネージジャパン」。本セッションでは(株)博報堂DYメディアパートナーズ濵隆雄がモデレータとなり、(株)電通テックの工藤成氏、(株)博報堂/(株)博報堂DYメディアパートナーズの柳貴男が、デジタルサイネージの国内外の最新事例を紹介すると共に、今後の可能性について語り合いました。
■テクノロジーを活かしたサイネージの最前線
濵:本日はサイネージのクリエイティブのプロフェッショナル2人に来ていただきました。よろしくお願いいたします。
まず、現在のデジタルサイネージの広告メディアとしては、その中心は電鉄車両内や駅構内、大型スーパーのレジ前など多くの人が滞留、もしくは滞留に近い状況にある場所、かつ全国や都内一定のエリアなどでネットワークがあり、リーチを稼げるような媒体になっています。そこに、デジタルテクノロジーの進化やSNSの普及などが加わることで、サイネージはその場でリーチするだけではなく、拡散装置として多くの 人に広がるメディアにもなれるのではないか。そういう視点で今日は話をしていければと思います。
工藤:デジタルにおけるクリエイティブをテーマに、さまざまなコミュニケーションプランニングやサービス開発を行っています。ここでは、今年のデジタルサイネージアワードのインタラクティブ部門で賞をいただいた事例を紹介させてください。人気漫画のドラマ化にあたって、番組の認知とキャストの訴求を目的に取り組んだパーソナライズドサイネージの事例です。
活用したのはカメラの顔認識技術。ディスプレイ横にカメラが設置してあって、画面前に立った人の顔を検出、周りをトリミングし、スケッチ風のイラストを自動生成します。ノートに名前を書いて人を殺すという設定のキャラクターに、あたかも名前を書いているように見せかけて、実は似顔絵を描いてもらっていた、という体験に仕立てました。探偵のキャラクターの場合は、顔写真からその人の性別とおおよその年齢を割り出し、「どんな相手でも口説いてしまう壁ドンのプロ」とか「ここ最近自分史上最大級にのっている」など性格をプロファイルします。診断の種類も70以上のバリエーションを用意することで、1to1の体験を生み出せるよう工夫しました。
ちなみに体験する人の9割がスマホで画像やムービーを撮影していました。SNSでシェアするにしても、単にその様子を投稿するだけではなく、「こんな似顔絵描いてもらったよ」「こんな性格診断されたよ」という風に、あえて周囲に伝えたくなるような内容にするよう工夫しました。
柳:僕は2008年くらいからデジタルサイネージの先駆的な企画に挑戦してきていますが、今回、国内の話は最新の企画を多数手掛けている工藤さんにお任せして、海外の事例を主に紹介していければと思います。先ほどの話にあった顔認識技術を使った海外の事例を見てみましょう。2015年のカンヌ広告祭他の海外賞で入賞したDV撲滅を訴えるイギリスのサイネージです。
Look at me- Cannes2015 Outdoor Gold
町中の巨大サイネージに、顔にあざのある女性の顔が映し出されます。サイネージの近くにはカメラが設置してあって、通行人が女性の画像を見るとカメラが見ている顔を認識し、顔を認識すればするほど女性の顔のあざが消えていくという仕組みです。認知が上がればDV撲滅につながる。そのメッセージを伝えるために顔認識技術がうまく活用されていて、目指す結果が可視化されているというのがポイントです。
結果の可視化という点では2014年のカンヌ広告祭他の海外賞で評価されたドイツのキャンペーンも印象的でした。
The Social Swipe- Cannes2014 Promo&Activation Gold
貧困国への寄付を促進するため、町中にクレジットカードを読み取れるデジタルポスターを設置し、パンを上から見た映像と「彼らに食糧を」というコピーが表示されます。そこでクレジットカードを読み取り機にスライドさせると、カードがまるでナイフになったように映像の中でパンが一切れスライスされるんです。
工藤:データと技術をうまく使いながら、場所、環境、時間に合わせてどう体験をつくっていくかですよね。
僕は今年の春、天気予報などのデータと電車を連動させたサイネージに取り組みました。ホームの柱に設置したディスプレイに、タレントと天気予報や桜の開花情報などを表示させておき、電車がホームに入ってくるとディスプレイ内にも風が吹いて花粉が飛び、タレントがくしゃみを始める。そこで花粉情報に切り替わるというものです。電車がホームに入ってくることの検知は、電車の進入音の周波数パターンを音声解析により行いました。
一番難しいのはデータの使い方です。「天気情報が取れますが、そのデータを何かに使えませんか?」という相談もときどき受けますが、広告の文脈にそのデータをどう落とし込むかが頭を悩まされるところですね。見せたいストーリーとデータの接点がうまく見つかったときには、面白いものができると思います。
柳:これも2015年のカンヌ広告祭他の海外賞で評価されたドイツの自動車メーカーのキャンペーンです。
The Dancing Traffic Light-Cannes2015 Outdoor Bronze
キャンペーンの目的は、歩行者に信号を守ってもらい、横断歩道での事故を減らすこと。少し離れたところにブースが設置してあって、ブースの中で人が踊ると、その動きを撮影したデータが信号内の人形の姿に反映されます。赤信号の中でさまざまなスタイルで踊る人形を見ながら、歩行者は信号を待つ時間も退屈せずに楽しんで過ごせるというものでした。「赤信号はわたっちゃだめだよ」と声高に訴えるのではなく、エンタテインメントで足を止めさせるというアイデアがいいですよね。通常サイネージと言われて思い浮かべるのはモニターですから、まさか信号を使うとは、という意外性があります。海外ほど縦横無尽にやるのは難しいかもしれませんが、日本でだって固定観念にとらわれずに、まだまだ自由にサイネージに取り組めたらいいな、と思います。
■これからのデジタルサイネージ
濵:本日の話をまとめると、4つのポイントがあるように思います。
まずは、デジタルテクノロジーの進化で、よりインタラクティブな広告がやりやすくなったということ。拡散装置としてのサイネージの活用もいろいろと可能になってきたということが改めてわかりました。次に、テクノロジーをどう使うか、クリエイティブとどう組み合わせるかのアイデアこそが肝心だということ。三つめに、デジタルテクノロジーがすべてというわけではないということ。アナログ要素との融合も含めて、もっと自由に考えてもよさそうです。そして最後に、「リーチ型」媒体がなくなるわけではないということ。まだまだリーチ型媒体は市場の中心を占めると思います。ただ、今日の事例にあったようなテクノロジーを活用したクリエイティブに挑戦していけば、サイネージをリーチ目的以外にも活用することができるのではないかと思います。
工藤:そうですね。デジタルサイネージは単なる情報発信のサービスではなくて、海外の事例にあるように、行動を促進させたり、新しいサービスを生み出していくような媒体にもなりえるんじゃないかと思いました。
柳:先ほど濱さんが言ったポイントの3つ目、「デジタルテクノロジーがすべてではない」というのが肝心だと思います。やはり大事なのはデジタルとリアルを組み合わせたりして体験価値をつくり、いかに目的を達成するものにしていくことができるか。デジタルテクノロジーは目的を達成するための手段でしかありません。それを念頭に置きながら、これからももっとサイネージの可能性を広げるような企画ができれば、と思います。
濵:お二人ともありがとうございました。