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インバウンドトレンドを戦略的に活用する!最新グローバルマーケティング~商品開発から越境ECまで~(博報堂Consulactionセミナーより)
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参考 → 博報堂Consulaction HP

日本を訪れる外国人客の数は依然として増えて続けていますが、訪日外国人の買い物の傾向やニーズには大きな変化が見られます。刻一刻と変わり続けるインバウンド市場を読み解く視点と、具体的なマーケティングの方法について、インバウンドの専門家である2人の博報堂社員が語りました。

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博報堂 グローバルビジネス統括局 アカウントプラニンググループ GM 木戸 良彦

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博報堂 グローバルビジネス統括局 岩佐 数音

■「爆買い=インバウンド」ではない

最近、訪日外国人のいわゆる「爆買い」に以前ほどの勢いがなくなり、インバウンドが下火になってきていると言われています。
しかし、爆買いはインバウンドの一部の現象であって、「爆買い=インバウンド」ではありません。訪日外国人客数は確実に増加し続けており、インバウンド需要が減っているわけでもありません。

「博報堂インバウンドマーケティングラボ」では、インバウンド元年と言われる2015年から、「IMBA(Inbound Marketing Breakdown Analyzer)」と私たちが名付けたオリジナルの調査手法により、4つの国・地域の調査をしてきました。IMBAのポイントをまとめると、以下のようになります。

●対象は訪日観光客の約7割を占める4カ国・地域(中国、台湾、香港、韓国)
●店舗・業態、商品カテゴリーごとのデータを収集し分析
●爆買いと言われる「旧正月」と外国人の来日数が最も多い「夏休み」に調査を実査

このIMBAによる調査結果をもとに、インバウンドのトレンドを探っていきたいと思います。

■インバウンド消費の2つの質的変化

まず訪日外国人の数ですが、人数はこの数年で急増しており、2015年には内閣府が2020年の目標値としていた2000万人をほぼ達成しました。この増加基調は今後も続くとみられます。
消費額でみると、訪日外国人による消費は3.5兆円で、うち中国人による消費が1.4兆円を占めます。
次に消費の傾向ですが、1元が20円程度だった2015年下半期以降、円高基調となったことで、中国人が高額商品を日本で買う価格的なメリットは減じています。
百貨店免税店の売り上げは前年割れが続いているのが現状です。中国人による高額商品購買に限らず、訪日外国人の支出全般が一時期よりも落ち着いています。
訪日外国人の数が増えている一方で支出は減っている。この現状をどう見ればいいのでしょうか。私たちは、インバウンド消費は2つの質的変化を迎えていると考えています。
1つは、「価格差」から「日本人の日常」への変化です。為替による価格差を活かして高級品を買うのではなく、日本人が普段使っている商品を求めるという傾向が顕著になっています。
具体的には、カメラや時計の購入が減る一方、医薬品、トイレタリー、健康グッズなどの販売が伸びています。
2つめは、「真に日本らしい体験」が求められるようになっているということです。例えば、ユニークな体験ツアーや企業施設訪問などが人気を集めるようになっています。
為替などの外因に左右される高額消費から、安定的な低額消費へ。そして、価格差に着目した「モノ消費」から、日本でしか体験できない「コト消費」へ。この2つが大きな変化と考えられます。

■インバウンドは「ブランド体験の機会」

では、そのような変化を受けて、日本企業はインバウンド戦略をどのように変えていけばいいのでしょうか。
インバウンド市場には3つの脅威があると考えられます。為替、二国間関係、訪日外国人の母国の経済状況です。
いずれも企業が自力で制御できるものではありません。それに対し、「真に日本らしい思いや技術が詰まったものを使いたい」「真に日本らしい体験をしたい」という訪日外国人の気持ちに応える工夫をしていくことは可能です。
日本で商品を買った外国人の8割以上は、日本の良質な商品を再度購入したいと考えています(出典:IMBA)。そう考えれば、「日本国内で買ってもらうこと」はひとつの通過点であり、日本で体験したブランド価値を引き続き訴求していくことで、その後も購買行動を継続してもらえるかもしれません。
現在、銀座では海外高級ブランドの旗艦店の改装が相次いでいます。これは、2020年の東京五輪を見込んだもので、訪日外国人に日本でブランドを体験してもらうことでアジアでの存在感を高める狙いがあると考えられます。
大切なのは、インバウンドを単に「消費」ではなく「ブランド体験の機会」と捉えることです。そうすれば、「商品認知拡大」は「日本でのブランド体験促進」に変わるでしょうし、「購買ポイント」は「ブランド接点」となるでしょう。
また、インバウンドが継続的なCRMの起点となるという発想も生まれるでしょう。

■年々拡大する越境ECの市場

このような新しい発想を、マーケティングの4P(Product、Place、Price、Promotion)のそれぞれにあてはめてみましょう。
まず、製品(Product)については、「訪日=世界市場への窓口」と考える商品開発が必要になります。
真に日本ならではの「意味」や「技術」を持った商品を作ることによって、それに接した訪日外国人はその価値を自分たちの母国に伝えてくれるでしょう。
一般に商品は、生活者のニーズと自社が持っているシーズの掛け合わせによって生まれます。
国内向けの商品であれば、想定する生活者は日本人だけでもいいでしょう。
しかし、「訪日=世界市場への窓口」と考えるのであれば、「グローバルニーズ」と「自社シーズ」、そしてそこに「真の日本的価値」を掛け合わせる発想が必要です。
グローバルニーズをとらえるツールとして、私たちは、在日中国人留学生とそのOGを束ねたネットワークである「Chi-NEEDS College & Mom」、アセアン各国から来日している留学生とその家族・親族・友人のネットワークである「ASEAN Discovery Studio」などを提供することが可能です。
場所(Place)と価格(Price)についてはどうでしょうか。日本の商品を買ってもらえる場所は日本国内だけではありません。
日本で消費体験をした外国人の多くが、母国に帰ってからもECサイト経由で日本の商品を購入する意向を持っています。
そこで重要になるのが「越境EC」です。越境ECは、文字通り「国をまたいだ電子商取引」のことで、海外からの輸入品をネットで買える仕組みです。中国では2010年くらいから越境ECが盛んになりはじめ、その市場規模は年々拡大しています。
以前は、海外で商品を買った個人がそれを中国国内で転売する「CtoC」が主流でしたが、この3年ほどの間に、より信頼性の高い「BtoC」での取引が拡大しています。
それにともなって、日系企業が「京東商城日本館」「天猫国際日本館」といった越境EC内日本専門ストアに出店するケースも増えています。
中国人が越境ECを利用する理由として特に多いのが、「商品の品質が担保されている」「商品の価格が安い」といったものです。
では、どの程度の価格であれば中国人はECで日本の商品を購買しようとするのでしょうか。
私たちの調査結果では、日本国内での販売価格の1.5倍が金額設定の上限です(出典:IMBA)。これを超えると、急激に購買意欲が減退することがわかっています。

■越境ECの管理体制は強化の方向に

ところで、越境ECはどのような仕組みになっているのでしょうか。
日本と中国間の越境ECの場合、「直送モデル」と「保税区モデル」に大きく分けられます。
直送モデルは、日本の商品供給者が中国の生活者に商品を直接届けるモデルです。
一方の保税区モデルは、日本から中国国内の保税区と呼ばれる管理区域にいったん保管され、そこから配送されるモデルです。
最近、越境EC市場の成長にともなって、中国の法制度が変わり、税制面・商品規制面で政府がより管理しやすい体制になっています。
例えば、直送モデルでは関税が1.2倍から2倍に引き上げられました。
一方、保税区モデルでは税率が上がった商品もその上げ幅は小さく、逆に税率が下げられた商品も存在します。
これは、国内での消費を促すだけでなく、管理しにくい直送モデルから、より管理しやすい保税区モデルへの転換を促す狙いがあると考えられます。
また、保税区を通す場合の申告や許認可の仕組みも厳しくなりました。

■日本ならではの体験が詰まった商品を

最後にプロモーション(Promotion)についても見ていきましょう。
商品のプロモーションとは、一般に、競合する他商品との差別化を図り、購買を促す行為ですが、日本に数日間滞在するだけで、かつ日本語がほとんどわからない外国人に微妙な差別化ポイントを理解してもらうことは簡単ではありません。
そこで重要になるのが「日本ならではの体験が詰まった商品をどうアピールするか」という視点です。
その方法の一つが「日本代表型ブランディング」です。
世界との関係性の中で自社を語る方法は「世界での活躍」「世界で認められている」等、いくつもありますが、近年では「日本を代表する企業」として外国人に対して魅力訴求する方法に私達は注目しています。

また「体験を軸としたブランド強化」も有効な方法であると考えられます。
例えば、中国最大手検索ポータルである百度が運営する旅行情報サイト百度旅游には、質の高い旅行記が掲載され人気を集めています。
このようなユーザーコンテンツに積極的に紹介されるような「体験」や「ファクト」を提供していく、そして更にそれを戦略的に生み出していくことが有効なプロモーションとなるはずです。

■「免税大国」から「文化大国」へ

インバウンドは、言うまでもなく、日本だけに限られたものではありません。
海外旅行をしている中国人の9割は日本以外の国にも行っています。では、そのような日本以外の市場にインバウンドビジネスのチャンスが見いだせるのではないでしょうか。
また、インバウンドはアジアからの旅行者に限られたものでもありません。日本にはアジア以外の国からの訪問客も数多く訪れています。そのような人たちを対象とするマーケティングとはどうあるべきなのでしょうか。
IMBAの調査の方法論は、実は「東アジアから日本へ」のインバウンド以外のケースにも応用可能です。
例えば、フランスやアメリカから日本へのインバウンド、あるいは中国から台湾へのインバウンド、さらには日本からドイツへのインバウンド──。
そのような多様なケースでIMBAの調査手法は適応可能です。
インバウンドの消費の傾向はモノからコトへ移行しています。価格差や免税効果を狙う消費から、「日本でしか味わえない体験」を求める人々が増えています。
インバウンドにおいて日本は「免税大国」から「文化大国」にならなければなりません。
「お得感」よりも「特別感」で勝負しなければなりません。
まさに「日本文化体験」としてのブランドづくりが求められるということです。
私たちはこれからもそのようなブランドづくりを力強くサポートしていきたいと考えています。

■関連ソリューション
IMBA(Inbound Marketing Breakdown Analyzer)

 

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■木戸 良彦(きど よしひこ)
博報堂グローバルビジネス統括局アカウントプラニンググループGM

国内営業部門での経験を経て、2003年に北京代思博報堂広告有限公司の設立メンバーとして中国北京に赴任。
営業総監兼市場総監として様々な分野のマーケティングやコミュニケーション業務に従事。
08年に帰任後も中国ビジネスに関わり続け、11年1月のチャイナビジネスプラニング局発足と同時に日本分室長就任。

現在は自動車、化粧品、家電、食品、トイレタリー、製薬、など幅広いクライアントのグローバルビジネスプラニングを担当しながら、新しいソリューションやナレッジの開発にも従事。
各種講演やセミナーにも多数登壇しており、現在は博報堂のインバウンド・マーケティング・ラボのナレッジ推進責任者も兼任している。

共著:<超実践>ネクストチャイナマーケティング(PHP研究所)

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■岩佐 数音(いわさ かずね )
博報堂グローバルビジネス統括局

入社当初より日系クライアントのグローバル業務を担当。調査、戦略立案から、海外進出時のブランディング、PRまでワンストップで幅広いビジネス領域を扱う。

現在は家電、カメラ・時計、食品・飲料、日用品・雑貨、インフラ、通信、流通など数多くのクライアント業務に従事。2015年には博報堂オリジナルのインバウンドソリューション「IMBA」の調査主幹として調査設計から実査まで担当。
博報堂インバウンド・マーケティング・ラボにも所属。

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