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ネクスト・マーケティング「Lead2025」~ポスト2020の成長戦略を見据えた、マーケティング転換(博報堂Consulactionセミナーより)
参考 → 博報堂Consulaction HP
2025年、日本の平均年齢はほぼ50歳になります。博報堂ではこれまでシニアを起点とした新しいマーケティングの方法を生み出す「LEAD2025プロジェクト」と、社会や市場の大きな構造変化をマーケティングの転換につなげる「平均年齢50歳の国のマーケティング・プロジェクト」を進めてきました。
この2つのプロジェクトの取り組みをベースに、「今、企業が未来に向かって何をすべきなのか」を2人の博報堂社員が語りました。
■ネクスト・マーケティング・プロジェクト「LEAD2025」
博報堂
第一プラニング局
シニアストラテジックプラニングディレクター
吉田 英一郎
■「LEAD2025」とは何か
2025年、日本の平均年齢はほぼ50歳になります。世界に先駆けた超高齢化が、想像を超えたスピードで進んでいるのが現在の日本です。超高齢化は、今後、社会や市場のあり方を大きく変えるでしょう。その変化が企業のマーケティングに与える影響を冷静に分析し、具体的なマーケティング変革のプロセスをご提案するのが、「LEAD2025」というプロジェクトです。ビッグデータマーケティングが「今、何をすべきか」に対する答えを提示する方法であるとすれば、「LEAD2025」は、「未来に向かって何をすべきか」の入り口を提供するプロジェクトです。
「LEAD2025」のアプローチは、大きく2つに分けられます。一つが、2025年に向けた「シナリオ」を作り、そこから企業や事業にとっての「ミライの課題」をあぶりだす方法、もう一つが、自社の「強み」と「弱み」を改めてとらえなおし、そこから導き出される「機会」と「脅威」を特定し、取り組むべき課題を定義するという方法です。
■市場標準としてのシニア
2020年のオリンピック以降の日本はどうなっているでしょうか。
2025年、団塊世代が75歳になり、いわゆる後期高齢者の人口は2000万人を超え、総人口の2割弱に相当します。このような人口動態の変化は、確実に起こる未来です。私たちがいま問うべきことは、「今のままで10年後の環境変化に適応できるのか」ということであり、「今のうちから未来の顧客満足を発見できるのか」ということです。
まず「市場標準としてのシニア」という視点でこの問題を考えてみたいと思います。
2020年までには50歳以上の人口が50歳未満を逆転し、人口構造上のボリュームゾーンもどんどん上に上がっていきます。日本人の平均年齢が40歳を超えたのは、つい15年前の2000年のことでした。2015年時点では、それが46.6歳にまで上がっています。ちなみに、15年時点のインドの平均年齢は26.5歳と、日本と20歳もの開きがあります。
日本はほどなく「平均年齢50歳の国」になります。それは、この地球上に初めて現れる「大人の国」です。大人の国とは、「高齢者の多い民力の衰えた国」では必ずしもありません。社会のあり方、価値観、働き方を新たに創出していくことができる国であり、「50歳」を基準として、新たなソリューションやマーケティング手法を生み出すことができる国です。そこで培われるノウハウは、世界中の国々にとって役立つものになるでしょう。なぜなら、今後、多くの国々が日本と同様の本格的な高齢化社会を順次迎えることになるからです。
平均年齢50歳ということは、50歳を境にして上下にそれぞれ6000万人規模の市場があるということです。とくにビジネスへのインパクトが大きいのは、上の6000万人、すなわち「OVER 50」であると考えられます。このマーケットへのアプローチを考える際に役立つ「キラーデータ」を以下に紹介していきます。
【キラーデータ】
単身世帯が家族世帯を大きく上回る!?
2005年時点で、単身世帯と夫婦・子どもの家族世帯はともに約1400万世帯とほぼ同規模でした。
しかし2025年には、単身世帯が1782万、家族世帯が1152万と、単身世帯が多数となります(「社会保障・人口問題研究所 推計値」より)。つまり、夫婦とその子どもによって構成される世帯は「標準世帯」とは言えなくなるということです。また同時に、単身世帯の中での高齢化も進行していきます。
【キラーデータ】
健康寿命は男性72歳、女性75歳に!?
2014年の「厚労省発表資料」によれば、介護を受けたり寝たきりになったりせず日常生活を送れる期間を示す「健康寿命」の平均は、2013年には男性71.19歳、女性74.21歳でした。厚労省は、2020年までに男女ともに「+1歳を目指す」としています。
【キラーデータ】
老“病”人が2000万人に!?
すでに述べたように、2025年には後期高齢者の人口は2180万人に達します。その多くは、1つ前のキラーデータとして示したように健康寿命が切れて何らかの病気を抱えた「老“病”人」です。そのような時代には、「健康度」と「経済力」の両方が消費性向のファクターとして重要になると考えられます。
こういった“生活者の変化”に関するキラーデータを1つの判断材料に、自社のマーケティング領域に関連の高そうな変化を捉えることで、少しこれまでとは違う課題がみえてくるのではないでしょうか。
■2020年以降の日本社会を読み解く
ここまではどちらかというと「人」を中心とした視点で未来を見てきましたが、ここからは「社会」という視点で、2020年以降の未来を読み解くヒントとなる事柄を見ていきたいと思います。同じく、いくつかのキラーデータをご紹介します。
【キラーデータ】
2023年、5軒に1軒は空き家に
2014年時点で、全国の空き家は820万戸、総住宅戸数に占める割合は13.5%と過去最高となりました。2023年には、定住者がいない住宅は全国で約1400万戸に達し、5軒に1軒が空き家になると試算されています(総務省「住宅・土地統計調査」より)。これは企業にとっては、空き家や空きスペースを「自社の拠点」とできる可能性があると考えてみるのはどうでしょう。空き家は「生活者に最も近い“場”」です。その場をいかに活用するかが、今後は問われることになるかもしれません。
【キラーデータ】
大人の男の10人に1人は、病的ギャンブラー
2013年の「厚労省研究班 調査結果」によれば、日本国内において「病的賭博の疑い」がある人は、成人男性の8.8%、成人女性の1.8%に達するそうです。これは世界トップの数字です。これを企業のビジネスチャンスに変えることはできないだろうか。例えば、ギャンブルという「時間消費型ビジネス」の顧客を、例えばレンタルビデオなどの「時間充実型ビジネス」の顧客としていくという考え方です。
などなど、「社会」視点における2025年を読みとるキラーデータは多く存在します。
■人口動態の変化に着目し、確実な未来をリード(read)し、今のうちから対策を取ることで未来をリード(lead)する
私たちはこれまで、さまざまな企業、団体からお問い合わせをいただいてきました。お問い合わせの内容は、例えば以下のようなものです。
●オリンピック以降の社会を知り、新事業開発につなげたい
●縦割り組織を変え、テーマ起点の横串型組織を作りたい
●次世代の経営・マネジメント層を育成したい
●中期経営計画の刺激になるヒントがほしい
それらの課題に対して、私たちが提供したソリューションは、例えば以下のようなものです。
●事業部横断でのワークショップの実施
●ブランド単位でのワークショップの実施
●関連するテーマでのシナリオづくり
●社内研修・ワークショップなどでの講演
これらのソリューションは一例にすぎません。
「We can READ & LEAD the future.」──私たちは確実な未来を予想し、未来をリードする。
そのビジョンのもと、企業や団体の課題やニーズに応じて、未来を見据えた独自のマーケティング戦略をこれからもご提案していきます。
■平均年齢50歳の国のマーケティング
博報堂
ブランド・イノベーションデザイン局
局長代理
橋本 直彦
■2025年に向けて顧客を再定義する
2025年以降、日本は「平均年齢50歳の国」として安定していきます。平均年齢が50歳となることで、日本には複合的な社会構造変化が訪れるでしょう。考えられるのは、例えば以下のような変化です。
●市場縮小
●市場全体の高齢化
●単身世帯増
●消費の2極化
●地方の独自化・個別化
「平均年齢50歳の国」とは、「成熟した国」です。そのような国では、従来型のマスマーケティングではない、新しいマーケティングの方法論が求められることになります。新しいマーケティングに必要なのは、まず「顧客の再定義」です。「2025年の生活者」とはどのような人たちか──。それを想定するには、社会構造変化から生まれるシンボリックな生活者像を考えてみるのがいいでしょう。
例えば、2025年には団塊ジュニア世代が50代になります。この世代は、大きな人口ボリュームの割にこれまであまり注目されて来なかった層です。この層の生活ニーズや社会課題ニーズを想像し、「顧客発想ホイール」を作成することで、イメージは具体化します。
顧客発想ホイールとは、生活者を取り巻く「人間関係」「買い物」「情報」「心」「身体」といった生活要素を円状に配し、さらにその外側に「医療・健康」「住宅・住設」「サービス」「労働」「移動・交通」「政策」といった社会要素を配した図です。
その図をベースに「50代になった団塊ジュニア」のシナリオを書いてみます。そこから生活者のニーズが見えてきます。例えば「“これでいい”と“これがいい”」の消費行動の2極化というのが考えられるシナリオです。コストパフォーマンスのいい商品(これでいい)と、価格は高くても高付加価値の商品(これがいい)の2つの消費の価値軸が一人の生活者の中に生まれることが予想されます。これは、これまでのように「豊かな中間層」をターゲットにしたマスマーケティングとは異なるマーケティングが必要になる事を意味します。
顧客を再定義する際は、「脱デモグラフィックマーケティング」という視点も重要になるでしょう。つまり、生活者を年齢軸以外で理解する視点です。例えば、「健康度×経済力」軸で生活者を分類してみる。そうすると、年齢軸とは異なる市場が見てくる可能性があります。ほかにも、「世帯人数×経済力」「将来不安度」「ペットを飼っているかどうか」「携帯支出額」などの軸が考えられるでしょう。
■「新しいマーケティング手法を生み出せる国」へ
「平均年齢50歳の国」の新しいマーケティングを考えるために必要なもう一つの要素は「提供価値の見直し」です。商品が提供する価値に関する発想を転換するのです。
例えば、「パワーブランド」から「ファインブランド」への転換が考えられます。一つのコアバリューを力技で浸透させていくブランディングではなく、よりきめ細やか(ファイン)で多様なブランディングです。例えば、「地域」「季節」「生活者属性」「嗜好性」などによってモノづくりやブランディングの仕方をきめ細かく変えていくという考え方です。商品を作る場所、売る場所、届け方なども「ファイン化」していくことが可能でしょう。
あるいは「ロバストマーケティング」という考え方もありえます。堅牢(ロバスト)であるがゆえに、ユーザーの使用条件がまちまちでも目的の機能を安定して発揮する。そんなプロダクト設計を「ロバストデザイン」と呼びます。「堅牢な価値は時代も世代も乗り越える」というそのコンセプトをマーケティングに応用したのが、ロバストマーケティングです。
例えば、羊羹のおいしさは普遍的です。すなわち堅牢な価値を持っています。その価値の提供の仕方を思い切って変えてみることで、世代や国やシチュエーションを超えて新しい需要を生み出すことができるかもしれません。つまり、オリジナルの価値が堅牢であれば、商品のあり方をイノベーティブに変えていけるということです。
「平均年齢50歳の国」は社会構造や生活者の意識変化の大きな転換点であるからこそ、「新しいマーケティング手法を生み出せる国」でもあります。私たちはこれからも、お客さまとともに、未来を見据えた骨太のマーケティング戦略を創造していきます。
■講師プロフィール
橋本 直彦(はしもと なおひこ)
博報堂ブランド・イノベーションデザイン局 局長代理
エグゼクティブマーケティングディレクター
筑波大学第二学群人間学類卒業。1981年博報堂入社。
マーケティング局、MD推進局、ブランド・サイクル・マネジメント局、戦略プロデュース局、コンサルティング局にて、一貫してマーケティング戦略開発、ブランド戦略開発などの業務を担当。
吉田 英一郎(よしだ えいいちろう)
博報堂第1プラニング局
シニアストラテジックプラニングディレクター
慶応義塾大学商学部卒業。2000年博報堂入社。
マーケティング局にて多様な業種の企画立案業務に従事。
飲料/菓子/住宅/自動車/金融/公共事業、省庁関連業務など多岐に渡り、戦略立案のみならず、商品/企業ブランディング、新商品開発、統合プラニング戦略の構築、国民運動の立ち上げ等、様々な領域を得意とする。