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【page2017 基調講演】『印刷の新たな挑戦~クロスチャネルとパーソナライズを考える』
2017年2月8日から10日にかけて池袋サンシャインシティコンベンションセンターで行われた公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)主催の印刷・メディアビジネスの総合イベント「page2017」。2月10日の基調講演ではダイレクトマーケティングビジネスセンターの澤村彰子が、福島印刷の堺嘉弘営業推進部部長と共に登壇。ターゲットをセグメント化するノウハウを持つ広告会社とパーソナライズ印刷のノウハウを持つ印刷会社の両者が連携した成功事例として、顧客ごとにパーソナライズしたDM(ダイレクトメール)を自動発送する「バリアブルDM連携ソリューション」について解説しました。
■生活者一人ひとりの行動に寄り添ったマーケティング活動のために必要なこと
澤村:博報堂DYメディアパートナーズの澤村です。博報堂DYメディアパートナーズは博報堂、大広、読売広告社の3社のメディア機能を担う総合メディア事業会社です。
堺:福島印刷の堺です。福島印刷は石川県の金沢にあり、年間に約3.2億通にのぼる通販、金融機関、自治体などの通知物を扱っています。私たちには、DMの中でもリッチなもの、期待値を上げるようなものを追求するリソースはありませんので、奇をてらったものではなく、あくまでも使っていただきやすいプラットフォームを中心に展開しています。
澤村:まず現在の生活者とデジタルとの接触時間を見ると、モバイルなども含めたインターネットとの接触は若い層ではテレビを上回り、50代以降でも拮抗しています。スマホについても、50代の半数以上が所有するという状況です。ですから今後のマーケティング活動は、モバイルを基点につくっていくことが大きなキーワードになっていきます。「Always On」という言葉があるように、生活者は24時間、常にオンライン状態にあり、あらゆる情報に接しているといえるのです。ただ、手口が増えたために、毎日毎日、企業からメールやLINE、DMが一方的に生活者にどんどん送られ続け、結果としてメールは開かれず、LINEはブロックされ、DMはそのまま捨てられるといった傾向にあります。企業はメールマガジンなどを送るのをやめられないのですが、受け取る側の生活者にとっては送られることが日常的なことになってしまっているので、開封率は下がり、期待したビジネスの目標がなかなか達成できないということも発生してしまうのです。
新規顧客の獲得はもちろん、CRMと呼ばれる継続購入を目的とした顧客育成領域でも、オンラインを中心としたマーケティング活動は加速していますが、ここでは、いかにDMなど紙類、コールセンターなど、デジタルではないタッチポイントを組み合わせるとよりよい効果が生まれるかを課題として考えていきたいと思います。
まず押さえておきたいのは、ターゲット選定に起きている変化です。従来はできるだけ多くの人に効率よく情報を届けるにはどうすればいいか、いわゆるマスアプローチを中心に考えていましたが、デジタルテクノロジーの進化で細かく生活者をセグメントできるようになりました。セグメントされた人たちに、それぞれ必要な情報を届けることが可能になったわけで、セグメントアプローチと呼んでいます。またコミュニケーションのプランニングも変化しています。これまでは、メッセージ、タッチポイント、タイミングの順にコミュニケーション施策を考えていました。つまり、まずはキャッチコピーなどのメッセージを決めて、それをどこで言うか、どこにターゲットが多いかをといったことを考え、テレビにするか、交通広告なのかといったことを決め、最後にいつ流すか、タイミングをプランニングするという流れです。しかし今はその順番が、タイミング、タッチポイント、メッセージの順に変わっています。まずは対象としている生活者にとって最も効果的なタイミングを把握し、その人たちがどこにいるのかを検証し、そしてそこで何を伝えると良いかを考えるのです。デジタルテクノロジーの進化で、リアルタイムに伝えたい相手がいる媒体で、その人にとって必要な情報を届けられるようになったことから、こうした変化はもたらされました。
そんな中、オフラインの強みを再定義し、効果的に活用するためにも、デジタルテクノロジーを用いた顧客データの活用が重要になります。生活者一人ひとりの行動に寄り添ったマーケティング活動を実践しなければならないからです。企業都合でDMなどが送られてくるという状況を、生活者一人ひとりに寄り添い、「自分ごと化」したものにすることで、マーケティング効果を最大限発揮させなければなりません。そこで活用されるのが、マーケティングオートメーションです。マーケティングオートメーション(以下MA)とは、リアルタイムに、伝えたい相手がいる媒体で、その人にとって必要な情報を自動的に届けることを可能にするものです。メール配信ツールと違って、リストを抽出して送るのではなく、こういう行動をする人に、メールやLINEを送るとあらかじめ設定しておくと、その人がその行動をすると自動的に実行するプラットフォームになっています。もともとは見込み客の育成を目的にオンラインを中心に開発されたものです。
■マーケティングオートメーションが可能にする個別最適化
では、実際のMA連携の事例をご紹介しましょう。
MAというとオートメーション、自動化だけが切り取られがちですが、企業都合ではない、より生活者目線で一人ひとりの行動に沿ったマーケティング活動が可能になることがポイントだと考えています。この事例では、メール、LINEのメッセージ、デジタル広告の配信、WEBサイトの出し分けをオンライン施策として行い、そこでの反応、生活者がどういった行動をしたかを、MAでモニタリングし、その結果に基づいたDMの自動生成・自動発送を行いました。対象者の行動によって、シナリオと呼ぶ施策を追加したり、制御したりすることが可能です。仕組みとしては、あらかじめ対象者を4~5タイプにセグメントし、オンラインでの行動に応じてタイプを自動判別、それに応じたDMを自動生成・自動発送するようになっています。顧客の行動タイミングで実行するのが大きな特徴といえます。すべてが自動なので、ちゃんとDMが送られているのか不安になって、福島印刷さんに問い合わせたほどです(笑)。
この案件で具体的に博報堂DYメディアパートナーズが担当したのは、プログラムの全体プロデュース、戦略プランニング、細分化された要件定義の管理、お客様にどうなっていただきたいかといったカスタマージャーニーの設定やシナリオの策定、より効果的な施策にするためのPDCA運用などです。MAツールのベンダー、つまりシステムの会社に、システムの運用やデータの連携、保守管理を担当していただきました。そして、福島印刷さんには、MAツールとDMの出力に必要なシステムをつないでいただき、DMの生成・出力・発送、そして管理などを行っていただきました。
堺:こちらは2006年に作成した資料です。
当時はイベントベースの販促の年間スケジュールの中で仕事を請け負っていましたが、今でいうCRM、顧客育成のアプローチ軸はありませんでした。澤村さんのおっしゃる「生活者目線の販促施策に対応できない」という問題意識は当時からありましたが、たとえばすぐお礼状を出すとか、通販会社が初回商品発送の7日後に何か送って30日後にリピート促進するといったことに対応していると、とにかく細かい作業が膨大に発生してしまう。しかし確かにそれが、商品を購入したお客様に寄り添うということではあります。
弊社が行った取り組みとしては、2006年に「初期バリアブルDM」のサービスを、2007年に「はがきMailing Pack」をリリースし、大ロットのバリアブルを目指しました。そして2014年「メール便」のサービス、そしてより発色を追求した商品開発などを経て、2016年に「MA連携」が実現しました。
バリアブルを進めるにあたって、ゼロから要件定義をする、つまり、システムをゼロからつくるとなると、時間もコストもかかってしまいます。何よりの問題は、企業の担当者様に要望など逐一確認しなければならないこと。それはプロのやることではないと思っています。そこで掲載する素材の管理については、内部でフォーマットをつくり、それを各企業様それぞれのケースにあてはめて調整することにしています。また、DMをつくるだけでなく、投函と完了報告、サンプルの準備も行う必要があります。そうした工程に人が介在すると失敗とコスト高の原因になるので、自動化を進めています。
福島印刷としてビジネス連携で大切にしているのは、次の3点です。まず、DMを開封させるギミック、つまり、もっと面白いものをつくるとか、仕様での期待値を上げるといったことに投入するリソースはないので、コミュニケーションの適切性の追求を優先しています。次にお取引している企業の担当者様は忙しいので、とにかくシステムの開発や管理を大切にするということです。従来、印刷は受託産業で、印刷して納品するといった一品料理でした。スケジュール、見積、仕様などをそれぞれ用意していましたが、それでは今のニーズに応えられません。最後に、販促支援は高速で、紙メディアにデジタルとの連携など、とにかく変化が速いので、変化に対応し続けられるよう、我々もPDCAをきちんと行うことです。
■一人ひとりにとって必要なことを判定し、効率良く運用していく
澤村:デジタルマーケティングやダイレクトマーケティングと呼ばれるものは、メールやLINE、プッシュ型広告などオンラインを中心に手段が増えた結果、企業視点のマーケティング活動になっていると思います。それを生活者視点の活動に変える必要があり、それを可能にするのが、生活者一人ひとりを把握できるMAをはじめとするデジタルプラットフォームだと思います。よくデジタルかアナログか、オンラインかオフラインかと言った議論がありますが、生活者一人ひとりに寄り添い、把握することが大切で、それによってどちらにするか、あるいは両方かを決めるということになるのだと思います。一人ひとりにとって必要なことを効率よく運用していくことが大切です。
DMには独自の価値があります。たとえば、ひと目で見ることができる一覧性、開封などのエンタテインメント性、スマホなどには再現できないインパクトなどです。特にスマホは手軽であるがゆえにロイヤリティや絆がつくりにくく、そこをDMがサポートできると期待しています。
デジタルソリューションを使いながら、DMが有効な生活者を判定し、必要に応じた表現や判型でアプローチすること。それが、これからのDMの価値につながると思います。デジタルに比べ、DMはどうしてもリアルタイム性に劣るので、そこはこれからの課題だといえます。
堺:福島印刷の事業を改めて表現すると、それはBPO(Business Process Outsourcing)です。特徴は、シンプルではありますがとにかく世の中の変化やニーズに対応し続けるということだと考えています。企業や生活者の皆様に寄り添いながら勉強し続け、課題を解決するまで挑戦することが、福島印刷のBPOだと思っています。
■プロフィール
澤村彰子
ダイレクトマーケティングビジネスセンター ダイレクトビジネスプロデューサー
営業、クリエイティブプロデューサーを経て、2010年よりダイレクトマーケティングに従事。ダイレクトビジネスプロデューサーとして新規顧客獲得におけるクリエイティブ開発やメディアプランニングなど一貫したプロデュースを行うほか、顧客の育成・優良化を目的としたCRMの開発・運用プランニングにあたるなど、フルファネルでの事業拡大を実践し、マーケティングオートメーションでオンライン/オフラインを横断したソリューションを開発。オンラインでの行動をリアルタイムで把握し、その結果に基づいたDMを自動的に刷り分け、自動的に発送するソリューションをいち早く実行。
堺嘉弘
福島印刷 営業推進部/部長
1992年福島印刷入社。営業担当として通販事業者との関わりを深め、その後社内広報業務、品質保証業務などを担当。 社内体制構築に従事していた期間を経て、2009年からは再び営業本部へ。 新規開拓ミッションを継続しつつ、本部機能として営業推進部長を兼務し現在に至る。